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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
59/64

第57話 貸切列車

「よっしゃー!いくぞー!」


 ミズタニンの一言で決定した、”小山部長激励会”。

 これは俺も考えていたことであって、小山には内緒で皆に相談して開催することになった。

 ところが内容をどうするか考えていたところへ水谷顧問、なかなかとんでもない案を持ってきた。


「貸切列車、やってみない?」


 はて。

 それはいったいどのように?

 いつもの部室、いつものメンバー。

 小山がたまたま用事で居ない今がチャンス。

 

 水谷氏いわく。

 鉄道会社に問い合わせてみたところ、直前の申し込みでも大丈夫とのこと。

 仮押さえまでしてあるらしい。

 往復で列車を1両、まるまる借りるのだ。

 勿論運転は運転士が付く。

 パーティーやイベントで、会社やサークル、各種団体の行事でも使われるとのこと。


 確かにこれまで参加させてもらった車内イベントは大抵貸切だったように思う。

 だけど個人で借りれるとは思ってなかったのだ。


「所定の金額さえ払えれば、誰でも使わせてもらえるんだって」


 へえ。

 ミズタニンはよく知ってるなあ。


 基本は乗車定員×往復運賃。

 だから定員が80名なら・・・ええと、いくらだっけ。

 思ったより安価な気はするが、個人で負担するとなるとちょっと大きい金額だ。

 それを、ミズタニンは自腹で負担してくれるというのだ。


「大丈夫・・・ですか?先生」


 篠田の心配ももっともだろう。

 だがミズタニンは涼やかな顔で「だーいじょぶ!夏に気持ち程度のボーナス出たし、蓄えも少しあったしね!」と答えた。

「薄給というのに太っ腹だ!」


 俺が言うと「うるさーい!」とおなじみのツッコミが返って来た。

 おっと、チョップは勘弁・・・ひらり、今回はかわせたぞ・・・。


「すいません、俺からも感謝します」


 ぺこり、頭を下げるときょとんとしてミズタニンは笑った。


「あら、どうしたの、やけに謙虚じゃない。というか、蔵田君は小山さんとふたりだけの貸切のほうが良かったかなあ~?どうなんだ?ああ?どうなんだこの彼氏~!?」


 肘で突いてくる水谷氏。

 わはは、と周囲爆笑。


「ちょ、なんなんですか!」


「いじられキャラ確定だね、蔵田」

 高橋まで。ううむ。


 実行に賛成したのを受けて、ミズタニンは言った。


「実はねえ、ごめん、私が全額負担じゃないんだ。半分は納戸さんが持ってくれることに」


 え?納戸さん?


「知り合いだったんですか?」


 清川も驚いてるが俺も驚きだ。

 面識があったのだろうか。


「おとといね、代表されてた『守る会』の人ってことで、『ウチの生徒がえらくお世話になりました』ってご挨拶に伺ったのよ」

「さすが水谷先生!」


 清川も納得のデキる先生である。


「そしたらね、『とんでもない、お世話になったのはこっちです』って。でね、なぜかそのお宅で話、盛り上がっちゃって。丁度貸切列車のアイデアを話してたら、『是非、小山さんのためにも協力させてください』って」

「いい人だなぁ・・・」


 しみじみ、篠田。


「こういう形でしかお返しできないと思うから、って仰ってたわよ。小山さんは本当に地域の人に愛されてるわね。私も、担任じゃないけど、同じ学校の教師としては鼻が高いわ。もしこれが授業等で私が担当教員だったら内申に高ポイントつけるわね」


 だなあ。小山は周囲に敵を作らない性格だしなあ。


「あなたたちもね。よく、頑張りました」

 



 列車の中ではもうお祭り騒ぎが始まっていた。

 

 乗り込んだのは我々地域文化部5名と顧問1名。

 なんのことはない、いつもの顔ぶれである。

 この面子でこの列車に乗るのもおそらく最後かと思うと、これまでの様々な出来事が思い出されて仕方ないのだった。

 

 激励会というのは一応伏せられていて、名目上は文化祭の打ち上げみたいなことになっていたと思う。

 お疲れ様会やら、少し早い忘年会やら兼用・・・まあ、標題はどうでもいいのだ。

 気の合う連中でわいわいできれば。


「この列車、広々と使えていいよねー!私たちだけだよ!?最初から最後まで!」


 小山が興奮している様を見ることができて俺も嬉しい。


「まあしかし、だいたい通常運行でもガラガラだから常時貸切みたいなもんだけどな!」


 あー、でもどうしてかな。性格上、突っ込んでしまうんだな・・・。


「あはは、それ言っちゃダメ!」


 ・・・小山が笑ったので良し。


「見て!あの銀杏(いちょう)!」


 篠田が車窓から指差す。

 皆が同じ窓にやってきて眺める。

 

 塚森の大銀杏(おおいちょう)

