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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
55/64

第53話 一縷(いちる)の望み

「情報の開示に関する請求は確か、行政機関に対して出すもんじゃったかのう・・・なんか難しいことが多いのう」

 

 そう言って老人は(うな)った。

 

 今日は『守る会』代表の納戸(なんど)さんのお宅に来ている。

 いつもの5人。

 日曜日の午後。

 文化祭も終わり、部の活動としてはさほど動く用事はない。

 部員たちで集まってはいるものの、例の部活じゃない裏の活動だ。

 


「昨年はずっとデータを公開しとったはずじゃが・・・今年は更新が止まったままだったりメンテナンスちゅうて見られんページが確かに多い」


 デスクトップPCの前に張り付いて、モニターを眺める納戸さんの表情も重い。


「WEBの管理者が変わったか、多忙か、載せられない何らかの事情か・・・まあとにかく、今の段階でデータ出せとか会社ともめとる場合じゃないし・・・状況が悪いならそれなりに効果のありそうな施策を打っていかんと・・・いやあ、行動が遅いよなあ。すまんなあ」


「いえいえ、納戸さんのせいなんかじゃないですよ!」


 小山がフォローを入れる。


 元々この『宮郷線を守る会』は住民主体の組織で、鉄道会社やその下で住民組織を取り持つ『活性化協議会』に伺いを立ててあれやこれやを実行してもらえるよう働きかけを行う。

 周囲に呼びかけをする以外には特に、実行力も決定権も持ち合わせていない。

 納戸さんは悪くない。

 たぶん誰も悪くなくて、現状はなるべくしてそうなった。

 そういう風に考えたほうがよさそうだと思った。


「デモをしませんか。廃線反対の」


 いつもは同席ではない人が喋った。

 品川さんと言って、40代後半くらいの歳の『守る会』の人だ。

 俺たちは”ヒゲの人”と呼んでいる。鼻ひげをたくわえてる姿がちょっと最近の人にはめずらしい。


「直接周囲に生の声で訴えるんです。もはやビラ配りだけに頼っていられない。・・・いやはや、私も仕事ばかりにうつつを抜かしすぎてしまってて、副代表という立場にも関わらずあまり関与もできず、納戸さんやみなさんにもご迷惑を・・・」


 そう言って頭を掻く。


「何を言うとるんじゃ品川さん!仕事が一番大事じゃろうが。休みの日も疲れとるんならしっかり休まんと生活や身体そのものを壊したら・・・去年の寺山さんみたいになってしまう!」


 気遣いをする納戸さん。


「そうですね・・・」


「しかし昨年はデモみたいなことをやったかのう?わしは全然タッチしとらんからわからん」


「やっていますよ。警察のほうとも寺山さんたちと協議してます。何回か話し合いの席をつくりました。結構、色々な面で決め事だとか承認だとかを取り付けるのが時間掛かった記憶があります」


「それなら、今からだと間に合わないのでは・・・?」


 と俺も口を差し挟んでみた。


「そうじゃなあ。全てが後手後手に回っておる」


「・・・いえ、いけます。おそらくすぐに。昨年の経緯を知ってる方が地元の警察にいらっしゃるでしょうから。私が話をします。・・・よいですか?」


「わしらは一向に。やってくださるなら助かる。皆さんは、どうするかな?」


「OKです」


 小山が代表して述べる。


「私たち、デモにも参加しようと思います。みんな、いいよね?」


 振り返り、俺たちの同意を得ようとする。


「いいよ。やろうよ」


 篠田から声が挙がった。

 みな、頷いた。



 デモ行進は存続派住民やにわかな人々も含めて宮川市内をぐるぐるした。


 社会人も学生も、休日返上で練り歩いた。

 俺は初めてこういうものに参加したが、好き勝手歩けるわけではないらしい。

 あらかじめ警察と協議のうえ、双方合意のもとでルートを選定、許可を得てそのコースのみを歩くということらしい。


 ビラ配りにしろ、行進にしろ、何でも関係各所の許可を得るまでとかの手続きが煩わしく、面倒だ。

 しかも思うほどにはこちらの自由にはさせてもらえない。

 俺らでは計り知れない大人の都合とかもあるのだろう。


 デモの前にはお馴染みのアーケード街で署名運動もやった。

 嘆願書などと併せて自治体の長に直訴する構えだ。

 なんか戦って感じになってきたな。



 大きな布製の横断幕を広げて歩く先頭グループに陣取りながら、路傍の人々を眺める。

 買い物帰りの主婦、今まさに百貨店やスーパーに向かおうとしている女性、営業回りのビジネスマン、散歩してるだけのような老夫婦、昼間からジョギングしているアスリート。

親に手を引かれている子供。

 手を振ってくれる人、ただこちらを眺めてるだけの人。

 反応は様々だ。


 行進には水谷教諭も来たいと言っていたが、学校の教員としてはこうした活動に参加することは禁じられているとかで、沿道から手を振ってくれていた。

 勤務時間外だからいいのではと高橋も言っていたが、どうも学校の規則でダメらしい。

 行進終了後に合流するとか言っていたな。


 しかしこれだけ一緒に行動してたらもう俺らと同じ、生徒みたいだな・・・。

 やたらフレンドリーなのであまり俺たちも強く"教師”とか”顧問”とか意識しなくなったような気がする・・・。 

 「学生の頃に憧れる」とか「回帰したい」とよくこぼしているので、もう”生徒””部員”でいいんじゃないか?と思うこともあるが、まあ、やはり線引きはきちんとしておいたほうがいいよな。



