婚約者
この物語は全て創作です。モデルはありません。
明は1人で死んでしまった。
釣りをしていて、酔って船から落ちたらしい。
警察では、死因に怪しい事は何も無く、事故扱いになった。
しかし、織子は誰にも言わなかったが自殺だと分かっていた。
ハワイではめた、織子とお揃いのあの指輪を織子が可愛がっていたウサギのぬいぐるみの耳に引っ掛けてあったのだ。
その日まで、明はその指輪を外した事は無かった。
明が居なくなってから、織子は毎日ぼんやりと過ごした。
一体自分が何をしたら良いのか、長い間、明を指針に生きて来た為、どんな風に生活して良いのか分からないのだった。
そんなある日、若い女性のお客さんがマンションに尋ねて来た。
織子はぼーっとして、その人の正体も見当がつかず、
『あの、亡くなった山崎明さんのお住まいはこちらでよろしかったでしょうか?』
と、言われた時の澄んだ若い声に、はっと思い当たった。
明の婚約者?いや、正確には両家が認めた明のお嫁さん候補。
織子は急に我に帰る。
くっ、いくらなんでもこんなかっこの時来るなんて....
さすがの織子も、若い女を前に、化粧は勿論、髪もボサボサ、あまりに惨めな容貌の自分を悔やんだ。
急いでコーヒーを入れ、素早く髪を撫で付けて、キッチンに置きっ放しの口紅をサッと塗る。
女性はスラリとした手足、どこから見てもお育ちの良い雰囲気、しかし決して人を侮る事の無いような深い瞳、ただの美人では無く利口そうな顔をしていた。
コーヒーを飲みながら、2人は気まずく黙る。
『あの、貴方が、明さんと一緒に暮らしていたと言う方ですか?つまり、明お兄様の奥さんになる予定だった方ですよね?』
織子は何と言って良いか分からず曖昧に頷いた。
『明お兄様から聞いてはいらっしゃらないと思いますが、私はお兄様と勝手に結婚するつもりでおつきあいさせて頂いてました。一年ぐらいかしら....』
織子が話出すのを恐れるようにその女性....真衣は一方的に話した。
『うちの母が、明お兄様のお母様のお花の生徒だったんです。で、小さい頃から両家でおつきあいがあって....』
真衣が女子大を卒業した時に、まだ明が独身だったら結婚させようと盛り上がっていたと言う。
『明お兄様は、真衣は自分みたいな年上ではなく(2人は12歳違う)もっと年の近い男と恋愛して幸せになれよ!と言ってました。だからつきまとっていたのは私の方なんです。』
結果、明は真衣によく連れまわされた。呼び出された。
明も、最初は母親の顔を潰す事なく、若い真衣を適当にあやしていたようだった。
しかし、真衣がそんな明にイラついてある日、捨て身に出た。
いつもお別れのキスだけじゃなく、今日は一緒にいて欲しい。じゃ無いと帰らないと。
織子は笑いそうになった。
あいつはやっぱり、気に入った女にキスだけして気をもたせておくんだなっと。
明は真衣の誘いを振り切れなかった。真衣の誕生日と言う日に一緒に夜を過ごしてから、逃げ腰の明に、何かある度に拗ね込み、明と身体を合わせていたと言う。
『でも私、明さんに好きな人がいるの分かってました。指輪もしてたし。それにどんなにお願いしてもマンションに連れて行ってくれなかったし』
織子は黙って聞いていた。
『私がそのうち諦めると思ってたみたいです。それにあの日、明さんの誕生日プレゼント渡そうとして、約束してたのに来なくて....』
そっか。
織子が流産した日、明の誕生日だった。
織子も明の好物料理を仕込んでいた。それで動き過ぎたら出血したのだった。
そっか。そっか。だから明はあの日あんなに泣いたんだな。
明が浮気して若い女と遊んでいた頃、織子が明の子を流産してしまったから....
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明は死んでしまうし、おまけに若い婚約者まで出て来て明との関係を打ち明けられます。織子、これから生きて行ける?