 いつか小山と春ごろ列車から眺めたとき、文化財だって聞いたような。


「もう、見ごろだね!黄色が鮮やかだ!」


 黄色は、小山の色だもんな。


銀杏(ぎんなん)、取れるんだったら取りにいきたいなあ~」


「先生はいつもコンビニ弁当で料理に使うことないんじゃ?」


「こんの蔵田小僧、口が減らんなおぬしはー!」


「あたた、ごめんなさい!」


 ミズタニンに頬をつねられる。

 そしてまた笑い。

 こういうお馬鹿なノリもわが部の・・・ああ、いや、お馬鹿なのは俺だけか・・・。


 高い煙突が見える。

 湯樽駅周辺か。


「温泉、行ったねえ~!」


 小山が思い出し笑い。


「キャンプと怪談だけは忘れないわよ、ずっと」


 篠田が苦笑している。


「また怪談、できればいいわねえ・・・できれば今度も泊まりで。ねえ、清川さん」


「そうですねえ、是非!」


「いやいや、泊まりはともかく怖い話はもういいですから」


「シノちゃんに同じく!私ももうそれはいいかな!」


 篠田や小山にとってはそっち方面は苦手な話題だからなあ。


「見て!すごいわね紅葉が!」


「本当だ、もう完全な見ごろじゃないか」


 篠田と高橋、窓から顔を覗かせる。

 寿法山の裾野は落葉樹がたくさんだ。

 渓谷を越えて、玉池・寿法メイプルロードと言われる地帯を走っている。


 俺と小山は徐々に深まりゆく紅葉を見ながらの通学だったが、彼らにとっては初めてかもしれない。こっち方面にはあまり来ることがなさそうだし。


「イベントの紅葉列車はこのすぐあとだね!」と小山「いいタイミングで開催できそうで良かった!」


 尾早稲に近づく頃、一芸大会などが始まった。

 高橋と篠田がペアで手品をする。

 トランプを使う定番モノだ。

 ときどき失敗もあったが、事前に二人で打ち合わせなどしてたのだろう。

 なかなかに手際がよかった。

 

 それから不意に始まるカラオケ大会。

 機械、どっから搬入してきたんだよ・・・あとスピーカー。

 関係者から借りたのかな。

 ミズタニンの仕業だと思うけど。


「今年一年のいやなこと全部!歌にして!疲れた人もコレでスッキリ!」


 なんか大人の忘年会みたいなこと言ってるな水谷センセ。

 やたら激しい感じの楽曲選択。そして大音量。


「情熱ゥ~でェ~!ブチこわせぇ~常識ィィィ!!オウ イェェェェェア!!」


 知らない人が見たらドン引きされそうな・・・?

 周りの物はぶち壊さんでくださいよ。

 まあ、面白いのでよし!


