第44話 夏休み特別号
「さあ、夏休みも残り少なくなってまいりました!来ましたよ、親子連れ向けイベント!題して『宿題列車』!夏休み特別号!」
出発地である宮川駅前ではしゃぐ小山。
そして、事あるたびに駆り出されている俺ら。
・・・まあ、好きで参加しているので誰も文句は言わないしむしろ「どんと来い!」状態なのだが。
夏休み特別号、というのは公式サブタイトルなのかどうなのか。
月刊誌か何かみたいな・・・。
「夏休みの宿題を親子でしていただこう、それも列車がらみで、という企画です!」
改めて今回のイベントの趣旨を説明する小山氏。
うん、大体そんな感じだったよな。
「しかしもっと違うネーミングはなかったのか。ストレートすぎる」
「だって私がつけたんじゃないもんー」
小山氏、口を尖らす。
まあ一介の学生ごときがイベント仕切ったりタイトルつけたりはないだろうけど。
「宿題専用列車とか嫌すぎだろ・・・子供集まるのか」
集合地点の宮川駅前広場で、早くに来すぎてしまった俺はそんなことをこぼしていたが、一緒に来た小山は続々集まってくる親子連れに満足そうな表情だ。
「それが大人気!予約ですぐ埋まりました!満員御礼のままスタートできます!
大盛況です!今日もキャンセルも特になく無事に発車できます!」
小山のかわりに、付近に来てた鉄道会社の人が答えた。
聞かれてしまってたか。うっかりしてた・・・発言には気をつけねば・・・。
駅前で幟旗を振ってるのは協議会の方々だろうか。
今日はいろいろタイアップもあるらしく、宮川駅前広場では物産展やバザー、野菜市も行われている。
祭りのような活気だ。
「これからが踏ん張りどころです!みな、一致協力して活動を盛り上げていきましょう!」
誰かが広場で叫んでいる。
おー!と声があちこちから挙がる。
「今日は凄いよ、存続派住民やスタッフもかなり集まってきてる!」
小山も嬉しいだろうな。声に弾みが感じられる。
朝8時半。
集合、点呼、スタッフによる説明、乗車までしばらくある。
既に暑い。
まだ30度には達してないが、午前中には越えるだろう。
早く車内に入りたい。
「お疲れ!小山さん!」
「ああ、加藤さん!竹内さんも!」
「お疲れ様ー!早いわねー!」
誰かと思えば『宮郷線を守る会』の面々だ。あまり深い面識はないが、これまで一緒に行動することもあったお陰で、顔と名前はなんとなくわかる。
「蔵田君!いつも小山さんと一緒だね!仲いいね!」
これは品川さんか。
個性的な鼻ひげをたくわえてらっしゃるので、ご本人には内緒で”ヒゲのおじさん”とか勝手に呼ばせてもらってる。
「はは、どうも」
会釈をした反対側から「おはよう!」と高橋。
「おお、来たか」
「あとの二人も途中で見つけたよ」
「おはー!」
この砕けた物言いは篠田か。
「お早うございます」
丁寧なのは清川。
全員来てるのか。・・・って、皆確か乗るんだよな?
