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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
61/64

第59話 春を待つ駅

 宮郷線は通常運行を終了し、残務整理に入っていた。


 町内あちこちに貼られた存続支援用のポスターや横断幕を撤去する作業が行われ、かつて週末等に駅前で実施されていたバザーも取りやめられた。

 沿線は落葉樹が枯れて葉を落としていくように、徐々にその賑わいを失くしていった。

 

「まだ復活のための方法があるかもしれない」


 そう小山も言っていたが、そのための方法を模索している段階で、計画は頓挫(とんざ)することになる。

 


 須ノ郷の村議会は宮郷線の運営母体であったJRと交渉の上、12月に入ると開催した定例議会において賛成多数で村内のレール、枕木等の撤去を可決。準備出来次第、年度内に作業に入ることとした。

 直ちに工事のための業者が入ってきて、終点である桜淵からだんだんと南側に向かって撤去作業が始まった。

 橋脚や鉄橋などは解体費用がかさむため、年度内に取り掛かることは出来ず、とりあえず据え置かれた。


 あまりの対応の早さに、新たに復活のための組織を正式に立ち上げることさえ叶わず、旧存続派の人々は唇を噛んだ。


「どうしてこんな時だけやたら対応が速いのか」


 そう皆口々にぼやいていた。



 宮郷線は戦後、旧国鉄が地元などから土地を借り受けて敷設した路線である。

 路線開設時に取り交わした約款では、「事業をもし廃止することになった場合は速やかに設備の撤去および原状の回復を行い土地管理者に使用地を返却すべし」とあった。

 国や地方自治体が保有する土地が多数を占めていたが、その約束事が80年前後の期間を経て、ようやく果たされることになろうとしていた。


 ついに俺の家の前の一柳駅の駅舎解体工事が始まった。

 桜淵駅から始まって、レールなどの撤去も北から順調に進んでいるようだ。

 そのうち破壊の波は小山一家の思い出の場所であった七ヶ瀬駅にも及ぶだろう。

 この辺は寒く、雪の多い田舎だ。

 2月に入り、積雪の影響でか工事が度々中断されることが多くなったが、それでも時間の問題か。


 小山は、耐えることができるだろうか。

 そのことが心配だった。



 七ヶ瀬の駅にはよく小山の姿があった。

 俺も付いて行ったりもした。

 かつて二人でこの場所から通学し、また同じ鉄道の列車で戻ってきていた日々が、ついこの間のことのはずなのに、もう遠い日の出来事のようにさえ感じられる。


 用事がなかったとしても、思い入れのある場所にはどうしても来てしまうものだ。

 かつで小山のお父さんとお母さんがここでともに思い出を育んだように、俺と小山もこの駅でまさか同じ時を過ごすとは高校入学時には予想だにしなかったことだった。



 小山は立ち続けた。

 

 もうこの駅に、列車が戻ることはない。

 

 かつて待ち続けた父が、ある日から戻ってこなくなったように。

 出迎える者はあっても、戻ってくる者はなし。

 ”待ち人”は還らず。

 ただ時だけが、戯れに過ぎ行くのみ。

 それでも、彼女は立ち続けていた。



 「わしが産まれた年に出来た路線じゃ。以来ずっとこの沿線で生きてきた。寂しくなるのう」


 爺ちゃんと俺は並んで一柳駅の解体を見守り続けた。

 ナントカの古時計の内容にちょっと似てるような気がしたが、爺ちゃん、鉄道が終わるときに死んだりしないでくれよ?

 


 今年は特に降雪が酷く、撤去工事はしばらく中断されることが多くなった。

 俺と小山は鉄道からバス通学に変わった。

 シャトルバスは須ノ郷と宮川を結ぶ。

 そこそこ速くて助かるが、バイパスからの眺めはすこぶる殺風景で、宮郷の沿線のような自然を楽しめるような雰囲気は皆無だった。


 小山の瞳は道路の両脇にそそり立つコンクリートの壁と同じ色をしている気がした。

 通学の間は無口か、ぼんやりしていることが多かった。

 それでも学校では普段どおりの活発な姿に戻ってくれてたけど。


 バス通学は特に降雪時も遅延なく学校に行くことができ、それはそれでよかったように思う。問題は便が残ってくれるかどうかだ。

 周辺自治体はいずれも赤字で、鉄道に限らず他の交通機関も利益を出しているとは思えなかったし、今後ますます過疎化が進むであろう地区で踏みとどまってもいずれ消えていくのではないか、との見方が有力だった。


