農民のわたしと…
義理の息子に告白されてしまった。
どこで育て方をまちがってしまったのだろう。
アンは頭を抱えていた。
二年前はティスナの警戒心を解こうと必死になっていたというのに。
好かれて悪い気はしないが種族の越えられない壁はある。
人間と魔族の寿命の差だ。
魔族は長命で人間の五倍は生きるという。
たとえばティスナと結婚して、何もなければおそらく先に死ぬのはアンの方だ。
老けてゆくアンと、若いまま見た目の変わらないティスナ。
今年百二十三歳のスィフルを見れば魔族の老化が人間よりも遅いとわかる。
さらにはアンの死後、もしかしたらティスナは別の誰かと一緒になるかもしれない。
考えると複雑な気持ちになった。
想像するうちにティスナの顔がいつのまにかスィフルに置き換わっていた。
元魔王で今は無職のスィフルと、アンは契約していた。
互いの真名を明かし両種族の抑止となること。
アンはスィフルの許しなく魔族を傷つけられない。スィフルはアンの許しなく人間を傷つけられない。
そして人間と魔族が共存できる社会をつくること。
それが叶ったらスィフルはアンによって殺される。
そういう契約だった。
スィフルならば寿命の差は気にしなくていいのかもしれない、ふとアンは思った。
「どうして笑っているんだ?」
スィフルの紅い瞳がアンをのぞきこんでいた。
ちょうどスィフルのことを考えていたところに現れたので、アンはどきりとした。
「ティスナは?」
アンの動揺には気づかずスィフルは居間を見渡した。
ティスナは自室に引き上げてしまったので当然いない。
「もう寝るそうだ」
「なんだ、せっかく祝杯をあげようと思ったのに」
見れば三つの杯と二つの瓶がのったお盆をスィフルは抱えていた。
これは祝杯につき合わねば後々機嫌が悪くなるに違いない。
アンは仕方なく祝杯につき合うことにした。
「ティスナと仲直りできて良かったに、乾杯~」
スィフルはワインをアンは果実ジュースを片手に杯を合わせる。
アンは下古で酒類は一口でも酔ってしまう。
一方、スィフルは無類の酒好きでうわばみだった。
ワインを飲みながら上機嫌である。
「いや~、まったく一時はどうなるかと思った。まさか王宮に連れて行かれるとは思わなかった」
スィフルの言葉にアンはうなずく。
それはアンも感じたことだった。
まさかシラカバの里から拉致する凶行におよぶとは思わなかった。
「過激派の人間同盟が政治の深くに入りこんでいる」
宰相は人間同盟の一員であるとアンは告げた。
「きな臭いな。しばらく周囲に気を配ろう」
急に真面目な顔になるスィフル。
普段は気のゆるんだ顔のくせにきりかえが早い。こういうところは元魔王だ。
「そうだな。わたしもできる限り早くに帰る」
もうすぐ農繁期も終わる。
少しは早く帰れるだろう。
家ではスィフルとティスナが待っている。
かつて失った家族のように。
二人は替わりか?とたずねられたら、それは違うと答えられる。
彼らは農民のわたしの「家族」だと。
でもそれは絶対に言わない。
特にスィフルの前では。
アンの杯はいつのまにか空になっていた。
向かいのスィフルもほろよい加減で飲んでいる。
アンは机の上に置かれたジュース瓶をとり注いだ。
「あ、おい、それは」
スィフルの声がきこえた時にはアンは杯に口をつけていた。
のど越しが熱くなる。
ワインだとわかった時にはすでに遅かった。
身体のうちから熱くなり、ついに意識がうすれていった。




