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1:管理世界

 

[......さん。クロ...ネ......さん。」


 誰かに呼ばれる声がして、薄っすらと目を開く。


 眩しい光に目を細めるが、だんだんとその明るさに慣れてくる。

 そこはただ広く壁もない真っ白な空間だった。


「クロガネ ヒビキさん。」


「う...あ...はい。」


 突然名前を呼ばれ反射的に返事をする。


 声の主を見ると、そこには銀髪を腰まで伸ばし紫色の瞳の美女が、倒れている俺の顔を覗き込んでいた。

 その奥には、白髪で口の周りから顎にかけて白く長い髭を伸ばした老人が立っていた。


「ああ、やっと目覚めましたね。クロガネ ヒビキさん。」


 銀髪美女が再度俺の名を呼ぶ。


「どうして俺の名を?ここはどこですか?」


 直後に先程の地震の記憶が甦ってきた。


「さっきまで学校にいたはず......あ、あの!地震は!?さっき凄い地震がありましたよね!?......学校のみんなは?」


 俺は身体を起こし銀髪美女に向き合った。


「ここは避難所ですか?......って、あれ?俺怪我してないし。確か瓦礫が落ちてきて......。みんなも居ないし......。あの......?」


 今いる場所、怪我のない自分、近くに俺達以外誰もいない事、不自然すぎる程に広いこの空間、裕太や松前の姿が見えない事、俺達の上に確かに校舎の瓦礫が落ちて下敷きになってしまった記憶。


 思い出す度に混乱してきて、聞きたいのに言葉が出てこない。


 最悪の想像が頭を過る。


 白髪の老人と銀髪美女は顔を見合わせ頷き合う。

 銀髪美女は、パニックになっている俺の肩にそっと手を置いた。


「クロガネ ヒビキさん。あなたは確かに先程まで"地球"の学校に居り、大地震によって崩れてきた瓦礫の下敷きになりました。一緒にいらした方も同様に......。あの地域一帯は大きく建物が崩れ、火災が発生し、多くの方々が犠牲になりました。」


 俺は銀髪美女の言葉に驚き、大きく目を見開き息を止めた。


「ユウタやマツマエ......学校のみんなも死んだんですか!?」


 声を絞り出す。まるで自分の声じゃないようだ。


「あの地域一帯?そんな......、じゃあ、俺は!?俺も瓦礫の下敷きになったはず。なのにどうして、怪我もなく俺は生きているんですか...?」


 確かにあの時俺は落ちてきた瓦礫の下敷きに......いや、目の前に古い井戸があって......躓いて倒れた拍子に井戸の蓋に手を突いたら、蓋と井戸自体が崩れて井戸の中に......落ちたのか?しかし、その後瓦礫が......。

 しかし、この場所は何だ?真っ白で何もなくて不自然すぎる程に広い。

 もしかして......ここは天国なのか?俺はやっぱり死んだのか?そしてこの人達は死後の水先案内人なのか??

