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8:武器屋と月灯亭

 

 マキノに連れられてギルドのある人の多い大通りから、町の外れのあまり人気のなさそうな通りへ歩いてきた。


 飾り気のない少し寂れた印象の店の前で立ち止まる。店の外には何も商品が陳列されていなかった。


 重い扉を押して中へ入ると何点か武器や防具が並んでいるが、どちらかと言えば殺風景な店内だ。

 ギルドに行くまでや、ここに来る途中にも武器屋はあったが、店の前にもたくさんの商品が並べられており商魂を感じた。

 こちらは何と言うか......。売る気が感じられない店だ。


「バロックさん、いらっしゃいますか?」


 マキノが奥に向かって声を掛けると、暫くして背の低い鼻の大きな男が出てきた。

 ドワーフという種族だろうか?人間ヒューマンよりは明らかに体が小さい。


「なんだマキノか。今日は何の用だ?」


 気難しそうな表情でマキノを睨みながら面倒くさそうに返事をする。


「今日登録した新人を連れて来たの。装備はまだないけど、魔法でクックボルトを倒す実力はあるわ。

 装備を揃えれば、瞬く間に強くなって、一人前の冒険者になれるでしょうね。」


「ほぉ。クックボルトを倒したのか。」


 バロックは俺と裕太の顔を見比べた。


「あまり強そうには見えないけどな。」


 マキノが言う一人前の冒険者とは、冒険者ランクCになる事だ。

 ランクCになると、一般的に冒険者としての実力を認めてもらえる。依頼を受ける時の信用度も上がり、依頼主が冒険者を指名して依頼を出す『指名依頼』などを受けれるようになるし、一般のクエストの内容も難しくなっていくが、その分報酬も高い。



「しかし、着ている服は妙な格好だが、いやなかなか......良い物を着ているじゃないか。」



 鑑定技能スキルを持っているのか、俺達の体操服ジャージの効果を見抜いたらしい。


「よし.....お前たちが望む武器はなんだ?どんな戦い方をする?」


 体操服ジャージを一通り眺めた後、バロックは俺達に視線を戻した。


「俺は剣がいいです。出来れば長剣を。」


「......俺は弓を。」


「長剣と弓か......。ちょっと待っていろ。」


 そう言うとバロックは店の奥へと入って行った。戻ってきた彼が持って来たのは長剣と短弓だった。


「お前の体格なら大剣も使えそうだが、もう少し身体を鍛えてからでもいいだろう。この長剣はそれほど高価ではないが、ミスリル混合だ。そこいらのなまくら鉄の剣よりはずっと強度も切れ味も良い。腕が上がるまではこれを使え。」


 裕太に長剣を渡すと今度は俺の方を向き、持っていた短弓を差し出した。


「お前はこの短弓だ。長弓より飛距離は落ちるが連射向きで動きが邪魔にならない。デカイ兄さんの後ろで敵のミスを突くにはまずこれぐらいが良いだろう。長弓を引くには、もう少しここら辺を鍛えなきゃなぁ......。」


 そう言いながら俺の鍛えてもひ弱な腕を掴んでため息をついた。


 --------人が気にしている事を......。



 しかし、持ってきた短弓は金属で出来ており手に取ってみると思ったより軽かった。

 所謂、合成弓コンポジットボウという物で、複数の素材を組み合わせて作ってある。


 弓と言うと、弓道などで使う木製の長弓をイメージする人が多いかもしれないが、アーチェリーの弓はもっと機械的であり弓道の弓程長くはない。

 丁度バロックが持って来た短弓ぐらいの大きさだ。

 もちろん形も扱い方も違うので練習が必要だが、技能スキルに弓術Lv1があるのでどうにかなるだろう。



「あ、あと......俺達はこれから、南へ向かって旅をします。......今扱えない可能性もありますが、今後の為に......遠距離用の長弓と、矢を多めに。あと、解体用のナイフと......防具もお願いします。」