 こうなったらすべての住民にマイカー利用を呼びかけてられているような気さえしてくる。

 もしくは、もう故郷を捨てて町へ出て行け、と暗に言われているかのような。

 宮郷線廃止に関する問題は、あらゆる交通に先駆けて、まず鉄道が切り捨てられた・・・そういうことなのではないか。


 

 しかし。

 地域が抱える諸問題に対して、ある変化の兆しが現れた。

 特に最近になって大きな変化があったのは自治体の合併問題だ。


 県の海側に面し、有数のコンビナート地帯を抱える黒字経営の自治体である瀬山(せやま)市は、周辺市町村との合併を正式に発表。

 俺たちの住処(すみか)である須ノ郷村、およびそれに隣接する源田町、古岩町、宮川市を含めた大規模な市町村合併である。


 新市名はそれら自治体を受け入れる瀬山市(従来どおり)となる。

 合併はこれまでいろいろ協議がなされてきたそうだが、諸般の都合で紛糾(ふんきゅう)し、難航していたという。

 まあそりゃそうだろう、赤字の自治体を受け入れることにそんなにメリットがあるとは思えない。ただ、周辺は助かったのではないだろうか。

 うちの婆ちゃんは「過疎で死に(てい)の村なのに、市に昇格じゃそうな!これは笑える!かかか!」と大笑いしていた。自虐ネタだが、全くその通り。

 


新市は合併後に市に組み入れられる自治体が抱えていた諸問題を総ざらいし、各種再建計画の骨子を発表することとなった。





◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「かんぱーい!」


 今日は中華料理屋・大飯元に来ている。

 部員だけではなく、めずらしくミズタニンも同席だ。

 

