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魔王のぼくと農民のきみと無職のあいつ  作者: 木島冴子
魔王の家族
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魔王の家族2


この奇妙な「家族」が誕生したのは二年前にさかのぼります。


人間種族と魔人種族の五千年にわたる戦争が魔王の降伏によって終わりをむかえた年。


大陸辺境の北地イリスでぼくは母さんを埋葬していました。


戦争末期、魔族は劣勢においこまれ、ぼくは母さんと二人で故郷をあとにし北地イリスへと逃れていました。


その頃すでに父さんは魔軍に徴兵され、戦争で亡くなっていました。北地イリスでぼくら親子は人間から姿をかくし、農業をしながらほそぼそと暮らしていました。


しかし、それもすぐに終わりました。飢饉がおそってきたからです。


北地イリスはただでさえやせた土地。そこへ飢饉がおそい、日々の食事はままならず、三日に一回ご飯にありつければよいほうでした。


貴重な食事を母さんは自分の分までぼくに与えていました。それが長くつづくわけもなく、母さんは病に倒れました。


死の間際「わたしを食べなさい」と母さんは言いました。


説明すると、ぼくら魔人種族は食人を禁忌とはしていません。その人を食べることによって同化し、その力を得ると考えるからです。勝利した戦で人間を食べることもあります。


人間からするとそれは野蛮なことにみえるのでしょうが、魔族からするとそれは最大の敬意です。


食人は伝統文化でしたが人間倫理に配慮して人魔平和条約で今は禁止されています。


細くなった母さんの手が少しずつ力をなくして、ついに動かなくなるまで、ぼくはにぎりつづけていました。


結局、ぼくは母さんを食べませんでした。


どうしても食べることができなかった。


その理由は今でもわかりません。ぼくがそれまで一度も、人間も魔族も食べたことがなかったからかもしれません。


極限の空腹のなか、母さんのお墓をたてた数日後。いよいよぼくも動けなくなりました。


うすれてゆく意識のなか、男女の声が聞こえたのが北地イリスでのさいごの記憶です。


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