第48話 星空
花火大会および夏祭りが終わった。
俺たちはミズタニンが乗ってきた自家用車で、近くの山に登った。
7人乗りだそうなのであぶれる者が出ずによかった。
それにしても「お金がない」とか言う割にはいい車をお持ちでらっしゃる。
皆でいったん高橋の家に寄ってから移動したのだが、家から持ち出してきた天体望遠鏡で星空のちょっとした観測会をやろう、ということになっている。
まだ祭りの余韻なのか、遅くまで灯りが煌々と照っていたが、市街地を離れるにつけ、徐々に灯りは遠のいていく。
元々都会ではないから、町の明かりといってもたかが知れている。
でも、なるべく明かりを避けたほうが、観測にはいい環境になるとのことなので、田舎側にあたる北東側の山の中腹に車を止めて皆、固まることになった。
こんな場所に来る人間なんて普段この時間には居るはずもない。
稀に頂上の電波塔とかに関係者が上がるくらいだろう。
あとは登山マニアの方か。ただ、山登りも夜する人は居ない。
「いい案配に貸切になったよ」
高橋が機材をミズタニン号から搬出しながら喋った。
山の南側は宮川の市街地が広がり、いくぶん明るいのだが、こちらは反対側だ。
この尾根からは明かりらしい明かりはほとんど見えない。
方角的には俺が出てきた家のある須ノ郷村のほうを見る格好になる。
「ああ、いいわねえ!空が近い気がする」
篠田は高橋と同じ宮川市民だが、山に登ってこちらを向いて空を見ることはあまりないだろう。
宮川の市街地を上から見下ろしたなら見えるはずの町明かりも、こちら側の、須ノ郷方面を見下ろしたところで漆黒の空がそのまま地上と繋がっているだけだ。
それだけしかし、見える星の数が違うはず。
「天の川がくっきり見えるわね」
ミズタニンが右手を額のほうにかざしながら目を細める。
そいえば先生はどこに住んでるんだっけな・・・宮川市内より南側に住んでたような気がするんだが。
俺や小山にとっては自分の家の上の空と状況は変わらない。
しかし、こうして改めて見ると、星空って綺麗なもんだな。
普段夜に歩くことがあってもそんなにまじまじと見つめたこともないから、特段気にも留めたことがなかった。
都会の空は、星が見えないんだそうだ。
地上の星が上空の星を掻き消すからなのだと言う。
地上のそれも、おそらく固まればそれなりに綺麗だろう。
こちらもあまり見たことは無いけど。
「人工の星もいいけど、天然の星もいいよ」
思いに耽っていたら高橋が笑って言った。
だろうなあ。
それを見に来たんだが。
「空気が澄んでる冬の方が観測には適してるんだけど、この辺は夜とか氷点下になるから現実的じゃないしね」
まあ、冬に長時間の観測は俺もちょっとアレかな。
風邪引きそうだし。
「完全な闇だな・・・」
「山中の道路は街路灯もないしね」
高橋の手に握られているLEDライト以外は光源に該当するものがない。
「よし、とりあえずセッティングはOK」
皆高橋の周囲で固まって、ライトが移動する先を目で追っている。
「何を見るの?」
ミズタニンが訊く。
「ええと、いろいろです。実はこの方角に陣取ったのは・・・」
「あっ流れ星!」
小山が叫ぶ。
「見た?見た?」皆に聞くと「見た!」と清川から答えが返って来た。
俺は下を向いてたので見ていない。
「あっ、また流れた!」
「えっうそ!」
小山の声に篠田も反応する。
「そう、これをとりあえず暗いとこから見れたらいいかなと。今、ペルセウス座流星群の時期なんですよ」
「へえ~」
教師でもやはり知らないみたいだ。
高橋、詳しいな。
というか、こっち方面の知識があったとは。
いっそ天文部とか入れば・・・いや、我が校にそういうのはたぶん無かったような。
「ピークはお盆の時期で、北東の方角、深夜2時~4時頃がベストらしいんですが、まあそんな夜遅くに皆を呼ぶわけにもいかないでしょうし」
「その時間帯が、流星が多く見えるってことか?」
「うん、そうだね。1分あたり1個か2個程度見えるようだよ」
おお、そうなのか。
「で。なんとなく流星群を追いかけながら、こっちの方角で見える天体が見れたらなと」
「高橋、こっちだとどんなのが見れるの?」
篠田もこっち方面には疎いが興味がありそうな反応。
「今、君が見ていた空には天の川があるよね」
「うんうん」
「そのすぐ右のほうに、アンドロメダ星雲があるんだけど」
「わかんない・・・」
「うん、だから探すよ」
「えっ、この望遠鏡で?どうやって?時間かからない?こんなにたくさん星があるんだよ?」
だよなあ。それにしても天の川ってよく言ったもんだよなあ。
こんなにすごい光の帯が、都会では全く見えないらしい。
たぶん、これだけでも都会暮らしの人はびっくりするだろう。
「それが、内蔵のコンピュータで現在の天体の位置が割り出せる」
ん?手でこの筒みたいなの動かして、レンズで見ながら探すんじゃないのか?
