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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
52/64

第50話 文化祭(1)

 夏休みも明けてしばらく。

 テスト期間も明けてさらに。

 

うるさいセミの合唱も今やすっかりなりを潜め、気候も初秋の匂いを漂わせている。

 そして俺たち地域文化部の面々は、文化祭当日を迎えていた。


 列車に乗ってぐるぐるしたり、町をぶらぶら散策してたばかりのような気がするが、集まってきた展示物を見るに、知らない間にかなり資料を集めてたんだなあと気付かされる。


 半年間の集大成を、ここに。


 ・・・といってもそんな大げさなものは何もないけど。


 文化部はいくつかの教室に分散して展示などを行う。

 少子化のせいか近年は空き部屋が校舎内に割と出来ているから、普段は物置とか何か企画がある時にしか使われない部屋もあり、そうした場所を占有する格好になる。



 そんな教室の一角。

 

「ウチの連中と比べても遜色ないっていうか・・・高橋君?写真部今から入らない?」


 なんかスカウト受けてるヤツ、約1名。


「いやいや、そんな大したことは」


「ご謙遜!上手いよねえ、被写体の捉え方っていうか、フォーカスのかけ具合とか」


 この教室は地域文化部のほかに、写真部、歴史研究部が一緒に展示を行っている。

 割とこう、何をしているか良くわからない部とか思われてるらしく、3つの部は「とにかく目立っていこう!」を合言葉に様々な施策を検討してきた。


 その結果の表れがこれである。

 出入り口に、教室のあちこちにべたべたと貼られたポスター。

 こういうイベント時によく見かける、折り紙で作った短冊を輪っかにして吊るしたものと、びらびらのいっぱい付いたモールが垂れ下がりまくっている。

 なんかすだれみたいになってんぞ・・・いいんかな。


 そこまではまだいいが、金ぴかの星とか毛糸の靴下とか壁に貼ってあるんだが・・・雪だるま人形とかツリーが置いてあったり・・・カオス。

 クリスマスじゃないんだぞ・・・「賑やかそうなもんとにかく集めてみました!」って感じがありありだ。

 大人しそうな文化部が静かなクラブと思ったら大間違いなんだからね!

 みたいな・・・。


 壁および窓ガラス、出入り口ドアには黒のシートが貼られ、室内は日光を(さえぎ)っていて、蛍光灯の明かりが夜っぽさを演出。

 あと、ミラーボールが室内中央に置かれて赤やら青やら緑やらの光を周囲に絶えることなく発射しまくっている。

 誰だよこんな機械持ってきたの。

 ダンスホールじゃないっちゅーの。


「このミスマッチ感がいいよねえ!」


「そうそう!」


 写真部と歴史研の女子部員同士がけらけらと笑っている。

 え・・・そうなのか??



「間もなく一般のお客様も入ってこられます!校内にてまだ準備中の生徒は急いでください!」


 全校アナウンスだろうか。おそらく放送部員のマイクの音が教室のスピーカーを鳴らした。


「大丈夫、準備はできてるよ。いつでもオーライだ」


 高橋はそう言って俺に親指を立てた。



 今回の文化祭は部としての活動のあれやこれやを取りまとめてくれたのは高橋である。

 さすが優等生だけあってちゃきちゃきと準備を主導してやってくれた。

 小山も口を差し挟むようなことはせず、黙って彼に任せた格好だ。

 高橋の指示で皆いろいろ進めた準備も本日この時点で終了となる。

 あとは対応と後片付けをするのみだ。


 壁にはこれまで発行してきた部の新聞。

 そして、俺たちがあちこちを歩き、取材してきたわが町周辺の歴史的遺構や景観の良い場所のガイドが、パネルに入れられた写真とともにずらりと並ぶ。

 いやーいいなあ。圧巻だなあ。


「我々のお株を奪われた格好だなー!」と歴史研の男子部員に言われたが、確かにカブってるとこはあるよね。

 でもまあ、地域を見ていく上で、その地の歴史を調べるのは必然になってたからなあ。

 ああ、あと写真部ともカブってるかも・・・。ま、なんというか。



 高橋は「売り物もあったほうがいいよね」とか言うことで、「写真集を作る」と言い出していた。

 で、実際その写真集が机の上に並ぶ。

 高橋が主に撮影した風光明媚な周辺地域の景観を収めたものだ。


 ためしに一度試作品を皆で見てみたが、その完成度の高さに唸ったものだ。

 様々なPCのディスプレイサイズに合わせて解像度の異なる大きさの壁紙も収録。

 さらにブラウザソフト上で動かせるようにHTMLでリンク作成やスクリプトを組むなどハンパない。

 パッケージは市販の空のソフトケースをまとめ買いして、ジャケットもPCで作成して挿入するなど徹底している。

 あ、ジャケットの寸法を測って切り抜いたりソフトケース背面に挿入したりは俺らもやったけど・・・手伝いとしてはその程度だった。


 高橋はどこでこういう技術や知識をあっという間に吸収してしまうんだろう。

 どこの世界にも容量のやたらいい人間っているけど、彼はその典型だ。

 カメラだってそんなにいじったことないって部に入ったばかりの頃に言ってたような気がするけど、今や写真部の連中からも一目置かれる存在だ。

 いやー末恐ろしい。


 そして学校の勉強に部活、塾通いの合間を縫って大変だったろうに。申し訳ない。


「済まない、何もかも任せっきりになっちまって」


「そんなことはない、蔵田だけじゃない、みんなの努力の賜物さ!」


 そう言って軽く髪を掻きあげる仕草をして笑った。

 相変わらず爽やか好青年である。

 苦虫を噛み潰したような表情でいつも周囲を徘徊しているような俺とは雲泥の差なのである。

 嫉妬なんてしていないぞ、いや絶対に。

 うらやましくなんか・・・ない!

