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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
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第43話 進路

 夏休みも終盤に差し掛かっていた。


 小山のお母さんもときどき沿線でチラシ配りなどをしているらしかった。

 繁華街のアーケードと違って、特に注意されたり許可がどうとか言ってくる人はいなかったようだ。

 ほんとは許可が要るのかもしれないけど。それかどっかで許可を得ているのだろう。近くの警察署とかで。


 前はあった電話での嫌がらせや学校への投書も最近はない。

 平穏だ。

 

あまり乗車率が上り調子でないことを知られているせいだろうか。

 そういえばあの男追川は何をしているのだろう。どうせあいつのことだからどっかで

俺たちをあざ笑いながら見下ろしているに違いない・・・そんな気がする。


 『守る会』や他の支援団体の人たちは「これからが挽回」と息巻いている。

 昨年も、後半の追い上げが凄かった。

 寄付金集めに奔走し、ある人は私財を投げ打ってイベント資金を補充した。

 芸能人も呼ばれたりした。

 

 回復不能と一時は呼ばれていたため、既に他の交通機関は宮郷線廃止後の乗り入れ検討に入り、バス会社などは徐々に試験的に運用を開始していた。

 ぎりぎりで目標達成はならなかったが、これまでの活動の内容を見て、鉄道会社上層部はもう1年の延長を打診してきた。

 

 とりあえずの延命措置が取られた今年。

 もうバスはシャトル便と宮郷線の駅周辺を巡回する定期便をスタートさせている。

 バス事業の方も収益の見込みが薄ければ撤退するかもしれないということで、鉄道と食い合いが起きているような格好だ。

 

 本来ならば協調して顧客を守っていければ、というところだが不仲であるのか潰しあいのうえ、バス側に有利に傾いている。

 バス会社も最初の頃はいい感じでスタートしたようだが、夏に入ってからは伸び悩んでいる様子らしい。


 もしもバスも鉄道も、この付近を通らなくなってしまったら。

 俺たちは来年いったいどうやって学校に行けばいいんだ?


 もう、田舎には住むな、ということなのか?

 人は都会に固まれということなのか?

 不便なもの、お金にならないもの。

 そうしたものはもうどうでもいいっていうのか。

 


「仕方ねえ。みんな出てッちまったんだ。農業もやれ減反だどうので米作りあきらめてしまった家が多いしの」

 

 じいちゃんは寂しそうに呟く。


「安い輸入もんの野菜とか米が増えたもんで、年寄りばっかりで無理して作ってもあんまし利益にならね。後を継ぐもんも若いもんがおらんで、荒れた田畑が増えるばっかりよの。わしもいつまでできるかどうか。かっかっかっ」

 

 じいちゃんはそういって縁側で笑っていたが、半ば自虐的とも取れる内容だった。

 須ノ郷の村は、鉄道だけではない。

 田畑が、集落がもうゆるやかな死に向かっているのかもしれない。


「ご先祖からただでもろうたこの土地を、わしは手放せん。出たいもんは出りゃええ。誰も文句は言わん。もうこういう所じゃとわかっとるでの、皆」

 

 顔の表面に無数に走る(しわ)が、これまでの人生の苦労の数を表してるようで、色んなことがあったのだろうとふと考えてしまう。

「ばあさんとここで出会うて、ここで過ごして、ここで祝言(しゅうげん)上げた。ここで子供育ててここで穀物作ってきた。よそを知らんでなんで今さら出て行けよう。わしは最後までここに残るよ。村と一緒に生きてきたから、村と一緒にここで土に還るわい」

 

 俺も「ここに残るよ」とつい言いそうになったが、きっと「急いて答えを出さんでええ」と返ってきそうなので口にはしなかった。

 まだ、俺の進路も、不明確でどっちに向いて進んでいけばいいのかも、自分の中で答えを出していない。

 

 学校ではもちろん勉強をしている。

 さらに進んで、大学へ行くべきなのか。

 就職か。専門学校等へ行くか。それとも、他へ。

 

