14:フォーネの冒険者ギルド
旦那と息子が、PCもタブレットも独占していて打ち込みが出来ず二週間空いてしまいました。
漸くの更新です。お待たせしました。......え?待ってない??( ノД`)シクシク…
魔物の群れを倒してからは、魔物に出会う事もなく1時間程歩くと、ついに次の目的地フォーネの街が見えて来た。
4m程の高い外壁はコンクリートにも似た材質で出来ており、パルパルより2倍程広い街の門には鎖を巻き取る事で上下に開閉する大きな扉が取り付けられていた。この扉は国の軍隊など大人数で出入りする時などに開けられるが、普段は魔物の侵入を防ぐ為閉ざされている。門の脇に馬車が2台すれ違う事の出来る幅の小さい門が設けられており、通常町の出入りにはこちらが利用されている。門にはパルパル同様、門兵が立っており身分証を確認していたが、今回は三人共身分証を持っているので問題なく街に入る事が出来た。
街の面積はパルパルに比べて倍はあるだろうか。立ち並ぶ店舗の数も多い。大通りも広く、大勢の人が行きかっておりお互いの肩がぶつかる程だ。
日本では、田舎ではなかったが三大都市に比べると都会でもなかった。連休などで観光地や人気のテーマパークなどに出向くと人の多さに怯んだものだ。
はぐれないようにノエルが俺の腕にしがみ付く。裕太は背が高いので目立つかと思いきや、獣人も多く彼らは平均して2mを超える者が多い。腕の立つ冒険者などは体格も良いので日本人の俺達などヒヨッコも同然だ。
相変わらず食べ物の屋台に引き寄せられてしまう裕太を制止しながら、俺達は冒険者ギルドを目指す。
冒険者ギルドもパルパルより大きく二階建ての建物で剣と盾をモチーフにした紋章が描かれた看板が掛けられていた。この看板は全冒険者ギルド共通で、どのギルドにも掛けられている。
他にも商業ギルド・魔導士ギルド・魔道具ギルドなど、職業に合わせてギルドが設立されているが、それぞれに決められた看板が掲げられており、文字の読めない者や他国から来た者でもそれを見れば何のギルドがわかるようになっている。
言語は、エターリヤ語が共通語とされているが、ミストやカスト・レーニアと同様にこの大陸内にあるドワーフ国男サキアスはドワーフ独自の言語を使用しているし、三大陸の真ん中にある島エルフ国シンシアではエルフや妖精・精霊達の間で多く使われている古代文字が使用されている。
三大陸で最も北の大陸にある魔族領とシン・ターニア帝国でも独自の言語が使用されている。
ミストとカスト・レーニア、東の大陸にあるターリャ王国、魔法国家ボロスト、北の大陸にある迷宮大国タバスは共通語であるエターリヤ語が使用されている。
街にある店の看板や表示には共通語も一緒に明記されているし、共通語も普通に話されているので他国に行っても特に困る事はないそうだが。
冒険者ギルドの中へ入ると、入り口から入って左側に受付が三つと買取カウンターが並んでいた。右側の壁には依頼ボードがランク別に掲示されており、その手前にいくつかの丸テーブルと椅子が並べられている。
酒や軽食を注文する事の出来るカウンターがある。中にはスキンヘッドの厳つい男がグラスを磨いていた。カウンターの前にも椅子が並べられていた。
俺達は真っすぐ受付に向かった。
三つある受付にはエルフの女性と猫と兎の獣人が一人ずつ座っていた。
エルフの女性はショートカットで緑がかった髪と茶色の目をした美人で猫の獣人は女性でボブの長さでアメショに似た髪の色で黒と灰色の混ざった髪色をしていた。
兎獣人の女性は.......顔が兎だった。
猫獣人の女性は、猫耳や尻尾はあるが顔立ちは人と同じだ。しかし、この兎獣人の女性は一言で言うならば『大きなぬいぐるみ』のようだ。
辛うじて衣服から女性である事が判断できるが、裸だと性別の判断が難しそうだ。丸眼鏡をかけ、長い耳は時々ピクピクと動いている。動いていなければぬいぐるみと大差ない。
