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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
31/64

第29話 夏のイベント列車

 何回か、部費で俺たちは宮郷線に乗った。

 またあるときは自費で。

 もれなく毎度、顧問がついてきた。

 

 過疎化が進みつつある周辺地域を鉄道に乗って移動し、駅で降り、写真を撮り、メモを書き、帰ってきてはレポートや記事にした。

 部が発行する新聞の内容にそれは反映されているし、秋の文化祭のための準備も進みつつあった。

 

 一方で、小山を通じて『宮郷線を守る会』の方々、特に代表の納戸(なんど)さんはじめ多くの方々とも交流を持った。

 学生なのに大変ね、と言われることもあったが、社会人のほうが大変だろうと思う。

 まあ俺たちももう来年は受験だったり、就職活動だったりするだろうから動けるとしたら今ぐらいしかないのだが。



 夏休み中にイベント列車を走らせる計画がかねてよりあり、それが実行に移されることとなっていた。

 これは、以前お座敷列車や遠隔地からのお客相手にアンケートを取った際、多かった意見として採用されることになったのだが、複数ある意見の折衷(せっちゅう)というか、合体というか、そんな内容になっているらしい。


 昨年実施されたというアンケートの集計結果の中で、聞くところによると多かった意見は『駅弁の復活』『車内販売』・・・そして『メイドさん乗せて』であった。


 え。

 

 いや、駅弁の車内販売はいいとしてもだ。

 メイドさん乗せろとかなんなんだよ・・・。

 ブームらしいとか噂で聞くけど、たぶん車内イベント時に関東とかから大挙してきたときのアンケート結果だろうな・・・昨年は地元出身の人気声優さんとか来たらしいからな。きっとそういった特定の層にはウケるのだろう。

 

 ところがこの意見を受けて協議会や守る会は「一緒にすればきっと面白い!」という結果でまとまった。

 駅弁は、地元の折り詰め弁当の会社が、地元産の食材をメインに作られる配送用弁当(主に会社や老人ホーム等に届けられるもの)をアレンジして出品することになった。

 試作品の評判も良かったそうなので、イベントデーでもきっといい感触が得られるはずだ。

 

 そして、これを”メイドさん”が車内販売にて売り歩く、という意見が採択されたが、じゃあその人員はどこから出すのか、という話になり、やれ鉄道会社の社員に応援してもらおうだの、アルバイトを雇うだの、ボランティアスタッフを募ろうだの、様々な意見が出されて紛糾したらしい。

 

 しまいには、「弁当屋のおばちゃんに出てもらったら」という意見も出たが、おばちゃんがメイドでいいのか。家政婦にしたほうが近くないか。

 ああ、それはそれで面白いね、家政婦が物陰からじっと客の様子を伺いつつ、呼ばれたら弁当を提供するとかいいね、でもそれはどっかで見たドラマじゃないか、とか。

 この会に参加していたらしい小山が、臨場感溢れる解説で俺たちに語ってくれたので、あたかもみな昨年の会議に同席していたかのような錯覚を受けたのではないかと思われる。


 そのとき、メイドで募集があればボランティアだろうとアルバイトだろうと立候補したい、という小山のもと、有志が集まった。

 有志が・・・。


 俺らじゃないか!


 そしてそれが実施される日は・・・今日だ。



 俺たちは車内に居た。

 それぞれ普段とは違う衣装を着ている。

 普段着でもなく制服でもない。


 小山が意見を通してしまい、皆ノリで引き受けてしまって、いわゆるエプロンドレスにカチューシャといういでたちで女子3人は動いていたし、俺と高橋は燕尾服のような黒のスーツに白手袋、革靴という格好で立ち回っている。

 執事とメイド、だそうだ。


 執事というのはやはり決まったイメージがあるそうで、東京都内ではそういう喫茶でイケメンが働いたりする場所がいくつかあるらしい。

 俺と高橋がイケメンかどうかは別として、事前に告知があったらしく幅広い年代層の女性にさかんに呼ばれる。

 写真を撮って欲しいとか弁当にジュース、コーヒー、デザートの品まであれこれをお持ちしている状態だ。


 協議会や守る会など一部のホームページではこのイベントの内容について触れられていたが、まさか自分や部員らが主催側で参加する羽目になろうとは・・・。

 よそから募るのかと思いきや、小山が「もう話通してあるから。メイドと執事はこの5人でやります」とか・・・直前になって言うなよ・・・。


 小山が言うには、女子3人は既にやることが決まってて、篠田にいたっては快諾、清川も了承済みとのことであった。本当なのか。というかどういう手を使ったのか。

 俺と高橋については、「直前に言ったほうがいい、断られると他所から人手を借りないといけなくなる」とかいう理由でほんの3日前に告知があり、衣装合わせからいわゆる作法、話法まで流れを教わった。

 スーツやエプロンドレスなどはどこから借りてきたのか由来がわからない。誰かの私物か、レンタル衣装か何かだろう。

 

 「執事になるには」とかいう本を事前に渡され、高橋と二人で部室で読みふける羽目になったのには困った。

 「なる」と言っても見た目だけだが。

 別に貴族のお屋敷に入ったりしないし、将来的にそういう予定もない。

 

 女子3人はエプロンドレスを合わせてきて、「いらっしゃいませー!」だの声を出しあっていたから、入ってきた顧問に「あら?もう文化祭の準備してるの?早いわねー」とか言われてしまう始末。

 が、事の成り行きを聞いて水谷先生、「私も行くわよ!」となにやら目を輝かせていた。


 