「長弓か...。しかし、荷物になるだろう?」


「それは多少容量のある収納箱アイテムボックスがあるので大丈夫です。」


 裕太がリュックを叩きながらニッっと笑った。


収納箱アイテムボックス持ちか。」


 少し驚きながらも、バロックはもう一度奥から長弓と矢を5束、解体用のナイフを持って来てくれた。

 矢は1束に20本ほど入っている。後は、コピーで増やしながら使っていくつもりだ。


「これが長弓だ。短弓と違って遠くへ飛ぶし威力もあるが使いこなすにはかなりの引く力が必要になるぞ。精進しろよ。」


「はい......ありがとうございます。」


 裕太のリュックに収納してもらう。


「あとは、防具だが。お前達、なかなか防御力の高い衣服を着ているようだが、誰が作った物だ?」


「これは、昔俺達の村に居た職人が作った物です。旅の途中怪我をして、怪我が治るまで暫く村で武器や防具を作っていたんです。」


「ほぅ、随分腕のある職人だったんだな。防具ではなく、そんな衣服にそれだけのDFをプラスするとは。」


 そう言いながら、体操服ジャージを隅々まで念入りに調べ始めた。思わず裕太が脱がされかけた程だ。


「これ以上の防具となると...ここにはないな。」


「ないんですか?」


 まさか、武器と防具の専門店に来て体操服ジャージ以上の防具がないと言われるとは思わなかった。


「詳しくは鑑定出来んが、その服はDFをプラス200~300は上げる効果があるだろう。今の俺の店にある鎧ではぜいぜいプラス100~150だろう。」


 なんと!?通常の防具を体操服ジャージが上回っちゃったよ。


「そんなに凄いんですか、この服......。」


「なんだ、知らずに着ていたのか?首都ネロまで行けば同等の防具か多少は高い防具が手に入るかもしれんが。かなり腕のいい職人の作品になるから値段も高いだろうな。

 とりあえず、その服をベースに盾と、胸当てや籠手、すね当てなんかで防御力を上げる方が良いだろうな。」



 俺達は当分この体操服ジャージを脱げないようだ。



 バロックの薦める防具を購入し、全部で金貨8枚と銀貨9枚を支払った。

 店を出ると大通りまで戻り、門の兵士から税金を差し引いた保証金を受け取り、フラフラと屋台へ吸い寄せられる裕太を制止しながらマキノお薦めの宿屋の前まで辿り着いた。


『月灯亭』と言う看板の掛かったその宿は、特別に大きいわけではないが中に入るとすぐに食堂があり、何とも旨そうな匂いが漂っていた。


「うわぁぁぁ。凄く旨そうな匂いだなぁ。」


 裕太の口から大量のヨダレが今にも溢れそうである。


「ここは料理の美味しい宿として評判なのよ。宿泊客だけじゃなく、町の住人もよく食堂を利用しにくるの。」


 マキノが忙しく動き回っている少女を呼び止める。


「メリル。宿のお客さんを連れて来たの。部屋は空いているかしら?」


「マキノさん!お久しぶりですね~。最近食事に来てくれないじゃないですか~。」


「ごめんなさい。最近ギルドの仕事が忙しくて、ゆっくり食事も取れなかったのよ。落ち着いたら必ず来るわね。


 マキノとメリルと呼ばれた少女は親し気に言葉を交わす。

 彼女は人間ヒューマンで長く伸ばした赤毛を後ろで三つ編みに結んでいる。ふわりと広がったカントリー風のワンピースと白いエプロンがとても可愛らしい。


「えっとお部屋ですね~?二階の奥なら一部屋空いています~。お二人ですか~?朝夕食付きで一人1泊銀貨3枚になりますが~、いかがですか~?」


 メリルは裕太を見て聞いてきた。もちろん俺は目を逸らしている。

 人見知り舐めるな。


「ではそれでお願いします。とりあえず......二泊で。」


 裕太は俺の方を見て確認を取ってから二泊を申し込んだ。

 折角だし、明日はゆっくりとこの町を観光しよう。急ぐ旅でもないしな。


 俺達は二泊分、金貨1枚銀貨2枚を払う。


「ではこれが部屋の鍵です~。部屋に上がられたらすぐに湯をお持ちしますね~。夕食は食堂まで下りてから部屋の鍵を見せて下さい~。朝食も同様です~。酒場も兼ねていますので、割と遅い時間までやってます~。

