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いつもの日常の話

これで1つの話の終わりです。


今月中にもう1話作れたらなぁと思ってます。

世界最大最長最深ダンジョン「アース」の地下1階は大部屋に下へと進む4つの道だけである。大部屋の中央にはダンジョン内で転送石を使った際に、ここに現れるよう魔方陣を設置された小高い場所に、4つの道はそれぞれ東西南北に伸びていた。掲示板表記の「南11階」の南はその方向の道の奥にある場所を指し示している。東西南北の道の奥にあるダンジョンにはそれぞれの特徴があり、東は魔王が居たと言われている古城がある事も関係しているかのように、その特徴として建造物や遺跡等が多く存在している。西は東とは対称的に建造物等は何もないが、火山や湖、大森林等生きるのに厳しい自然環境で構成されている。南は特に目立ったモノが無い普通のどこにでもあるようなダンジョンで初心者用と呼ばれている。最後に北だが、この道は古龍も通れるような大きな扉で封印されており、この扉の奥がどうなっているのかは誰も知らない。噂ではこの扉の奥には大魔王が居ると言われているが、それも定かではなく誰もこの扉を開く事は出来ずにいた。


その地下1階の大部屋へとレトが辿り着くと、そこには大勢の冒険者達が居た。彼等はここでパーティーメンバーの補充や、臨時パーティーを組んでダンジョンへと潜っていく。また、冒険者達に売りつけるために露店が数多く設置されており、ポーションや毒消し、食糧品に武器や防具まで、ダンジョンに潜る上で必要な様々な商品が用意されている。無論それなりに高額ではあるが。それでもここで金を惜しむ奴は命を支払う事になると言われている場所で、現在この場に居る冒険者達も必要な物を買い漁っていた。そんな彼等をすり抜け、レトは南のダンジョンへと続く道へと入っていく。


レトの目の前には4人の男女の冒険者パーティーが歩いている。身なりは軽装でレトは彼等がその装備の質から新人であろう事を推測し、彼等の和気あいあいと話ながらダンジョンを進んでいく姿に、その命は長くないだろうな、と思った。ここは既にダンジョン内である。いつ魔物が現れるかもしれないのに、軽い感じでお喋りしながら道を進んでいく等、馬鹿のやる事である。正に油断大敵という表現を、その身で実践しているのが、レトの目の前を話ながら歩いている彼等である。そんな彼等の内の1人が自分達の後ろを歩いているレトに気付くと仲間へと話しかける。


「おいおい、俺達の後ろに付いてきて安全を確保してる奴が居るぞ!!」

「なんだって、そんな卑怯な奴が居んのかよ!!」


確実にレトの耳に届くような大声で話し嘲る。そして、彼等はまた大声で笑いだす。レトは舌打ちし、イライラしていると、ちょうど分かれ道に来たので彼等とは逆の道を進んでいく。そんなレトへ再び彼等から声がかかる。


「お~い、金魚の糞ちゃん!!俺達に付いてこなくていいのかぁ?おこぼれくらいならやってもいいぞ~!!ハハハ……」


彼等は大声で笑いながら先へと進む。レトは「あ~うぜっ」とボソッと呟くと11階へと急いだ。


その数分後、彼等の進んだ道からは叫び声が響き、4つのボロボロになった鎧や剣が見つかったが、レトは記憶に残していないので特に何かを思う事はなかった。




レトは特に何も問題が起こる事はなく、南11階へと辿り着いた。それもそのはず、運び屋にとってまず一番最初にやらなければならない事は依頼された荷物を届ける事である。そのために必要なのがダンジョンの情報であり、地理は勿論、魔物の出現階層や情報を把握しておくのは必須である。危険の無い所を進み、罠を避け、迅速に届ける事が出来て初めて運び屋を名乗れるのだ。レトもその辺りは充分意識しており、情報屋からきちんと情報を買っている。だからこそ、特に問題もなく南11階へと来れているのだ。ただ、目的の場所にそのまま向かうのは馬鹿のやる事である。多くの運び屋が目的地に辿り着くまでにやっているのが小遣い稼ぎで、目的地までの道程で簡単に倒せる魔物が居れば速攻で倒し、素材や魔石を、薬草や鉱物があれば動きに支障が無い程度には回収して小金を稼ぐのだ。勿論レトも抜かりなく色々と回収した袋を腰に下げていた。


そしてレトは頭の中に南11階の図面を広げると安全地帯になりそうな場所に当たりをつけていく。何ヵ所かに当たりをつけ、その場所を目指して進んでいくと、2ヶ所目で目的の冒険者パーティーを見つけた。その場所は入口が1ヶ所しかない行き止まりの部屋だった。レトはゆっくりと歩み寄り声を掛ける。


