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10:少女の正体

 

 奴隷契約を済ませ、俺達は少女を宿へと連れ帰った。

 衰弱して自力では立てなかったので裕太が背負って運んだ。


 部屋に入り、ベッドに寝かせる。

 とりあえず衰弱した状態を何とかしたいので、宿の主人に頼んでおにぎり〔梅〕の海苔を外しそれでおかゆを作ってもらった。宿の主人に作った事がないと言われたが、米から炊くわけではなくおにぎりを崩し少し柔らかく煮るだけなので説明をするとすぐに作ってくれた。塩がなかったが梅干しの塩気で大丈夫だろう。


 早速少しずつ少女に食べさせてみる。

 最初は口に入れて飲み込むのもやっとの状態だったが、おにぎり〔梅〕にはHP回復(中)の効果がある。少しずつ飲み込んでいくうちに少女の顔色は良くなり、痩せこけていた体や顔つきも少しふっくらとしてきた。

 傷や喰いちぎられた跡も徐々に回復していく。


 思った通りだ。HP回復と言えば、回復魔法で言うところの治癒ヒールと同じでなないか?体力だけでなく、衰弱した状態や傷も回復出来るのではないかと思ったのだ。

 古い傷跡までは治らなかったが、生々しい傷跡は綺麗に治せたようだ。


 お腹もすいていたのだろう。最初はスプーンで口元に運んでやっていたが、後半は自分でスプーンを持ち凄い勢いでおかゆを食べきってしまった。


 体力も回復し、少しお腹も満たされた少女は少し幸せそうな表情に見えた。死にたいと絶望的な目をしていた先程までとは別人に見える。


「もう少し......食べる?」


 俺はもう一つおにぎりを取り出し少女に渡す。


「ありがとう。」


 少女は夢中でおにぎりを食べ始めた。


 少女が食べている間に、俺は先程購入した魔導書の中から生活魔法『洗浄クリーン』の蔵書を取り出し読む。

 通常の魔法と違い、生活魔法は相性の有無もなく、一通り読み終わると習得することが出来る。

 魔力操作と強いイメージが必要になるので、習得出来ても人によって効果に差が出てしまうのだが。


 とりあえず、食べ終わった少女に『洗浄クリーン』を使ってみる。

 全身、体も服も綺麗にするイメージを強く......。上から下へ......。


 青白い光が少女の頭からつま先まで包み込み、まるで炭酸の泡のようにシュワッっと白い光が弾けた。

 俺のステータスの技能スキルに『洗浄クリーン』が追加され、魔力操作がLv.2になった。



 多少汚れを落とし小奇麗になっていた先程までと比べ、全身洗浄が終わった少女は美しい黄金色の髪と尻尾の毛をふさふさと揺らし、肌も白く透き通っており、頬と唇はは血色よく薄っすらピンクに、顔立ちは悪くはないと思っていた程度であったが大きな目はとても可愛らしく鼻筋も通っており実に美少女であった。


