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魔王のぼくと農民のきみと無職のあいつ  作者: 木島冴子
魔王のぼくと農民のきみと無職のあいつ
16/18

魔王のぼくと…



「ついにティスナも反抗期か~」


戸籍上の養父、スィフルの言葉にティスナは険しい顔をさらにこわばらせた。


それを見たアンはスィフルの座っている椅子をおもいきり蹴りあげる。


スィフルは口をつぐんだ。


先日の拉致事件から三日。


三人はシラカバの里にもどってきていたがティスナは二人と口をきいていなかった。


最低限のあいさつはするがそれ以外は意識的にさけて自室にとじこもっていた。


さすがに四日目になりアンのほうから話がしたいと言われて、夕飯後、こうして居間で家族会議が行われることになった。


ティスナの正面にスィフルとアンが座っている。


スィフルはいつもの調子でいるがアンはなにから話せばよいか迷っているようだった。


「この前のことだが…あれにはその、いろいろと事情があって」


珍しくしどろもどろになるアン。


アンの説明によれば。


これは二人を守るための手段なのだという。


人魔平和条約があるとはいえ、人間社会で暮らすためには魔族であることはいささか問題が多かった。


役所の手続きや税金などの問題である。


そこで戸籍を得ることにした。


魔族とはいえ戸籍があれば法律上の面倒は多少解消される。


当初は二人ともアンの養子にするつもりだったのだが、独身では養子はむかえられないと役所に断られ、しぶしぶスィフルと結婚。その養子としてティスナをむかえる形になったのだという。


「だからわたしたちは法律では夫婦なんだけど、事実は異なっていて…仮面夫婦とでもいうのかな」


実態はないんだ、とアンは言う。


一方、スィフルはにやにやと笑いながら、「残念だったな、ティスナ。初の異種族婚姻は俺とこいつなんだ」と言った。


「なんでそれを知って!?」


あの作文をスィフルに見せた覚えはない。


ティスナはあせった。


「見られたくないものはごみ箱に捨てず自分で燃やすことだな」


ごみ箱をあさったことをスィフルは悪びれもせず言った。


バシッと、子気味のいい音をたててスィフルの頭が叩かれる。


叩いたのはアンだった。


「馬鹿か。今ふざけている場合じゃないから」


叩かれた頭をさすりながらスィフルはアンをにらむ。


「ふざけてはいない。真実を言っただけだ」


「真実って、他人の部屋のごみ箱をあさることを堂々と…」


アンの言葉が途切れたのはティスナが急に立ち上がり、その勢いで椅子が転がり大きな音をたてたからだった。


「話はそれだけ?」


ティスナは怒っていた。


「ぼくにあやまるべきじゃないの。そんな大切なこと二人で隠していたんだから」


ティスナの激怒に二人は反省した。


「ごめんなさい。隠すつもりはなかったんだけど。紙面上のことだからいいかと思っていた。でも、一言相談するべきだった」


アンが言った。


スィフルもそれにうなずく。


「俺も大人げなかった、すまん」


「それだけじゃないよね? 隠していること全部話して」


拉致されたときスィフルは抵抗しなかった。


魔力がなかったわけではない。


そのあとアンがティスナの知らない言語をつぶやいた後、スィフルは魔力でティスナを助けたのだから。


二人の間には何らかの取り交わしがあるはずだった。


アンがスィフルに視線をなげる。


今度はスィフルが答える番だった。


「それが契約だからだ。俺はこいつの許しなしに人間に魔力をふるえない、こいつは俺の許しなしに魔族に力をふるえない、そういう契約だ。お互いに真名を交換しているから契約は強制される」


真名はその者の意思に関係なく従わせることができる。


魔王が人間に害をなさないよう、勇者が魔族に害をなすことがないよう交わされた契約だった。


「それだけ?」


ティスナは疑り深くたずねた。


アンとスィフル、二人だけの秘密が面白くなかったのだ。


「ああ、それだけだ」


スィフルはよどみなく答えた。


「わかった。子どもじみた態度をとってごめん。でも、二人がぼくに隠していることがあったのが悲しかったんだ」


ティスナはまっすぐに二人をみた。


「よし。これで仲直りは完了。さぁ、仲直り記念の祝杯だ」


スィフルは腕まくりをすると準備のために台所にむかう。


居間にはアンとティスナが残された。


立ったままだったティスナはアンに近づいた。


「ぼくは疲れたからもう寝る。でも、ひとつ言っておくね。ぼくは姉ちゃん…アンが好きだよ。今は子どもかもしれないけど将来は立派な魔王になります。だから兄ちゃん…スィフルとは離婚して、ぼくのお嫁さんになること考えておいて」


それから照れた顔をかくすように足早に自室に行ってしまった。


義理の息子の真剣な告白にアンは呆然とするしかなかった。





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