 小さくて騒がしい宿ですが~、ゆっくりと旅の疲れを癒して行って下さい~。」



 俺達は、案内をしてくれたマキノに礼を言い、部屋まで上がった。


 すぐにメリルが湯を入れた桶をもって来てくれたので受け取り、体を拭いた。

 荒野を歩いて来たので思ったよりも砂まみれだった。


 この世界では一般的に風呂はなく、湯で体を拭く程度だ。メリルの話では他の大陸で大きな都市に行くと風呂に入る習慣があるそうなので、風呂のある都市に行くのが今後の旅の楽しみになりそうだ。


 体を拭き終わると食堂まで下りて行く。


 さほど広い食堂ではないが、他の部屋が全室埋まっていることもありとても賑わっている。マキノが言ったように宿泊客以外の町の住人もいるようだ。


 俺達は空いている席に座り、忙しく給仕をしているメリルに声を掛ける。


「食事をお願いできるかな?」


「はい、お食事ですね~。今日はクックボルトの肉が手に入ったので~、お薦めはクックボルトのシチューです~。がっつり召し上がりたい方にはオーク肉のステーキが量もあってお薦めです~。」


 俺はシチューを、裕太はステーキを注文し、暫く待っていると旨そうな匂いを漂わせ料理が運ばれてきた。


 メインの他に、黒パンとチーズのような塊の乗った皿も出てきた。コップには、牛乳のような白い液体。

 これは『マギ』と言う、ヤギに似た魔物の乳とチーズらしい。

『マギ』は比較的大人しい性格の魔物で、子供の頃から育てれば家畜として飼える為一家に3~5匹は飼われている。肉はあまり旨くはないが、土地の痩せたこの一帯では非常に大切な食料なので年を取るまでは飼育し、最後は家族で肉も食べてしまうらしい。

 乳とチーズは、地球の牛よりも濃厚な味がした。


 シチューも、薄味ではあるが旨かった。裕太が頼んだオーク肉のステーキも茶色いソースがかかっており、肉質は少し硬いが旨かった。

 日本の小説のイメージだと、オークって豚顔の二足歩行の魔物だったはずだ。実物は見ていないが、全く躊躇する事なく旨そうに食べている裕太を少し尊敬した。


 食事が終わって俺達は部屋に戻った。


 ベッドは硬くて寝心地は悪そうだが、こちらの世界ではこんなものなんだろう。


「いや~ぁ、急に異世界に来てどうなるかと思ったけど、こうやって宿でゆっくり寝る事ができると少し落ち着くな。」


 硬いベッドに体を投げ出して伸びをしながら裕太は大きく息を吐いた。


「ほんの半日前まで地球にいたなんて思えないよな。まさか、剣と魔法の世界に俺達が居るなんて。」


「本当だよな!!まさか俺が魔法を使えるなんてな!!」


 裕太は右手を前に伸ばし、魔法を放った時の事を思い出している。


「こんな世界に一人で来て不安だったけど、ユウタが居てくれて本当に良かったよ。」


「俺も。本当なら死んじゃってたんだよな。ヒビキが召喚してくれたから今生きているんだよな。ありがとな。」


 いつものように、軽いノリでニカッと笑う。


「俺の力じゃないさ。全部神様の異能ギフトのおかげさ。」


「それにしたって、ヒビキが望んだ力だろ?やっぱりヒビキのおかげだよ。感謝してる。」


 なんだか照れ臭くなりお互いに笑う。


「まあ俺は、人見知りだしユウタほど強くない。これから色々頼る事になると思うけど、宜しくな。」


「任せとけ!!ヒビキは俺が守ってやるよ!」


「私も居ますからね!?」


 机の上に置いたスマホからフレア様の声が聞こえた。


 そちらを見ると画面から柔らかい光が立ち上り、ホログラムのようにフレア様の姿が現れた。

 スマホサイズだから小さいが。


「フレア様、凄い!!ホログラムですか?」


「はい。色々試していたら外に姿を映す事が出来ました。これなら一緒にお話も出来ますでしょう?」


 ホログラムだから向こう側が少し透けて見えるが、いちいちスマホを手に取って画面を見なくて済むので話しやすい。


「そうですね。フレア様も頼りにしていますから、この世界のこと色々教えて下さいね。」


「はい。お役に立てるよう、頑張りますね!」


 この二人が居れば、どんな困難も乗り越えて行けそうだ。


 俺達はそのまま暫く話をしてから、硬いベッドで眠りについた。














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