第45話 ホラー列車
スタートしたイベント列車は滞りなく各駅を通過しながら、桜淵駅を目指している。
あまり鉄道を利用したことのない子供も多いのだろうか、勉強などよりも車窓からの景色が気になって仕方が無い子もいる。
勉強に専念してもらうだけが本来の目的ではないようなので、カーテンを引いて景色を遮断するような無粋なことをする人は誰もいない。
学校の先生で来られている方も居て、さながら車内は動く教室だ。
課外授業としては面白い試みかもしれない。
保護者と子供の育児や教育に関して相談や雑談をしている人も居る。
面白いコミュニティ空間ができあがっていくのを、俺たちはみつめながら一人で寂しそうにしている子を見つけては寄り添って会話した。
両親が忙しすぎて普段かまってもらえない子達も乗車しているようで、話し相手になってあげたりテキスト読み上げ、問題を教えたりとしているうちにだんだんと懐いてくれるようになった。
算数は、小山が教えているようだ。
やはり苦手な子は多いだろうな。
やらないと、すぐに取り残されてしまう教科だ。
俺は、国語や社会など文系的なことを。
歴史が苦手、記憶するのが苦手な子も居る。
割とおだやかだった車内が喧騒に包まれ始めたのは往路も半ばを過ぎた頃だった。
復路までは秘密として封印されていたはずの、最後尾3両目のドアが開けられてしまったのだ。
というか、スタッフが出入りしていたところを、こっそりつけてきた子がいたらしく、その子が外から他の子を呼んだため、中身がばれてしまったのだ。
「なか!オバケ屋敷になってる!!」
興奮して喋りだす男の子。
うわー。めっちゃ嬉しそう・・・。
というか。
「オバケ屋敷なの~!?」
篠田の声が聞こえた気がした。
まあ、こないだ似たようなことをしたばかりだからなあ・・・正直うんざりしていることだろう。彼女なら絶対入りたくないと言うだろうな。
動くオバケ屋敷が出現!
と聞いてさわめく子供たち。
早く行きたい!と叫ぶ子達が多数現れ、集中が途切れる。
「ああ、もう開放しちゃいましょうか」
と言うスタッフさんの一声で、予定より早く子供たちは大騒ぎをしながら最奥の間に吸い込まれていった・・・。
戻ったら勉強、すんだぞ・・・。
ちなみに3両目は名前が付けられていて、「おたのしみホラー列車」というらしい。
おたのしみになればよいが。
「わぎゃーーーー!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
まったく趣の異なる一両からは、絶叫や悲鳴が上がっている。
となりの客車で勉強してる子たちはなかなか集中できない様子で、苦笑している。
「これ終わったら行こう」とか言ってる子もいる。
ドタドタドタと走る音が聞こえ、入ってくる子たち。
「チョーこわー!!」
「めっちゃこわー!!」
それはそれは。
でも怖い、と言う割にはみんな笑ってるぞう・・・。
俺も気になって、途中で見に行ってみたが、いわゆるオーソドックスな(?)オバケ屋敷みたいな感じだ。
窓には黒いシートが掛けられ、天井からぶら下がる無数の包帯。血の染み込んだような痕がいくつもあって生々しい。
異様な姿のマネキンや生首、妖怪の類が目をひんむいた状態でこちらを恨めしく見つめている・・・。
誰だよこんな悪趣味なプロデュースしたの。
というかそもそもこういうとこだっけ、オバケ屋敷って。
「ウガァァァァァ!!」
「ぎゃあ!!」
急に俺の床下からなんか動くものが!
ボロを纏ったゾンビみたいな人に足首を捉まれてびびる。
生の人間居るとは思ってなかったんで驚いた!
「ウガァ・・・あ、蔵田さん?」
はへ?
「ああ、こんにちは、木谷です」
あ?
え?木谷さん・・・?
あの、アマカメラマンの木谷さん??