「お前等が依頼した神聖ロディ帝国第78分隊か?」

「……運び屋か?」

「あぁ、依頼された転送石を持ってきた」


レトの視線の先には5人ではなく3人の冒険者が居た。全員の装備はボロボロで、剣も折れている。


「依頼だと確か5人のはずだが?」

「他の2人は……な……」


言葉を濁し曖昧に答えた事にレトはやっぱりか、と心の中で嘆息し覚悟を決める。


「それじゃ、取り敢えずこれが依頼の転送石だ」


胸ポケットから転送石を取りだし、先程からレトの問いに受け答えていた冒険者の前へと放り投げる。冒険者は転送石を拾い上げると、にやっと笑みを浮かべレトへと顔を向ける。


「助かったよ運び屋……


ついでにここに来るまでに手にした素材類と今持ってる金も置いてけや!!こちとらご覧の通り装備までやられちまって金が要るんだよ!!」


その言葉がきっかけでこの部屋の入口を、隠れていた残りの2人の冒険者が通路から飛び出して塞ぎ、転送石を取った冒険者は折れた剣をレトへと向ける。実際問題このような事は多くあった。冒険者が他の冒険者を脅したり、国同士の争いによって対立したりと問題行動が目立ち、それらの結果無駄に死んでいくため、現在は冒険者ギルドによって冒険者同士のダンジョン内における争い、私闘の類いを一切禁じており、破った事が発覚すれば後ろ楯の国にまで影響を及ぼす重罪にまでなる。だがこれは冒険者に適応される事であり、運び屋はその対称になってはいない。その中でも特にフリーの運び屋が標的となる事が一番多かった。何故ならフリーの運び屋には後ろ楯たる国がついていないので報復を恐れる事がないのだ。それに運び屋は速度を上げる上で軽装を好む者が多いので、戦闘能力が冒険者に比べると低いため、フリーの運び屋は依頼品を渡す時にこそ最も警戒しなければならない。レトもその事を充分承知しているので、覚悟を決め今後の取るべき行動を考える。


「へっへっへっ……」


5人の武装した冒険者がレトを包囲するようにじわじわと寄ってくるので、レトは腰に吊り下げている素材類が入った袋を冒険者達に向けて放り投げた。


「それで勘弁してくれ」


レトはそう言って両手を挙げ、降参のポーズを取るが冒険者達はそれでも武器を下ろさない。


「おいおい、言葉通じてるか?持ち金も寄越せって言ったんだよ」

「それは出来ない相談だな」


素材等また集めればいい。それこそ帰り道で集めればいいのだ。だが、それでも彼等が納得しないのであれば取るべき行動は1つしかない。徹底抗戦である。レトは腰に差している黒塗りのナイフを取り出すと前傾姿勢を取り構える。


「あらかじめ言っておく」


その堂々たる姿に冒険者達が身構える。


「俺はたいして強くないぞ」






数分後、冒険者達にボコボコにされ、金を取られたレトが地面に倒れていた。


「なんだコイツ、本当に弱かったぞ」

「ほんと運び屋なんて雑魚ばっかでいい獲物だよな」

「ギャハハハ!!」

「またよろしく~」


冒険者達はレトを嘲りながら転送石を使用し、この場から消える。それを見届けるとレトは起き上がり、自身の口の中にある血をプッと吐き出す。


「いって~、あいつ等本気で殴りやがって」


顔に出来た真新しい痣を撫でながらレトは悪態をつくと、体を伸ばし、手をぶらぶらして準備運動をする。


「あいつ等はそのまま俺の素材を換金するはずだ。こっからは時間との勝負だな……さぁて、落とし前をつけに行くか」


レトがそう呟いた瞬間、この部屋に人の気配は無かった。レトは自分が持ち得る最高速でダンジョン内を走り抜ける。来た時とは違い、近道をし、目の前の魔物はその速度で逃げるように素通りしていきながら、瞬く間にダンジョン内を走り抜ける。ダンジョン内に居た冒険者達の横を駆け抜けた際、彼等はその余りの速度に「まるで風のように駆け抜けていった」と信じられない者でも見たかのように呟いた。その速度を維持しながらレトは2つの通信機をポケットから取り出す。


「……あっ!もっし~、俺俺ぇ!!」





レトがダンジョンを走破しギルド内へと戻ると、問題の冒険者達は大笑いしながら、ちょうどギルドから出ていく所であった。かかった時間は10分程。おそらく彼等は転送してから、自分はまだダンジョン内に残っているもんだと勝手に思い、のんびりギルド内へと戻り、自分から奪った素材類を換金していたのだろうとレトは考えた。その堂々たる雰囲気に何度もこんな事をやっていたのであろう事を感じさせ、レトは冒険者達にばれないようにそっと後を着けていく。


冒険者達が人通りの少ない裏道へと入っていくのを確認すると、レトは即座に先回りし目の前のへと姿を現した。


「どうも、先程振りです」

「なっ!テメェは!!」

「一体どうやって!!」

「もう1個転送石を持ってやがったのか?」


冒険者達が狼狽え声を荒げるが、レトは素知らぬ顔でさぁどうやってでしょうと言っているかのように、にやにやとしている。その表情に冒険者達は怒りを表すが、先程レトをボコボコにした事を思いだし、余裕の表情を浮かべた。