「小山さんお早う」
部員以外にも続々と挨拶される。
今度はどなたか。
「わしじゃ、納戸です」
ああ、『守る会』代表の納戸さん。
「お久しぶりです!」
俺と小山は揃って挨拶。
「乗られるんですか?」と問うと「はは、まさか。年寄りにできることはないよ」
と返ってきた。
「見送りに来ただけじゃがの。仮にも『守る会』代表だしの!」
そう言って納戸さんはかかか、と笑う。
「暑いが頑張ってくだされ。応援しとるでの」
「はい」
今日のイベントは小学生が対象となる。
『宿題列車』とあるように、夏休みの課題をする企画だ。
地域のことを知る上で貴重な社会見学にもなり、自然を通じた学習もでき、大人に見てもらって宿題もはかどる・・・なんかそんなとこをめざして立案された企画らしい。
近隣の小学校協賛。
児童は父親母親両方か片方で一緒に参加、原則2~3名でセット。ただし小学校5,6年に限りソロ参加可能。そしてソロ参加者には助っ人がボランティアスタッフをつけることが出来るというかスタッフが自動で見回り&サポートをすることになっている。
つまり俺らだ。
俺たちはサポートスタッフで乗員する。
以前のイベント列車でも実績があるのと、それが好評だったことからすっかり信を得た格好だ。労組や協議会のほうからも「サポートしていただきたい」と打診があった。
建前上はボランティアスタッフだが、謝礼も一応出るらしい。
「はぁい、お元気?」
続いてのこの物言いは・・・やっぱり。ミズタニンか。
「先生、おはようございます!」
「あら元気ね小山さん!もう揃ってるわね」
「先生おそーい」
「ごめん篠田さん。・・・で、みんな、出発まだ?」
「間もなく点呼がありますよ。注意事項とか聞いてから出発になるようです」
高橋が返答した。
「水谷先生が居てくれると心強いです!」
清川の言葉に「ありがと」とミズタニン。「まあ、こう見えても現職の教員だから、子供たちに教えてあげられることもあればいいなと思って」
始まったはいいが割とズボラ企画だ。
どの子供に付いて、どういう教科を教えてあげられるか、というのも実際乗り込んでみないとわからない。
まあそれはそれで面白いかも。
「点呼、開始しまーす!」
女性スタッフらしき人の声があがり、散らばっていた群衆が続々と駅の改札前当たりに終結し始めた。
手にしたボードに貼られた用紙に書かれているらしい参加者の名前を次々読み上げては、挙手と発声を促している。
「しかし、イベントは相当人が集まるな。毎回参加するたびに思うんだが」
「いいことなんじゃない?」
と高橋。
「これだけ活気があれば、なんとかなりそうって気にもなってくるよね」
「まあな。でも、平日にも乗って欲しいよなあ」
「まあ、そうだね。こっちはちょっと難しそうだから、イベントをちょくちょくやっていくしかないわけだけどね」
「逆に経費と人手が掛かりそうではあるが、儲かってるのかねえ実際」
「さあ。上のことは僕ら学生にはさっぱりだからねえ。ま、続けられてるってことは、手ごたえがあるんでしょう」
だな。高橋の言うとおりだと思う。
お金も人も、イベントで稼ぐしかないのだ。この赤字路線は。
「もう既に夏前からいろんな企画を実施してまいりました!ここらから秋までもイベントラッシュです!協議会も起死回生をかけてあらゆる手を尽くすと盛り上がっています 我々も続きましょう!」
メガホンを取って大声で叫んでるのは、『守る会』の副代表の方っぽい。
存続運動もいよいよ大詰め、勝負どころというわけだ。
今回の列車、往路は車中で宿題大会。
いわゆる一般教科だ。
宿題以外にも模擬試験的なプリント問題集もあるらしい。
勉強三昧だ。
間もなく終わる夏休み、遊びほうけてやってない児童にはうってつけのよい機会となるだろう。
なる・・・のか?
