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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
40/64

第38話 温泉街と例の場所

 公衆トイレはキャンプ場に2,3あるが俺たちの居るテントから少し歩くようになる。

 もっと近い場所にできなかったものか。

 よりにもよって怪談のあとでとか・・・。


「手でも繋ぐか・・・」

 

異様に萎縮している小山を見て、懐中電灯を持ってないほうの手を差し出す。


「うん・・・」

 

 強く握り返してきた。

 しばらく無言で歩いていたが、小山が不意に喋る。


「・・・抱っこ」


「は?」


「抱っこして」


「何を仰る、お嬢さん」


「なんか背中から手とか来ないかとか心配になった・・・」


「いや、来るわけないし・・・」

 

 とは言ったものの、さっきの話の影響をもろにうけている様子。


「おんぶのほうでいいか?」


「いや、背中が気になるから、抱っこがいい・・・」

 

 言われるまま前から担ぎ上げると首に両手を回される。

 吐息が顔や耳に掛かってくすぐったい。

 まだ大きく息をしてるので心拍数が下がってないのだろう。

 相当の怖がりやさんだ。


「はい、着きましたよ」

 

 降ろす。

 しぶしぶ、歩き出す小山。


「そ、そこから動かないでね!出てくるまで!」


「りょーかい」

 

 俺も男性用に行っとくか・・・。

 まあ、位置的にはほとんど動かないからいいだろ。

 

 用を足しながら、やはり背後に誰か立ってないか気になる自分がいる・・・。

 いかんいかん、俺が怖がってどーする。




「あらお帰りなさいませ、姫君と騎士様」


「随分と仲がよいご様子で」

 

 戻ってくるなりミズタニンと清川に茶化されてしまった。


「あらゆる女子の憧れ、”お姫さま抱っこ”で帰ってくるなんて、やるわね蔵田君!」


「いや、小山の要望でして・・・」

 

 ミズタニンと清川は顔を見合わせてにやにやしている。


「人のせいにしてるー」


「やーね清川さん」

 

 何を言う。


「怖がらせてふたりを接近させる作戦、我等のもくろみどおり。大儀であった。戻り、休むがよい」

 

 芝居がかった台詞が水谷氏から発せられる。


「ははーっ!」

 

 清川のノリもいい。


「だってー。このふたり、ちょっかい出したいし。面白いもん。ねー清川さん」


「ねー先生!」


「人のことはいーから、自分らの相方の心配でもしてくださいな」


「むーっ失礼!」


「ねーっ失礼ですよね先生~!」

 

 何が失礼か。 


 ・・・というか。

 そういうことだったん??

 小山がビビリだと知っての犯行であったか。

 むーん、一杯食わされたかー。


「しかしここから先は男女別と相成ります」と清川。「今宵はこれにて消灯、ということで・・・」

 

 ああ、最初決めてたテントに戻るんやね。


「おーい、高橋ー!」

 

 はんのうがない。しかばねのようだ。

 だが接近すると、寝息が聞こえてきた。

 ぴたぴたと頬を叩いて起こすと、目をこすりながら起き上がる。


「・・・もう終わった?」


「ああ」


「そうかい、じゃあこれで心置きなく寝れる・・・」


「高橋は既に寝てたじゃんか・・・」

 

 そう言って二人、テントを出てとなりのテントに移った。


 横になったが、まだ時折声がとなりから漏れてくる。

 しばらくするといきなりテントの入り口が開いて、小山が駆け込んできた。


「たた、たすけて・・・」


「なんだどうした」


「だって・・・キヨちゃんと先生、めちゃ怖いんだよ・・・」


「なにやらかしたんだ」


「怪談・・・」


「まだやってんのか!」


「ふたりだけでやってるんだけど、横になってても全部聞こえて来るんだよ。めちゃくちゃ盛り上がってるし・・・寝れないよ・・・」


 もうー続きはよそでやれよ全く・・・。


「小山が寝れないと言ってるんだが!消灯って言ったんだったら寝ろよもう!」

 

 となりのテントで声を上げると「はーい・・・」と低い声が返ってきた。ミズタニンだろう。


 その日、後から聞くと、ミズタニンは左右両脇に小山と篠田を抱いて寝る羽目になったらしい。

 




