魔王の家族3
次に目を覚ましたときには今住んでいるシラカバの里の家にいました。
その家には一組の男女がいました。この二人がぼくを北地イリスからシラカバの里へ連れてきたのでした。
女は十五、六。年若に見えるのですが、髪が老女のように真っ白で不気味でした。寝台に横になるぼくを見おろす彼女の瞳は青い空色。
一度見たら忘れようもない容姿の女にぼくは見覚えはありませんでした。
一方、彼女のとなりに立っている男には見覚えがありました。
紅の瞳に黒い髪、すっきりとした顔立ちの美男子。
ぼくら魔人種族の王――魔王さま、です。
ぼくはびっくりして寝台から飛び起きました。
状況がわからず、あわてるぼくに魔王さまは丁寧に説明してくれました。
魔王さまの降伏によって、人間と魔族の戦争が終結したこと。その責任をとって魔王さまが退位したこと。そして、次代の魔王として、ぼくが選ばれたことを告げられたのです。
「王の血族のなかでもっとも若く、そしてなにより食人をしたことがない。それが次代の魔王の条件なんだ」と元魔王はぼくが選ばれた理由をのべました。
ぼくはわけがわかりませんでした。
いきなり、おまえが魔王になった、と言われても現実味がありません。そもそも、ぼくが王の血族にあることすら知りませんでした。
また、自分が魔王になったこともさることながら、元魔王のとなりにいる女が勇者だということにさらに驚きました。
魔王と勇者といえば宿敵同士。お互い仲良くするなんて信じられませんでした。
ですが、勇者もまた戦争終結によって転職したらしく「元勇者。今は勇者じゃなくて農民だから」と、栄養失調のぼくを看病しながら言いました。
同族を殺戮した元勇者をはじめのうちは信用できませんでしたが、熱心な看病と元魔王の説得もあってぼくは元勇者を信用することにしました。
こうして、ぼくと姉ちゃんと兄ちゃん、三人が同じ家で暮らすようになったのです。