第51話 文化祭(2)
一般の方々も入ってくると、途端に学校内はせわしなくなった。
春からこの学校は不祥事が相次いで地域の評判もやや翳ってきていたためか、学校を挙げて「地域の、保護者以外の方々にも学校の取り組みをみていただこう、頑張りを評価していただこう」ということで広く声かけが行われた結果、学校に直接関係のない地域住民にも多数来てもらえることになった。
なので、現在、いろんな世代の男女が入り乱れて学校内を動き回っている。
まあこれはこれでいい感じ。
一般の方のにこにこした笑顔を見るにつけ、ああ成功してるなあと感じられる。
勿論、我々3部合体の展示室にも沢山の方々が押しかけて来てくださった。
地域特集の展示「宮郷線の昨今~ぼくらのまちをゆく列車~」は一般にも好評だった。創業時から今年の運行状況に至るまで、取材してきた結果と撮影した数々の写真で来場者にこの鉄道の重要性と存続を訴える。
共感していただいた方も多く、学校以外でも展示して欲しいという声もあったほどだった。嬉しいね。
高橋のCD-Rは割とこまめに売り上げが伸びている。
学内の生徒ではなく、一般の方々が手に取る場合が多い。
プリントアウトされた展示見本であるサンプルをまじまじと見つめながら「へー、こういうとこあるの?え?源田町?」「宮川市内にもこんなスポットが」と様々な意見や感想を述べて帰られる方も。
学生だけでない地域住民とのコミュニケーションの良い場ともなり、ふるさと再発見、みたいな。
一方で清川のブースは行列ができていた。
宮郷線キャラクターの非公式グッズが出ていると噂で広がり、ファンも訪れている。
最近はネットとかで告知したり一瞬で拡散したりとかあるからなあ。
勿論学校の内部でも密かに清川のイラストは人気で、「取り置きしておいて!」と予約を入れてからいったん立ち去る者も。
清川の前に来ずに、彼女のケータイへ直接予約電話やメールを入れて来る者もいた。
「いらっしゃいませー!どうぞ、ご覧になってくださーい!」
小山が声を張り上げる。
「どうぞー!見本もあります!展示もありますのでゆっくり見てってくださいー!」
俺も追随。
小山は法被みたいなのを着ている。
いったいどこで調達してくるんだ・・・。
この衣装のお陰でお祭りみたいな雰囲気がより強調されてる気がするな。太鼓を叩く娘さんのようだ。
小山のお陰でいままでの日々がすべて祭りのような賑やかで華やかな日々だった。
そんな毎日が、きっとまだこれからも続いてゆく。そう信じている。
などと思ってたらしばらくしたら「女子はいったんお色直しに退場です」とか言い出した。
「何事だ?小山」
「いやいや、ちょっと着替えてくるから売り子よろしくー!」
とのこと。
清川もトイレ方々衣装替えらしく。
「これ、つり銭箱。小銭入ってるので。あと、品物の値段は値札見てね!頼んだよー蔵田君」
清川と交代だ。
「了解」
高橋と並んで次々入ってくる生徒や一般人の応対に当たる。
「しかし、盛況だな」
「だねえ。今年は特に一般にも広く声掛けしてて集まったみたいだからねえ」
しばらくすると女子ズ3人が帰ってきた。
揃ってメイド服か!
「はいどうも、メイド合わせでーす!」
小山が愛嬌を振りまく。
三人揃うと壮観だな。
白いエプロンドレスとカチューシャが目立ってる。
「おー!」と周囲からも声が挙がる。
「だんだん違和感なくなってきたじゃん」と俺が言うと「これで3度目くらいだからねえ!」と小山。
また衣装を清川に借りたんだろうか。あとの2着は清川の知り合いからのまた貸しのような気もするけど。
「はい、高橋と蔵田はまだ売っててね!」と篠田。「あたしらはお客さん応対するよー」とのこと。
中央には机が固めておいてあり、来場者が座ってくつろいだり談笑したりできるスペースが設けられている。
そこへ、女子連がそうした格好で無料でお茶やコーヒーなどを振舞う。
「こんにちはー!」
やってきたのは木谷さんだった。
いつもの通り、カメラを首からぶらさげている。
大抵ラフな格好だが、今日もそんな感じの服装だ。ジーンズにYシャツ、綿ジャケット。
中年、というほどではないがおっさんなりかけの青年、みたいな。この人そういえば何歳なんだろう?30代くらいかな・・・?40いってるのかな。
「いらっしゃいませ、お久しぶりです」
「久しぶりですね蔵田君!今日はタキシードみたいなの着ないんですか?それか包帯」
屈託なく笑う。
「いやいや、ちょっと今回は。特に包帯はもういいですよ」
「あはは!自分ももういいです!・・・ってか、おおー!」
何がおおー、なのか。
木谷氏は女子連に目がいってる様子。
「どうも、お久しぶりというか、こないだ列車でお会いしましたよね!」
「小山さんどうも!いやーいいね、メイド、グッジョブ!」
おもむろに一眼を構え始める。
「1枚・・・いや、4、5枚いいですかー!」
「ええ、どうぞ!」
小山、篠田が応じる。
「清川さんもいい?」
「ええ、いいですよー。あ、木谷さん、あとで写真くださいね?」
「勿論ですとも!お持ちしましょう」
そいえば木谷さんと清川は前に即売会でも同席して宮郷線グッズ売ってたりしたから一応旧知ということになるんだろうな。「守る会」の人でもあるので、こっちでは小山と知り合いみたいだし。世間は狭い。
撮影会がにわかに始まり、お茶をすすっていた一般人や生徒らも振り向いたりしている。
「視線くださーい!三人、ぎゅっと寄ってもらえると!そうそう、そんな感じで!」