 二日目。

 恐怖の宴から一夜明け、皆は腫れぼったい目をしながら起きてきた。

 

 今日は、近くの旅館に宿泊する。

 俺たちは川べりで朝食を済ませると、器材を撤収しその場所に向かった。


 途中、「昨日の話があった場所に行ってみない?」とミズタニン。


「いやです!!」と声が挙がり、却下。

 

 清川は苦笑い。


「僕は取材にあとで来ようかなぁ。別の日とかに。みんなが行かないんだったら」

 

 と言う高橋。


「怪談をどっかに載せるつもり?」と返す篠田に「この辺では知る人ぞ知る有名スポットなんでしょう?歴史的にも、ということならちょっと新聞なり文化祭用の記事にしたいしね」ということらしい。


「まあ清川さんも詳しそうだし、地元なんで同行してもらってもいいかも」

 

 振り返り、清川を見る高橋。


「一緒しようか?」と清川が後ろから声を挙げる。「じゃ、じゃああたしもついてく!」

 

 とにわかに篠田。あんなに怖がってたのに・・・ははーん。

 まあこっち方面は彼らにおまかせでもいいかな・・・。


 昨夜あれだけ騒いだので朝が遅くなったせいか、すぐ近くというのに旅館に到着したのは昼前頃だった。

 フロントでチェックイン。荷物を預ける。

 まだ部屋の方は清掃をしているらしいので、昼食をどこで摂るべきか。


 

 旅館の周囲はいくつか店もある。

 真新しいホテルや近代的な建物はほとんどない。

 こじんまりした町だ。

 宿場町として栄えた名残らしきものは感じられる。

 

 旅人や商人たちが旅の疲れをいやすために立ち寄った温泉宿とかが、かつてはたくさんあったのだろう。

 病気を治すための湯治場(とうじば)として長く利用されてきた云々のことを記した案内看板もある。

 

 歴史的にもこの辺一帯は古岩町でも重要スポットといえる。

 夏休みとはいえ平日だからか、そうでもないのか、通りや周辺には行き交う人をさほど見かけない。たまに家族連れとすれ違う程度だ。


「これでも土日祝日は割と駐車場が埋まることもあるんだよ」

 

 と清川が言うので、完全に寂れてしまったわけではないようだ。

 全国的にもかつて栄えた温泉町があちこちで不景気だったりということもあり、どこの場所でも集客はしたいだろうなという感じがする。


カラオケだのゲーセンだの映画館だの、若者必須と言えるような都市型施設はもうこの辺りからは一切見ることは出来ない。

 

 まだ古岩町(ふるいわちょう)内のこのあたりはましだが、少し北に行くともう赤茶色の瓦と緑の田園地帯一色だ。奥に進むほどに、北へ走るごとに、辺境度合いは半端なく感じられるようになる。

 それこそ、昨日清川が熱弁を振るった怪談のように、どんなバケモノ、妖怪や幽霊の類が出てきたとしても不自然ではないように思えるほどまでに、昔話の世界にシフトしていってしまうのだ。

 

 別に悪いことではない。

 加速し続ける都市の波に抗い、廃れゆく村落に思いを馳せる、そんな者たちがいてもいい。そして俺は、そんな只中に生き、暮らしている・・・。


 小山の親父さんを亡き者にした忙しすぎる社会に、これから出て行かねばならないのかと思うと嫌気がさすが、流行りのニートで過ごす訳にもいかないだろう。

 いずれ遅かれ早かれ、俺たちは若者ではなくなる。

 俺は・・・これからどういう生き方をすればいいんだろうな。



 そんなことを考えていたら、高橋は昨日の場所に行くと言って出かけていった。

 篠田と清川も一緒である。

 むう・・・そんなに気になるのか。

 昼飯を皆で近くのうどん屋で食べたあと、俺がふらふら周囲を歩いてたときにはもう居なかったからな。

 

「シノちゃんたち、例の場所に行ったのかな?いないね」

 

 小山が近づいてきて言った。


「抜け駆けとはいかんな。どうする?俺らも後を追うか?」


「ええー」


「昼だし何にも出やしないだろ。いや、もっとも夜でも出てもらっちゃ困るだろうけど」


「まあ、そうだねえ・・・」


「すぐ戻ります、とか私には言付(ことづ)けて行ったわよ。高橋君も資料集めや撮影が自分の仕事みたいに思ってるから、全員に言うのはどうかと思ったんじゃないかしら。まああとの二人は付き添いだけど」

