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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
33/64

第31話 件の踏切

「よし、邪魔者がいなくなったから帰りは元のテンションに戻していくわよ!えいえい、おー!!」

 

ミズタニンを入れた6人で円陣を組む。

 まるで野球部みたいだな・・・。

 ああそうか、ウチの野球部もそういや地区予選始まってるんだっけ。

 1回戦は突破したのかなあ。


 選手が試合中に落ち込んだりしてるとき、タイムを取って励ましたりするのは監督の役目だったりする。もっとも、監督自らではなく、ベンチの選手が監督の意向を伝えるわけだが、ここでは監督役たる顧問が自ら俺たちを励ましてくれたようだ。

 さすがだ・・・ミズタニン。



 折り返しは、スタート時のいい雰囲気に戻っていた。

 各員それぞれ奮闘し、大勢の方々が終点の宮川駅で名残惜しそうに手を振ってくれた。

 結果的に、このイベントだけ見れば大成功と思う。





 またある日、俺たちはこのメンバーで乗り込んだ。

 今度は単なる乗客として。

 思えば、ゆっくりこの面子で乗ったことがない。

 部の活動の一環として、生徒会から新たに交付されたお金を有効利用させてもらっている。

 この赤字ローカル線も、どこか富豪とか団体がバーン、と寄付なりしてくれれば、とか思うがさすがにないだろうなあ。


 これまでは学校のある宮川駅周辺から、宮郷線の駅を、宮川から乗っては一つづつ近い駅で降車してその周辺を散策し、レポートをする、写真を撮影するといったことをしてきた。

 夏休み中で授業もないし、日照時間も長いということもあり、遠出できるということになる。


 しかし、奥に行くほど辺境度合いが高まり、元々列車の運行が日に数本しかないので、一度にせいぜい3~4駅とその周囲しか歩けない。

 まあ、急ぐようなことは何も無いけど。

 列車を待つ間に一駅くらい歩けてしまうこともある。

 

 今日は俺が住んでいる一柳駅周辺と、小山が住んでるとなりの駅、七ヶ瀬周辺を歩いた。

 俺んちに寄ろうだの、小山んちに寄ろうだのそういう話になったが、これだけ大勢が大挙して急に押しかけられても困る。俺も困るがたぶん小山はもっと困る。


 松長駅まで行って、その周辺を回って今日は終わろうということになった。


 松長で降車したあと、ミズタニンが「ついでに見ておく?」と訊いてきた。

 何の話だろうと考えていたら、高橋が「あっ」と声を挙げ、それから「あの、事故のあった場所ですね?」

 と訊き返す。

 水谷教諭は「そうよ」と返事する。

 別に断る理由も無い。

 行ってみようということになった。



「ここか」

 

 駅で降りてこの踏切まで来るのに少し時間がかかった。

 確かに、迂回するには面倒だ。

 来る途中で茶色い瓦屋根の一軒屋があり、そのときチラと表札が見えた。「追川」と出ていた。親族で同姓の家がなければ、あいつの実家だろう。いや、話からするにあの家で間違いないはずだ。


「危険には違いないねぇ・・・」

 

 小山が小声で呟く。


「線路、かなり曲がって出てきてる。カーブの出口から踏切まではそんなに距離が無いから、これじゃ・・・」

 

 清川も、実際に目で見て、その危険度を確認できたようだ。


「しかも、その先が高い茂みというか竹林みたいになっててその影からいきなり出てくる感じね・・・まあ、危ないかな」

 

 篠田も(うな)っている。


「ここは・・・もしかするといい撮影スポットなのかもしれない」

 

 え、と俺を含め皆が高橋を向いた。

 彼はしばらくカメラを持って歩いていたからそういうところに気付いたのだろうか。


「文化祭用に使える写真が撮れそうということ?」

 

 篠田の問いかけに高橋は「いいや、そうじゃなくって」と首を振って続ける。


「いわゆる、鉄道車両を撮ってる人にとっては、ということだよ。前に聞いたことがあるんだけど、森林や岩肌で隠れた列車が、カーブから出てくるような場所は、いい撮影場所になり得るんだとか」


「へえ・・・誰から聞いたんだ?」


「蔵田は聞いてないかもだけど、僕が個人的に前、木谷さんに聞いたんだ。同じ写真を扱ってるから、僕も木谷さんに何か聞けたらと思って」


「ほう」


「まあ、ランクがぜんぜん違うけどね。木谷さんは追川氏をプロとアマの差と言ってたけど、僕と木谷さんはアマと素人だからねえ・・・」


「ほむ」


「これは憶測に過ぎないんだけど、追川氏は以前はこの辺とか田舎を撮影して歩いてたと木谷氏が車内で言ってたよね?もしかしたら・・・」


「あっ」

 

 小山が声を挙げた。


「この辺の主要スポットになり得るこの場所で撮影をしてほしくないとか?」

 

 そう言ったときに篠田が何か見つけた。


「これとか、あれとか。見て」

 

