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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
51/64

第49話 真夏の夜の夢

 夢のような話だった。

 高橋がしてくれる星座の話。


 昔の人々が天空を見上げながら考え付いた、途方もない空想話が、一人の男子学生の口から巧みに流れゆく。

 数千年前のギリシャ人も、はるか未来の東の果ての国の若者に、自分らが思い描いた御伽噺(おとぎばなし)を語られるなど夢にも思わなかったに違いない。


「ちなみに今撮ってたり見てるのはペルセウス座の方角からの流れ星なんだけど・・・ペルセウスって何だかわかるかな?」


 解るわけないだろ。高橋先生。


「しかしその、流星群の放射点?だっけ。それになってるペルセウス座ってどこだよ」


「んー、そうだねえ、目だった等級の星がないからねえ・・・ぎょしゃ座のカペラって1等星がある、あれだ。あれの、上辺りがペルセウスだよ。星座早見表を見てもらえれば」


 そう言って高橋は円形と四辺形の薄いプラスチック板が重なったような奇妙なシートを俺に手渡す。

 皆はそれをじっと見つめる。


「ああ、これ!これだね!」


 小山がライトを当てながら確認する。

 この早見表では現在の方角から見える今日の時期の夜空がわかる。

 星座内の星々に線が引かれ、バックにイラストが描いてあり、ご丁寧に名称も入っている。これで星座の位置関係はバッチリだ。


「僕のノートPC、持ってくればよかったな・・・あれにステラナビっていう星空観測用のアプリケーションが入ってるんだけどそれを見ればもっとわかりやすかったかも」


 どこまでも専門的だなあ。

 すごいぞ高橋。


「カシオペア!ああ、あれだ!」早見表と、上空の星の位置がぴたり一致する。篠田は楽しみ方が解ってきた感じかな。「あの、アルファベットのWね!」


「そうだね。丁度このあたりの空は、ギリシャ神話の物語で家族や夫婦が繋がってたり・・・」


「?」


 高橋以外は皆「?」だ。


「カシオペアはエチオピアのお后でアンドロメダ姫はその娘。で、勇者ペルセウスはアンドロメダとのちに結ばれる」


「ほえー!」


 篠田はついていけてるだろうか。


「ゴルゴーン三姉妹の一人、メデューサは目が合った者を石に変えてしまう怪物だ。ペルセウスはこれを退治する」


 ごるごーんナントカって何だ。その前から聞かんとよくわからんな・・・。


「高橋、いま相当はしょったろ?」


「うん。だって最初から全部話すと長いからね・・・詳しく聞きたい人はまた後日」


「聞く聞く!」と篠田。


「OK・・・で、彼はメデューサ退治の帰りに、海の怪物の怒りを(しず)めるためにいけにえにささげられようとしてる王女アンドロメダを助け、その怪物も倒してしまうんだ」


「まためっちゃはしょってる・・・」


「いいんだよ蔵田」


「凄いね!無敵じゃない!かっこいい!」


 すっかり感化されてるな篠田サン。


「RPGだったらレベル99カンストの勇者かなぁ」


「何を言ってるのかよくわからないぞ清川」


「ああ、うん、もう成長できないレベルまで達してしまった主人公キャラのことね」


「ふうん」


 なるほど。

 どうやってペルセウスが巨大な海のバケモンを倒したのか詳しく聞くと「メデューサの首」と言う。


「ペルセウスは切り取ったメデューサの首を持ち帰ってて、包みを解いてその首を(さら)すんだよ。そしたら・・・」


「まさか石化ビームで海のモンスターを一撃で!?」


「そうそう」


「すげぇ!・・・・だが、よく考えたら首だけ生きてたのか・・・不気味すぎる」


「まあ、首がないと退治した証明が取れないからかなあ」


「いやいや、持って帰る理由じゃなくて、まだ首だけでウネウネしてるってことは生きてるんじゃないの?退治してねーじゃん」


「・・・・・」


 一瞬、篠田と高橋絶句。

 こういう反応があるとは予想外だったと言いたげな・・・。


「もう!夢のある話してるのにー」


 早速篠田からお叱りが。


「蔵田は理屈っぽいからねぇ!」


「うん、そうだな・・・というか、俺は気になるんだよなあー」


「僕は気にならないよ」


「わたしも気にならないわよ!蔵田だけじゃん?細かいこと言ってるの」


「そうかな・・・しかし、アンドロメダ姫の救出がメデューサ退治のあとでよかったよな・・・前後逆だったら海の怪物倒す手段がなかったかもしれんからなあ」


「そんなことないでしょう蔵田」


「いやいや。メデューサの首が最大の功労者じゃん。ペルセウスは直接倒してないよね・・・海の怪物・・・」


「いや、だから彼が倒したメデューサでだね・・・」高橋は困惑したような表情で苦笑した。「・・・もうそのへんでやめようよ。あくまでも御伽噺(おとぎばなし)なんだからさ」


