苦しみ
この物語は全て創作です。モデルはありません。
織子は明の遺品を片付け、マンションを掃除しての管理事務の手続きを済ませて、引っ越しをした。
あとは管理事務所から明の実家に連絡が行くだろう。
明と織子の住んでいた地域は東京から車で二時間ほどの地方の小都市だった。
明の実家や、真衣が明の私生活を詳しく知り得なかったのはその辺も関係している。
逆を言えば、織子も明と真衣の東京での逢瀬は分からなかった訳だが。
あの日、真衣は泣いていたが、真衣の持っていた洒落たバックを見て織子はまた笑いそうになった。
織子がこのバック可愛いと言ったら明が織子に買って来たものと、色違いのデザインだったからだ。
明は織子が選ぶ物を、何でも良しとする傾向があり、買い物に行くと全て織子に意見を聞き、明の好きな方にしたら?と言っても最後には織子の選んだ物には決めると言う、可愛いところがあった。
真衣にも、自信を持ってそのバックを選んで渡したんだろう。色だけ変えて。
3ヶ月ぐらい、明がなぜ自殺するほど苦しんでいたのか考えが及ばず、自分を責めに責めて暮らした。
そんなにも織子との生活に嫌気がさしていたのだろうか?
お母様と真衣、そして織子との間で板挟みになっていたのだろうか?
一言、やっぱり結婚できないんだ、ごめん....と言ってくれれば良かったじゃないのか?
織子が簡単に別れないと思っていたのだろうか?つきまとわられるとでも思っていたのだろうか?
織子と別れて若い真衣と結婚したくて、苦しみぬいていたんだろうか?
1人で死んでしまうほど?
しかし真衣の話を聞いて、漠然とわかる気はした。
明は天然人たらしの、のんびり屋だが、実家の意見や真衣の財力を考えると、真衣と結婚した方がいいのは分かっていた。
勿論そうする事も出来た。
今までのように織子をはべらしておくことも出来た。つまり今度は愛人だ。
しかし、明は織子との生活を気に入っていた。織子を離したく無かった。
妻には金持ちの真衣、愛人には糟糠の妻的な織子が、理想中の理想であったろう。
さすがにその勇気は無く、真実を打ち明けたら、今度こそ織子が自分から離れてしまうと思った。
そして織子に母性を求める明に取ってそれは恐怖だった。
いつまでも子供の明は、2人の女のどちらも選ぶ事が出来なかった。
いや、気持ちは織子にあったが、若くて美人で金持ちの真衣と結婚する魅力もまた捨てられなかった。
日常では織子にのめり込み、真衣に呼び出されると、その奔放な魅力に抗え無かった。
そんな時に織子が流産した。
明は自分は罰を受けたと思ったろう。これで織子の事を簡単に捨てる訳に行かなくなったと思ったろう。
しかも、その日は自分の誕生日で、真衣とスペシャルなデートで一夜過ごす筈だったのだ。
織子はそんな明に好物の料理を色々仕込んでくれていた。織子は妊娠してる事に気がつかず、流産した。
真衣にもそこまで深入りした織子との事を打ち明ける勇気は、今更無かった。
精神年齢の低い明には、その罪は乗り越えられなかった。弱い幼稚な男だった。
何れにしても明は、織子を置いて、1人で死んだのだ。
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明の本心が分からずに自分を責めて苦しむ織子。前に進めるかな?