 立て看板を指差している。それは踏み切りの四方に、くどいくらいに数本、地面に串刺しになっていた。

 白くペンキで上から塗った木製の手書き看板には「この線路周辺での立ち入り及び一切の撮影行為を禁ず  管理者 追川」と書かれてあった。


「なるほど・・・」

 

 確かに、絶景とかって、人が亡くなった場所でバシャバシャとシャッター切ったりフラッシュたかれたりとか、目の前の家の住人からすれば迷惑以外の何者でもないというか、死者への冒涜と取られかねないな。


「まあ、線路周辺は鉄道会社の土地と思うけど、その付近は追川氏の土地ということだろうから・・・どうしても私有地をまたいで無断で出入りすることにはなるかな」

 

 高橋の言うとおりだろう。

 こうした立て看板があるということは、まあいくつか前例があると推測できる。

 最近は行き過ぎた鉄道マニアが線路内に立ち入って三脚を立てて撮影してて、列車の進行を妨害したとかいうニュースもそういえばあったような気がするなあ。

 もちろんこういうマナー違反はごくごく限られた人間だと思うけど。


「まあ、この場所で、少しはあいつの気持ちも汲んでやれないこともないかなとちょっとだけ思ったけど」とミズタニンは苦笑しながら肩をすくめる。「やっぱり酌量の余地はないかしらね・・・。親父さんの死と最近の言動の過激さは関連付けできないわ。過去を引きずるあまり、よそに多大な迷惑かけてるようじゃねえ・・・」

 

 ごもっともです先生。


「(親族を嫌な方法で亡くすと人格が変わると聞いたことあるけど、あいつはその典型的な例ね)」

 

 踏切から鬱蒼(うっそう)とした茂みに向かって伸びる線路に目を落としながら、誰にともなく水谷氏は呟いた。


「しかも、いちばん楽しく盛り上がると思って期待かけてるイベントデーをわざわざ狙って雰囲気をぶち壊すために乗り込むとか、人として恥ずかしいわ。前はあんな男じゃなかったのに」

 

 追川とどういう関係だったのかはわからない。ただの同僚だったのか、それとももっとプライベートな交流があったのか。

 まあ、ただの同僚ということはないような気はするが、詳しく聞くことはためらわれた。

 だって絶対怒られそうだし。



 しばらくして、俺たちは宮川行きの列車に乗った。

 家とは逆方向だが、"部活”なのでもう少し付き合おう。

 まだ帰りの列車はあるし、日も長い。


「でも」

 

 四人向かい合わせの席に座っていると、窓側の俺の正面に居た小山が不意に喋った。


「追川さんは、きっと優しい人だと思う」

 

 我が耳を疑う。

 追川が、優しい・・・?


「あいつが!?それはどういう・・・」

 

 気になったので()き返す。

 あんな事件があったばかりなのに、よくそんな。


「だって、いままでのこと、全部元はといえばお父さんのことを思ってのことでしょう?やり方はもちろん賛同できないことばかりだけど・・・それだけ家族を愛していたことへの裏返しというか、証明なんじゃないかな・・・」


「ナナ・・・」

 

 複雑な表情で見つめる篠田。

 通路側、小山の隣に座っている。


「でも逆に恨まれる者たちの立場にもなってみてくれ・・・」

 

 俺はとりあえずそう返した。


「うん、わかってるつもり。つもりだけど、でも・・・私も、家族好きだよ。お父さん、死んじゃったけど私もお母さんもとても愛してくれてた。私は追川さんと違ってよそに当たったりとかはたぶんなかったけど、そういうことでしか鬱憤(うっぷん)を晴らせない人もいるのかなあって」


「ナナちゃん優しいね」

 

 清川が言った。

 清川は通路を隔てて反対側の席に水谷教諭と向かい合って座っている。


「とはいえ、これはこれ、それはそれだ」

 

 俺が言ったのを受けて、隣の高橋がくすりと笑う。


「蔵田らしいね」


「大の大人がいつまでもみっともないことするなってんだ」

 

 どうしてか、それを聞いて小山はやや寂しそうに微笑んだ。

 追川と家族の関係に、自分と父親、もしくは家族のつながりの接点みたいなものを、見出してしまったのだろうか。


「お父さんはどうして亡くなられたの?」

 

 ミズタニン、俺が聞きたくても聞けなかったことをサックリと・・・うむう。


「病気でした」

 

 一言、小山の口から漏れる。

 それだけを、とりあえず言葉にしたような。


「・・・そう」

 

 水谷氏もあえて追及しない。重い病気だったのだろう。


「父は、鉄道が好きで、とりわけこの宮郷線が大好きでした。地元を走ってるというのがやはり大きかったと思います。私達一家は、この沿線でずっと暮らしてきたので」

 

 そこまでをミズタニンに語ると、あとは誰に聞かせるともなく、おそらく皆に向けてだったのだろう、喋り始めた。





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