「こ、こんにちは」
よくわからない衝撃的な再会。
こんなところで。
「何なさってるんですかいったい」
「いやー、子供たち驚かすのって、楽しいですね!久しぶりにスカッとしました!」
「そ、そうですか・・・今日はどうしてご乗車を?」
「蔵田く~ん。そろそろ次のお子さんの世話いーい?」
外から声がするのでガラリと開け放つと、ギャーーーー!!という女性の悲鳴が上がった。
「うわっ、蔵田君がゾンビと話してる!!」
・・・小山だったようだ。
なんかミズタニンに報告してるぞ。
「いやあ、このイベントの写真を内側から撮りたいなあ、と思ったんですよ。あと、湿原とかにも行くじゃないですか。どうしても乗りたくて・・・乗るためには何らかのお手伝いをして欲しいと言われまして、このようなことをしている次第です・・・」
「なるほど、それでオバケですか・・・納得しました・・・」
「ちょっとここ暗いんで、となりに移りましょうか」
言われてなんとなく移ったが、ぎゃあぎゃあ言う子たちの反応であえなくもとの暗い場所に戻る羽目に。
そりゃあオバケが一般の車両に移ってきたらあかんよね。
バケモノ専用の車両がわざわざ用意されてるんだし。
「いやあ、本当にこの宮郷線を追っかけてきてよかった。昨年からずっとイベントとかにも出させてもらってますが、貴重な写真も沢山撮れたし、初めて出会う自然の風景も多々ありました。この場所を守ろうとする地域の皆さんの意気込み、その理由がここに来て良くわかった気がします。そう、もちろん蔵田さんもね」
真摯な物言い。だが、ゾンビの姿のままで説得力が半減してるのは残念ポイントか。
「ああそうだ、折角なんで蔵田さんもやりません?」
「え?オバケですか?」
「そうそう。実は今日乗る予定だった人が一人キャンセルになってしまって、衣装が余ってるんですよ。ほらこれ」
床下からごぞごそとなにやら怪しいブツが出てきたぞ。
「このボロですか・・・」
「ええ、見た目は壮絶ですが、清潔にはしてありますので安心してください」
安心・・・?
結局自分も興味があったため、着てみることに。
そしてただ着るだけじゃアレなので、どうしよう。出て行ってみるか。
子供が入らなくなったし、勉強に戻ってるのかも。
じゃあ、そろそろ息抜きとかしてもいいよね。
「ぐおおおおおおおおお!!!」
グルグル巻きの血濡れの包帯をなびかせながらゾンビだかマミーだかわからないバケモノ、参上!
「ぎゃああああああ!!!」
すぐに巻き起こるリアクション。
うーん、これは気分がいいね・・・つか、この格好、最近やった、ような・・・。
「うわー!うわー!!来るな!来るなッ!!」
篠田が怯えている。これも前回見たような・・・。
子供たちは割と落ち着いてるというか笑って見ている。
おお、ここは高学年車両だからかな。
もうこの程度では驚かないか。普段からホラー映画とか見て耐性が身についてるんだろうか。
怖がってるのは大人の方かもしれない。
「ちょっと!蔵田君!?蔵田君でしょ!!ぎゃああ!!」小山の反応。「ちょ、勉強教えないとだめだよ、まだ終わってないんだからー!」
調子に乗った俺は、先頭車両まで突き進む。
「うがぁぁぁぁ!!」
「誰かあのケダモノを止めて!!」
ミズタニンに呼び止められてしまった。
ふと、先頭車両の子らと目が合う。
ここは小さい子とか保護者のみなさんが集ってらっしゃる。
足元の男の子と目が合ってしまった。
恐怖で顔が引きつっている感じに見える・・・。
「あの。ぼく、わるいことしましたか?すいませんごめんなさい、ごめんなさい!」
急に謝りながら泣き始めてしまった。
ああ、俺はなんということを・・・。
「す、すいません!」
さすがに低学年は耐性がなかったか・・・。
保護者の方も苦笑しながら「ああ、これサプライズなんですよね、いいですよ、ありがとう」と言われる始末。
「あんたねえ!なまはげじゃないんだからさ!ちっちゃい子泣かせてどうすんのよ!」
篠田に怒られてしまった。
「イエローカードかなあこれは」
水谷先生、すいません・・・。
その後俺は罪滅ぼしのため(?)、別途車内に用意されていたゆるキャラの着ぐるみを着て低学年児童たちと戯れることと相成った・・・。
こちらは大人気だった。
最初からこっちにすればよかったのだ。
早くに教えてもらえていたら。
いや、そういう問題じゃないのかも知れないけど。
列車はそして、折り返し地点に差し掛かる。