 しかし、文句ひとつ言わずあれやこれやをテキパキとこなしてしまう彼の手腕は部内でもとっくに評判だ。

 不安があるとすれば、彼が将来悪いヤツに漬け込まれないように、ということだな・・・。



 さて高橋の隣の机では、いそいそと動いていた清川が準備を終えつつあった。

 何かできそうなことはないだろうかと思ったが、何もできることはなさそうなのであった・・・。

 清川は今や”宮郷線のマスコットキャラの人”ということで学校内でも知名度が上がっており、今回もそのキャラ”みやちゃん”にちなんだグッズを販売する。


「これすごいな清川!どこの業者に頼んだんだ?結構値段するんじゃないか?」


 聞いてみた。


「んー、いや、どこにも頼んでいないよ?」


 との回答。あれ?


「じゃあこの缶バッジ、どうやって?」


 高橋も横から聞いてくる。


「こういうのを作る専用のキットを売ってるんだよ、ホビーショップで」


「えっマジで」


「うん。だから自宅で作ったんだー。作る手間がちょっとかかるけど、すごく安くあがるんだよ。初期投資としてキット代が4,5千円くらいかかるけど、何度か使おうと思う人なら、売れればすぐに元が取れちゃう」


 へえ・・・そういうものか。すごいな。

 いわゆる、市販されてるバッジと比べても遜色ない出来だ。


「別に自分で描いたイラストでなくても作れるんだよ?たとえば高橋君が撮影したお気に入りの写真とか・・・」


「へえ!僕の写真でも出来るの?」


「うん、出来る。なんなら今ここでやってみようか?」


 清川はなんかごそごそと後方からキットを取り出した。


「持ってきてるのか!」


 俺の声に「うんそう」と清川。「自分のも、売れ行きに応じて必要ならここでがしがし作っちゃう!」

「おお、それは面白そうだね!どうやって作るんだろう?」


 高橋はプリントアウトしてきていた予備の写真素材を取り出す。

 受け取った清川は、それを台座のサイズの円形のカッターでくりぬき、バッジの裏と表に相当する金具のようなもので挟み込む。

 台座に収まったそれを、上からがちゃん、と押し込んでプレスすると・・・あら不思議。


「もう出来た!?」


「うん、出来た。はいこれ」


「わー!ありがとう清川さん!」


 へー。こうやって作るのか。面白そうだな。


「ところでこのキャラ、鉄道のキャラで定着してると思うが、勝手に作っても大丈夫?」


 一応、俺から聞いてみた。


「うん、大丈夫だよ。著作権は譲渡してないから私にあるし。二次創作も公に認められているんだ。ちゃんと許可も得てる」


「ほう」


「蔵田君も、私のキャラで宮郷線をアピールする漫画描いてもいいんだよ?」


「いやいや。絵心ないし遠慮しとくわ・・・」



 そいえば小山や篠田はどこ行ってるんだ・・・。

 とか思ってたら、帰ってきた。

 なにやら食べ物を手にしているようだ。


「また買い食い行ってたのか小山ー!」

 

”買い食い選手権”とかあったら絶対優勝。

 文化祭で”ミス・買い食い”とかあったらぶっちぎりで1位。小山サン。


「うんそう!これ、ポップコーンと焼きそば!」


「朝から焼きそばですか」


「いいじゃん、朝食食べてないんだし。蔵田君も手すきなら行ってみなよ、どの教室も既においしそうなもん・・・あれー!!」


 あれーってなんだ。


「ちょっとー、ナナ!お釣り、100円あなた忘れてるってよ!はいこれ!・・・ってあれー!!」


 だからなんなんだ・・・。篠田も。


「このうるさい大音響、ここが原因だったかー!」


 おお、そんなにうるさかったのか。

 確かに開幕当初から洋楽ロックだのユーロビートだの激しくて派手な楽曲が流れている。

 きっと写真部の誰かの趣味に違いない。


「ちょっと、狂ったカラオケ屋みたいなBGMと装飾、やめようよ・・・!」


 篠田がめずらしくまともなことを言っている気が・・・いやそんなことはないか。


「変だよね~シノちゃん!」

 

 小山にも良くわかる異常空間。


「変なんてもんじゃないってゆーか・・・何を目指してるのかわからないじゃない。お笑いやってんじゃないんだからねえ!」


「そうは言ってもだな・・・まあ、俺も似合わんとは思ってるんだが他の面々がこれがいいと仰るので、まあいいかなと」


「よかないよー!」


「もっとこう文化的なことをやってるのに相応しい曲とかあんでしょうが」


「篠田お前、洋楽とか普段聞いてんじゃん」


「違うのー!それとこれとは話が別よ!」


「あと何これ、蛍光灯はいいとしてレーザー光線みたいなのやめようよ、展示が見えづらい」


 小山部長の仰るとおりである。

 確かにそうだ。

 内装に凝ったはいいが肝心の展示物が見えづらくなっては本末転倒だ。

 俺たち3つの部は協議の末、最初にあった落ち着いた室内に戻した。

 BGMはバッハだのベートーべンだのクラシックの有名曲を流すことに。

 うん、いいね。

 急に格調高くなった気がする。美術館のような。

 格調高すぎて逆に重くなった気がするので、ピアノの定番ショパンを勧めといたわ。

 というか、放送部から借りてきたけど。

 まあ俺も普通に洋楽だの聴きはするけど、やっぱちょっと違う感が否めなかったからね。

 

 ミラーボールはそれでも(あきら)めが悪く、誰のこだわりか出入り口付近に設置し直されてぐるぐるしていたが。





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