高橋が望遠鏡にくっついている小型端末のような機械を操作している。
何をしているのか、俺にはさっぱりだ。
すごいな。
「見つけた。ズームしよう」
高橋は立ち上がった。
「見てみる人~」
「はい!はい!」
即座に挙手したのは篠田。
すぐに望遠鏡ののぞき穴?に片目を持っていく。
「うわー!うわー!」
こっちは何がうわーなんだかさっぱりだ。
「何がすごいんだ?」訊いてみたら「綺麗!ぼやーっと光の輪が広がってて!」
代わる代わる、皆で筒を覗く。俺も覗く。
「うーん、これはすごいわ、確かに」
周囲の星々と違ってこれだけが、うっすら、小さいながらも渦を巻いている様子がわかる。
「もっと口径のデカくて性能のいいやつならさらにすごいのが見れるんだけど・・・さすがに高校生ではこの辺りまでしか・・・」
「このあたりまででも十分すごいわよ、高橋君!」
ミズタニンの言うとおりだ。
「お金持ちなんだからいずれもっと高いやつ、買うんじゃない?」
小山の問いかけに「いやいや、そんな。無理無理」と笑って返す高橋。
「しかし、てっきりこの筒持って移動させていちいち探すんだと思ってたよ」
清川はやはり俺と同じことを考えている。
「昔はそういうのばかりだったみたいなんだけど、最近のちょっといいやつは天体を自動追尾してくれるんだ」
「ほお!それはありがたい仕様だなあ」
「というか、追尾してくれないとたぶん不便だよ。手動だと、見つけてもすぐに逃げられちゃうからね」
「それってどうゆうこと?」
俺たちのクエスチョンをおそらく篠田が代弁。
「星は常に結構な速さで動いてるんだ。星というか、地球が動いてるんだけどね。それなりに、倍率を上げてると、星の動きに併せて手動で望遠鏡の角度を常に動かし続けないといけないんだ!」
「おー、それは長時間だと難しいね」
小山の言うとおり、たぶん素人には無理だろうな・・・。
「でしょう?なのでこういうタイプを買ったんだ」
いったいいくらするんだろうな、値段・・・10万とかするんじゃないか?
親も理解のある人なのだろう。
でもお陰でいいもん見れるな。
こういうのは高橋しか持ってないし。
「よし、ちょっと露出をかけて星を撮りたい」
「ん?」
と皆、高橋の方を見やる。
望遠鏡に一眼レフカメラを取り付け始めた。
「すごいわね。星が撮れるの?」
「うん。篠田はやったことある?望遠鏡を使わずにとか」
「まさか。ないない。でもちょっと興味あるかも」
「そうなの?星に興味がある人居て嬉しいよ。あまりこういう話を一緒にできそうな人がいないと思ってたけど」
「じゃあ聞かせて。いろいろ」
「解った!機械のことだけ喋ってもあまり楽しくないから、星にまつわる話をしてあげるよ」
二人とも楽しそうだな。いい雰囲気だ。
「露出をどうこうとは?」
「シャッターを開放してしばらく放置するのさ、蔵田。この位置からなら流星を捕まえられるかもしれない」
「流星を捕まえる・・・!いい響きね」
篠田はちょっとうっとりしたような物言いになった。
きっとこういう話に弱いのだろう。
暗がりを怖がるタイプの彼女だが、こういう話込みなら克服できるかもしれないな。
「まあ、結構運頼みっぽい部分があるから、実際は写ってればラッキー、程度に思っておいたほうがいいかもだけど」
「これはなんだ?」
何か細長くて、小さな液晶画面がついた機械が取り付けられている。
「決まった秒数ごとにシャッターが落ちるように設定してる。自動で連続して撮影をしてくれる。広角レンズつけたから、ワイドに拾ってくれるといいんだけどね、あまり長居はするつもりないからせめて1,2個くらい拾ってくれれば。ま、失敗したらまた個人でやるさ、気長に」
「すっかりカメラとか機械に詳しくなったなあ・・・」
「部であれこれ撮影やってるうちにいろいろレベル上げたくなってね。でもぜんぜん素人の域だよ。わからないことだらけで試行錯誤してるのが実際かな・・・」
そうは言うがレベルアップが早いのはやはり秀才だからなのか。
「流れ星を追いかけてる間に、よければ星座にまつわる話などを」
しばらくの間、俺たちは高橋のしてくれる物語に耳を傾ける・・・。




