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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
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第4話 部活2日目

 我が校では、年度当初に全ての部の状態と新入部員、引退部員などの状況を把握するために部長が活動状況表という用紙を生徒会に提出するようになっている。

 人数不足や実質活動がおろそかになっている部については顧問の教師等と協議のうえ、廃部となる。

 

 俺たちの入部によってこの「地域文化部」は、人数は確保できている。

 活動実績については昨年までは問題なかったから、今年どう動くかなのだが、部長・小山が言うには「例年通り」で通したらしい。

 

 部の継続については、問題なし、ということになった。

 活動は他の大規模な部に比べると粛々とした小さな集まりで毎年続いていたそうだが、今年もどうやらそんな感じになりそうだ。

 

 ひとつ気がかりなのは、昨年度途中から顧問の先生が産休に入り、復職していないらしく、そのまま名前だけの顧問になっている点だろうか。

 まあこれに関しては、そのうち何かあるだろう・・・実質顧問が部活にたびたび関与することはたぶんあまりない。インターハイだとか甲子園だとか目指すような体育系ならばともかく。



「はい、今年の活動内容が決定いたしましたー!」


 いきなり小山が大声を上げる。


「いや、びっくりさせんなよ・・・」


「はは、ごめんごめーん!」


 窓側の日が射すほうに一席、部長席が置かれてそこに小山が鎮座する。

 あとの部員は2名ずつ、向かい合うように小山の席と繋がる。

 丁度、コの字型の配置になる。

 俺と高橋が並んで小山の右側に座り、向かい合う篠田と清川が小山の左手のほうから席を連ねる、といった形だ。

 机や椅子をあれこれ移動させたり回転させたりした挙句にこの状態にとどまった。


 部長殿は件の世界地図がお気に召したらしく、背後の窓にでかでかと全面、セロテープで貼り付けてしまっている。

 「ソビエト連邦」の明朝体フォントが、座った小山の頭上で踊っている。


「それ、日差し悪くない?」

 

 篠田の言い分はもっともだ。


「そうかな?」


「そうだよー」

 

 清川も苦笑しながら返す。


「俺たち・・・なんか日光を(さえぎ)って地図を背後に向かい合ってると、世界征服を目指す秘密結社か何かみたいだよな・・・」

 

 俺が言うと「ははは!」と高橋が笑う。「怪しい感じがするよね」


 皆の意見を聞くと、「む~ん」とよくわからない(うめ)き声を挙げて小山は世界地図を畳んでしまった。

 ご機嫌をやや損ねてしまわれたか。

 と思えば俺の後ろでごそごそしている。


「ああ、いや、無理に貼らなくていいし!俺をソビエト連邦に加盟させるつもりなのか小山」


「いえいえそのようなことは決して」


 それから小山は落ち着き無くごそごそと動き回っていた。

 座っていたかと思うと不意に立ち上がり、ぶつぶつと何か呪文でも呟くように独り言を喋っている。


「なんかこう・・・田舎の風景のポスターとかあるときっと落ち着くよね。ね?」

 

 なぜに俺に聞く。


「あ・・・ああ、そうだな。落ち着きの無い小山のためにもあったほうがいいかもな」


「なにそれ!」


「座ってろよ・・・」


「いやー、いよいよみんなと色んな活動ができるかと思うと、あれもしたい、これもしたいと夢が膨らみますなぁ!」

 

 どんだけ膨らんでんだよ。

 いや、楽しいことが多いのはいいことだが。


「蔵田君ってさ・・・スレた物言いをする割にはあれこれ手伝ってくれるよね!不良っぽい外見とか口調とは裏腹に」


「うっ」


「ふふ!ナナはしっかり見てんだねー!図星かぁ?蔵田!」

 

 篠田が肘で突く。


「うっさい」


「ムキになるなよー蔵田ー!」

 

 悪乗りしやすい性格だな、篠田。


「蔵田君って意外といい人かもしれないよね」


「待て、小山、なんでそういう話になるんだ」


「いやー、取っ付きにくそうな印象だったのに、話してみるといい人みたいで安心したの」


「ここに居る連中はいい人しかいないんじゃないか?篠田は別として」

 

 ゴスッ。


「痛っ!」

 

 篠田の肘が俺の後頭部にヒットした。何しやがる。


「こら!!」


「あーらごめんなさいー」

 

 棒読みで反省の態度など微塵もない・・・。

 このままだと俺はいじられキャラになってしまう危険性。

 威厳だ。男としての、威厳を発揮せねば・・・!


「蔵田はちょっと気取って斜に構えた喋り方が多いけど、基本的に無害だよ。小山さんの言うとおり、とりあえず安心してていい。友人である僕、高橋が保障します」


「わぁ」と小山。


「いや、それあんまフォローになってないんだが・・・」

 

 もう今の俺の性格は色々見抜かれてしまっているな。まあ、好きにいじってくれ・・・問題がない程度に。


「わー、3階は校庭がよく見えるね!」

 

 少女は窓から身を乗り出している。


「危ないぞ」

 

 俺の注意を聞いていないのか。

 小山さんはマイペースである。

 小学校からそうだったかな・・・。


 自分も小山の後ろから立って外を眺めれば、トラックを周回する運動部の姿が見える。

 俺もテニス続けてたら今頃あのへんに立ってるかもしれなかったが、まあいまさらそんなことを考えても仕方がない。

 どうやらこの部に在籍してれば、文化祭用の資料集めとかであちこちお出かけできそうだから、運動には事欠かないだろう。


「列車のポスターとかあるといいなー」

 

 席に戻った小山女史はまた呟いている。

 地元ローカル線に思いを馳せたいのだろうか。



 中核となる宮郷線の存続運動は、小山が部活を通じて密かに行いたいメインイベントである。

 

 が、それは表立っては伏せられている。

 

 地域の住民運動を学校の生徒がしていて、それを部活としていると思われると何かと面倒になりそうなことは、部員の誰もが言わずとも解っている事項だからだ。


 あくまでも文化系クラブはその活動の成果を示すための舞台である文化祭を目指し。

 そして学業を補佐する様々な知識の習得や技術の研鑽。そのようなことに費やされることこそが、健全な文化部の在り方ではないだろうか。

 

 うん、学校の教諭ならきっとこう言うだろうな・・・。


 そういうことを見越しての、年間活動計画の全貌がいま、明かされる。

 表のような紙を手にした小山部長の小柄な体躯が、ぴょんと跳ね上がる。



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