桃色吐息 前篇
久しぶりの更新となりました。遅くなり申し訳ありません。
スカートも慣れれば悪くないな。……そんな本気で引かないでくれよ。いいもんだぜ? 涼しくて、何より似合ってる。今は体も小さくなって、肉もあまりついていないから、まあ女性に見えないこともないしな! うははは……はぁ。
ポジティブだ、ポジティブに考えろ俺。この経験も、あの経験も、いつか小説の肥やしになるはずだ。だからアカン。泣いたらアカン。男が泣いてええんは、家族が逝った時と、財布を無くした時だけや。
閑話休題。ぐすん……さてこうして俺は、怪我を治す間だけオルザン姉妹の家に厄介になることにした。オッサンのことや、あの軍勢のことは気になるが、それ以上に気になるのが力について。
目覚めて、こうも何度もピンチに陥るような世界だ。弱いままじゃ、いつ死んでもおかしくない。正直2度目の死を簡単に迎えるのは御免こうむりたいのだ。あんな感覚、もう味わいたくないし。だからこそ俺は知る必要がある。使用方法だけじゃなく、この力の本質を。
そんなマジなことも考えながら、美人姉妹とのキャッキャウフフでポロリもあるよ、な一日をお送りしよう。飛ぶように揺れる乳、はじける健康的な汗。さあ……心眼の用意はいいか?
☆
……俺は今、まるで夢のような光景を目の当たりにしている。
「どうしました? ほら、もっと……」
真面目な口調で、しかしその顔に魅惑の微笑を浮かべながら動くスレイさん。彼女が弾むたびに、ふわりと浮かぶロングスカートから白い太ももが露わになる。奇跡のデルタゾーンまであと一歩。だがそこに至ることは決してない。己が欲求を満たさんと、息を荒らげ額に汗を浮かべ彼女はさらに、テンポを上げる。
「もう……終わりなの? ほら、頑張って。まだ……できるでしょう?」
恍惚とした表情をしながら、切なげに吐息をもらすルーナさん。細い指先で弄ぶように、ゆっくりと上下させる。そして一瞬の間の後、飛び散る液体が彼女の頬を汚す。だというのに彼女はそれを見て、痙攣したように体を震わし、その胸をかき抱き耐えきれないとばかりに……笑う。唇を赤い舌で、なぞりながら。
「はあ、はっ……スレイさん……ルーナさん……」
俺は彼女たち二人を正面から見つめる。息がしにくい。鼓動が嘘みたいに早い。気が遠くなる。だめだ、今目を閉じたら俺は、もう――
治りかけていた腹の傷がうずく。だというのに俺は動くのをやめることができない。大量の汗を流しながら惚けたように口を開ける。言葉にできない。意図せずに開いたままの口から、まるで嬌声のような声が出る。
「あ、あ、あぁ……」
今の二人を前にすれば、男であれば、おそらくそのほとんどが俺と同じようになるだろう。ポロリと見えたピンク色の物体を目にし、俺は思った。
そう、こんな――『地獄絵図』を前にすれば、と。
☆
驚いたことに、蛇熊にやられてから既に二日が経っていたらしい。道理で腹が空くわけだ。窓の外から見える、というか窓から顔を出しているギプルにも、既に食事を与えてくれたらしい。本当にこの姉妹には頭が上がらない。
自己紹介を終えて、俺も食事をいただく。二人はしきりに俺に話しかけてくれる。怪我のせいか、少々鬱屈とした気分であったが、この二人と会話しているとそんな気分もどこへやら。すっかり二人のペースに乗せられ、会話の流れは当然の如く俺についての話となった。具体的には俺の持つ、力について。
「「……魔法が使えないの(ですか)?」」
「え、ええ……まあ」
おお。美人が本当に驚いた顔っていうのは、意外と怖いものなんだな。文字通り目が点となっている二人を前に、俺は注がれたお茶で喉を潤す。
机の上にはスレイさんが作った野菜のたっぷり入ったスープ。そして表面が黒く、歯ごたえのあるパンが並んでいる。見た感じではシチューとライ麦パン何だが……胃に沁みるって、こういうのを言うんだな。
口内に残る野菜の旨味を楽しんでいたいが、スレイさんの一言で中断することにした。
「ですがトモヤ。シャードベアを倒したのは間違いなく、あなたの魔法でしたよ? 私たちは確かにその瞬間を見ました」
「シャードベア?」
