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炎の画家とティータイム

 広々とした部屋の中央に白と薄いグレーの子持ち縞模様のカーペットが敷かれ、その上にガラステーブルが置かれている。

 テーブルの上には、白いティーポットとティーカップが二つ。

 三段重ねのアフタヌーンスタンドの上にはカップケーキにスコーン、サンドイッチが盛られている。

 そのテーブルを挟んで向かい合うように設置されたブラウンのシックな革張りのソファーの上に赤、茶、緑、青などのクッションが鎮座している。

 バーカウンターのようなオープンキッチンがあり、壁には沢山の額縁に入った絵画が飾られている。大量の本が詰まった大きな本棚。

 一面、ガラス張りの大きな窓からは、外の景色が遠くまで見渡せ、ここが高層ビルの最上階に位置しているのが分かる。


 ソファーの中央には一人の少女が座っている。

 この少女こそが、琴音胡十子、その人だった。

 艶やかな長い黒髪の上部分を少し束ねて結っており、その部分に蓮の花の髪飾りをつけている。

 上部分を結っているおかげで、髪を垂らしていても、スッキリとまとまって見えた。

 白いブラウスに薄いピンク色のシフォンスカートに白のパンプスといった清潔感のある格好だ。

 それが実に似合っている。

 品が良く整った顔立ちの彼女は何を着ても似合うだろうと誰しも思わせるような風貌だ。

 胡十子はティーカップを手に持ち、ゆっくりとした仕草で紅茶を飲んでおり、余程リラックスしているのか、実に朗らかな顔だ。

 そんな胡十子とは対照的な顔つきをした人間が背後に立っていた。


 黒いスーツ姿の若い女性だ。学は部屋に入ってからずっと彼女の鋭い視線を一身に受けている。

  いつもの事ながら、なかなか慣れないものだなぁと、学は思いながら紅茶を啜っていた。

  胡十子はティーカップをソーサーの上に置く。そして学の目を真っ直ぐ見る。


  「今日は来てくれてありがとう。学」


  胡十子はにっこり微笑む。

 学の心臓がドキッと跳ね上がる。それを悟られないよう、カップを大きく傾けながら紅茶を一気に飲み干した。


  「べ、別に、呼ばれたから来ただけだ。礼なんて言わなくていい」


  しまった!挙動不審になってしまった!後悔したが、今更、どうする事も出来ない。落ちつけ……。平常心……、平常心。

 そう思いながら、呼吸を整える。

 紅茶が思った以上に熱く、舌をヤケドしてしまったが、そんなかっこ悪い素振りを見せる訳にはいかない。

 胡十子はそんな学を見ながらも、相変わらず、微笑みを浮かべている。


  「それでも。それでもね。嬉しかったの。だから、その、ついお礼、言いたくなっちゃたんだ」


  胡十子は、はにかんだ笑顔を浮かべた。あまりの可愛らしさに心臓の鼓動は倍速になり、まごつくそうになる。


  「それで一体、なんの用で僕を呼んだんだ」


  よし!今度は吃らなかったぞ!学は心の中でガッツポーズをした。

  胡十子は、ぱちくりと二、三度瞬きをすると、「ああ、そうだった!」と言い、手を叩いた。


  「あのね、私、夢を見たの」


  「夢?前に言ってた予知夢っていうヤツか?」


  「そう!それ!」


  胡十子が学を指差す。


  「人に指差すなよ。それでどんな夢だったんだ」

 

 胡十子は叱られた子犬のようにシュンとしょげると、小さな声で「ごめんなさい」と言った。

  学の胸に少しだけ罪悪感が湧き上がる。こんなに落ち込むとは思わなかったのだ。

 しかし、この件に関しては謝るつもりも無かった。人に指をさすのは、やはり非常識であるし、とても無礼だ。今後の胡十子にとってもよく無い。

 ――なので。


  「――今度から気をつけろよ」と、素っ気なく言った後、若干、気まずい為、目を逸らす。


  「うん!」


  胡十子が弾んだ声で嬉しそうに答えた。


  「それでどんな夢だったんだよ」


  学が問うと、胡十子の顔から急に笑顔が消える。今まで見たことがない真剣な眼差しが学を射抜く。


  「――桐谷龍二の夢」


  凛と澄んだ声が語尾が余韻となり、部屋の空気に溶けて消え、静寂が訪れる。

  学の心臓の鼓動が速く速くと、せわしなく動く。息をするのも苦しく、声を出そうにも言葉がつっかえ出ない。


  「そうは言っても、はっきり見えた訳じゃないの」


  胡十子は学から視線を外し、俯く。そしてティーカップを両手で支えるように持つと、半分ほどになった紅茶の水面を見つめた。


  「断片的に見えただけ、桐谷龍二の子どもの頃の姿、薄暗い部屋、大きな家、広い庭、桜の花、――それと学」


  再び、沈黙が訪れる。胡十子から自分の名前が告げられ、手が震える。どうしていいのか分からず、目を伏せている。


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