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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
4/64

第2話 わたしたちにもできること

「いやそれ、強制?」


 始業のチャイムが鳴って中断していた会話が再開されたのは、もう放課後に入ってからのことだった。

 

 部活がある生徒はそれぞれの場所に出て行き、そうでない生徒はさっさと家路に着き始める。


 先ほどと変わらない面子(めんつ)

 5人が小山の机の周囲になんとなく集まっていた。


「いや、強制ではないけど・・・是非入っていただきたいのです!」


 身を乗り出してくる。

 なんだろうこの小山の迫力は・・・。

 アクションがいちいち大仰(おおぎょう)で面白いな。


「あたしたちもこないだ頼まれて入ったばかりなんだけど、男子も欲しいねってことになってさ」と篠田。


 篠田と清川が顔を見合わせて微笑む。

 清川はおとなしそうな眼鏡系女子だな。身の丈も3人の女子の間では一番低い気がする。


「何をする部活なんだ?ていうか、何で俺?」


 小山はその問いがさも当然返ってくるものであるということだと察していたのか、すぐに答えを話し始めた。


「地域文化部は文字通り、私達が通う宮川高校のある宮川市や住んでいる須ノ郷村またその周囲の地域の歴史や風土、文化全般について研究する部です。年一度これまでは文化祭の日にその発表を行ってきました。また研究結果のレポートなどをまとめて新聞、会報のようなものにして配布も行っています」


「ます」


 なんだ、今の「ます」は。

 ああ、小山が清川に説明を振ったのか。

 ます、だけが小山の発言か・・・。

 清川はそれにしても丁寧な喋り方だな。まとめ方もうまい。俺たちのなかでもっとも論理的な思考の持ち主なのだろう。そんな気がした。


「日に6コマ以上の授業をしたあとで地域文化についての研究とか・・・いや、俺あんま勉強得意じゃないしなぁ・・・高橋は別だけど」


「いや僕も勉強はあんまり」


「そうは思えんが・・・」


 秀才の高橋が勉強できなかったら誰が勉強できるんだよ。


 

 俺と高橋のやりとりを見ながら小山はにこにこしている。


「高橋君も入ってくれる?」


「ああ、蔵田が入ったらね。まぁ自分も実は歴史とか結構好きでさ。地域の歴史とか知りたいけど(うと)いとこあるから」


「じゃあ蔵田君次第か~」


 小山、今度はニヤニヤしている。


「あんま難しいことしないんだよ?あたし達3人も実は入ったばっかなんだから」と篠田。


 それから暫く3人から交互に部の内情だとか活動の様子などを聞かされた。

 具体的には、こんな感じ。


 

 地域文化部は文化系の部の中でも特に小さな集まりで、女子2人、男子1人しか居ない部であった。

 3人はいずれも3年生で、受験を控えているため早期に離脱する意向を示していた。


 そのうちの女子1名(元部長)が、中学時代に知っていた小山を誘い、部の存続のため、入部して欲しいと願ったそうだ。ただ、全員3年であり間もなくすべて抜けるので、あと2,3人は必要となるだろうとのこと。

 自分達の代で部が廃部になるのはいやだから、という理由。

 おそらく、部を維持するためには4、5名は必要なんだろう。

 詳しい規定は知らないけど。


 小山は先輩に知り合いが居ただけではなく、その先輩が小山が普段している活動と部の内容がほぼ合致するところにも目をつけていたようだ。その活動とは。


 3年生は受験のためだというが実質退部となった。よその部と比較すると随分早い引退のような気がするが、早く受験勉強主体の生活にシフトしたいのだろう。

 

 そして新2年生の小山が部長を引き継いだ。小山はクラスの篠田と清川の勧誘に成功した。現在部員3名。新1年生入部なし。


 部活と称して町のあちこちを放課後散策しているらしい。

 そういうのがメインなら、割と面白そうなんだけどな。


 

