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魔王のぼくと農民のきみと無職のあいつ  作者: 木島冴子
元魔王の家族
14/18

元魔王の家族4



時間は少し戻り、シラカバの里。


ティスナたちが暮らす家に侵入者があった。


裏口から入ってきた見知らぬ男たちはティスナに剣をつきつけて脅した。


さからわなければ危害を加えないと言われたのでティスナはおとなしく従う。


その後、目隠しをされて状況がわからなかったがどうやら馬車にのせられたらしい。


がたがたとゆれる振動が腰かけた下から伝わってきた。


途中どこかに立ち寄り荷物らしきものが積みこまれるとふたたび馬車は走り出した。


そして目的地につくとティスナは馬車から降ろされた。


目隠しを外されて見たのは天高くそびえる王城。


夜の暗い闇につつまれた王城の尖塔の間を風が吹きぬけるたびに不気味な音をかなでていた。


そこでようやく自分がシラカバの里から連れ出されたことをティスナは知った。


ここは人間の都だった。


ティスナのまわりを武装した兵士たちがかこむ。


敵意をむき出しにしてくる人間にティスナはおどろく。


シラカバの里ではほとんど向けられたことがなかったものだった。


と、ティスナの背後でうめく声がした。


なにかと思い兵士たちの間をのぞくと、そこにはぼろぼろのスィフルがいた。


途中で積みこまれた荷物はスィフルだったのだ。


暴行を受けたらしく自力では歩けないスィフルは馬車から引きずり降ろされていた。


いつもはあんなに元気なスィフルの変わり果てた姿にティスナは動揺した。


だが、それを人間たちに悟られてはいけない。


ぼくは魔王だ。


どんなことがあっても屈するわけにはいかなかった。


それから兵士たちの導きで謁見の間に案内される。


謁見の間の扉をくぐると、そこは太い柱がならぶ天井の高い室内だった。


赤い絨毯が敷かれており一段高くなった場所には人間の王が座している。


国王のとなりにはティスナをにらむ宰相。


そして彼らの前にはアンがいた。


アンの様子はいつもと同じ。スィフルのように怪我はしていないようだった。


ティスナとスィフルがあらわれたことに、さほどおどろきはないようだった。


力強いアンの青い瞳を見てティスナはほんの一瞬だけ安堵した。


しかし、まだ助かったわけではない。


自分の置かれた状況を判断してティスナは気を引きしめた。


「おや、驚かないんですね」


国王のそばに立つ宰相がアンに言った。


「あなた方のやりそうなことはたいてい予想がつく」


アンはあきれはてたようにため息をついた。


ティスナはそのやり取りをはらはらとした思いで見ていた。


「真名を教えてくれないのならば、この男はこのまま殺すしかありませんね」


宰相が両脇を兵士にかかえられながらぐったりとしたスィフルに近づく。


「教えてもどうせ殺すつもりだろう」


アンの言葉に宰相は笑った。


「ええ、もちろん。この男は殺戮者、数多の人間を殺してきた。その罪は死をもって償わねば。真名による死は魂の苦痛をともなう。最大の屈辱をあじわいながらこの男は死ぬべきなのです」


宰相の合図でスィフルのそばに剣を持った若者が立った。


若者の手中の剣はまばゆい白銀の光につつまれていた。


おそらくこれが「勇者の剣」なのだろう。


ティスナははじめて見るがあきらかに普通の剣とは違った。


見ているだけで気圧される力がそこからあふれていた。


「勇者の剣」の使い手を「勇者」と呼ぶ。


ということはこの若者が新しい「勇者」なのだろうか。


ティスナは思った。


「真名を教えていただけないということならば勇者によって滅ぼすしかありません」


宰相の声と同時に剣がふりあげられる。


アンは何もせずただそれを見ているだけ。


白銀の剣がスィフルの首をめがけてふりおろされようとしていた。


それでもアンは動かない。


「兄ちゃんっ! 姉ちゃん、兄ちゃんを助けて」


ひゅという剣が風を切る音とティスナの悲鳴は同時だった。




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