第39話 旅館にて
「しかし篠田がバケモノ呼ばわりされるとはなあ。美人でクラスでももてはやされてるはずなのに」
ロビーでソファに座って高橋と談笑していたら「誰のせいよっ!」と後方からチョップが落ちてきた。
「いてっ!」
俺の脳天に炸裂。
「おう・・・いたのか篠田」
「いたのか、じゃないわよ!このツケは高くつくわよ!ホントに他人事だと思って、あんたはー!」
「言っとくけど」と篠田のほうを振り返りながら話す。「俺はただ単に驚かせに行っただけだかんな。バケモノ云々の発言をしたのは、たまたま通りがかった通行人だ」
「でも発端はあんたじゃない!」
まあ、そうだが・・・。
「しかし、幽霊は髪の長い美女と相場が決まってるんだ、間違えられても仕方がないさ。場所もあんないわくありげなとこだったしなあ」
「勝手に『仕方ない』で終わらせないでよ!フォローになんかなってないんだからね!」
けど、オバケは元々俺一人だったはずなのに、気付くと二匹になってるというオチには自分でもびっくりだったな・・・。
ドスドスと足を床に打ちつけながらいずこかへ立ち去ってゆく。
まあ、立ち去るといっても旅館の中だけだけど。
「高橋~。なんか篠田の機嫌取っといてくれよ・・・」
「いやぁ僕が取るのは機嫌じゃなくて写真のほうだから。彼女のことだから割とすぐに元に戻るとは思うけど・・・まあ、この件で逆に弱みを握らされたからあれこれ厄介なこと今後押し付けられたりはあるかもしれないよ。覚悟しといたほうがいいかもね」
「うーん、確かに高くついたなぁ。ミズタニンの誘いにホイホイ乗ってしまったのがいかんかったか・・・」
「まあ、あまり深く考えなくても。みんな仲間だ、すぐに打ち解けるよ」
そうなんだよな。
実際信頼関係があるからこそ、ここまでアホな・・・無茶が許される訳で。
いや、現時点では許されては、じゃない、赦されてはいない気がするけど。
「ごはーん!ごはんだよー!」
よく通る小山の声。
部屋にいたそれぞれが夕飯を食すべく集まってきた。
「いたーだきます!」
広い座敷で皆で摂る食事はなかなかに美味い。
まあ、おいしく感じるのは食事の素材の問題もあるだろうけど。
米も野菜も地元産らしく、いろいろこだわってるらしいところが伺えた。
「いやー、このお刺身おいしいわー」と篠田。
「山の中でも刺身が食えるのはいいな」
「結構いろいろあるわよね。豚肉のしょうが焼きとか」
なんだ、篠田すっかりもういいじゃんか。心配して損した。
それから食事を終えて女子らは風呂に向かっていた。
俺と高橋も風呂に入り、浴衣に着替えて旅館の中をうろうろし、ホールみたいな場所で新聞読んだりテレビを見たりして過ごす。
「・・・これは」
ふとある記事に目が留まる。
「どうしたの」
「特集記事で宮郷線の存続活動のことが書いてある・・・!」
「・・・ほんとだ」
それは地方版のとある面の隅に出ていた、短い記事だった。
しかし端的によくまとめられている。
「こないだのイベントの件やこれまでの経緯が出てるね・・・」
「だな」
記事を目で追う。
「『厳しい財政事情は変わらず、国や自治体からの交付金や新たな支援が受けられない中、存続支持派住民と鉄道会社労組などがタッグを組み、昨年同様のイベントラッシュを行っているが、イベント時以外の乗客は昨年と比較してもかなり減少しており・・・これは昨年、事実上継続不可としてバス会社らが本格的な乗り入れを行ってきた結果が現れているからではないかと思われる・・・』・・・むぅ」
「まあ、改善努力も認められるが、バスやマイカーにじわじわ食われてますということかな・・・」
「じわじわというか、いや、この時期ではなかなか厳しい記述だな・・・もうゴールが近づいているというのに」
「悔しいもんだね。『守る会』や『協議会』、それに自分らは頑張ってるのに、イベントも盛況で好感触だというのに、それでもリカバリになかなか近づけないという」
「小山にはあまり見せられんな・・・」
「・・・そうかもしれないね」
「廃止かどうかが決まる最終リミットはいつだったっけ?」
「確か、11月15日ごろだったと思うよ」
「・・・早いな」
「そうだね。その頃でないと、降雪シーズンを迎えてしまうしね。ダイヤ改正は年度末にあるし、その時期にはどうするか決まってないと何かとまずいんじゃないかな」
「・・なるほど」
そう言っていたら、小山と清川らが通りかかった。
俺はそっと新聞をたたんで架台に戻す。
「お、そういえばゲームコーナーあるじゃん!」
ちょっと白々しいかなと思ったが、小山が反応してくれる。
「蔵田君、一緒になにかやろうよ!」
「そうだな、小山はなにがいい?」
浴衣を着て現れた小山。
いつになく新鮮な気がする。
普段とは違う可愛らしさが出ているような。
「卓球!」
ぐるり、周囲を見渡して言う。
「やっぱりあったねー、ナナちゃん!卓球台!」と清川。
「老舗の旅館と言えば定番だよね!」
「そうなのか?」
「そうだよ!そして、旅館でやる卓球といえば、浴衣でスリッパ使うのが定番なのだ!」
断言する小山氏。
「いや、スリッパ使わんでもラケットあるし・・・」と言いかけて、まあ敢えて使いたいのだろうなと気付く。「OK!スリッパでやるか」