 買ってきたワンピースを取り出し少女に着替えるように言い、少女が頷くのを確認すると俺達は一旦部屋を出る。

 一階に下りて、メリルに一人増えた事を伝え追加の宿代を払った。

 連れて来た時に衰弱した酷い状態だったので、メリルは心配してくれたが食事をさせて薬を飲ませたら良くなったと言っておいた。

 おにぎりに回復効果があるとは言えないので。

 よく効く薬だと納得してくれたメリルは、「あの子が元気になるように、夕食は腕を振るうから。」と言ってメリルは仕事に戻って行った。


 15分程経ってから、部屋に戻る。ノックをすると返事があったので部屋に入ると、少女はベッドに座って待っていた。

 服屋の店主が選んでくれた服は少女によく似あっていた。


「やあ、よく似合ってるよ。もう起きて大丈夫?」


 裕太が声を掛けると少し怯えたように俺の腕に縋り付いて来た。


「あれ?嫌われちゃった?」


 裕太が困ったように声を掛けると、少女はフルフルと顔を横にを振った。


 わかる。わかるぞ。嫌っているわけじゃなく、人が怖いんだよな。

 知らない人や初めての人と会話するのは緊張するよな。人見知りの俺には凄くわかるぞ。


「大丈夫...?」


 俺が声を掛けると腕を掴んだまま少し顔を上げ、コクコクと顔を縦に振る。

 少女をもう一度ベッドに座らせ、俺も隣に座る。短い距離だったが少女は少し足を引きずって歩いた。

 リュックから濃縮還元オレンジジュースを取り出し、コップに注ぐ。

 奴隷商の話では、魔物の神経毒にやられ左足に麻痺が残っているはずだ。

 オレンジジュースには状態異常回復(中)の効果があったはずなので飲ませてみる。


「...飲んで。」


 少女は手渡されたコップの中身を珍しそうに覗き込み、クンクンと匂いを嗅いで一口飲む。


「甘い。美味しい。」


 その味に驚いたようだが、そのままゴクゴクと全部飲み干した。

 立ち上がらせて歩かせてみると、左足の麻痺は治っているようだった。

 少女はとても驚いている。


「俺はヒビキ......こっちは、ユウタ。君の名前は?」

「ない。」


「名前ないの?」

 裕太は驚いたように聞き返す。


「物心がついた時には奴隷商に居た。村が魔物に襲われて、ボクはその村の生き残りだって。両親も死んだらしいし、その後ボクを買った人達も誰もボクを名前で呼ぶ人はいなかった。だから、名前はない。」


「なんて可哀相に!!ほら、これでも食べな。これも、これも。」


 裕太の琴線にふれたのか、涙を拭いながらリュックから先程屋台で多めに買っていたフルーツや食べ物をテーブルの上に次々と出していく。

 慰める為に食い物って......。


 少女は裕太の大きな声に初めは怯える様に俺の腕にまたしがみついてきたが、並べられていくフルーツの山と裕太の人懐っこい話し方に次第に緊張の糸を緩めていった。


 --------そうだ!!


「フレア様、彼女のステータスを。」

「承知しました。」


 俺はスマホを取り出し彼女を鑑定する。スマホとそこから現れたホログラムのフレア様に少女は驚いている。

 少女の鑑定結果は次の通りだった。



 名前:ノエル

 種族:妖狐(人型)

 年齢:16

 レベル:2

 職業:---


 HP:180

 MP:300

 AT:120

 DF:85

 SP:15


 技能スキル:剣術Lv.1

 固有スキル:念動力Lv.1、人化、獣化


 備考:念動力Lv.1 物を自分の意思でて触れず動かす事が出来る。



 なんと!獣人だとばかり思っていたが、種族が『妖狐』になっている。

 人化と獣化が出来るようだ。

 しかも、年齢が16歳!同い年じゃないか。

 見た目は12歳前後の完璧なお子様だ。身長も145cm程で胸や尻に全く余分な脂肪が付いていない。

 碌な食事も与えられなかったから、身体の成長が追い付かなかったのか。


「......ノエル。ボクの名前......。」


 少女は教えられた自分の名前に戸惑っている。


「フレア様、この固有スキルってなんですか?」


「固有スキルは生まれながらに持っている特殊な技能スキルの事です。この世界では技や魔法は鍛錬で身に付ける技能スキルが一般的ですが、稀に能力を授かった状態で生まれる子供が居ます。これはとても珍しい事です。遺伝ではなく本人一代限りの能力ですが、例外として特殊な種族に伝わる固有スキルもあり、その場合は血族遺伝です。」


 この世界の住人用の異能ギフトみたいな物かな?


 ノエルの場合、『妖狐』という種族特有の能力のようだ。


 しかし、ノエルは物心ついた時には両親がなく奴隷商に居た。その為、自分の名前はおろか種族や獣化出来る事も知らなかったようだ。


「固有スキルは、生まれながらに授かっているので無意識に発動させる事で本人が気付きますが、全く発動せず自分がそんな能力を持っている事自体気付かない場合もあります。

 ステータスを鑑定すれば見えますが、鑑定能力持ちでないと詳しい技能スキル内容は見れませんし、レベルが上がらなければ固有スキルまでみる事は出来ないでしょう。

 冒険者でない一般市民であれば、自分のステータスを見る事も殆どありません。」


 俺達転移者(召喚者)は特殊で、自分自身のステータスをまるでゲーム画面を見る様に確認する事が出来るが、この世界の人達は鑑定能力がないと自分のステータスでさえ詳しい技能スキルまでは見れないようだ。


 詳しい内容まで知るには鑑定能力が必要だが、レベルが低いと技能スキルや固有スキルは見えない。

 今回は、もちろんフレア様の能力が高いのでスマホを通してステータスを詳しく知る事が出来たのだ。


 ノエルに固有スキルの事も聞いてみたが、心当たりもないらしくとても驚いていた。

 自分自身の能力に気付いていなかったパターンだ。


「成り行きで、俺達が君を買う事になってしまったけど......俺達は冒険者をしながら、旅をする予定なんだ。君には身寄りがいないようだから...俺達と一緒に、旅をしないかい?」


