笠地蔵 (もうひとつの昔話16)
年の暮れ。
おじいさんは十の笠を編んで、それを町まで売りに行きました。売れたお金で正月の準備をするのです。
しかし……。
笠は三つしか売れず、それでモチ米も買えず、肩を落とし町を出ました。
帰り道。
トボトボと隣村までもどって来たとき、小雪が降り始め、風もだんだん強くなってきました。
――おや?
おじいさんは立ち止まりました。
吹きさらしの道ばたに、お地蔵さんがたくさん並んで立っています。
お地蔵さんは九体ありました。
――なんとも寒そうだな。
心の内では同情しつつも、おじいさんはお地蔵さんの前を通り過ぎました。
やがて吹雪となります。
村はずれまで帰ってきますと、そこにはおじいさんの村のお地蔵さんが八体ありました。
――さぞ寒かろうのう。
お地蔵さんみんなの頭に、おじいさんは持っていた笠をかぶせてあげました。
売れ残った笠は七つ、お地蔵さんは八体……ひとつたりません。
「すまんが、これでがまんしてくれや」
自分が頭につけていた手ぬぐいを取り、最後のお地蔵さんの頭にかぶせてあげました。
と、そのとき。
「のう、かせいしてくれぬか?」
目の前のお地蔵さんがしゃべりました。
――えっ?
おじいさんが目を白黒させていますと……。
お地蔵さんは手にした丸い石を、となりのお地蔵さんにポンと投げて言いました。
「どうしても、おまえのかせいが必要なんじゃ」
「へえー」
おじいさんは地面にひれ伏しました。
「すまんな、忙しい年の暮れに」
「めっそうも、お地蔵様のためなら……。で、ワシはなにをすればよろしいので?」
「時がくればわかる。今日からおまえは、われわれのメンバーになるのだ」
お地蔵さんが息を吹きかけますと、おじいさんはすぐに気がうすれていきました。
翌朝。
雪のやんだ村はずれ。
そこにはおじいさんが加わり、道端には九体のお地蔵さんが立ち並んでいました。
「絶好の日和となったな。みなの者、そろそろ出かけようぞ」
手ぬぐいのお地蔵さんが、晴れわたった空をあおぎ見て声をかけました。
「お―」
お地蔵さんたちがこぶしをつき上げます。
「ねえ、どこに行くんです?」
おじいさんはわけがわからず、手ぬぐいのお地蔵さんにたずねてみました。
「野っぱらさ」
「そこでなにを?」
「となり村の地蔵たちと野球だよ。メンバー九人、やっとそろったからな」
お地蔵さんは石の玉を空高くほうり上げ、落ちてきたところをじょうずにキャッチしてみせました。