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魔王のぼくと農民のきみと無職のあいつ  作者: 木島冴子
元勇者の家族
10/18

元勇者の家族5



それから二年後。


アンは勇者をやめ農夫になっていた。


一日の仕事を終え、地平に沈んでゆく太陽をみとどけながら家路へといそぐ。


「おかえり。姉ちゃん」


家に帰ると茶色い瞳の少年がアンをむかえた。


少年――ティスナは十二歳だが、こうみえても魔王である。


もっとも彼はアンが対峙した魔王ではなく、人魔平和条約にもとづいて新しく選ばれた「魔王」だった。


魔王は今、このシラカバの里で人間の子どもたちと同じように小学校へ通っていた。


アンが仕事を終えて帰ってくるといつもこうして出迎えてくれる。


ティスナが先程までいたと思われる居間の大きな机には紙と鉛筆がころがっていた。


「宿題?」


アンは泥でよごれた手を洗い服についたほこりをはらいながらたずねた。


「うん。作文」


「へぇ、どれどれ」


紙をのぞきこもうとするとティスナはあわててそれをかくした。


「だめ。まだ書きかけだから」


そういうが早いか、背にかくしてしまった。


と、不気味な鼻歌が台所から聞こえてくる。


「おかえりなさい。食事にする? お風呂にする? それとも、ア・タ・シ?」


台所から出てきたのは前掛けをつけた元魔王だった。


主夫姿はかなり様になっている。


彼は最近、人間社会の文化を学びはじめたのだが偏った知識ばかりが増えているようなきがしてならない。


「面白くない冗談はよせ」


一刀両断のアンに元魔王はおおげさに傷ついてみせる。


「そんなっ、アタシのことは遊びだったのね」


ハンカチを口にして、キィーとくやしがる元魔王。


たぶん部屋に山積みにされている漫画からの知識だろう。


おそろしく古い表現だ。


「……」


「兄ちゃん、やめなよ。姉ちゃんがあきれている」


白い目で見るアンとたしなめるティスナ。


冷静な指摘に元魔王は反省して新婚夫婦ごっこをやめた。


「夕飯はできているから早く支度しろ。ティスナ、手伝ってくれ」


食卓につぎつぎと料理が運ばれてくるのをアンは見ていた。


三人で暮らし始めてから二年が経つ。


元魔王に元勇者、そして現魔王。


この奇妙な「家族」はいまだにつづいている。


二年前。勇者をやめて彼らと暮らしはじめた頃は裏切り者とののしられることもあったが今はだいぶ少ない。


たまにシラカバの里から出ると冷たい視線を向けられる程度だ。


それでもアンはまだマシだ。


ティスナと元魔王は里から出ることもできない。


二人は里から出ればまちがいなく人間に殺されるだろう。


彼らを守るためにアンはここにいる。


元勇者という肩書きは便利だ。


人間社会でアンは魔王を降伏させた英雄。


国王からも一目おかれる存在だ。


今はもう勇者ではないが道をすれちがっただけで感謝の涙をながされることも少なくない。


人間と魔族が共存できる社会をつくるまで、この「家族」はつづく。


それが叶えばアンは元魔王を殺して復讐を果たす。


ただ、おかしなことに最近その復讐を忘れている自分がいる。


このままずっと、ティスナたちと…。


「姉ちゃん?」


ティスナの声でアンはわれにかえった。


「どうしたんだ? こわい顔して」


元魔王が心配そうにアンを見ていた。


かつての宿敵に心配されるとは。


アンは苦笑いした。


「なんでもない。さぁ、夕飯にしよう」


いずれおとずれる終わりから目をそらして、アンは「家族」と暮らしていた。




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