お料理会
こちらは番外編になります。本編からお読みください~。
小山家で料理する集まりが催されることとなった。
なにか大げさな感じがするが、まあ要するにただ単にいつもの面々で集まってご飯作って食べましょー、というアレに過ぎない。
昔TVで『料理の鋼人』とかいうのが流行ったらしく、なんかネット動画で転がっているのを見て面白そうだな、と思ったことがある。
制限時間内に決められた食材を使って名のある超一流シェフがバトる番組である。
芸能人らが実際に作られた料理を食し、最終的にどちらの料理人が勝るかをジャッジするというものだ。
提案したら篠田に速攻叩かれた。
「料理を勝負の材料とするなど何事か!」というのである。
至極まっとうな意見である。
確かにスポーツならともかく、料理で負けたからマズい、というのもおかしい気はする。
俺はただ単に軽いノリで言っただけだったのだが、浅はかだった。
こういう楽しみ方もあるよ的な提案をするはずだったのだが、そういう楽しみ方は要らない、と言われてしまってややしょんぼりである。
俺にとって料理はまだまだ「気負わず手軽に作って、腹が満たせればOK」な部分があるのだが、女子連にとって料理は神聖な領域を含むものらしい。
しかし男って何かと勝負することとか勝つことにこだわるよな・・・俺も含めて。
相手より優位に立ちたい、他者から抜きん出たい、賞賛されたいという内面の意思の表れなのか。
勝負しなくていいことまで勝負する風潮はしかし今に始まったことじゃない気がする。
『美味しん坊』とかでも新聞社と謎の美食団体が覇権をかけて争ってるし。
料理とはつまるところなんなのだ・・・よくよく考えると俺が思う以上に奥が深いぞ・・・。
「蔵田君、吹きこぼし!」
そんなことをふと考えてたら小山に注意されて気付く。
鍋、かけてたんだった。
「おお、ごめん!」
炊事場には、というかガスコンロの前には2名程度しか立てないので、俺と小山が現在戦っているように見えなくもない・・・。
お互いで競っているのではなく、自分自身と慣れない調理に戦いを強いられているという感じではあるが。
「なんでこの料理にしたの?」
と小山が聞く。
彼女は隣で肉じゃがを作っている。
圧倒的に彼女のほうが美味そうな気がする。
「なんでだったかな」
「ええと、名前はどういうんだっけ?」と小山が小首を傾げる。
いつもの3人は向こうの部屋でTVを見ていたが、やがてガスコンロをセットしたりなにやら動き始めた。篠田は時折立ち上がっては冷蔵庫や炊事場を行ったりきたりしている。
野菜や魚を切りに割って入ったかと思えば、計量スプーンや泡だて器のようなものを持ち歩いたりもしている。彼女自身はデザート系の何かを作ってるらしい。
高橋たちもあっちで何か作ってるみたいだが・・・鍋か何かか。
「ビーフストロガノフ」
「ビーフガノンドルフ?」
「ストロガノフだ」
「強そうな名前だね!」
「RPGのラスボスみたいだろ。なんかカッコよさそうなので初挑戦してみることにした!」
俺は中二病か。
どうもこの料理を考案したロシア人のストロガノフ氏の名前を冠した料理なのだが、ロシア人の名前ってなんか、全般的に強そうなイメージあるよね。
「強そうとかそういう問題で料理決めるかなー!」
小山があはは、と笑う。
「わしを食べたくばまずわしを斃してからにすることだな!・・・『ビーフストロガノフがあらわれた!』」
「ちゃーらーらーん!・・・あ、これボス戦のテーマだよ!」
ノリノリである。
こんなんだったら食べるのも困難だな。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
なにか後方から悲鳴が上がった。
悲鳴の主は篠田だったようだ。
居間の円卓ではガスコンロを使って鍋の準備が進んでいたが、高橋が食材を入れて清川がかき混ぜているところへ、移動中の篠田が転んでしまい、見事、鍋の中に溶かしたチョコがぶちこまれてしまったのだ。