「木谷さん・・・綺麗な景色とか撮影して回ってるとか言ってませんでしたっけ」
苦笑しながら問いかけると木谷さん、生真面目な顔で「ええ。言いましたよ。ちなみにいま目の前に広がっているのが、綺麗な景色です」
「あらお上手ですね!」
篠田がにやけている。
まあ悪い気はしないよな。
「やー、今年のカレンダーはこのお三方にしようかなー」
いや、さすがにそれはいろいろまずいような・・・。
女子ズ撮影後、木谷さんはお茶を飲みつつ俺らとたわいない話に花を咲かせ、またこれまでの成果である展示の方も見てくれていた。
「いやー高橋君、よく撮れてますね!もうすっかりプロ並!」
「いえいえ、それほどでも。しかし、ありがとうございます」
相変わらず謙虚な高橋である。
「星とか夜景も撮ってるの?すごいなー!」
「ああ、これはこないだ仲間と山で天体観測をした際に撮影したんですが・・・」
「流れ星、撮れてる!」
「ええ、たまたまですが・・・」
「運がいいなー。結構失敗するものらしいですよ流星とか。ノイズが入ったり、露出かけすぎると画面全体が白くぼやけるし」
「されたことあるんですか?」
「ええ、前にちょっと。でもすぐ挫折しました、長時間待った割には失敗が多すぎて・・・カメラマンには向いてないのかもしれない。これ、広角で撮った?」
「エエ、広角レンズで。ただ、広角だと星を捉える率が上がる反面対象物が小さくなりがちですよね」
「うん、そうなんですよね」
なんか専門的な話になってきた・・・が、お互い楽しそうだ。
「こんちはー!」
今度は誰だろう。
あ、中華飯店・大飯元のマスターだ。お嬢さんも連れている。
「おねえちゃーん!」
「あ、さえちゃん!」
マスターの娘さんか。
清川はもうすっかり”お姉さん”になっているんだなあ。
「いやー嫁には言えないけど、華やかでいいですなあ!」
豪快に笑うマスター。
「今日はお休みですか?」と声を掛けると、「ええ、休みです!」と返ってきた。
定休日なのか、休みにしてしまったのか・・・まあともかく。
「懐かしい!学生時代を思い出すなー。オレらもよくこういうことやったもんでさあ!・・・あ、忘れないうちに娘が欲しがってる清川さんの品を買わせてもらわねば!今日はどうしてもと娘が言うもんで」
「言ってくださってたら取り置きしましたのに」
「いやいや清川さん。やっぱここに来て買ったり雰囲気を味わうのもまたアレですからね!」
仰るとおりだ。こういう空気は日本人は大好きだろう。
「はい、どうぞ。お代はいいですよ」
「いえいえそんな!いつも家庭教師してもらってるのに!」
「いえいえこちらこそ!お互い様ですよーこっちもお世話になってますし!」
なんか譲り合ってて微笑ましい。
「お休み、休日なのにいいんですか?お店の営業とか」
清川もやや気になるんだろう。
「あー、いいのいいの!1日くらいどうってことない!」
えらくまたワイルド発言。
「たまにゃ休んで息抜きしないとだめですよ!」
セルフフォロー。
まあこの人働きすぎてる気がするからいいよな、別に。
「今日とかマスターがお店出せたらよかったのにー、って思いますよ」
篠田の率直な意見。俺もそう思うわ。
「ラーメンおいしいもんね!今日の文化祭、ラーメンの出店はなかったはずだから繁盛するよね、絶対!」
「ははは、小山さん、一般人だからオレ!店は出せないでしょう」
そりゃそうだ。学生しか露店みたいなのは出せない。一応学校だから。
「でももし出せたら大変なことになりますよ」
「えっ、それはどういうことですかー?」
小山の頭上に疑問符が浮かび上がる。
「オレの店がお客を総取りしてしまいますんでね」
顎に手をやりポーズを決めるマスター。目の奥が一瞬、キラーン、と光った。ような気がした。
「ははは!」
皆で笑いあう。
いやあ、楽しいなあ。
「ほう、コレが部の皆さんの展示ですか。いやーいいなあ。わが町、文化!ふるさとは大切にしなきゃあね」
いちいち喋りながら巡回してる。面白い人だ。
「しかし、宮郷線の写真は絵になる・・・」そしてこちらに向き直ってマスター、やや真面目な顔で喋る。「いよいよですね・・・まもなく存続の是非が問われる・・・」
皆、一瞬険しい顔つきになった。
そうなのだ。
もうしばらくしたら。
廃止か、存続かが、決定する。
どちらの回答であっても俺たちにはどうすることもできない。
出来ることはしたのだ。あとは天に任せるほかない。
「はあーい!みんな元気にしてるぅ!?」
静かになりかけたその場を回復させたのは、地域文化部顧問・水谷教諭の一声だった。
「センセ、おそーい!」
小山が頬を膨らませる。
まあそれだけ期待されてるというか待たれてるということだからね、先生。
「あーごめんごめん!いやーまた着替えたの!?いいわねー!・・・ちょっと!高橋君!カメラ持ってる!?」
「ああ、はい持ってますよいつでも。コンデジですが」
「よろしい。彼女達の撮影、よろしくね!構図はまかせるわ!サイズ2Lでプリントアウトしてちょうだい。お金は払うから」
「わ、わかりました」
苦笑する高橋。
とても教師の発言とは思えん。愉快。
「あんたたちも気を利かせて燕尾服でも着てきてよー」
「無茶言わんでください先生」
俺の反論にも怯むことなくぶーぶー言ってる。
「折角のお祭りなんだからねー」
いや、あまり関係ないような気がしますが・・・。
賑やかに、華々しく。
文化の祭典は続いていった。