 宮郷線の状況は鉄道会社に問い合わせて、やはり危険レベルであることが判明した。

 昨年同様の取り組みをし、イベントで乗客もそういう日だけはかなり増え、お金もそれなりに落ちているということだったが、昨年の追い込み時に周辺住民に相当の負担を強いた経験からかお手伝いできる住民がリタイアしたり、バスでももういい、と言いはじめた人が増えたなど、そうした要因が挙げられるという。

 イベントデーがトータルして昨年よりも減少しているのも痛手か。

 1日あたりの人出は昨年をやや上回ってるらしいとのことなのだが。


「見て!TV局」

 

 篠田が指差した方向にカメラ機材を担いでいる人や集音マイクを持つ関係者の姿が。


「マスコミ、取材に来てるんだね」


 清川もきょろきょろしている。


「行進止まった」と俺。「すぐ前で取材はじまったぞ」

 


「ないと困ります、バスでいいと言う方も増えましたが、まだ鉄道に替わるだけの道路の整備ができてないと思います」


「長く親しんできたし、この辺の顔じゃしのぉ」


「シャトルバス以外はバス便、逆に使い勝手悪いんですよね。ええ、鉄道の駅1つづつ回ってくれる便も今できてますけど、道が酷くて。ガタガタで蛇行してるし。値段はともかく、乗り物酔いになりますわ」


「鉄道の方が安全で快適だと思うんですけどねぇ」


 マイクを向けられた人たちが普段思っていることを述べている。


 粛々と歩いているのは小山のお母さんだ。

 胸元にお父さんの遺影を抱いている。

 



 デモ行進はあらかじめ決められたコースをなぞって、やがて市役所へ。


 結構、TV局や新聞社などのマスコミが付いて来ているようだ。

 代表らが署名と嘆願書を手に、存続の訴えをする。

 書類を提出し、用を終えて帰ってきた納戸さんや品川さんら数名に向かって、盛んにフラッシュが焚かれた。


「いかがでしたか、代表!」


 取材陣の中から女性がマイクを向ける。


「市長に手渡してきました。やっぱり危機的状況を打破するにはこういう施策が有効なんじゃないかと思いましたんでね・・・あ、線路は宮川市内だけじゃないんで、他の自治体にも同じことをやります」


 納戸さん、いくぶん緊張した面持ちで回答。

 マスコミの取材など経験がないからだろうか、やはり。

 俺も囲まれるとたぶん緊張するだろうなあ・・・などと取り巻きの一人として様子を傍観している。


「ここで解散します!皆さん、今日はお忙しい中ありがとうございました!最後まで、存続を支援し、戦ってまいりましょう!」


 副代表の品川さんの一声に、「おおー!!」と声が周囲から挙がった。




 「みんなもお疲れさ・・・」こちらに向かってミズタニンが喋りかけたところで、先生は固まった。

 視線の先に、また嫌なものが入ったようなリアクションだ。

 ああ、わかる。

 なんとなくわかるわ、もう。

 ・・・やっぱり、来ていたか・・・。


 皆の視線がその男に集中する。

 まさかデモ行進に加わっているはずはない。アンチなのだから。

 ここで、俺たちの到着を待っていたのだろう。


「いよいよ正念場、といったところか」


 はい、無視、無視。


「邪魔」


 ミズタニンも素っ気無い。


「去年もこのへんから挽回(ばんかい)した・・・だが今年は状況が違うようだな」


「あんたには関係ない。これは、私達の戦い」


 なんか言いたいことをみんな代弁してくれてるぞ水谷先生。


「ただ黙って様子を見てるだけなわけ?・・・暇ね」


 市役所の入り口。

 柱に背中を預けて喋る追川に、背を向けて喋るミズタニン。

 俺たちは、その周りにいる。


「まあフリーランスだからな。時間の都合はつくさ」


「そう」


「身内を殺害された者としては、その存在が死刑執行されるまで、見届ける責務があるからな。まあ、それももう間もなくだ。オレは何もしない。ただ、その瞬間に立ち会うまで、追い続けるだけだ」


 全てを諦め、あらゆるものを憎悪するかのようなまなざし。

 こんな男でも、木谷さんは尊敬しているのだと言う。

 まだ見たことのない優しい側面を、この男も持っているのだという。

 人は誰しも、優しさと醜さを伴った存在・・・その比率がどうあれ、そのような両面を持つ者だろう。

 だが俺たちはその立場が正反対であるがゆえに、反目することしか知らない。

 悲しいものだ。お互いに。


「見せてもらおうじゃないか最後の悪あがきを」


「ふん。言われなくても」



「いつもながら、わかりやすい悪役ごくろうなこった」


 吐き捨てていた。


「あの人には悪いけど。まだ終わってもらうわけにはいかないよ」


 去っていく寂しそうな男の背中を目で追いながら、小山は呟いた。


「かわいそうな人・・・」


 おもむろに小山がバッグから取り出したものは、両手に収まるサイズの鉄道模型だった。

 黄色い宮郷線カラーの車両だ。

 今日の行進に、遺影とともに歩いていたということか。

 そういえばお母さんは別の用事があると言って一人で帰られたんだったな。

 その模型は棺に入れようとしたが思いとどまり、大切に所持している形見じゃなかっただろうか。

 小山が、以前車内で話してくれた・・・。

 いわば今や”父親の分身”なのかもしれない。


「お父さん、いよいよだよ・・・私たちを見守っていて」




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