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炎の画家と意地っ張り

 

「良かったね、学。旭君、許してくれたよ」


  「胡十子がそんなに喜んでくれたのなら、許した甲斐があったよ」


  「――ああ、許してくれてありがとよ」


  学は自分のリュックサックを引き寄せると、ソファーの端に移動する。

  旭は苦笑し、学のリュックサックの隣に腰を下ろす。


  「三日月君はコーヒーでよかったでしょうか?」


 西島が銀のお盆に乗せて、コーヒーの入ったカップを運んで来た。


  「ありがとうございます」


 旭が受け取る。コーヒーを出し終えた西島は一礼してから胡十子が座るソファーの後ろに立った。


  「念の為、旭君にもお願いしたの」


 胡十子は二人の顔を交互に見ながら、落ち着いた声で話す。


  「前にも調べてもらった事もあったし、今回も事前に調べてもらったから、そんなに危険じゃないと思うの。嫌な予感もしないしね」


 そう言って紅茶を一口飲んで、ソーサーにティーカップを戻す。


  「今回の任務は桐谷龍二の生家を調査。桐谷龍二が行方不明になった後は、ずっと空き家になっていて、戻って来た気配は無し。さっき学に言ったとおり、夢は断片的にしか見えなかったから、詳しい事は不明。一番、鮮明に見えたのは、桐谷龍二の生家にいる学の姿」


 真剣な面持ちで淡々と話す胡十子を学と旭はじっと見つめている。


「些細な情報かもしれないけど、それが手がかりになって予想だにしない形で桐谷龍二を捕まえるきっかけになるかもしれない」


 話し終えた胡十子が安心したように、ふぅと息を吐いた。


  「危険じゃないのなら、僕、一人で十分だ。三日月は来なくていい」


 学が冷たく言い放つ。それを聞いた旭は困ったように苦笑し、胡十子は悲しげな表情を浮かべる。西島は一切、表情を変えず、眉一つ動かさなかった。


  「ダメだよ! さっきも言ったけど、念の為だよ! 念の為! 予知夢では危険を感じなかったけど、絶対じゃないんだよ! 戦闘向きの能力者である旭君について来てもらった方がいいよ! 絶対に!」


  「つまり、僕だけじゃ心もとないと、そういう事か」


  「違うってば!」


  「それならそうと、はっきり言ってくれたほうがまだいい。こうやって気をつかわれるよりもずっと……」


 言葉が詰まる。分かっているのだ。自分の能力が役に立たないという事くらい。


  「――お取り込み中、申し訳ありませんが、少しよろしいでしょうか?」


 西島の澄んだ声が響く。突然、口を開いた西島になにごとかと、三人の視線が集まる。


  「青崎君。君はわがままです」


 西島は二人を無視して学だけに視線を注いでいる。表情は変えていないが、西島の目には、はっきりと苛立ちの色が見えた。


  「胡十子様はあなたの身を案じているのですよ。あなたの力を疑っているのではありません。三日月君もです。彼はあなたが嫌がる事を重々、承知の上でこの事案を受けてくれたのですよ。見習いとはいえ、あなたも組織の一員なら余程のことがない限り、二人一組で行動するということは分かっているはず。それもよくも、まあ、恥ずかしげもなく言えたものです。恥を知りなさい!」


 静かで落ち着きながらも、凄みのある語り口。学はすっかり恐れおののき、蛇に睨まれたカエル状態になってしまった。微動だに出来ない。


  「トモちゃん!やめて!私が悪いの!」


 胡十子は叫んだ。悲痛な面持ちで学を見つめる。


  「ごめんね、学。勝手な事して」


 瞳が涙で潤んでいる。溢れさせまいと、目を大きく見開らいて、瞬きを我慢している。赤く充血した目が痛々しく見え、学の良心をキリキリと締めつけた。覚悟を決める。


  「――今回は三日月と組んでもいい……。ただし、今回だけだからな」


  「うん!」


 胡十子が大輪の花のような笑顔を浮かべた。それを見た西島の表情がほんの少しだけ綻んだが、すぐに元のポーカーフェイスに戻る。

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