 

 ミズタニンもやってきた。

 丁度湯樽(ゆだる)駅周辺に居る。

 駅前は円形の広場になっていて、それを取り巻くように小さな湯屋や旅館、あとは商店などが立ち並ぶ。

 既に営業してなさそうな店も散見される。

 このご時世、なかなか厳しいのだろうか。


「そうだ、いいこと思いついちゃった」

 

 水谷氏、ニヤリと口元に手を当てて笑った。

 ミズタニンの”いいこと”ってなんだ。

 きっとやばいことに違いない。

 が、気になって聞いた。


「びっくりさせてみない?尾行して」


「?」

 

 小山がきょとんとしている。


「びっくり、とは?」

 

 俺が訊き返す。


「オバケになるのよ」


「はぇ!?」

 

 素っ頓狂な声を小山が上げる。


「まだ私たち死んでませんよ、先生~」

 

 そりゃそうだ。


「オバケを・・・昨日の話してたアレをやろうよ・・・ぐふふふふ」

 

 うわぁ・・・。


「ぐふふふふ!」


「おーい小山ー!」

 

 なんでシンクロしてんだ・・・昨日あれだけ怖がってた場所なのに。


「怖くないのか?」


「お昼は出ないでしょ?・・・それになんだか楽しそう!」

 

 そうか・・・小山の行動パターンとしては、楽しい、が全てに優先される・・・忘れていたぜ!

 恐怖を興味が上回ったとき・・・それは既に脅威ではなくなるのだ!

 

 ・・・みたいな。


「・・・行って、みますか」


 かくして、俺の同意で三悪人は峠を目指す・・・。





「ほんとに石塚があったわ!」

 

 叫んだのは篠田。

 歩き始めてまだ時間がさほどなかったせいか、彼らが到着してすぐのころに例の場所に俺たちも着くことができた。

 

 背の高い雑草の陰に身を潜め、様子を伺う。

 

 明らかに不審者である。


「ね、言ったとおりでしょ?」と清川。


「僕、ここ家の車で通ったことたしかあるんだけど、全然気付かなかったなあ」


「そりゃあ高橋君、普通の人は知らなかったら注意して見るとかしないから」


「だね。ちょっと撮影しとこう」

 

 ごついAF一眼ではなく、今回の小旅行にはコンパクトデジカメを高橋は持ってきてるようだ。


「わー・・・9つ、ちゃんとあるわよ・・・」

 

 篠田がいぶかしい表情で歩き回っている様子がわかる。


「くれぐれも倒したり壊したりしないでよ高橋!たたりがあるんだからね!」


「ははは、篠田は迷信深いなあ。大丈夫だよ」


「だって・・・」

 

 三人の様子を見るに篠田だけやばそうな雰囲気だ。


「なんか、ちょっと曇ってきたわね・・・」


「ほんとだ、さっきより雲が多くなったかな」清川はあっけらかんとしている。「でも雨は降らないはずだし心配しないで」

 

 たぶん篠田は雨ではなく、昼なのに暗くなってきた・・・つまりなんか出そうな感じになってきた、っていうことを心配してるんじゃないか?清川サン。


「しかし、山の天気は結構気まぐれだからね。夏特有の通り雨とかあるかもだよ。いま上に掛かってるの、雨雲じゃない?」


「うーん、そうかも。なら急いだほうがいいかなあ」


「急いだほうがいいと思う、あたし!うん!」

 

 篠田は反応が楽しいな。



「ねえ、高橋は何を探してるの?塚の写真は撮ったわよね?」

 

 なるべく早く立ち去りたい雰囲気が篠田の発言からにじみ出ている気がする。


「この辺の”引き”の写真は撮ったし、あとは清川さんの発言によれば例の昔話が書かれた看板があるはずなんだ・・・それを撮りたい」


「ごめんねー高橋君。前に見たことあるのに場所を忘れちゃった・・・この近くにあるはずなんだけど、かなり小さいものだから」


「いえいえ。まあ探せば見つかるよね」

 

