第52話 存続のゆくえ
あれだけ長かったと思われる夏が過ぎ去ってしまうと、秋の気配はもう既に足早に冬へと向かって進んでいるような気がする。
もう収穫のシーズンだ。
稲刈り体験列車の運行もあった。
その間も家の農作業の手伝いなどをしていたりそれなりに忙しい日々を過ごした。
前に列車内で小山と話した、”田んぼアート”の対象となった場所でのイベントにも参加した。
盛況だった。
イベントは常にたくさんの人でいっぱいだった。
ひとつ気がかりなのは、平時の乗降は相変わらず閑古鳥が鳴いている、ということだった。
大きな乖離。
平日と、休日。
地元民とよそからの人たち。
イベントデーとそうでない日。
宮郷線は日によって、全く異なる路線であるかのようだった。
もはや、イベントと観光なくしては存続は不可能ではないか。
これだけ外部から、あるいは地元から休日の集客があるのであれば、ここを守り、発展させてさらなるリピート率の向上を・・・おそらく存続派はそう考えていたことだろう。
勿論俺も。
そんな矢先。
俺と小山はいつものように学校からの帰宅の途についていた。
普段見慣れない人たち数名が、俺と小山が降りた七ヶ瀬の駅で降車した。
この駅で、この時間に平日に降車するのはほぼ、俺と小山しか最近はいない。
大学生か、若い社会人に見えた。3名。
大きな望遠レンズのついたカメラを3人ともが装備している。
「おっ 原住民いるらしいぞ」
「マジか」
「いま降りた」
「こんなへんぴなとこから通う学生とかおるんやな」
「信じられん。都会じゃありえん」
丸聞こえだが、さんざんな言われようだな俺ら。
「ちわ」
意外と近くに居たので軽く会釈をして通り過ぎる。
「うっす」
向こうも一応返してきた。
「現地の学生?」
太った丸眼鏡の男が話しかけてきた。
「ええ、まあ」
「高校生?宮川まで通ってるの?」
「そうですよ」
「時間すげーかかるっしょ。あと、お金!」
まあ、外部の人間なら気になるかもしれないな。
「ああ、定期なんで。それとちょっと県のほうから沿線住民には補助金出るらしいんで。このへんの市町村はお金ないから難しいらしいんですが。俺が直接払ってないんで家のもんのほうが詳しいんですけど」
小山がどう対応したものかと俺と3人を替わる替わる見つめる。
「大学生の方ですか?」
「おう、ま、そんなとこやな」
身体の大きい男が答えた。
「この辺の方じゃないみたいなんですけど、どこから来られたんですかー?」
小山が口を開いた。
「オレら関西とか関東方面とかいろいろ。まあ、いいじゃん何県でも」
「おー!凄いですね、遠くからよく来てくださいました!」
小山はそういって歓迎の意を込めて笑顔を送ったが、のっぽの岩みたいなのと太っちょともやしみたいな不健康そうな男らは特に表情を変えず。
もやしみたいなひょろっとした男が返事をした。
「いや、別にこんな田舎来たくて来てるわけじゃないんだが・・・」
「せやな!俺ら列車撮りに来ただけやし」
ああ、いわゆる鉄の人らか。
撮影を主にして回ってる人らを確か”撮り鉄”とか言うんだっけ。
「ああそう、いわゆる撮り鉄よ。今日は3人の都合が会う日がたまたま今日だったから来たわけだ」と、ひょろっとした男。「”葬式”も巡回してるからまた近いうちに来ようと思ってるけど」
「葬式・・・?」
小山が怪訝な顔を男達に向けた。
「ああ、知らんか。俺らは別に自分らをそう呼んでるわけじゃないが、周りからは"葬式鉄”とか言われてる。現役列車の最後を看取って回ってるんだ」
「そうそう。オレら、撮り鉄がメインで鉄道をあちこち撮影して回っとるんや。”葬式”はそん中に含まれるな」
ひょろもやしに続いてのっぽ岩。
「今日は事前にイベントじゃない日を撮りにこようぜってことで意気投合してねぇ。お亡くなりの日だとオレらみたいなのも含めてたぶん大量の人が来るだろ。そうすると普段の列車は撮れないからね」
ふとっちょが肩をすくめながら笑う。
「あの・・・まさか葬式って・・・」
小山が嫌悪感をあらわした。こういう顔は滅多に見ない。いや、俺も小山との付き合いは長いが初めて見る気がする。
「これ・・・ですか?」
そろりそろりと右手を駅舎のほうに向けた。
駅舎ではなく列車が去った後の線路を指したのかもしれない。
俺たちはまだ駅舎を出たばかりの位置で立ち話をしていた。
「うん、宮郷線。この秋で廃止になるんでしょ」
は!