既に鍋の中では切り身となったサケが泳いでいたが、急ぎ引き上げてみると野菜なども含めて見事にコーティングされていた。
「おお、これは見事な食のフュージョン!」
「笑っている場合じゃないよ清川さん!大変な事態だ」
・・・だなぁ。めずらしく高橋が慌てている。
鍋奉行としての手腕が問われるところである。
いや、まだか。
半泣きの篠田、ぼうぜんとチョコの行く先を見守っていたが、不意に「もうスイーツはやめ!」とか言い出す。
スイーツ職人はその腕を披露する場をひとつ失ってしまった。
いったい何を作ろうとしていたのかもわからないまま、チョコレート石狩鍋はぐつぐつと甘い匂いを立ち上らせている。
「もうこれで食べようよ!」
「何を言うか小山!」
さすが小山さんである。
いや、彼女ならきっとそう言うだろうと思ったさ。
「うん、甘い・・・」
味見してさも当然のように清川が言う。「でも、意外といけるかも!」
「ばかなー!?」
「蔵田君、食べてみる?」
清川の言われるとおりに汁を飲んでみる・・・うわぁ・・・なんじゃこれ。
「どういう味覚してんだ清川」
「えー」
えー、ではない。
「どれ」
篠田がお玉で汁をすくって一口。
「あっまー!!・・・でも洋風ぜんざいにサケが突っ込んだと思えば・・・」
おいおい。
チョコを鍋にぶち込んでしまった瞬間はあんなに気まずそうな顔をしていたというのに。
「これがほんとの甘ジャケー!なんちって!」
あはは!と小山。おーい・・・。甘酒とかけてるつもりだろうが、単なるオヤヂギャグにしかなってないところが・・・。まあ、酒粕も少々入っているからそういう風味に近い部分はあるかも知れないけど。
「くそ、まさかこれを食べるつもりじゃないだろうなっ!?」
俺が叫ぶ。
危険な香りがするぜ・・・これは。
「創作料理としては面白い試みだよね」と小山。前衛芸術のほうが近そうだが。
「欧米人なら喜ぶかもよ、こういうの」と清川。俺らは日本人だっつーの。
「甘党の人なら気合でいけるわよ!」と篠田。料理は気合で食べるものですかそうですか。
「どうする?高橋」
奉行に最終判断をゆだねてみるか。
「そうだねえ・・・折角だから、食べてみようよ」
だめだこの奉行・・・アク代官どもに買収されておる・・・。
みんな、本当に味覚大丈夫か・・・!?
「不満?」と小山。
「いや・・・やってやれないことはないが」俺は棚にあったエスジー食品の缶を持ってきた。「せめてこれでも突っ込めば味がよくなるかもしれん・・・この会社のエライ人が、レシピ本で”この粉は魔法の粉です”とか言ってたからな」
「カレーパウダーだね!」
そうである。君んちの備品である。
「ん・・・開かない」
「しばらく使ってないからねー。硬貨使うといいかも」
「なるほど」
小山に言われて俺は財布から10円を取り出し、アルミだかステンレスだかの缶の淵にそれを這わせて上に引っ張った。
ポン。
「あ」
音がして、ついびっくりして俺は缶を手放してしまった。
放物線を描いてそれは、また狙ったようにいい塩梅に鍋へとダイビングしていった。
あんま使ってなかったようなので、一缶ほぼまるごと鍋に消えた感じだ。
チョコはホワイトチョコだったようなので白っぽい色だったがここへきてレモンイエローの汁色に変化した、不気味さ際立つ鍋にグレードアップ。
「なんか・・・この鍋怖くない?」
と篠田。
「だな・・・まるで吸い寄せられるかのようだ・・・」
もう言ったほうがいいかもしれん。これは、誰も意図しないうちに完成してしまった、紛れもない闇鍋であると。
かくして”チョコレート石狩鍋(カレー味)”は誕生してしまったのである・・・。
俺のビーフストロガノフの完成を信用していれば、このような鍋を作り始めることもなかったのだ・・・とか言ってみるが、ようするに作ったことない料理で手間取ってしまい、保険で作り始めた鍋が事実上の料理で無くなった今、俺はこのストロガノフさんを間違いなく作り終えなければならない!