 だから、ミズタニンも同伴である。

 車内でOLぽいスーツ着てこちらの様子を物陰、ドアとか客車の座席隅からニヤニヤしながら見つめている。

 こっちのほうがメイド・・・いや家政婦っぽいな。雰囲気が。


「いらっしゃいませー!」


「ようこそ宮郷線へ!おいしいお弁当、お茶はいかがでしょうかー!お菓子におつまみ、ビールもございます!」

 

 さかんに乗客にアピールする小山と篠田。

 列車は貸切で宮川駅から終点・桜淵駅までを往復する。

 行きと帰りで異なる地域ボランティアの方が沿線周辺のガイダンスを実施する。

 車内は事前予約のお客で一杯の満員御礼だ。

 

 最近のイベントは特に盛り上がっているが、今日のこれはその中でもひときわ盛況といっていい。

 お客さんたちの会話もはずみ、笑顔が絶えないところを見ていると、もう成功といっていいのではないだろうか。

 あとはただ、平時もこれだけ人が乗ってくれれば・・・という感じだが、まあそれは難しいことなので、今後はさらにイベントによる収益に頼らざるを得ないのだろう。生き残れるとしたら。


 小山はもう前からやってましたというか、もうその筋の人というかその手の業界の人にしか見えん。篠田は長身でスタイルもいいので、モデルがコスプレしてるような感じだし、清川はおどおどした様子ではありながらも丁寧な応対ではにかんだような笑顔が一部の”紳士”らにウケているようだ。



「先生、この企画に僕らが出るの、止めようとか思わなかったんですか?」

 

 素朴な疑問を、手すき時に近くに居た高橋が訊く。


「止めるわけないじゃない、こんな素敵計画」

 

 ほお。


「我が部員の綺麗どころとイケメンズが揃ってこういう場に出るのよ?止めようなんて選択肢がどうして出てくるの高橋君」


「はあ・・・」

 

 高橋、苦笑している。


「清川さん、いいわよー。もっとこう声、気持ち大きめに!笑顔は最高!」


「は、はい!」

 

 何様なんだか・・・後方で勝手に指示を出すミズタニン。

 男子大学生か若い社会人みたいなお客のほうからは「あれ、メイドカフェのオーナーなんじゃね?」とかひそひそ会話が聞こえてきたが、すいません、あれ、ただの学校の教師です。



「こんにちは」

 

 声がして振り向くと、この間、清川の即売会で出会ったアマチュアカメラマンの人だ。

 ええと、名前なんてったっけな・・・。


「木谷さん」

 

 思い出した。


「覚えていてくれましたか」

 

 顔は覚えるんだけど名前をすぐ忘れちゃうんだよなあ、自分。


「はい。・・・で、今日はどういった?」


「どういったもこういったも。私の好きな鉄道で風変わりなイベントがあると聞いちゃあ、ねえ?」

 

 ねえ?と同意を求められましても。


「はあ、そうですか」


「よく似合ってますね!あと、女性陣も華やかで」


「どうも。・・・そういえばあれから、あの追川とかいう人とは会われたんですか?」

 

 聞いてみた。


「ああ、即売会ね。私が出店するっていうんで興味あるって言われてて、来れたらということだったんだけど会場内でもその後も特に何も。来られていません」


「そうですか。まあ、我々も会わなくて良かったというか。揉めるかもしれませんし」


「あ、でも今日は来られてるはずですよ。この車両のどこかに」


「え?」

 

 なんと。

 それはある意味恐ろしい。


「どうしてですか?」


「私とあの人は面識も交流もあると言いましたが、撮影にいい場所を教えてください、って前に話したことがあるんです」


「追川が、この沿線でいいスポットを・・・?」


「ええ。前はこの周辺をよく撮影されてたらしいですからね。もっとも、今は全くしてないそうですし、過去にそういうことをしていた素振りも見せないのですが。あまり深く話したがらないようですが、あの人、昔はこの地域一帯やここ宮郷線のこと、地域のこと、かなり好きだったんじゃないですかねえ・・・」

 

 それは意外だ。

 木谷さんの口からそういう言葉が聞けるとは、思ってもみなかった。


「驚きです。あんなにムキになって俺たちや守る会の人らに噛み付いてくるくらいだから、なんだろうとは思いましたけど。粗野な野蛮人くらいにしか思ってなかった」


「そんなわけ無いです。あの人は教養ある人ですよ。あらゆる分野に精通していて、なおかつカメラの腕も達者だ。あなた方は対立してるかもしれないけど、私はむしろ尊敬しているくらいで。教職の傍ら、撮影を随分前からされてたそうですけど、それでも何であんないい仕事をお辞めになったのか。理由はやはり、事故なんだろうなぁ・・・」


「事故・・・ですか?」


「その言い方だとご存じないようですね。昔、追川さんはこの沿線、松長駅近くにお住まいだったと聞いています。で、ご家族と住んでらした。でも、家のお近くの踏切で、人身事故が発生してしまった。後にも先にも、唯一の死亡事故です」


「なんと・・・」


「当時はニュースで報道されましたよ。事故死したのは、追川さんの実のお父さんです」


「!」

 

 そうだったのか。

 

 そんなことが、過去にあったのか。

 なぜあの男が激しく憎悪の炎をたぎらせているのか、その核心に今、触れた気がした。


「蔵田くーん!手が空いてるー?お客さんよー」

 

 ミズタニンの声だ。

 俺は今日、一般の客じゃない。

 一箇所で油を売っているわけにはいかないのだった。

 俺は一礼すると、とりあえず木谷さんの座っている席を離れた。




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