それはいったい。
「いやいやいや!ちょっと待ってください!そんな公式発表、どこにも出てない!・・・そうだよな、小山!」
「も、もちろん!私たち、存続活動してる住民で、それなりに状況わかってるはずですが・・・」
うろたえる小山。
「はぁ!?あんたら『守る会』とかなんとかいう団体にいる人?」
途端、太っちょの態度がやや悪化。
「そうですけど・・・」
「ふーん。じゃあ、鉄道会社とか協議会のサイト見てる?」
「ええ、見てますよ・・・」
小山、やや怯えた表情に見えるな。大丈夫だろうか。
「更新、止まってるよね?オレら見てきたし」
よくチェックしているもんだな。鉄道マニアだかオタクの人ってこんな感じなのか?
いや、この人らだけだろう、たぶん。
「それが何か?」
俺が答える。
「それは気になってて、運営の方に問い合わせしましたよ?今いろいろあわただしくしてて忙しいから、更新できてなくてごめんなさいと・・・」
「3ヶ月以上止まってたよ。それまでは毎月こまめに状況をアップしてたのにね」
「せやな。あんたら、運営の言うこと間に受けとるんと違うか?」
「それはいったい、どういう意味ですか・・・?」
返す小山。気になって仕方がないようだ。
「更新でけんのは、忙しいからやのうて、『更新せなんだほうが望ましい』からとちゃうか?」
小山が絶句する。
そうか、そういう可能性もあるな・・・。
素直に信じすぎていた・・・?
「つまり、更新できないのは、存続の条件である乗客の達成ノルマに、遠く、・・・」
「そうだね。男子君の言うとおり。残念だがおそらくノルマ達成の条件に厳しいと知った会社側が、ぎりぎりまで公表しないつもり、というのがオレらの考えだ。それが確信できるからこそ、今日わざわざ時間取ってここまで来たんだ」
ひょろひょろの男性がこちらを見据える。
「実際、昨年で終わりと言われてたらしいことも知ってるよ。今年が1年限りの延長戦、エクステンドだってことも」
「いやいや、そんなことは!」思わず反論する俺。
「ちゃんと確認したのかい?昨年同様の条件達成でもう1年延長があるかどうか」
「確認してます」
厳しい表情で小山が言った。
「『守る会』それに『協議会』の間の話し合いでそれは確認済みです。だからこそ、今年も応援してるんです」
「小山・・・いや、彼女の言うとおりです。それに、今年で完全に終了することが内々で決まってるのに支援したり、支援するよう焚き付けられたりしてたとあっちゃあ、問題でしょう?笑えないピエロだ」
俺の意見を受けてガタイのいいのっぽが返す。
「まあなあ。そう言われりゃそうかもしれん。けど、ネットとかじゃもっぱらもう噂になってるで?『宮郷線は終了濃厚』『関係各所のサイトが具体的な営業成績数字を挙げないまま更新停止中』てな。この場に来れんでも気になって動向を追っとるオレらみたいな鉄も全国にようさんいてるしなぁ」
悔しいが、こちらもなかなか言い返せない。
「ちゃんと聞いてみいや?まあ、ほんまにヤバそうな状況やったら関係者もなかなか口が重いか口を割らんかもしれんが」
そうだな・・・そうしたほうがいいかも知れない。
「それはともかく今日はなかなかいいショットが撮れた。葬式の日はまた話しあって、来るようにする」
ひょろい人が言う。
「引き止めて済まんやったな、兄ちゃん、姉ちゃん」
「俺らもそろそろ撤収するんで、また」
一方的に会話は打ち切られた。
三人は手を振りながら去っていく。
「帰りの列車相当まだやからバスで帰るで」
「当然」
なんかそんな会話が遠くでまだしていた。
「小山・・・?」思わず心配になって声を掛ける「気にするな?」
「うん・・・」
明らかに元気がない。
まあ、そうだよなあ・・・。
俺もさっきのあの発言の数々には参った。
俺たちはイベントをがむしゃらに支援し参加することでなんとかしようと躍起になっていた。
でも、周りが見えていただろうか。ふと思う。
中心に居ては見えにくいものもあるのではないか。
今日の大学生らはそれを暗に示してくれた気がする。
とにかく、聞けるものなら、状況の今を、真実を知りたい・・・。
「よし、今日はごはん作りに行っちゃうぞー!いいか?いいよなっ!」
軽く背中を小突く。
あと、続けて拳でぐりぐり。
「あはは、くすぐったい、やめてー!」
よし、ちょっと元気になった。
「もちろんオッケーさー!ゲームもやろう!お母さんと三つ巴バトルだ!」
「いいねえ!受けて立つぜ!」
徐々に夕日が西の山裾に落ちようとしていた。