「トモヤが襲われていた、あの魔物のことよ。一応あれ、あの辺の主だったんだけどね」
「あなたはそれを一撃で倒し……いいえ、消滅させていました」
主って、あれそんなに強かったのか。経験値稼ぎのスライムすら出ない道だったのに、いきなりボスキャラが出てくるとか、勘弁してくれよな。
自分の運の無さが本当に嫌になって、思わずため息を吐いてしまう。せっかくの美味しい手料理が苦いものに感じる。いかん、せっかくスレイさんが作ってくれたんだ。不味そうに食べるな。
「……実は俺、魔法は使えるみたいなんですけど、制御ができなくて。今まで自分の意志で魔法が使えたのは、一度だけなんです」
この二人にはある程度俺の状況を伝えておくべきと思い、神様のことや異世界云々についてはぼかしながら、説明をすることにした。
「それはまた……よくそれでこの山に入ろうと思ったわね」
俺が魔法をまともに使えない、戦い方も知らないと伝えると、ルーナさんは何故か呆れたような視線を向けてくる。彼女の隣に座るスレイさんが口を開き、その訳を説明してくれた。
「この山は『アスラの迷山』と呼ばれていて、街道付近に出る魔物とは違い、中級、場所によっては上級の魔物が生息しています。あの武都の人間ですら、そう近づこうとはしないんですよ」
……オッサン。あんたは俺を殺すつもりだったのか? この山、下手したら盗賊どもを相手にするより危ないじゃねーか! もしかして素直に兵たちに捕まった方がよかったんじゃ? いや、オッサンを信じろ。あの時のおっさんの慌てようは本物だった。そのはずだ。
「……その武都の兵に追われて、ここまで逃げてきたんです」
頭の中の葛藤は置いておき、肝心のこと……俺が逃げてきた、ということを伝える。
「兵に追われてって、いったい何をしたの?」
そうですね。何をしたんでしょうね。俺が聞きたいですよ本当に。
「街道で出会った商人と話していたら20人くらいの盗賊に襲われたんです。それを俺が撃退したんですけど、その時に使った魔法がどうも目立ち過ぎたらしくて……」
……まあ、だからってあんな人数で向かってくるか? 普通。過剰戦力にもほどがあると思うんだが。
「一緒に逃げてた商人に、このままじゃ捕まって殺されるかもしれないって言われて、それで……」
ある程度事情を伝えると、二人は揃って目をつむり、何かを考えているのか眉根を寄せている。
「盗賊を捕まえたのに、トモヤが捕まる? それは……妙な話ですね」
「……それに盗賊なんてそこらにいるけど、よりにもよって武都に近いこの辺りに、盗賊なんていたかしら?」
武都って、あの町のことだろうか? スレイさんの疑問ももっともだが、それ以上にルーナさんの言葉が気になった。
「あの……武都っていうのは、そんなに危ないところなんですか?」
「う~ん。そうね、犯罪者にとっては仕事がしづらいでしょうね、あの町は」
なんだそりゃ。それなら危険じゃなくて、むしろ治安のいい町なんじゃ? そんな俺の考えが顔に出ていたのか、スレイさんがルーナさんの言葉を引きついだ。
「武都アウトレイス。あの町はかつて『勇王』とよばれた英雄が作った街なんです」
そう言うと二人は、そっと静かに目をつむり……昔話を始めた。まるで、見たかのように。静かで、どこか悲しげな声で。
「かつて魔物、魔人といった種族を束ね、闇の勢力を以て自分たち以外のすべてを滅ぼそうとした魔王がいました」
「かつて人や精霊、神獣達といった種族を導いて、光の勢力を作り、闇の勢力に立ち向かった勇者がいたの」
「何百年と続いた戦争。初代が死んでも次代が、そうやって何世代にもわたって闇の種族と渡り歩いた光の種族」
「大地は血で汚れ、嘆きの雨がやまぬ日々。そんな中、いつしか戦いは終焉を迎えます。光の種族の勝利という形で」
「だけど、それは嘘の歴史。本当はこの世界に魔王や勇者なんていなかった」
「だけど、それは真実の歴史。偽りの魔王と、偽りの勇者の……戦いの歴史」
「ただ民のために、そう言って血の涙を流しながら、愛する女と戦うしかなかった、哀れな男」
「ただ愛しい人が、これ以上自分で自分を気付つけないようにと、涙を堪えながら剣を握った女」