 テスト明け。

 試験は午前中で終わったので、皆学校帰りに昼食を摂ろうということになった。

 そうするとやはり、馴染みの店という流れになる。


「今日はお祝いか何かですかい?皆さんお揃いで」


 店長はいつものようにじかにラーメンやギョーザなどをこちらのテーブルに運んでくれる。


「まあ、お祝いみたいなもんですかね!試験終わったし!」


 俺が言うとははは、と店長は豪快に笑った。


「たしかにそりゃあめでたいですね!オレも学生時代はテスト、嫌だったもんなぁ~!」


 店長、さも嫌そうだ。


「まあ、勉強やテストが好きでたまらない人間は高橋くらいしかいないでしょう」と俺が言うと「そんなことないない!」と瞬時に当の本人からツッコミが返ってきた。


「補習受けそうな人居る?」と小山。


 見渡すが特に返事はない。


「大丈夫でしょ。いままでなんとかしのいできてるし」


 と篠田。


「篠田はかろうじてしのいできたレベルか?」


「は、何言ってるの蔵田!あんたと一緒にしないでほしいな!」


 相変わらず容赦がない。

 まあ、信頼関係がなければここまで言えないのかもしれないけど。


「あっだめだぞ小山!ギョーザ、一人2個ずつだかんな!」


「えっ」


「えっじゃなくてー!」


「もう3個食べちゃった!てへ☆」


「さすがナナちゃん、食べるのは早いね!」


 見ろ、清川にまで言われておるではないか。


「部一番の食いしん坊だからねーナナは!」


 篠田も認める食いっぷりのよさ。


「太りそうなのにいいスタイルなんだよな・・・なんでだ」


「えへへ、私はちゃんと運動してますからね!」


「どこで?」と清川。


「家の周りをジョギングなど。寒いときに走るとね、血行よくなるよ」


「小山、雪積もってるときに走るのはやめとけ?転ぶぞ?危ないぞ」


「うん、まあ気をつけるよ」


 皆でラーメンを食べたりしつつ、たまにこっそり無料の替え玉を持ってきてくれる店長の心遣いに感謝。


「じゃあ、なくなったギョーザは蔵田君のモノだったことにしよう」


 不意に小山。


「なんで」


「その代わり君は私のチャーシューなどを食べたまえ。はい、あーん」


 おいおい、また人前で・・・。


「恥ずかしいことやらせんな」


「蔵田何照れてんのよ!」


 篠田に肘で突かれる。


「それとラーメンどんぶりのチェンジだ!蔵田君!」


「うおっ」


 了承も得ずに小山のラーメンと入れ替えとなった。


「うん、こっちのタンタンメンもいい感じだね!寒いときには」


「辛いの大丈夫だったか?小山」


「大丈夫!」


 にこり。

 食べ物を口に運んでるときも幸せそうだな・・・。



「そうだ、今度ウチで鍋やろうよ!」


 またまた唐突に小山。

 話題の代わり端は彼女であることが多い。


「行ってもOKなのかい?」高橋。「結構、鍋にはうるさいタチなんだ」


 どういう意味なんだ・・・。


「じゃ、鍋奉行は決まったわね!」と篠田。


「だな。鍋にはうるさいそうだからな。仕切ってもらおうぜ高橋に」


「OK、いいよ!」


「じゃあ私は悪代官やるよ!」


「なんで清川が・・・」


「アクを取る係ってことでしょ、キヨ!」


「そうさ、シノちゃん!」


 なるほど。それは面白い。


「奉行と悪代官・・・何か時代劇のストーリーというか、寸劇でもできそうだね!」


 高橋は物語好きそうだからなあ。


「さて今宵はお代官様におみやげがございまして・・・」


 語りだす小山。


「はて、何事か越後屋。茶菓子であるか」


 清川が続く。もう始まっちゃってるぞ!


「はい、左様に。ただし、この茶菓子、お口にではなく、懐に入れると美味なるものにござます」

 清川の隣に立って耳打ちする小山。


「ほほう・・・おお、これは見事な金色の菓子であるな!」


「お気に召しましてございますか」


「うむ!・・・にしても越後屋・・・おぬしも、ワルよのう!」


「はっはっはっ、お代官様ほどではございません!」


「はっはっはっ!」


 小山と清川が二人して笑ってるとこへ俺らの笑いが重なる。

 さらに、後ろに居て聞いていた店長までも堪えきれずに笑い出す。


「ははは!お上手ですなあ!演劇部にでも入ったらどうです?」


「いえいえ!私どもは地域文化部ですのでっ!」


 と小山。

 ま、掛け持ちするつもりはないよな。

 ところで奉行はどうした。アク代官は出てきたが。


「じゃ、俺、越後屋ね」


「蔵田は何をするのよ結局」篠田の突っ込み。


「鍋が出来上がってきた頃に味見して、美味いかどうか判定。マズかった場合は印籠を取り出して成敗」


「それ、越後屋じゃなくて越後のちりめん問屋のほうじゃない!」


「ち。バレたか」



 食べ終わってくつろいでると、店長がコーヒーを差し入れてくださった。

 飲みながらなんとなくTVを見ている。


「ああ、ずっとニュースみたいなんやってたんですかね」と店長。


「いえ、今始まったみたいですよ」と俺。


「つまんないでしょう?チャンネル変えますよ、なんなら」


「いえいえ、別に見たいものなんて特に」


 皆も同意。


「そうですか。あ、瀬山市長出てますね」


 店長が喋ると皆TVのほうを向く。


「今度ここと合併するんでしたっけ・・・というか、なんか難しいこと喋ってるな・・・

なになに?新年度より発足する新市の都市計画?」

 



 かなり詳しいことを市長は語っていた。

 

 自分達の住むエリアが、根こそぎ新たな自治体に吸収される。

 そのとき、これまでの市町村で抱えていた諸問題はどうなるのか、ということも話していた。

 中でも皆が驚いたのは、俺たちがずっと追っかけてきたことに関してだった。


「昨年11月に赤字を理由に国交省に事業廃止の届出が出された旧JR宮郷線ですが」


 小山が立ち上がっていた。


「既に新・瀬山市の事業としまして。復活させることが確定いたしました。名称は宮川ふるさと鉄道(仮称)。運営のための新会社が来月起動します、名称は株式会社サンロード。現・瀬山市が出資し設立する第三セクター鉄道でございます。復活の明確な時期につきましては、これから検討に入ります」





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