この世界の獣人には、人と同じ顔立ちや体格をしたタイプと獣の顔立ちや体格をしたタイプと居て、獣タイプは顔立ちや手足などにその特徴が強く現れるらしい。
俺達はそのぬいぐるみと接してみたくて、彼女の受付に並んでみた。
町が大きくなれば人も多くなる。冒険者ギルドの中はパルパルのギルドの倍の冒険者が居た。もちろん受付にも長い列が出来ている。暫く並ぶと俺達の番が来た。
「今日はどのようなご用件ですか?」
大きな兎のぬいぐるみは中年の女性の声で喋った。どうやら年配の女性で、丸眼鏡も老眼鏡のようだ。
裕太がパルパルで受けたクエストの魔物討伐依頼受託表を差し出した。
「クエストの達成報告に来ました。あと、素材の買い取りもお願いします。」
『素材採取』のクエストは、道中リトルベアに遭遇しなかったので継続中であるが、『魔物討伐』のクエストはランクE~Dの魔物を5匹以上討伐で達成なのでオーク(戦士)6匹討伐した時点で十分条件を満たしている。
兎獣人の女性は、上半身を捻り後ろを振り返ると近くにいた獣人の男性に声を掛けた。
「ウィル、魔物討伐の達成報告と素材の買い取り希望なの。確認お願いできるかしら?」
ウィルと呼ばれた獣人の若い男性が振り返る。狼耳と尻尾のある男性だ。狼獣人だろうか?
「ああ、いいよ。君達こっちへ来てくれるかい?」
ウィルと俺達は隣にある買取カウンターに移動する。
「魔石だけでなく、肉の買い取りをお願いしたいのですが、数が多いのでここに並べきらないのですが....。」
「死体ごと持って来たのか?収納箱持ちか。」
裕太がそう告げると、ウィルは裏にある解体場に俺達を案内してくれた。
「ここなら大丈夫だろ?ここに出してくれ。」
裕太は指示された場所に次々と魔物の死体を出していく。
ゴブリン(ウィザード)3匹とトロール1匹は魔石のみの回収だが、オーク(戦士)6匹とオーク(ウィザード)2匹は死体のまま持ち帰っていた。
素材を引き取る場合は解体料を取られるが、丸ごと買い取って貰う場合持ち込んだ数が多いと解体料はサービスで無料にしてくれる事が多い。
「驚いたな。オークが全部で8体。その収納箱は中サイズかい?それにこの魔石...。小さいのはゴブリンだね。しかし、風魔法が使えるゴブリンウィザードのものだ。中ぐらいのはオーク(戦士)6個と、雷魔法が使えるオーク(ウィザード)2個。この一番大きいのは...まさか、トロールかい?」
魔石と言うのは魔物の属性によって色が違う。
火属性は赤。雷属性は黄色。水属性は青。風属性は緑。土属性は茶色。光属性が銀で、闇属性は黒だ。
これらの魔物はその属性に基づいた魔法を使う。
しかし、属性を持たない魔物も居る。ゴブリンやオーク、トロールがこの無属性に分類される。
この魔物達は基本魔法が使えない。しかし、ゴブリンやオークの派生であるゴブリン(ウィザード)やオーク(ウィザード)などは例外で魔法を使う事が出来る。
この無属性の魔石は白であるが、派生であるゴブリン(ウィザード)やオーク(ウィザード)の魔石にはそれぞれが使う魔法の属性の色が模様となって現れるのだ。だから、魔石を見れば派生であるかどうかの判断が出来る。
魔物のランクによって、魔石の大きさも異なる。ランクが高くなるごとに魔石も大きくなるのだ。これは魔物の持っている魔素の量による違いがあるらしい。魔素を多く取り込んでいる魔物は力も能力も強くなり、魔石も大きくなるようだ。
だから、死体から取り出した魔石のみの場合でも相手のランクや種類が魔石の色や大きさ、派生である模様を見る事で判断され、それを基に買取金額が算出されることになる。
ウィルは、ランクEであるゴブリン(ウィザード)と、ランクDであるオーク(戦士)、ランクCであるオーク(ウィザード)とトロールの魔石の違いを瞬時に判断していた。