 もし彼女に頼る相手がいるなら、そこまで送り届けてもいい。

 奴隷契約は交わしたが、彼女が望むならいつでも破棄して彼女を自由にするつもりだ。


「ご主人様。ボクを一緒に連れて行って。ご主人様のそばに居させて。」


 俺の腕に縋り付くようにノエルは懇願した。

 裕太を見ると頷いてくれた。


「わかった、ノエル。俺達と...一緒に行こう。」


 ノエルは破顔すると、嬉しそうに俺の腕に抱きついてきた。


 その後宿で夕食を済ませ、メリルに伸びきったノエルの髪を切りそろえてもらえるよう依頼した。

 メリルは快く引き受けてくれて、長さもバラバラだったノエルの髪は肩の上ぐらいで切りそろえられた。



 夕飯の間も、夜ベッドで寝ようとする時もノエルは俺の腕を離さなかった。


「随分懐かれたな、ヒビキ。」


 裕太にからかわれる。


 俺としても守るべき対象という認識があるせいか、まだ会話は詰まり気味だけど無意識に睨みつける事もなくノエルと話せるようになっていた。

 ノエルも裕太にも慣れてきたようで、時折笑顔で会話を交わしている。


 しかし、見た目は幼女でも実際は16歳。俺達と同い年なんだし、ベッドまで一緒というわけにはいかないだろう。

 部屋には、狭くなるが追加で空きベッドを運び入れてもらった。


「ノエル、こっちのベッドで寝なさい。」


 腕を離して別々に寝る様に言い聞かせるが、顔をフルフルと横に振るだけで一向に腕を離す様子はない。


「一応同い年だし、ノエルは女性...だから、一緒のベッドで寝るのは...まずいと思うよ?」


 顔を振る速度が増したようだ。


「奴隷商の主人から、ご主人様になった方には夜の奉仕も必要だと教えられた。今までのご主人様には恋人が居て夜の奉仕は必要なかったけど、ボクもひと通りの事が出来るだけの知識は教育されている。ご主人様を悦ばせる事は奴隷の務め。ボク初めてだけど、精一杯頑張る!!!」


 凄いことを言い出した。

 裕太が腹を抱えて笑っている。もちろん、俺の困った顔を見て、だ。


「ノエル。俺はノエルにそんな事は望んじゃいないよ。」


「ご主人様はボクの事が嫌い?」


「そんな事を言っているんじゃないよ。ただ一緒に居れたらいいと思って、守ってあげたいと思ってノエルを買ったんだ。ノエルはそんな事しなくていいんだよ。」


「ボクはご主人様に悦んでもらいたい。」


「俺が望んでいるのはノエルがただ俺達と一緒に居てくれる事だよ。一緒に居てくれるだけで嬉しいよ。」


「でも......。」


 俺とノエルで押し問答をしていると、裕太がのんびりした口調で声を掛けてきた。


「まあ、まあ。別に一緒に寝るぐらいならいいじゃないか。ヒビキが彼女に手を出すわけじゃないんだし。

 それとも、次からは俺だけ別の部屋をもう一つ借りた方がいいか?」


 真顔で冗談を言うのは止めてくれ。

 いや、こいつは半分ぐらいは本気で言っていそうだ。


 しかし、俺もさすがに幼女には手を出さない。いや......実際は幼女ではないのだが。

 見た目が幼女なので、手を出すには俺の良心が痛む。


 夜の奉仕を主張するノエルを裕太と二人で説得し、とりあえず今夜は同じベッドで寝る事だけを許可した。

 どこか納得していないようだったが、日常の変化に多少は疲れていたのだろう。すぐに観念して大人しくベッドに横になった。

 あんな酷い目にあっていたんだ。人がそばに居る事が嬉しいんだろう。ノエルは安心したように腕にしがみ付いたまま寝息を立て始めた。


 硬いベッドの上で腕にしがみ付かれ全く身動きが取れない。

 裕太はまだニヤニヤしながら見守ってくる。からかわれるのも癪に障るので、無視して俺も眠りにつく。


 朝起きると、身動きの取れなかった俺の全身はビキビキと悲鳴を上げていた。




















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