「私らの知らないとこで、よほど嫌なことでもあったんだろうね」と小山が苦笑いしながら話しかける。


「よーし!私も歌ってスッキリすっか!」


 おもむろに立ち上がる小山。


「よし、その意気!」


 俺が声かけすると「いけー!」「ぶちかませ!」など清川、篠田コンビ。


「ちゃっら~ちゃららららら~ん!」


 小山サン、よくわからんイントロ部分まで歌わんでよろし。


「これなんの歌?」


 高橋が俺の顔を見る。


「いや、知らんけど・・・」


「『柳瀬川慕情』」と小山。


「演歌かよっ!」


 ズコーッ。


「ちょっとナナのイメージじゃ無ーい!」


 篠田の言うとおりだ・・・。


「すごいよ、これ地元の演歌歌手が20年前くらいに出した曲なんだけど、入ってるよ!」


「さすがはカラオケのDOMだな・・・」


「そしてなんという郷土愛・・・」と篠田。


「いいからお歌いなさいな~!」


 呆れるミズタニン。


「さあ皆さん、お手を拝借!」


 拍手と合いの手、強要。小山氏。


「ボエーーーーーー」


 ジャイ○ンかよ・・・というかノリノリだな。良き哉、良き哉。


「いけー!蔵田ー!デュエットだぁー!」


「いや、この歌知らんがな、篠田・・・」


 前に引きずり出される俺。


「手を取り合って踊れ~踊れ~!」


 ミズタニンも悪ノリだ。

 全員、酒など一切入っておりませんので、念のため。




「さて、プレゼントの贈呈と一言ずつコメントコーナーしましょうか!只今からは、『小山部長激励会』!」


「え!」


 驚く小山。

 はいはい、あなたが主役ですよ。


「イエーーーーー!!」


 ミズタニン総合司会のもと着々と進むプログラム。

 折り返した列車はもうじき終点・宮川へと向かっている。

 いよいよ本日の最終イベントか。


「わー、ありがとう~!」


 寒くなる季節に入ってきたので、これからに備えてマフラーと手袋などをプレゼンツ。


「ダブったりとかしてないかな?」


「ないない、キヨちゃん!」


「一応、みんなからね!」と水谷氏。


「ありがとう、みんな!」


「おつかれさまー!」「おつかれさま部長!来年もよろしく!」


 等々。

 今年も一ヶ月以上あるし、年が明けても部活のほうはまだまだ続いていく。



「ではこれより、賞状の授与を行います」


 コホン、とわざとらしい咳払いをひとつして、ミズタニンが俺に合図をする。

 俺は立ち上がり、あらかじめ用意していた紙片を取り出した。


「はいはい、ナナ、前に出て!」


 篠田に促されてそろそろ出てくる小山。


「えー!そんな、大げさだよー!私、なんもしてないのに!」


「いいからいいから!」


 高橋も背中を押す。


 俺と小山が向かい合うなか、周囲に4人が取り巻く。

 コトンコトン、と列車の揺れる音が心地よく響いている。


「・・・表彰状。小山菜波殿」


 落ち着きなくちょっとへらへらと笑っていた小山が神妙な面持ちになる。


「あなたは、地域文化部の部長として、その部の名が示すとおり、地域に根ざした活動を行い、部員の全てを率いてその文化のよさ、素晴らしさを学ぶ取り組みに邁進されました。また、過疎と高齢化の進むこの地を深く愛し、とりわけ地域の顔でもあった宮郷線を守るための活動も精力的に行われました」


 うんうん、と皆頷いている。

 俺の語る台詞に嘘偽りはない。

 正当な、小山への評価である。

 そしてそれは、皆が思うものと同じものだ。


「雨の日も、風の日も、また昨年はこごえる雪の中も立ち続け、支援のためにチラシをくばり・・・」


「ちょっと、蔵田君!アドリブ入ってるでしょ!」


 やや涙ぐんだ表情をしながらツッコミを入れてくる部長。


「いいからお聞きなさい・・・えっと、鉄道の持つ重要性を語り、地域の方々にも深く支持されているのを知っています。数々の困難にもめげず、ひたすらにひとつの目標に向かって突き進むことの素晴らしさをその身体で周囲に表現しようとされました。その姿は皆の目標とするところであり誇りであります。・・・よってその栄誉を讃え、ここに表彰いたします。    小山菜波を励ます会 代表 蔵田靖雄  およびそのともがら共」


 ぱちぱちぱち。

 いっせいに拍手。


 賞状はテンプレを使って高橋が自宅のPCでプリントアウトしたものだ。

 賞状を渡したらどうか?というアイデアも高橋からのものである。

 文面は俺と篠田とミズタニンで考えた。

 賞状の余白部分、というかわざと大きく取ったスペース部分には、小山の似顔絵が描かれている。よく似せて描いたよな・・・さすが清川。


「うっ・・・ども・・・ありがとう・・・みんな、ありがとう・・・!」


 ボロボロと涙を流す小山。そしてもらい泣きする篠田。


「本当に、素晴らしい仲間よね・・・」


 ミズタニンが目を細めてその光景を傍から見つめる。

 俺たちだけの貸切列車は、やがて宮川駅に到着した。




 ところが、サプライズはこれで終わらなかった。

 今度は俺たちもびっくりする番だった。

 驚いてないのはウチの顧問だけ。

 ああ、そうか。

 トータルの仕掛け人は、ミズタニンだったのか・・・!


 宮川駅に降り立った俺たちを待っていたのは、旧・宮郷線を守る会のメンバーの方々だった。


「おかえりー!」「おつかれさまー!」「道中どうだったかなー!?」「楽しかった~?」


 拍手と、次々浴びせられる暖かい言葉の数々。


 その中には、長くこの活動に従事してきた小山に対するねぎらいの言葉も含まれていた。


「小山さんはもちろんのこと、この半年こっちの活動を支援してきた若者の代表として、あなたたちも拍手を受ける権利があるわよ!」


 そう言ってミズタニンは笑顔を振りまく。


「こちらへ!」


 案内されて通ったのは人々の両手で作るアーチ。

 その中を、くぐっていく。

 鳴り止まない拍手。

 外から花かごを持った小さな女の子が楽しそうに花びらを散布している。


「卒業式か、結婚式みたいな!」


 高橋が周囲を見渡してそう叫ぶ。


「ナナちゃん、本当にお疲れ様!」


 主婦の代表の方だろうか、ブーケを持って小山の前に現れる。

 驚いた表情で、でも笑顔で受け取る小山。

 小山を中心に、人垣が出来る。


「みんな小山さん喜ばしたろう言うて、集まったんや!」


「ああ!喜んでくれたかのぉ!」


「若いのに、ようしてくれたなあ。ほんとにありがとなあ、菜波ちゃん!」


 皆さんも結託して粋な計らいをなさる。


「ありがとうございます・・・私は、幸せ者です・・・!」


 一度は降車間際に止んでいた彼女の涙腺が、また決壊する羽目になった。




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