 進路指導は既に今年度一度あったから、またそのうち実施されるだろう。

 この段階なら、もう今頃の時期には決めておかねばいけないのだが。

 

 今までは大学を、と考えていたが親に出してもらえるかどうかも疑わしい。

 というか、崩壊した家から早く自立するべきか。

 奨学金を貰ってでも、上の学校に行ったほうがいいのだろうか。



 高橋に聞いてみたことがあった。


「必ずこういう道に進まねばならない、ということはないんでしょ」

 

 と返って来た。


「なら、自分の思うとおりにレールを敷けばいい。選択の余地があるんだからそこを行けばいいんじゃない?」

 

 高橋はもう大学進学で決めているという。

 秀才な彼のこと、学を究めたい思いがあるのかもしれないし、将来の道を安定させたいという気持ちもあるかもしれない。

 両親もしっかりした方で、家柄も良い。

 きっと学費は全額両親が出してくれるだろう。

 有名私立大学に入って、エリートコースに進むのだろうか。




「なあ小山~」

 

 商店街で存続を訴えるビラをまたしても撒きながら、ふと。

 土曜日の昼過ぎ。


「なに?蔵田君」


「これから、どうすんだ?」


「えーと、終わったら夕飯の買出しに行くよ。蔵田君も付き合ってくれるの?」

 

 上目遣いににっこり。

 どうもこういう視線に弱い。


「うん、まあ付き合うよ。というか、そうじゃなくて今後の進路というか」


「・・・まだ決めかねてるんだけどねー。大学行きたいけど、ウチは母子家庭だしあまりお母さんにお金の心配させたくないなあって」


「そっか」

 

 黙々と、行きかう人に紙片を渡しながら、小刻みに頭を下げる。

 これまでずっと、こういうことを一人でやってきたんだよなあ。

 偉いなあ。小山。

 

 たとえ誰も彼女を評価しなくても、俺だけは小山に満点をあげたい。

 こんなに懸命に頑張ってる少女のことを、もっと周りに知って欲しいとさえ思う。

 まあ、この商店街や宮川の駅前ではもうすっかり通行人に顔なじみになってるようだけど。


「奨学金とかもらいながら大学行く手段もあるよな」


「そうだね、そういう制度は聞いたことあるよ」


 

 ビラ配りはなんとなく終了した。

 帰りにスーパーに寄るために二人で移動をはじめる。


「小山、使ってみれば?」


「うん、可能なら。・・・でも、奨学金はあくまでも借り物だし、将来10年くらいかけて返済しないといけないでしょ。それに、返済能力がありそうかどうか家柄とか調べられたりするかもしれないそうだし、認められないと出してもらえないことも、って進路指導のとき先生から聞いたよ」


「そうなのか」


「そうなんだよ。もし奨学金もらえても、すぐに就職できて、その給料から支払いができるかどうかも悩みどころだよねえ」

 

 そういって笑う。

 悩んでるようには見えないが、小山がそういうからにはそうなんだろう。


「今ね、奨学金貰ってた人が不景気で就職できなかったり、すぐに失業したりとかあって、支払いが滞納されたり出来なくなったりしてる人が増えててそれが社会問題になってるらしいよ」


「え、それは知らなかったな・・・」


「だから、私が定職に就けたとしても、ちゃんと毎年返済できるのかなあって。結局、でっかい買い物するわけじゃない?新車を買うより大きな大学の授業料を」


 言われてみればその通りだ。

 なんで大学ってこんな金かかるんだろうな。

 

 俺らみたいな中流に居るかどうかも怪しい、いやむしろ下流のほうか?そんな家庭環境じゃ無理して大学行っても学費の返済で首絞めるかもしれないな。

 ああなんてこった。


「この先不安な要素大きいよな、俺ら。俺ん家は離散家族だし」


「悩んでも仕方ないしね、でも!」


 ああ、この小山のポジティプな思考がうらやましい。

 そしてその表情がまぶしい。

 小山にはいつも励まされる。





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