「すまん・・・」


 あまりこういう突っ込みはよくないらしいね、まあ無粋というものだろう。申し訳ない。


「ロマンがなくなるからそういう話はやめてー!!」と篠田。


「ふうん、ロマンねぇ・・・」


「でもメデューサの首、使いようによっちゃ便利かもよ!」


 清川が横槍を入れてきたぞ。


「だなー。使い道が色々ありそうなのに、ペルセウスはその後どうしたんだ?」


「いや、僕は知らないんだけど・・・」


 高橋先生もご存知でないようだ。


「玄関に置いといて防犯用にとか」


「それは蔵田君、無理無理!不審者や泥棒以外に来訪のお客さんも石化しちゃうよ!それにうっかり忘れてる家族とか全部石像になっちゃう」


 さすが清川、頭いい。じゃなくて。


「玄関前がリアルな等身大オブジェで賑やかになりそうだな・・・」


「そして誰も居なくなった」


「あり得る・・・!」


 聞いてる高橋と篠田、笑っている。


「しかしヤツはいったいどういう理屈でモノを石に変えることができるんだろうな・・・

それと、石化ビームが届く範囲と言うか、距離とかどれくらいなんだろうな実際。ふだん目隠しさせといて、戦場で目隠しを任意の敵の前でサッと取ったりしたらすごい戦力になるやもしれん」


「そうだねー、石化の能力に関してはおそらく物理的に考えて・・・」


 なぜかにわかに熱を帯びるメデューサ談義。


「もう放っておこうあの二人は・・・」


「そうね、それがいいかも」


 高橋と篠田に呆れられてしまった。



 小山やミズタニンは何してるんだろうとふと見回すと、いつのまにか二人で上空を眺めていたようだが、こちらの動きに気付いて向き直った。


「流れ星、けっこう流れたよ私見てた!」


 小山が嬉しそうに喋る。それはなにより。


「ピーク時と時間がまだ少し早いということを差し引いても、思ったより見えたわよね、小山さん」


「先生はどれくらい見えましたかー?」


「数えてないけど20以上見えたような・・・田舎で暗いから、よそでは見えないような小さい流星も見えたのかもしれないわね」


 そういうこともあるのか。うん、あるかもしれないな。


「流れ星にお願いは?」


「先生は何か?」


 小山とミズタニンが向き合って笑っている。


「いや、とくに私はないわー。かなえたい願いとか、上げだしたらキリがないもの」


「先生は願望というかむしろ欲望・・・」


 ゴスッ。

 いてて。 

 暗闇でも俺の脳天をとらえるミズタニンの手刀。正確無比である。


「小山さんは?宮郷線のこととか?」


「・・・いえ。これはよそにお願いすることではなく自分の目標だから」


「エライ!他人任せにしないところが小山さんの・・・聞いた?蔵田君」


「ええ、聞きました。さすがは小山ですね」


「というか・・・1つ流れて消える前に3回同じ願いを言い切るとか、無理だよね」


 はは、と小山は笑った。


 叶えたい願いほど、自分の手には余る。

 だからこそ、自分でないなにかに、その願いを人は託そうとするのだろう。

 叶えたい願いは希望と言うよりはむしろ切望。

 英語でいうとhopeとwishくらい違う場合も多い。

 似て、否なるもの。

 俺たちの叶えたい願いは、叶うのだろうか・・・。



「高橋君、月とかほかの天体も見せてよー。折角望遠鏡あるんだから」


 ふと小山、叫ぶ。


「ごめん小山さん!流星群つながりでこっち方面の空のことばっか考えてた。じゃあ、今夜月が出てるのはあっち方面なんで片付けて移動しようか。・・・いいですか先生、また車お願いして」


「いいわよー」


 そんなこんなで一時はお笑い方面に流れかけた星空観測会はしばらくその後も続くのだった。

 篠田、あとで口直しにちゃんとした高橋の話を聞いてやってくれよな。

 いやいや今晩はいろいろとお騒がせしました。




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