 せっかちな篠田と反対に高橋は落ち着き払っている。

 まあこのふたりは性格も対だからくっつくといろいろ面白そうだ。



「(さて、ではそろそろ秘密兵器にご登場願おうかしらね・・・蔵田君!)」


「(了解)」


「(先生、秘密兵器じゃなくてオバケですよオバケ!)」


「(ああそうだったわね小山さん、まあどっちでもいいじゃない)」


「(小山、あんだけ幽霊怖がってたくせに・・・)」


「(もう怖くないよ!)」


「(嘘付け・・・絶対、夜になったら「寝れないよー」とか言うだろ)」


「(むー!そんなことはいいのっ!蔵田君、早く出撃!)」


「(お、おう・・・)」


 ガサリ。

 茂みが動いたことに、篠田が気付いた。


「ね、ねえ・・・あっちの草むらでなんか物音しなかった?」


「え?」


「いや、どうかな。したのかい?」


「気のせいかな・・・」

 

 気のせいではありません。


「ね、ねえ!やっぱ草が動いたよ!?」


「そりゃあ篠田、風でも吹けば動くでしょう」


「風じゃないよ、たぶん!」


「じゃあ、なんなのさ」


「・・・シノちゃん、見えた?幽霊・・・」


「ちょ!キヨ!何言ってるの!?わけわかんない!見えるわけないじゃん!」


 では視認していただこう。

 その、オバケとやらを。

 いや、その前に低音ヴォイスをまずお聞きいただきたい。


「ヴォーォォォォォォ・・・・」

 

 俺がゆっくりと変な唸り声を上げる。


「!?」

 

 ぎょっとして振り向く篠田。

 幸い、篠田が一番俺の位置に近い。


「なんか聞こえたね?」

 

 清川も気付いたようだ。


「ボ・・・ボウワァァァァァァ・・・・」


「ひっ・・・!」


「何だいいったいどうした・・・!?」

 

 高橋も気付き、やってきた。

 三人が集まったところで、いきなり俺が立ち上がる。


「グォァァァアアアアア!!!」

 

 三人、硬直。


 首のない人、あらわる。


 

 ・・・どういう理屈かというと、真っ黒な長袖Tシャツから頭を引っ込めただけなんだが。ウルトラマンのジャミラみたいな感じに。

 あとは、持参した救急箱から取り出した包帯を適度にぐるぐる巻きにして身体に巻きつけてあるから、見ようによっちゃあ墓から蘇ったミイラ男のようかもしれない。

 垂れ下がった包帯を腕から振り回しながら、じりじりと篠田に接近する。


「ひっ・・・ひいいいいいいいい!!!」

 

 篠田の絶叫がトンネル近くに木霊(こだま)した。


「あはは、何それ、どうせ蔵田のいたずらでしょう!」

 

 ご明察、さすがは高橋。

 が、あれ?

 清川は焦って尻餅をついてしまって動けず、篠田の目はカッと見開かれたままだ。

 あちゃー、やりすぎちゃったか。

 場所が場所だけに・・・。


「ぎゃあああああああーーー!!!」

 

 突如、”首なし君”こと俺から逃げようと慌てて駆け出す篠田。

 

 もうパニック状態である。

 長い髪を振り乱し、ものすごい形相のまま、四つん這いで飛び出した。


「うっうわっ、ばけもの!!」


「ぐわあああ!!」

 

 たまたまそこへ、いいタイミングで通りがかった自転車連れの若者ふたりがダッシュしてきた篠田を見て叫ぶ。そして首なし状態で不気味にうろつく俺。


「うわぁ!ここにも!!」


「助けてくれええ!!」

 

 地獄絵図である。



 



 ・・・その後。

 

 旅館に戻った俺たち三人は、小山と水谷教諭をふくめ、こっぴどく叱られてしまった。

 主に篠田に。

 先生が生徒に怒られるとかちょっと笑えるけど。

 はい、どうも、すいませんでした・・・やりすぎました。

 

 この一件は後々まで尾を引き、俺たちは事あるごとにメシを(おご)らされたり、肩たたき券やフットケア券などを作らされて彼らの無料奉仕活動に当たらされるなど、憂き目にあってしまったのだった。




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