「はい、トロールです。オーク達といくつかの群れで行動していたんです。」
「群れ?冒険者達から報告や目撃情報があったやつかな。しかし、三人でトロールやオーク(ウィザード)の居る群れを倒したのかい?凄いな。」
ウィルは感嘆の声を上げた。
「君達ランクは?初めて見る顔だね。」
「ランクはEです。首都ネロを目指して旅をしているんです。」
俺達はギルドカードを見せる。
「ランクE?ランクE三人でこの数の魔物を倒したのかい?」
「はい。最近登録したばかりなのでランクはあまり高くないんです。」
「驚いたなぁ...。三人でランクCのトロールやオーク(ウィザード)を倒したとなると、個人のランクもランクD~Cに匹敵する実力があるって事だね...。」
ウィルは羊皮紙を取り出し、素材の内訳と買取金額を書き留めていく。
この世界にも紙は存在するが高価な物なので、蔵書には使用されるが、一般的には羊皮紙が多く使われている。魔法書なども簡易魔法や生活魔法などは羊皮紙に書き記されており巻物のようになっている。
「買い取りの件だけど、まずはオーク(戦士)の魔石が1匹金貨1枚、肉が1匹金貨3枚。6匹居るから金貨24枚。ゴブリン(ウィザード)の魔石が1匹銀貨8枚。3匹居るから金貨2枚と銀貨4枚。オーク(ウィザード)の魔石が1匹金貨2枚、肉が1匹金貨3枚で、2匹居るから金貨10枚。トロールの魔石が1匹金貨3枚。全部で金貨39枚と銀貨4枚だな。」
そう言いながらウィルは書きあがった羊皮紙を裕太に渡す。
「クエストとしては1件だが、ランクD以上の討伐数が多い。きっとランクアップすると思うな。この紙を持ってもう一度受付に声を掛けて手続きをしてもらうといいよ。....まあ、ランクアップはギルドマスターの判断になると思うけど。」
「「「ありがとうございます。」」」
俺達は受付に戻り、並び直す。暫くすると順番が来た。
「買い取り査定が終わったのね。ギルドカードとメモを預かるわ、見せて。」
ウィルから受け取った羊皮紙とギルドカードを兎獣人の女性に渡す。受け取った羊皮紙を見て彼女は目を見開いた。
「トロールとオーク(ウィザード)!?それにオーク(戦士)やゴブリン(ウィザード)まで......。ランクは....E!?」
羊皮紙とギルドカードを見比べながら驚きの声を上げる。
「ひとつの魔物討伐依頼でランクD以上を12匹も......。しかも、ランクCが2匹も。」
兎獣人の女性は順番に俺達の顔を眺める。
「あなた達、初めて見る顔ね。年も若いし。どこから来たの?」
「俺達はパルパルから来ました。出身はもっと田舎の村ですが。年は十六です。」
「パルパル?あの町にこんなに腕の立つ冒険者が居たかしら?16歳...。しかも、依頼達成数が3件。冒険者になってまだ日が浅いわね。......あなた達、ちょっと奥の部屋まで付いて来て!」
おもむろに立ち上がると、俺達に奥の部屋に付いて来るように指示をし、自分も早足で歩き出した。慌てて後を付いて行く。
一番奥にある大きな扉の部屋の前まで来ると、彼女は扉をノックする。
「マスター、テルミアです。」
「入れ。」
兎獣人テルミアが名乗ると、扉の向こうから低い声が聞こえた。
テルミアが扉を開け中へ入り、俺達も続いて中へ入る。
正面には書類の積み上げられた机に向かって座っている蜥蜴獣人の男性が居た。明らかに元冒険者であろう鍛え上げられた体を普通よりは大きめの机にも関わらず、積み上げられた書類の間に窮屈そうに座って書類を見ていた。事務作業には些か不向きそうである。
「マスター、これを見て頂けますか?」
「どうした?何か問題でも?」
テルミアは羊皮紙とギルドカードを机の上に置いた。
ギルドカードは依頼達成報告をする度に更新し、記載内容が変わっていく。
名前、Lv、ランク、討伐数、依頼達成数などそれ一枚で持ち主に関してわかる情報は多い。