歌うように語る姉妹。心地よい響きに思わず俺の脳裏に浮かぶのは、光り輝く剣を愛した男に突き立てて、堪え切れずに泣く女の姿。横たわる男は刺された女へ……愛しい人へと微笑んでいる。
「あの町は墓標なのよ。そんな恋人たちの。魔王と勇者になるしかなかった恋人たちの、ね」
締めくくりにルーナさんがそう言うと、今まで姉妹がまとっていた、妙に近寄りがたい空気が霧散した。目の前にいるのは、間違いなく美少女と、美妖女。
何だったんだ、さっきまでの二人は? まるで……。
思わずズレたことを考えて惚けていると、スレイさんが俺の顔を見て苦笑する。
「ようするに、そうやって勇者の町を謳っているものですから、非常に規律の厳しい場所なんです」
「ちょっと酔っ払いがケンカしても、問答無用でつかまっちゃうのよ。勇者様の名のもとに~てね」
……なるほどね。
今までの話を統合すると、勇者という偶像を崇拝する町が、その名前を笠に着て厳しいルールを作ったと。で、それを守れないのは悪い子、闇の勢力だから捕まえちゃうよってことか。急にガラッとキャラを変えてくるもんだから、思わず戸惑ってしまった。この世界の子はこうやって親にしつけられるわけか。俺が少年の見た目をしているからか、からかい交じりに今の話をしたのだろう。
そこまで考えて、改めて俺は気が付いた。
「それはまた……え、けどそれなら盗賊を捕まえた俺は――」
そうだ。そんな風に勇者を、光の勢力という、まるで正義の味方を謳うのなら、俺が追われるのはおかしいだろう。
「そうね。むしろトモヤは追われるどころか、町の住民たちに称えられてもいい立場だわ」
……称えられるというのは少し大げさだと思うが。
そう言おうとすると、スレイさんに手で制される。……この人は俺の考えが読めるのだろうか?
「商人が襲われれば当然、本来町に届くはずだった物資は奪われてしまいます。食料はもちろん、薬品の原料や鉄、鋼、武具なんてものも」
「聞く限り、そこそこ大きめの盗賊団だったんでしょ? たぶん放っておけば、町にとって無視できない被害になったと思うわよ。それを捕まえたんだからね~」
確かに。物流が盛んで物が溢れていた日本と違い、ここは異世界だ。ちょっと物流が滞るだけでも、あの町にとっては問題になるだろう。……極貧生活を送っていた、俺が言うのもなんだけど。
元の世界での生活を思い返し、郷愁とは違う意味で涙を流しそうになる。するとそんな俺をじっと見つめる瞳。スレイさん、そんなに見られたら穴が開きそうなんですが……。
「な、なんですか? スレイさん?」
「……トモヤ。貴方が盗賊たちの前で使ったのは、何の魔法だったんですか?」
耐え切れずにスレイさんに問いかければ、返ってきたのはそんな質問。
「あ~、それは俺のオリジナルで……雷の魔法なんですけどね」
少々悩んだが、正直に答えることにした。下手に嘘を吐いたところで、この人には見破られそうだし。
「雷? それって天気の悪い日に、高いところに落ちる光のことよね?」
ルーナさんのその言葉で俺は、自分のミスに気が付いた。しまった。雷の魔法って、この世界にはないのか。
「……そんな魔法は聞いたことないですね。トモヤ、貴方は魔法が使えないはずなのに、オリジナルの、雷の魔法は使えると言うのですか? それはいくらなんでも無理がありますよ」
「そ、それはその……」
美人から受ける詰問がこんなに怖いものだとは……。
予想外の展開に、思わず口をつぐんでしまう。もしかして俺、スレイさんに何か疑われているのだろうか? 聖女の様な彼女が相手だと、まるで協会で告解でもしている気分になる。つい全部、異世界とかバルザンさ……バルザンについても喋ってしまおうかと思っていると、
――ガシャン
かの有名な「ツマンネ病」。これ厄介ですね本当に。
手直しをしようと思い見返してみれば、ついつい思う……これでいいのかと。
自信がなくなり何度も悩む日々。そしてついに私は悟ったのです。
開き直ることにしました(これ悟ったというのかな?)。うん。自信なんか書いてりゃそのうちついてくるさ。今はそう信じて書きまくろう。
という訳でこれからも宜しくお願いいたします。