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長い指  作者: naomitiara-tica
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織子再び➖最終回➖

この物事は全て創作です。モデルはありません。

『織子さん、デザートのケーキは二種類用意したけど、足りるわよね?』

真衣が明るい声で電話して来た。



電話の後ろでは、8歳になる1人娘が、ママ、私の分も頼んでくれたぁ?とせがむ声がする。



キッチンでは織子の手料理が所狭しと並んでいる。



みんな明の好物だったもの。明が織子に甘えてねだったメニュー。



明が亡くなって13年経った。



今日は親しい仲間で、派手好きだった明らしい、華やかなパーティで偲ぼうって事になっている。



由美と旦那が、ワインやらウィスキーやら、焼酎やら氷やらをせっせと運んで来る。



『飲み物、絶対足りない系でしょ?あっ、冷えたビール、車の中だ、あなた、もう一回持って来て!』



由美は旦那をこき使っているが、使われてる方も嬉しそうだ。



民生はエプロンをして、織子の料理のアシスタントをして、部屋のメーキングにもせっせと忙しい。



朝の四時から織子と民生は準備している。もうヘトヘト^_^



『始まる前に、ちょっと飲もうか。もうすでに疲れたもん』

と、由美夫婦と、民生と織子はそれぞれに好きなアルコールに手を付ける。



『しかしさ、このメンバー、揃いも揃って全員、大酔っぱになるじゃないの?お酒足りなくなったらどうする?』

と、由美。



『誰かが犠牲になって、そん時はタクシーで買い出しだね、じゃんけんで決めよう、公平に』と、民生。



真衣がバラとかすみ草とケーキを持って現れる。もう、すっかり人妻の色気がある。



『ごめなさい、主人に娘預けたらぐずり出しちゃって。実家に回ってたもんだから遅くなっちゃって』



と言いながら織子が差し出したビールを一気飲みする。



ほんのり酔いが回って来た所に、本日のゲストが2人やって来た。



明のお母さんと、明にそっくりの弟さんだ。明も生きてたらこんな風に歳とったのかな....



織子は少しだけ目を細める。



全員揃ったところで、料理をセッティングし、改めて献盃する。



思えば、不思議な縁であろう。



織子はあれから、HPや大手webサイトの代理店を扱っている小さな会社に転職した。



時代の波に乗って、仕事は途切れない。



決して高級ではないが、女ひとり暮らしていける給料ぐらいは稼げた。



最初の三年間、織子は根無し草のように過ごした。



仕事して、食べて寝るだけ。



酒を飲み出すと深酒してしまうのであまり家では飲まないようにしていた。



食事もまともにしないような三年間で、織子は15キロ痩せて見違えるように若々しくなった。



肌も髪も手入れをしなかったからボロボロであったが....



そんな織子を影になり日向になり、励まして食事に誘って、美容院やドライブに引っ張り出してくれてのは、由美であり、民生だった。



真衣も、なぜか織子に懐いてしまった。いくら明が死んでしまっても、真衣にしたら憎い恋敵だ、たったろうに。



明が織子を手放せなかったのがわかると、由美も真衣もそれぞれが言う。明は見る目があったと。



ふふ。ダメじゃん。そんな事言ったって、私を置いて死んでしまった....最後まで真衣と私を天秤にかけていた....



そんな風に考え出して苦しくて悲しくて切なくて、自分が空中分解するように寂しい時は....



民生が居てくれた。民生が抱いてくれた。



もう、苦しむな、僕の側にいろっと民生は言ってくれる。



でも、明の子供を流産してしまった織子は、どうしても民生に申し訳ないが気がして、それより何より明のあの長い指が記憶から消えてくれなくてダメなのだった。



明の母親は、最初は織子を憎んでいたはずだった。明の将来を邪魔した性悪女だと思っていたはずだった。真衣とさえ結婚すれば明の未来は安泰だと思っていたはずだった。



しかし、その当の真衣がすっかり織子のファンだった。真衣は言った。



『おばさま、明お兄様は弱い方でしたけど、女性を見る目は間違っておりませんわ。騙されたと思って一度織子さんに会ってお話してお料理食べて見て下さいな』



明の母親は、真衣に伴って織子を知るほど、明はなぜ、この女性を自分に紹介しなかったのかと、悔しがった。



しかし、織子は明の母親に太って、会社のみんなから非難されていた頃の自分の写真を見せた。



今とは別人だ。



そんな、決してお世辞にも美しいとは言えない自分を母親に紹介するのは、やはり恥ずかしかったろう。



対して、あの頃の真衣は女子大を卒業したばかりの23歳。番茶も出花。1番美しく、そして資産家の娘。



明じゃなくたって、気持ちが揺れて当然だ。



そんな謙虚な織子を、由美夫妻も民生も真衣も、そして明の母親と弟も優しく包んでくれて来た。



明の母親に至っては、織子も真衣も、姪っ子のような気がして仕方ないとの事。



明の元カノの由美と、天秤にかけられた真衣。明の母親に弟。



そして織子が恋人として飛び込もうとした所を明が妨害した民生。



みんな思いがけず明が繋いでくれた縁。



1人ぼっちの織子が寂しくないように、明が織子にさんざん苦労かけたからせめて織子の回りに優しい人達がいてくれますようにと?



織子46歳。まだまだ元気に働けるけど最先考えると不安で暗くなる。



民生と再出発するのもアリだろうか。私より4歳若い民生が50歳まで独身だったらもう一度考えてみようか。



そろそろ明の長い指の思い出は封印しなくちゃな....



織子はいい加減酔っ払ったメンバーに、コーヒーを入れて、ケーキをより分ける。



明の大好きだったモカ。優しい香りが立ち込める。

明が亡くなってから仕事にも優しい友人達にも恵まれ始めた織子。人生、何が幸せなのかは分かりません。ほらほら民生も側にいますよ!

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