フゥ・・・料理って意外と手ごわいよね・・・。
「ほかに強そうな名前の料理がないかな・・・ゴルゴンゾーラとか」
俺が調理しながら呟くと、小山が早速突っ込んでくる。
「ゴルゴーンとか、アレだよね、三姉妹の、メデューサの!」
たぶん違う気がするけど。
「ああ、高橋が前に語ってくれた星座の話な。こいつは強そうだな・・・石化攻撃を繰り出してくるやもしれん」
「食うか食われるか、だね!」
ははは、と高らかに小山が笑った。
彼女が調理している肉じゃがはもう完成しつつあった。
味見したが、なかなかに美味い。
「ゴルゴンゾーラはチーズの名前だよ」
苦笑しながら今度は高橋。
諦めが悪いのか、例の鍋をお玉で撹拌している。
どうやら篠田が言ったとおりに気合で食べる羽目になりそうだな・・・。
「そうなのか?」
「うん。チーズ、強そうな名前結構あるよね」
おお、秀才の高橋が俺みたいな頭の悪い話に付き合ってもらってなんか悪いな。
「そうなの?」
と篠田。
「うんモッツァレラに、ババリアブルーとかロックフォール。有名どころではエメンタールとかカマンベール。ゴーダ、グリュイエール・・・」
「ちょっと待て、なんでそんなに詳しいんだ高橋?」
「ああ、ウチの父親がチーズにハマっててね。いろんなやつを海外から取り寄せたり・・・」
「リッチだねー!」
清川の反応に皆が同意。
金持ちだからな、なんといっても・・・。
「じゃあラスボスがゴルゴンゾーラで・・・側近がエメンタールとカマンベールと・・・」相変わらずノリのいい小山さんである。「ババリアがやられました。いかがいたしますか!?」
「ククク、ババリアは我等四天王の中でも最弱・・・」
「もう!何の話よ!」
篠田に言われてくだらないRPGギャグは終了となった。
ちょっと面白かったんだがなー。
そんなこんなで各自が作った・・・というより挑んだ、と言ったほうが語感が近そうだが・・・料理が集まった。
「お母さんを待っていると冷めるので、いただきましょう!」
との小山の勧めで夕飯を皆でいただくことに。
「うまい!蔵田君、いけるよ!」
「おお、そうか!それは良かった!」
俺のストロガノフさんはいけてるようだ。「うん、いんじゃない?」篠田らしい評価の仕方だが、あれは彼女なりの最大限の好評価だ。よし、少し自信ついた。
ビーフは安物だが、まあ味がよければ素材の値段はどうってことないね。安心した。
「それにしても鍋が進まないね・・・」
高橋は笑うしかない。
「みんな、意外といけそうとかフォロー入れてなかったか?」
ふるふる。
首を振られてしまった。
「あんたがカレー粉入れたしー」
「俺が悪いんかい!」
篠田め~。お前がチョコをぶちまけなかったらカレー石狩鍋で済んだのだ・・・いや、カレー粉さえ入らず純粋な鍋が・・・。
「これに挑む勇者はおらぬか」
俺が周囲を見渡すが反応がない。
うーむ。少し食べてはみたけどやはり、ということなんだろうな・・・。
「あ、お母さんお帰りなさい!」
小山の声で皆が振り向く。
小山ママが家に戻ってきた。お仕事お疲れ様です。
「わー、なになに?すごいなーナナちゃん!皆さんも!」
「お邪魔してますー!」
「おいしそうねー!私も食べていいのかしら?」
「もちろんですとも!どうぞどうぞ!」
小山の返しが面白い。
「特にね、この鍋とかおすすめ」
おい・・・。
「わあ!なにこれ!?見たことない色してるー!」
そりゃあそうですお母さん。
「見事な闇鍋ね!」
ほら・・・誰が見ても分かるレベルの代物じゃないか・・・。
「どれどれ?着替えの前にちょっと味見・・・おお!?これは新味!!」
ええー!
大丈夫なのかこの人・・・!
「な、なかなか斬新な味ね!お世辞だと思った?残念、勿体無いし食べちゃうわよー!」
いや、勿体無いと仰ってるところで既にお世辞のような気もしますが・・・まあいいか。
さすが母子家庭を支える母である。強い・・・!
最強は小山ママに決定した。
えっと、なんの会だったんだっけ・・・?
こうしてわいわいがやがやと小山家の夕食は続いていった。
お母さんには鍋以外のものは軒並み評判が良かった。
俺のブツも小山の煮物も。
その他3名は残念な結果に終わった・・・と思われたがしたたかにも篠田は災難にもめげずマンゴープリンを密かに完成させていた。これ、美味かった。
俺もデザートに挑戦してみるかな・・・フルーチェとか作ったことあるし・・・。
ああ、それはなんか違うか。
本編執筆中に挟もうかどうしようかと思って結局アップできてなかった小話です。たわいない小山家でのいつもの面々の日常です。いつも以上にバカっぽいノリが強い気がしますね^^;
また時間あるときにでもほかの話を書こうと思います。