というか、俺が小学生だったらちょっと嫌かもなあ。
列車の中でまで勉強とか。
まあ普段から集中力がない子は逆に新鮮でできるかもということなのかもしれない。
タイアップしてる学校側も最近の児童の教育のあり方に疑問を持っているとこが割とあるらしく、あの手この手で模索している様子が伺える。
というか。
俺が教えられるのって、限られてるよな気がする。
正直な話、算数とかもうわからんぞ・・・。
分数計算とか、異分母同士を通分せずに分子と同じく足したりしそうだ・・・。
終点・桜淵で下車したあと、お弁当タイム。
そして、周辺の草原や湿地、森で自然観察会。
昆虫採集を自由課題にしている児童には、持参した虫取り網と虫かごを持って、保護者、スタッフと一緒に散らばってもらう。
観測やスケッチをしたい児童も、それぞれ絵筆や絵の具を持って別のスタッフらと。
このへん一帯は湿原もあるし、動植物の宝庫だ。
何もないということはないはず。
かならずや児童たちの感性を刺激してくれる何かが、きっとある。
復路は、車内の宿題の続きや、スケッチの続き等をしてもらってもいいし。
することがなくなった児童らのために、何か別の企画を車内で用意しているらしいとのこと。
いろいろ考えたなあ。
「さて!いよいよ乗り込むらしいわよ!行きましょ」
ミズタニンが号令をかけたので、我々も続く。
高校の行事や部活の延長じゃないのだから、先生の合図を待つ必要などないはずなのだが、普段から身体がそう覚えてるせいか、そういう行動を取ってしまうよな・・・。
そのときだった。
見覚えのある顔が、視界に入った。
皆、気付いたらしい。
一様に、目を見開く。
そして、ああ、やっぱり。
そんな気がした、と思うのだ。
追川。
ヤツだ。
あの男の姿があった。
「よう、頑張っているようだな」
薄気味の悪い笑顔を向けられる。
「何しに来てんのあんた。邪魔よ」
ミズタニンはそっけない。
「何でもいいだろう、オレの勝手さ」
「そう」
立ち止まり、睨みすえている。
「カメラなんか持って撮影でもするつもりなの」
追川氏はごついAF一眼をお持ちである。
望遠レンズをいじりながら、ただニヤニヤしている。
「別にお前らを撮る訳じゃない。心配するな」
「忙しいんだから声かけしないで。私はこれから児童に勉強教えたり、お手伝いしたりするんだから」
「まあ、高校とはいえ先生だからな。オレも元教師ということで参加を願ったが断られた」
あほだな。
あれだけの騒ぎを前回起こしてまた何かやらかそうというのか。
今回は子供も沢山乗り込んでいるし、予測不能な問題行動を起こされたら困るだろ。
「仮にも教職経験者だというのに、ずいぶん不遇な扱いじゃないか。そうだろう水谷先生」
「知らないわよ。自業自得じゃないの。あんたに教えてもらいたい児童なんていないわよ。どうせ『この列車、整備不良でバクハツするかもしれないぞー!』とか『落石あるかも!みんな死ぬなよー!』とかそんなこと車内で言って子供を恐怖させようとか考えてるだけでしょうが」
「ククク、ご明察だな」
「もうお前、この辺うろつくなよ。邪魔ばっかしやがって!」
さすがにカチンと来て喋ってしまった。
だんまりを通すはずだったのに・・・。
「年上にお前とか生意気な。小僧の分際で」
「尊敬に値しない年長者など、”お前”で十分だ。俺は最近のお前の行動に怒っている。”貴様”でもいいくらいだ」
「フン。まあ好きに呼べばいいさ。・・・未来ある可愛いお子さんが、ボロの電車で事故になったりしてしまわんように、ご注意して差し上げようかとおもったんだがなあ・・・ああ、残念だ」
いちいち癪に障る言い方するやつだ。
神経を逆撫でして挑発し、相手が怒る様子を見て楽しんでいるんだ。
「心配してもらわなくても結構よ。鉄道会社の人を代弁して語ってあげるわ。最低限の整備くらいしているわよ」
うんざりするようなミズタニンの反応。
「はん、どうだかな」
「あれこれお前に指図など受けん。俺たちは限られた範囲内で、俺たちなりに活動していく。脅しや妨害には決して屈しない!」
「・・・いい表情だ。まあ、せいぜい励むがいい」
「・・・行きましょう。出発が遅れますよ」
小山の言うとおりだ。
俺たちはその男に一瞥をくれて、駅構内へ歩いていく。
「あっ、さえちゃーん!」
ふと振り向くと、清川が誰か児童と話している。
「きよかわさーん!また一緒だね!よろしくお願いしまーす!」
随分可愛い女子児童だが・・・ああそうか、この子は。
「間に合ってよかった、もう出発だよ」
「はい!」
「ああ、この子、中華料理屋『大飯元』の店主の娘さんだよ」
そうか、やはり清川が絵とか勉強教えてるとこの子だったか。
色んな人、色んな思いを乗せ、列車はホームから滑り出す。




