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期間限定のお嬢さま  作者: 駅員
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プロローグ <姉視点>

 右足、左足、右足、左足。右、左、右、左。

 私は普通に歩けてますよ。だから通行人さんたち、こっち注目しないでください。

 普通の表情。普通に道を歩く時の表情。下校時に通学路で中三女子カッコ一人歩きカッコトジルが浮かべる普通の表情。普通だよ。

 こわばってない。笑ってもいない。なのに。

 なんで見るの? なんで見るの?

 駆けだしちゃ駄目。もっと注目されちゃう。一定の歩幅、歩幅、30cm均一くらい? あの電柱のとこまでで二十歩くらいで信号だからいったん止まって、え、いや違うあれは黄色だから普段なら走ってるんだっけどうだっけ。

 歩こう歩こう私は元気。



「姉ちゃん、それ、どうしたんだ?」


 玄関の前で、部活帰りの弟と鉢合わせした。


「え? なにが?」

「靴」


 弟の指さす先を見てみると、みんなが私を見ていた理由がそこに掲載されていた。


「なんで片方だけなんだよ」


 私は学校指定の革靴を右足にだけ装備して、左足にはどぶネズミの皮衣になった元白靴下をぶら下げていた。


「あー、これはね」


 指摘されるまで気がつかなかった。予告とノンブルはわかりやすい位置にないと困ります。


 これはね


「青春の衝動に駆られて置いてきました。片方だけの靴は自由の象徴とか『俺は型にははまってやらないぜ』的な反骨精神もどきなものをあらわしてみた結果なのですよ」


 空洞な頭。洞穴の目。ちょびちょびと縮れていく涙腺。言葉?


「……何言ってんだ?」

「えーとあれだ。実はいじめにあって女子トイレに連れ込まれて『ごめんねー、今大掃除中なんだ、ちょっち協力してよ』とか言われながらトイレの水を頭からかけられて濡れた髪の毛を雑巾がわりにわしわしとトイレの床拭きさせられてた時の名残なんだよ。靴隠しとか靴をカッターナイフでギタギタされるとかは定番ですからそこを外しては画竜点睛にダメでしょう」


 流麗なトークの内三割ほど『本当』だった。相手を騙したいなら九割の嘘に一割の真実を混ぜると効果的☆ でも真実が三割だと多すぎかもね★ 

 そこにさらに『レイプ』とかいう身も蓋もない事実を付け足したら、あら不思議、真実の精度が六割くらいに急上昇。半分を超えたらアウトなのにねぇ。


「その冗談笑えねえよ……」と眉をひそめた弟は、今のが本当にただの冗談だったのかどうか迷ってるような困惑滲ませた表情で私を見てた。


 見ないで。

 どうしよう。言い訳が思いつかない。どうしよう。

 こうしよう。


「なんでもないよ」


 笑ってごまかした。

 おしまい。


 実際は、『見知らぬ男に公園のトイレでレイプされた』、それがなんの脚色も交えない真実で。その後私は、地元の公立高校から遠くの私立高校へ進学先を変更した。


 靴を片方失くした本当の理由は誰にももらさず、そのまま二年の歳月が流れた。

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