闘い終えて
うん。正直思い返してみると、あのキメ台詞はないな。
こうして俺はファンタジーのお約束の一つを、……ボロッボロになりながらも終えることができた。まぁ正直言えば色々不満があるけどな。……ん? 何でだって? そりゃそうだろ?
普通このイベントにはさ、女の子が付きものだろう?! ファンタジーにはさ、魅力的なヒロインが必要なんだよ。何でここまで、むさいオッサンしかいないんだよ! それにさ、ふつうあそこでオッサンも引くか? そりゃこうしてみると、見事に滑ってるけどな。ツルッツルだよ畜生。
ファンタジーにヒロインてのはさ、カレーにライス。納豆にライス。焼き魚にライス。そう、もはやヒロインとは副菜でも、主菜でもない。いわば主食。無くてはならない、いや無ければおかしい存在なんだ。……それなのに、それなのに!!
閑話休題。まあなんだかんだ言いつつも、見事20人もの盗賊たちを撃退したわけだが、あの神様からもらった力は、結局どういうものだったのか? そろそろ説明会としゃれこもう。
人によっては退屈かもしれない。だけど、ぜひとも聞いてほしい。そうすればきっと……この後の俺の気持ちが……少しはわかるから。
☆
「ぐ、ぐぅああ……」
うめき声があちこちから上がる。まぁあんな超絶魔法を食らったんだ。あいつらはもう……。
――そう思うだろう?
「なんだ……? あれだけでかい魔法を使った割に、被害が全然ないだと?」
その通り。俺が直接シバキ倒した連中は、打ち身に打撲とあちこち怪我をしているが、それ以外の連中はかすり傷すら負っていない。
「おい坊主、いったいお前は何をしたんだ? それに……魔法が使えるなら何で最初から……」
さてそういわれても、本当のことを話すわけにはいかないよな。だって、
――ムキムキマッチョの神様からの贈り物です!……とは言えないしな。てか言いたくない。
☆
俺がバルザン様からもらった力。そして悟った? 天啓とでも言うのかな。とにかくそのうち使い方の分かったのは3つ。
ひとつは『体力』。今更だけど、これ俺の体じゃない。
この世界で目が覚めてから、ずっと違和感があったんだけど。ようやく分かった。この体、あの神様の肉で作られている。容姿も若返るおまけつきだ。どおりで俺今年で二○歳なのに、盗賊たちもオッサンも、俺のことをガキ扱いするわけだ。
今の俺はたぶん、中学生くらいにまで若返っている。ただあの頃の俺と比べると、体のスペックが全然違う。瓶のふたを開けるのにも苦労していた俺が、今なら本気を出せば、リンゴも容易く砕けそうだ。……いや本当はもっとすごいんだろうけど、自分でも把握し切れてないから、今一表現に困るな。
ひとつは『集中力』。地味と言わんでくれ。これすごく便利なんだから。
最初に弓を引いたときの、あのふわっとした感覚。そしてまるで、空間すべてを把握しているような、見事な回避術。
武道やスポーツ経験者なら、もしかしたら分かる人もいるかもしれない。所謂トランス状態、またはゾーンと呼ばれる、超集中状態。その極致。
俺はそれに、自分の意志で自在に入ることができる。
つまりこの体と合わせれば、一流アスリート並みのパフォーマンスができる……可能性があるってことだ。
だがこの体、とにかく動かしにくい。なんて言うんだろ? 普段ミニのATに乗ってる人が、ダンプカーを動かしているような、それもMTで。そんなもどかしい感じだ。
要はまだ慣れてないんだ。俺はこの体に。
何かの本で読んだが、ぞくに達人と呼ばれる人は、足の指一本一本、その爪の先に至るまで自在に動かすことができるらしい。
そういう意味で言えば俺は、もっとも達人から遠いと言える。無理に力んでしまうからか、持久力にも乏しいしな。……まあそんなもん、なるつもりはないけど。
さて最後は魔法の力、俺はこれを『想像力』と名付けた。分かりやすくていいだろう?この力は文字通り、俺の想像力がカギになる。
実は最後に放ったあの魔法。あれ俺が昔書いた小説に出てくるんだ。イラストも凝ったんだぜ? わざわざ友人に頼んで魔方陣も書いてもらったんだ。
『想像力』は俺の頭の中で描いたイメージが、そのまま魔法という形で現れる。そのためイメージがあやふやなものだった場合は、俺にひどい反動が起きる……らしい。怖いから試してないけど。それを防ぐ意味でもあの詠唱は必要だったんだ。口に出して、魔法のイメージを高めるためにもな。……だから中二病とか言わないでくれよ。まあ、否定はしないけどな!