「なるほど、大体の事情は掴めた」


 それを聞いて小山と篠田は笑顔をこぼし、説明に終始していた清川は安堵の表情を浮かべる。

 

「俺は頭がいいほうじゃないからなるべく簡潔に頼む」と言ったら本当に無駄のない簡潔さで清川が語ってくれた。賢い人はいいね。うらやましい。


「で、小山が普段している活動と部の内容が合致、というのは・・・」


「・・・わかった!」

 

 俺の横で高橋がぱちん、指を鳴らした。


「小山さんの活動だけど。さっき僕らが噂していたアレだよ」


「?」


 俺のみならず、高橋以外の全員の反応は「?」


「なんかね、小山さんらしき人物が駅とかでビラ配ってるとか、旗持って立ってるとか色々噂があってね。それなんだろう、って今日蔵田と話してたとこなんだ」


 小山の目が丸くなる。


「わかっちゃいましたか?」


「うん。宮郷線(みやごうせん)の存続運動でしょう?ズバリ」


「・・・正解!」


 クイズゲームの司会者のようなノリで、嬉々として小山は立ち上がり、高橋に向かって人差し指を立てた。


「そうです、そして蔵田君を呼んだ理由は・・・」


 小山が俺の顔を見た。ここまでくるともうなんとなくわかる。


「宮郷線を利用する沿線住民だから・・・?」


「・・・正解!」


 小山はさっきよりも嬉しそうな表情で、今度はおっ立てていた指を俺のほうに向けた。


「察しがいいわね~!」 篠田がぱちぱち、と小さな拍手を俺たち二人に送る。「話が早いわ。ナナ、いけそう!」


 いけそう、というのは勧誘から入部までの道のことだろうか。小山に対して篠田がナナと言うのは小山の下の名前である菜波(ななみ)から取った愛称だろう。後から解ったことだが。


「・・・いやいや。沿線に住んではいるけど不便なんで最近はバス利用に変えたんだよ・・・去年廃線確実とかって言われてて、バス会社が新たに入ってきただろ。で、鉄道のほうは今年は廃線免れて残ったけど、運行本数が減ったしさ」


「沿線住民は利用しないとだめだよ!みんなが乗らないからますます廃線に近づいちゃうんだよ」

 

 叫んだ小山の言葉がなぜだか俺の心に強く刺さった。

 そうだ。彼女はきっと、この路線に深い思い入れがあって存続活動などに参加しているのだ。

 

 部の活動とカブる、というのは地域の特色のひとつであり、長い歴史を誇るこのローカル赤字路線とその周辺を部活その他で知ることによって存続の意義を知ってほしいからではないのか。


「もう廃線が去年でほぼ確定してたのに、沿線住民の運動とかイベントとか寄付でなんとかもう1年、ってなってるのが今年なんだよな?でももう今年で終わるんじゃないか?とりあえず存続という状況じゃあ・・・」

 

 なのに俺は小山の思い入れも省みず、突き放すような言い方をしてしまう。

 気付くと小山は涙目だ。


「うう・・・」

 

 言ってはならないことを言った気がして、猛省した。


「ああ、泣かしたー!悪い男ー!責任取りなさいよ!」


 篠田が困惑したような顔で入部届を突き出してきて、俺も困惑するままなぜか届出にサインをさせられている。もうわけがわからない。


 それにしても思い入れ強すぎだろ・・・いや、何か深い関わりが小山にはあるのかもしれないが。


「小山、ごめん」


「いや、別にいいよ、いつも言われてることだし、蔵田君が悪いわけじゃないし」




「はい、書けました!高橋君のもありますよ!」


 いつの間に。

 清川が回収した2枚の用紙を見るや、泣き顔だった小山の顔がほころんだ。


「ふふふ・・・計画通り」

 

 となにやら窓側で篠田が一人、呟いた気がするがたぶん気のせいだろう。うん、たぶん・・・。



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