「じゃあ観戦しようかな」と高橋。
「じゃあ私は審判するよ」と清川。
「しかし、風呂上がりに汗またかくんじゃないか?」
「大丈夫、クーラー効いてるし!あんまり動き回らなかったらいいから」
「まあそうだけどな」
「蔵田君、激しくしないでよ!」
「おう」
「俺の勝ちだな」
小山は不機嫌そうだ。
「むー、くそー!次は勝つ!」
「勝てるまでやろうとしてるだろ」
「わかった?」
「わかるさ」
「じゃあ手加減」
「スポーツマンシップに反する」
「スポーツじゃないよ、これ、ゲームだから!」
「わかった、わかった」
ひとしきり卓球をやったあと、近くを見てみると篠田はクレーンゲームをやっている。
なんか次々100円玉が投入されてるようだが、お金はどうもミズタニンの財布のほうから出ているようだ。
昨日の一件もあり、たかられているであろうことが想像に難くない。
「よし、やった!取ったぞー!」
嬉々とした声が篠田から上がる。
テディベアみたいなヌイグルミを釣り上げたようだ。
「いやー1500円もかかってしまったわあ」
「ありがと、先生!」
礼を言っている場面で小山と清川に見つかってしまう。
「あー!ずるいシノちゃんだけー!」
「ナナもやる?」
「ちょ・・・もうダメ!ダメよー!お金なくなっちゃうじゃない!」
逃げ回る水谷氏。
「あっ、これ!このレーシングゲーム!これやろうよ!」
話を逸らそうとしたのか、不意にミズタニン、近くにあった大型のビデオゲーム筐体に滑り込む。
「うわー懐かしいなー!『オールポジション』!学生の頃ちょっとだけやったことあるわ」
どうもF1グランプリみたいな、レーシングゲームだ。
クレジットには「ニャルコ 1982年」とある。
82年製・・・俺、生まれてないじゃんか。
でもなんか、「ゲームは~ニャルコ~♪」っていうCMはラジオか動画サイトで聞いたことあるぞ。
有名メーカーだよな。
「くっ・・・おかしいわね、昔取った衣笠が・・・」
「杵柄です」冷静な高橋の突っ込み。
「オー!先生!いけいけー!」
ボガーン!
後方の声援もむなしく、クラッシュしまくる水谷氏。
「うーん、こんなはずでは・・・仮にも自動車免許保持者というのに・・・」
んー。あまりそれは関係ないような・・・。
不本意な成績に終わり、席を立つミズタニン。
「じゃあ俺が」
100円玉を取り出し、先生のリベンジへ。
「蔵田君、得意なの?」
「そうだな。家じゃよく『グラン・ツーリスト』とかやってたからこの手のレースゲームはいけると思う」
「私ん家じゃ『ぶよぶよ』とかばっかなのに!今度持ってきてよー!」
「おう」
「あれ?よく家で蔵田とゲームとかしてんの?ナナ」篠田の問いかけに「あ、うん」と少し照れたような小山の返事が返ってきた頃には、もうゲームがスタートしていた。
「やるわねー!予選1位突破じゃない!」とミズタニン。「いえいえ、これからが本番で」
ガンガン飛ばしまくってタイムを縮めていく。
周回遅れの車を追い越し、ブレーキ、・・カーブ、抜けたらギアをトップへ!
・・・まあ、昔のゲームなんで、今の車みたいに5段ギアとかではないけど。
「LOW」と「HIGH」の2段しかない。HIGHって、トップのことなんだろうか。
まあいいや。
「エクステンド!」
後ろで叫んだのは清川かな。
「エクステンドって?」
「1周のタイムが規定以上の良いスコアだったら、もう1周回れるんだよ」
「へえ~」ミズタニンも感心している。
清川、こういうのもよく知ってそうだな。
「またエクステンドか~!やるじゃない蔵田君!」
ミズタニンの声が横で聞こえた。
ああ、これ。
このゲーム。
そういえば何かに似てると思ったら、宮郷線だ。
もう廃止にしますよ、でも規定の乗客を年間目標を越える数字にしたら、もう1年延長します。で、来年も数字を見て、目標クリアできたらさらにもう1年考えましょう・・・。
まさにそんな感じ。
そして、全力で毎度走り続けて、疲れてきたら、ゲームオーバー。
・・・昔のゲームは、目標を達成して晴れ晴れとエンド、というのはなかった気がする。
失敗したとき。
目標をクリアできなかったとき。
それはゲームの終わりを意味している。
「タイムがだんだんきつくなってきたな・・・蔵田ももうそろそろ限界かも」
「スピードは落ちてないんだけどねえ~」
後ろで高橋と篠田の会話が聞こえた。
「徐々にノルマがきつくなってるね。まあそうだろう、でないと果てしなくゲームができてしまうから」
高橋の言うとおり。
俺たちが乗りかかった活動は、いつか終わることを確約されているアクションゲームのようなものなのではないか。
続いてきたエクステンドも、もう終焉に差し掛かろうとしているのではないか。
ふと、ハンドルを握りながら、そんなことを考えた。
「終わったー」伸びをして立ち上がる。
「お疲れさま!いいスコア出たじゃない、蔵田」と高橋。
「完敗だわー。蔵田君いいセンスしてるわね!」
先生にお褒め頂く。
「私、やるー!」
「私も、私も!」
「あたしもやる!」
・・・突如、女子たちに人気になってしまったようだった。