俺はこの想像力で、まず治癒の魔法を自分にかけた。……動けるようになることが優先だったから、まるでビデオを逆再生しているみたいになったが……この方法はもう二度と使うまい。リアルで体験するのはかなりグロイ。けど治った後はもう体が一気に軽くなったね。思わず飛び跳ねちまったよ。なんか近くにいたゴミに、少しぶつかったようだったけど。
そして、止めの一撃。まあ、あんなもの本気でぶっ放すわけにはいかなかったから、体がしびれて動けなくなる程度の電撃と、派手な演出でビビらせて動けなくさせてもらった。本当なら、このあたり一帯焦土になる予定(設定)だったんだけどな。
さて、以上がバルザン様にもらった俺の力。その強力さは見ての通り。武器を持った人間二十人を相手に、容易く圧勝してしまった。吹けば飛ぶようなもやし人間だった俺にすれば、考えられない結果だ。
しかも確か夢の中でバルザン様は、『一部を開放して』と言っていた。それはつまり……俺にはまだ、秘められた力があるということだ!
☆
「イエス! セイイエス!」
「うお! な、何だよ急にお前!」
俺が叫びだしたことで、オッサンが唾を飛ばしながら大声で驚く。悪い悪い、あまりにも嬉しくてな。
俺たちは今、盗賊が動けない間に荷台にあった縄で、一人ひとり縛りあげている最中だ。
オッサンに対する説明については……う、うまくごまかせたと……思いたい。しどろもどろになって話す俺を見て、オッサンは後で話そうと言い、この場では深く追及してこなかった。
俺のことを随分とかわいがってくれた蛇目野郎を、18歳以下は閲覧禁止な格好に縛り、やっと一息をつく。ふう……いい仕事した。クマ髭とからませて、まるで一つの芸術のようじゃないか。インスピレーションが刺激される。完璧だ。完璧すぎて今にも吐きそうだ。
俺の行動に、またもや引いているオッサン。そっちを向いてドヤ顔をしていると、遠く見える町の方から、ドドド、ドドドと重く地面を踏みしめる音が連続して聞こえてきた。
「オッサン、何の音だこれ?」
「さっきの光を見て、町から調査の兵が来てるんだろ。……言いたくはないが、もう少し早く来てほしかったがな」
「ははっ、確かに」
なるほどようやく味方の登場か。少々遅すぎるが……まあこれもファンタジーの定番だろう。しかしそれにしても……?
――ドド――ドドドドド――ドドドドドドドドドド――うおおおおお!!
「……なあ……なんか地響きがしてるんだけど……、それになんか怒号みたいなのも聞こえてこないか?」
「あ、ああ。これはいくらなんでも、おかし――」
……おいこらオッサン。やめろってそれは。あんたが急に黙ると悪い予感しかしないんだよ。実は盗賊の援軍がやって来てるとか言うんじゃないだろうな。
俺はもはやお約束となりつつある、オッサンの行動に嫌な感じを覚え、つい目元がピクリと引きつく。まてまてまて待ってくれ、いくらなんでも……もう無理だ。傷は治したけど、このいかんともしがたい倦怠感はどうしようもない。こちとら既にライフはゼロに近いんだよ。
「何なんだオッサン! また盗賊かよ!?」
オッサンの肩に乱暴に手を置き、体を揺らす。茫然としているオッサンはそれでも何も言わない。――ああもう! おれは少々乱暴にオッサンを押しのけて、町の方角へと眼を向ける。そして――
「…………何だよ……あの軍勢は?」
鎧をまとい、剣を、槍を掲げる……数えきれない兵士たちが……俺には今にも牙を向こうとする、恐ろしい怪物のように見えた。
この話の後、今までの話の加筆修正をしようと思います。少し更新速度が落ちますが、すぐまた続きを書き始めます。
……だから、どうか見捨てないでくださいね。