 水先案内人と言うよりは、後ろの老人などは見るからに神様!!っていう見た目なのだが。


 頭の中で色々考えるが、なかなか自分の納得できる正解にたどり着けない。

 老人については無意識に正解にたどり着いていたわけだが、その時の俺は気付いていなかった。


 考え込む俺に金髪美女はゆっくりと声を掛けた。




「その事については、今から説明いたします。あなたはあの時死んでしまうはずでした。

--------あの古井戸に落ちなければ。」



 銀髪美女が俺に説明してくれた内容はこうだ。


 まずこの世界は地球ではない。


 ......そう、地球ではないのだ。


 大昔あの場所で、今回と同じ規模の大地震が起こった。地面は激しく揺れ地下の地層も激しくうねり断裂した。

 その揺れの激しさは空間をも歪ませ大きく断裂し、地球と全く違うこの世界と繋がってしまったようだ。


 ただ、地球の住人達はその事に気付かなかった。

 空間の断裂により井戸から水が汲み上げられなくなったわけだが、人々は井戸が枯れてしまったと判断し、枯れ井戸として井戸に蓋をして閉めてしまった。


 その為、異世界と繋がった事実も気付かれないまま長い月日が経ち、"そこ"から誰もこの世界に訪れる事はなかったようだ。


 そして、この白い世界。


 まずここは避難所ではなかった。

 ここは世界の管理者である神々が住まう世界。


 偶然と言うか、奇跡のように、俺は直接この世界に投げ出される事もなく、この管理世界に訪れ、目の前にいる二人の神々と出会う事ができたのだ。


 そう。神々が住まう場所、この管理世界に居るこの二人は必然的に神様という事になる。


 俺は知らず知らずのうちに正解にたどり着いていたようだ。


「......神様ですか。」


 改めて二人を見た。


「はい。こちらは天地創造の神アラミス様。この世界の主神であり、この管理世界の最高責任者です。」


 白髪白鬚の老人は主神様らしい。さっきから一言も喋らないが......。

 アラミスと呼ばれた老人はにっこりと微笑んだ。


「そして私は、アラミス様にお仕えする女神見習いのフレアと申します。」


 銀髪美女は女神見習いらしい。見習いと言っても神格者であることに変わりはなく、より位の高い神になる為主神に仕え修行をしているのだとか。


 その後フレア様はこの世界のことをいろいろ教えてくれた。


 この世界にはアラミス様を含む神々が八神いる。


 この世界は地球と比べて大気中に多く魔素が含まれる為、地球に居たような動物達は魔素を取り込み過ぎて魔物へと変質してしまっている。


 人間は取り込んだ魔素を魔力へと変換できる為、動物のように魔物化しなかった。

 個人差はあるものの、魔力を体外へ出す訓練をする事で魔法が使えるようになるらしい。




 魔物とか魔法とか、ゲームやネット小説で見たことのある剣と魔法の世界だな。



 ちなみにこの世界は『エターリヤ』と言うらしい。


『エターリヤ』には大きく分けて三つの大陸がある。その他に多少の島もあるようだ。

 その中に八つの大国がある。


 俺が落ちた古井戸からこの世界に訪れた者はいないが、他の方法で地球からこの世界に訪れた者は居たらしい。


 奇跡的にこの管理世界を通る者は稀で、最近では100年程前に一人訪れたらしい。

 100年前って最近か?


 それ以外の管理世界を通らずに直接空間の断裂からこの世界に落ちてしまう者もいるのだが、その場合は神々の管轄外となり把握が難しいそうだ。


 神々が見ていない間に勝手に落ちてしまったという事か。


 ただ、この世界の一般市民の力を100とするならば、地球人は10~20倍のステータス差があり、この世界の人が鍛錬を積み強くなり中~上位クラスになった冒険者と同じくらいの実力はあるらしいので管理出来ていなくても、簡単に死んでいる事はないだろうとフレア様は言う。


 あれ程大きな地震があった為、何人かは空間の断裂からこの世界に落ちている可能性もあるそうだ。


 しかし、経験を積むことで覚える技能スキルとは違い、地球からこちらへ転移する事で授けられる異能ギフトという能力があり、その力を最低一つは持っているらしい。

 殆どが一つしか授からないが、運が良ければ複数取得する事も極稀にあるようだ。



「クロガネ ヒビキさん。まずは心の中で『ステータス』と念じてみてください。」


 俺はフレア様に言われるままに、心の中で念じた。


『ステータス』


 すると目の前に、文字や数字の表示された半透明な画面が現れた。




 名前:ヒビキ クロガネ

 種族:☆◎●

 年齢:16

 レベル:1

 職業:---


 HP:2500

 MP:●#◎

 AT:550

 DF:480

 SP:300


 技術スキル:弓術Lv1、魔力操作Lv1、言語理解【転移者専用】


 異能ギフト:◎☆【古井戸に落ちし者】、●☆□#♪


 称号:【転移者】、【古井戸に落ちし者】




 ---うん?種族とMPと異能ギフト)の欄が文字化けしてる。


 それになんだ?古井戸に落ちし者?


「あれ?一部文字がおかしいですね。今まで通った者のいない古井戸ルートを通って来た事で、密度の濃い魔素の影響を受けたのでしょうか......。」


 フレア様は文字化けしているステータスを見て一瞬首を傾げたが、時間が経てば魔素が薄れて自動的に修復するだろうと判断した。


 こちらへ転移する事で授けられた異能ギフトが文字化けしていて見られないのは残念だが、自動修復を待つことにする。


「さて。こちらの世界の説明とステータスの確認は出来ましたね。何か質問はありますか。」


 フレア様は改めて俺の方へ視線を向け聞いてきた。


 俺はこの場所で目を覚まし、地球とは全く別の世界であると認識した時から思っていた事を思い切って聞いてみた。


「この世界の事は何となく理解しました。ただ、俺が気になっている事がひとつだけあります。俺は地球へ、元の世界へ戻る事は出来ないのでしょうか?」




 結果として--------。




 フレア様は気の毒そうな表情を浮かべ「それはできない。」と告げた。


 地球とこの世界との間の空間は大きく歪み断裂しており、仮に同じ断裂に飛び込んだとしても同じ世界・同じ時代に辿り着くのは極めて困難だと。



 半ば予想通りの回答に俺は深くため息をついた。



 元の世界には帰れない。



 家族と二度と会えない事は悲しいが、あの地震により大勢の人が、友が亡くなっているはずだ。


 元の世界に戻って、改めてそれを確認しなければいけない現実を思えば、瓦礫に潰されかけたにも関わらず奇跡的に異世界で生きている、元の世界に戻れなくてもそれは幸せな事ではないだろうか。


 俺は何かを決心したようにもう一度大きく息を吐くと、真っ直ぐ前を見て言った。


「わかりました。俺は奇跡的にこの世界で生きている。その幸運に感謝して、この世界で精一杯生きていこうと思います。」



 俺の宣言に、フレア様は安堵したように、アラミス様は何かを確信したように、にっこりと微笑むのだった。












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誤字脱字一部修正済み

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