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魔王のぼくと農民のきみと無職のあいつ  作者: 木島冴子
元魔王の家族
12/18

元魔王の家族2



「姉ちゃんとなんかあった?」


朝食の支度をしながらそわそわと窓の外を見ているスィフルにティスナはたずねた。


昨夜のけんかを思い出すスィフル。


アンとはまだ微妙な距離がつづいていた。


「いや別に」


「…」


スィフルのうそにティスナは気づいたがなにも言わなかった。


農民のアンは朝が早い。


太陽がのぼる前から働きに出て、家畜の世話をしてから朝食のために戻ってくる。


いつもならもう戻ってくる時間なのだが今日はまだ戻ってきていなかった。


「先に食べよう。あいつの分はとっておけばいい」


スィフルは言った。


アンのいない朝食の席。


スィフルはパンを口に運ぶ。


魔族もパンを食べるんだな、と昔アンが言ったのをスィフルは思い出した。


あれは新魔王であるティスナを探してアンと二人で旅をはじめたときのことだ。


元魔王であるスィフルは顔を知られており宿屋に泊まることができなかった。


ゆえに夜は野宿である。


初日の野宿で夕食を準備したアンは一人分つまり自分の分しかつくらなかった。


「俺の夕食は?」


スィフルがたずねるとアンは「え、食べるの?」と驚いた顔をした。


人間と同じように日々の糧が魔族にも必要だとは思っていなかったらしい。


アンはしばらく考えたすえ作った分をスィフルに渡し彼女自身は携帯食糧を食べた。


そうしてスィフルが固いパンをかじっている様子を見てアンは「魔族もパンを食べるんだな」と言ったのだった。


「なにを食べていると思っていたんだ?」


スィフルの問いにアンは即答する。


「人間」


アンの表情は暗かった。


アンは家族を魔族との戦で亡くし、しかも父親は食べられていたという。そのときのことを思い出してたのだろう。


食人は魔族の文化だ。


魔族にとって力のある者を食べることは己のものとする意味がある。


それは人間に限らず魔族同士でも行われることが多い。


とはいえ、それは日常的なものではなく特別なもの。儀式的な意味が大きい。


魔族も普段は人間と同じように食糧を得ている。


だが人間はそれを知らない。


魔族は人間を必ず食べると、間違った認識が流布されていた。


戦時下はそれでよかったかもしれないが今は和平中。


お互いを知り合わなければならないと当時スィフルは思った。


そいうえばアンの手料理はあの頃よく食べた、とスィフルは思い出した。


今でこそ主夫としてスィフルは家事全般、料理、掃除、裁縫を習得しているが二年前はなにもできなかった。


魔王として帝王学は学ぶことはあっても、おいしいご飯の炊き方は学ばなかった。


食事はだれかが用意してくれるものだった。


それがアンと旅をするようになり生きるすべを教わった。


動物の狩りの仕方、食べられる野草の見分け方、それらの調理方法。


アンが手取り足取り、ときには怒鳴りながら教えてくれたのだった。


「なんでにやにやしているの、兄ちゃん?」


ティスナの指摘でスィフルはわれにかえる。


どうやら朝食のパンを手ににやにやしていたらしい。


その一部始終をティスナにみられていた。


「ちょっと昔のことを思い出してたんだ。あいつと一緒にティスナを探していたときのことを」


恥ずかしさをおいはらうようにスィフルは咳ばらいでごまかした。


「ところで気になっていたんだけど、どうして兄ちゃんは姉ちゃんを名前で呼ばないの?」


一緒に暮らすなかでスィフルがアンの名を呼んでいるのをティスナはきいたことがなかった。


魔族の真名を呼ぶのはためらわれるが人間であるアンの名前はなんの問題もないはずだ。


ティスナは疑問だった。


「それは色々と大人の事情が…。この話は長くなるからいずれまたな。早く食べないと学校に遅刻するぞ」


スィフルは意外と口がかたい。ティスナの質問ははぐらかされてしまった。


ティスナはあきらめて学校へ向かった。


学校から帰ったときにでも姉ちゃんにきいてみよう、と考えた。


だがその日夕方ティスナが学校から帰ってきても家にアンの姿はなかった。




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