マスターと呼ばれた蜥蜴獣人の男性は机の上に置かれた羊皮紙とギルドカードを見る。マスターとは『ギルドマスター』の事であろう。
「ほぉ!!」
全身を鱗で覆われている為表情は読み取り辛いが眉を上げ(実際には眉毛はないので、その辺りと言う意味なのだが)驚きの声を上げた。
「三人でこの討伐数か。ランクDとランクCも...。本人達のランクはEか。いや、実力的にはすでにCに近いものがあるな。」
「はい、それでクエスト達成数は少ないのですが、一度に12匹ものランクD以上の魔物を討伐していますし、ランクアップについてのご意見を頂こうと思いまして。」
「クエスト達成数?......なんと!まだ3件なのか!?登録して日が浅いのだな。うぅむ。」
俺達はソファーに座るように勧められたので三人並んで座っている。秘書のような人間の女性が紅茶のような色をした温かい飲み物を出してくれたので、それを飲んでみる。ほのかに甘いしかしさっぱりとした後味だ。なにかの花のような香りがする。
「まだ達成前のクエストが1件あるね。このクエストの内容は?」
「それはリトルベアの素材採取です。」
「ランクDのリトルベアか。」
ギルドマスターは少し考え込んでいる。
「君たちはこの街にいつまで滞在予定かな?」
「え...っと、今日着いたばかりなので取り敢えず1泊はします。出発日についてはまだ何も決めていません。」
裕太がそう答えるとギルドマスターは少し考えてからテルミアに声を掛けた。
「テルミア、ウィルを呼んできてくれないか?」
「わかりました。」
すぐにテルミアは部屋を出てウィルを連れて来た。
「ハクアの旦那、何か用ですか?」
ハクアと呼ばれたのはギルドマスターだ。
「ウィル、最近リトルベアの目撃情報はあるか?」
「リトルベアですか?3~4日前に西に1日程移動したところで新人冒険者の5人パーティが遭遇していますね。ランク差があるので全力で逃げ帰って来ています。新人が相手にできる魔物じゃありませんからね、適切な判断でしょう。」
「3~4日前か...。ウィル、お前は探索能力があったな?リトルベアを探せるか?」
ウィルは腕を組み考え込む。
「う~ん....。確実ではないですが、遠くまで移動していなければ何とか見つけられると思いますよ。」
そのウィルの言葉に頷き、ハクアが俺達の方に向き直る。
「君達、どうだろう?このウィルと一緒にリトルベアの討伐に行ってもらえないだろうか?ウィルはランクCの冒険者だ。彼に君達の実力を査定してもらって、その結果でランクアップを決めたいと思っている。今のままではランクアップの為に必要なクエスト達成数が不十分だ。しかし、査定によりその実力が認められれば特例でランクアップが可能になる。往復で2日かかるので野営する必要もあるが、君達がリトルベアを討伐する様子をウィルに査定させたいんだが。」
俺と裕太は顔を見合せる。
特に急いでランクを上げる必要もないのだが、ここで断るのも不自然だ。
同行者が居れば裕太の"勇者の攻防"を使うわけにはいかなくなる。フレア様も姿を現せない。
ランクDのリトルベアであれば、バロックの店で買った今の装備でも問題はないと思うが......。
「ユウタはどう思う?」
「リトルベアだけなら魔法を纏わせれば今の装備でも余裕はあると思うよ。いざとなれば魔法攻撃だけで戦ってもいいし。異能を使う必要はないと思うな。」
男二人で顔を寄せ合い小声で相談する。確かに、魔法攻撃だけでも十分討伐出来るだろう。
ノエルは俺の腕にしがみ付きながら、秘書が飲み物と一緒に出してくれたビスケットのようなお菓子を頬張っている。
「ノエルはどう思う?」
「ボクはご主人様が決めた事ならどちらでもいいよ~。」
俺達はハクアの申し出を受ける事にした。
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