「なんだぁ?さっきボコったのに、またやられに来たのか?」

「こりねぇなぁ」

「今度は身ぐるみを剥いじまおうぜ」


冒険者達がこの後の事を考え、笑いながら相談しているのを見ながらレトは通信機の1つを取り出し、それに話し掛ける。


「と、言うわけなんですけど?」

『わかった。冒険者の恥さらしめ……好きにしろ』

「あいあい~」


そうしてレトが通信機をしまっていると、冒険者達が訝しげに問い掛ける。


「誰と話してんだテメェ」

「え?冒険者ギルドのマスターだけど」

「……は?」


この場に居る冒険者達が知らなくて当然であり、多くの冒険者も彼等と同じで知らない事である。これは一部のフリーの運び屋と冒険者ギルドマスター間で取り決めた事であり、むしろ知っている者は少ない。あまりにもフリーの運び屋が冒険者に襲われる事が多いため、冒険者ギルドマスターが信頼の置けるフリーの運び屋に「たちの悪い冒険者に出会ったら、いつでも連絡してくれ」の言葉と共に自分に繋がる通信機を渡しているのである。簡単に言ってしまえば、フリーの運び屋の後ろ楯に冒険者ギルドマスターが秘密裏になっている状態なのである。これは双方にメリットがあった。フリーの運び屋にとっては、いざという時の後ろ楯を得て、冒険者ギルドマスターにとっては不要な揉め事を起こす冒険者を容易に排除出来る。しかし、この関係が表に出れば国に雇われている冒険者、運び屋達が黙っていない。だからこそこれは秘密の関係なのである。だが、レトはそれをあっさりとばらした。それは何故か。冒険者ギルドマスターが好きにしろと言った以上、目の前の冒険者達に未来は無いからである。


「へっ、それが本当だとしても問題はねぇなぁ」

「テメェをぶっ殺して終わりだよ」

「それは無理じゃないかなぁ?だって……」


そう言ってレトは冒険者達の後ろを指し示すように指を向け、冒険者達が振り返ると、そこには1人の男性が居た。金髪に糸目、その表情はうすら笑いを浮かべている。全身赤色を基調とした服を着ているが何より注意を引くのは、肩に乗せるように持っている大鎌である。冒険者達はその人物と大鎌へ視線を向けると、恐怖に震えるように体をガタガタと震えだした。


「……し、『死神ジャック』」

「おっそいわ~。もう少し早く来れない?」

「これでも連絡貰ってから急いで来たんだけど……で、何?コイツらをどうかしたらいいの?」

「不問にする約定に、マスターの許可のダブルコンボ」

「そっか……そっかぁ~」


レトの言葉に反応するように、ジャックは嬉しそうに口を歪めて笑う。その狂喜とも取れる笑顔に冒険者達は怯え、逃げ出そうと踵を返すが既に遅かった。冒険者達の頭と胴体はジャックの大鎌によって瞬く間に切り離されていた。


「アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」


ジャックの興奮した高笑いが辺りに木霊する。『死神ジャック』ソロ冒険者であり、この街の『最強』と呼ばれる存在の1人であるが、その名は恐怖の象徴でもあった。何故ならジャックは『殺人衝動』持ちで、通常は人を殺したいという欲求を押さえつけているが、許しが出れば嬉々として相手を殺す。そこに一切の躊躇いはなく、笑いながら殺す姿を見た者がジャックを死神と呼んだ事から、今の呼び名が付いたのである。そんなジャックとレトは友達付き合いをしているのであった。


「はいはい、もう少し声のボリューム落とそうね~」

「アハハハハハ!!!!!」


レトはそんなジャックの様子を気にせず、死体から腕章を外し、冒険者達が持っていた金を2つに分け、その1つを自分の懐に入れ、残りをジャックへと渡す。


「迷惑料と……これがお前の取り分なぁ~」

「アハハハハハ!!!!!」

「駄目だこりゃ……久し振りでハイになってやがる……」


レトは金をジャックの懐にしまうと、ジャックを引き摺るようにして、その場を後にした。






酒場「天国の扉」のカウンター端席にレトは安酒1杯をちびちび飲んでいる横でドベルグが一番高い酒をガパガパ飲んでいた。


「景気がいいね、ドベルグさん」

「お前もたまには高い酒を飲んだらどうだ?今回の依頼でそこそこ稼げたんだろ?」

「指輪を買うために節約中です」


そんな2人にリンが近付くと、レトはバッと席を立ちリンの前に片膝を付き、手を差し出す。


「結婚して下さい」

「指輪を買ってきてから出直して下さい」


リンの冷たい眼を受けレトが崩れ落ち、その姿にドベルグやこの酒場のマスター、テリーが指差して笑う。


世界最大最長最深ダンジョン「アース」がある街「アースタウン」にある酒場で1人の運び屋が起こすいつもの光景は未だ変わらない。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

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