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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
30/64

第28話 即売会

なんでこんなとこに来ているのか、自分でも不思議な気がする。

 

 夏休みに入った初日は祝日。

 海の日だが、近くに海はないし、プール日和ではあるが俺はあまり泳ぎが好きな部類じゃない。浜辺やプールサイドでだらだら過ごす分にはいいのだが。

 まあ、一般の方々は夏だし、海やら山やらへお出かけモードなのかもしれない。

 開放的な夏を味わっておられることだろう。


 俺といつもの面々は、連れ立って市民会館に来ている。

 外へではなく中へ入るのだ。

 この閉塞感溢れる世界へ。

 

 来ている、といっても既に清川含め女子3人はもう中に居て、売り場の準備などをしているらしい。

 「俺らも先に入って手伝おうか?」と事前に清川に声掛けしたが、「ごめんね、入れるの3人までなんだ」と返された。

 で、高橋と男二人で並んでいた次第。

 

 以前清川が言ってた通りに、ここで今日は同人誌即売会なるものが開催されている。

 10時半開場だそうだが、まだ1時間前に来たのにかなりの人が入場待ちの列を形成している。

 駐車場は混雑してるし、誘導のバイトの人やらも大忙しだ。

 なんか派手なアニメ風のコスチュームに身を包んだ一団がぞろぞろ歩いてるし・・・ 


挿絵(By みてみん)


「開場です!」

 

 アナウンスが場外に響いて押されるように入っていく。


「カタログを買って中に入るんだってよ」

 

 高橋に袖をつかまれた。


「お、そうなの?」

 

 500円払う。

 これが入場料みたいなもんか。

 

 目の前には、本、本、本。

 あとはなんかグッズのようなものが大量に置かれていたり。

 見たことも無い光景に、目がちかちかする。

 なんだこの世界は。

 軽いカルチャーショック気味だ。


「さて、どのへんだろうね」と言いつつ高橋がカタログをめくる。「清川さんのサークル名は・・・」

 

 サークルっていうのは、仲間とかみたいなもんか?大学とかで一緒に勉強するチームみたいな・・・?いや、なんかここでの意味は違うな。清川はたぶんソロ活動だろうしなぁ。


「『R-12a さみだれ症候群』あ、これか。あっちだね」

 

 高橋についていく。


「こういうとこ、来たことあるんじゃないのか?やけに手馴れた感じするぞ」


「いやいや、実ははじめて!それにしてもこんな広いホールでやるんだね」


「だなあ。それにしてもナントカ症候群とか、清川のサークル名称?意味不明だな」


「変わった名前をつけたほうが人目を引きやすいというのがあるからね。素朴な名前だと大多数に埋もれちゃう。そのへん、清川さん分かってるんじゃないかな」


「へえ・・・」

 

 そうなのか。


「いらっしゃい!」

 

 声を掛けられる。

 小山だった。

 篠田と並んで売り場に立ってる。


「ここだったんだね」


「そうそう!高橋君もあと手伝ってね!」


「いいよ小山さん。前にもバザーのときにやってるしね。要領は同じようなもんでしょ」


「うんそう!」

 

 清川は少し奥のほうで椅子についており、なにやら作業していたが、俺たちの登場に気付くと手を振った。


「おはよう~!ありがとう、来てくれて」


「清川さんは何してるの?」


「スケッチブック描いてるみたいよ」

 

 高橋の問いかけに篠田が返答する。


「スケッチ・・・?」


「サインみたいなもの、と言えばわかるかなあ」

 

 清川の言うことは半分くらいしかわからん。


「サインじゃなくて何かずっと書いてるようだが」


「会場内にスケッチブックを持ち込んで、贔屓(ひいき)の作家さんとかに絵をリクエストしてもらうの。OKだったら描いてもらえる。買い物してもらったついでにサービスというわけ」

 

 なるほど。ということは清川はそれをしているわけか。


「キヨちゃん、すごいよ!入場からもう5枚描いて、いまストックが8枚!描けるかなぁ?全部」

 

 小山は我が事のように嬉しそうだ。

 つまり、スケッチブックをそれだけ依頼されるということは、ある種描き手の人気のバロメータともいえるわけか。


「大人気だね清川さん!」と高橋。


「なんせ『鉄道パンフの絵の人』でこの辺りじゃ有名人だからねぇ」と篠田。


「ぜんぜん有名とかじゃないよぉ」

 

 清川はそう言うが、それでも学生なんだから凄いと思う。


「早く片付けないとどんどん溜まってくんじゃないか?というか、一日それしかできないんじゃ・・・」

 

 俺の突っ込みに苦笑する清川。


「『もうスケブの受付は終了しました』って手書きのPOPいま描いたから立てておいてくれる?」


「りょーかい、わかったわ」

 

 篠田が受け取り、サークルのテーブル前に立てかける。


「本日終了、と。さて、あとは本とかグッズの売り込みかしらねー」


「開幕してそんなに時間経ってないから、売り子の交代とかまだいいから会場内とか回ってくる?」

 

 小山が呼びかける。


「いや、俺むしろ先に清川の漫画本読みたいわ」


「だめだめだめ!!」

 

 奥から悲鳴が上がった。


「いいだろ清川。折角来たんだし。別にエッチな本とかじゃないんだろ?」


「バカね!そんなの未成年が描いたり売ったりできるわけないじゃない!」

 

 冗談のつもりだったがマジレスされたうえ篠田に怒られてしまった。

 まあそりゃそうだわな。


「男子はやはり、売り子はいいです・・・」

 

 どういう意味なのか・・・清川。


「『エドワード・・・貴方を想い続けて幾年月、やっと今宵こうして逢えることが』『シルビア・・・月光を纏って浮かぶ君の姿はまさに白亜の窓辺に立つ妖精のごとくに・・・」


「ぎゃああああああ!!!」

 

 ものすごい形相をした清川の腕が俺に迫ってきて、一瞬で本を奪い取られてしまった。


「はあ、はあ、はあ、」オーバーリアクションすぎだろう清川サン・・・。「ダメ!!!」


「あんたねぇ・・・嫌われるようなことしないの」

 

 篠田が言うのはもっともだが、興味と誘惑には打ち勝てなかった。


「ごめん、勝手に読んで」

 

 手を合わせる。


「気が済んだ。いや、いいと思うんだけどな・・・絵も綺麗だし、臨場感あるし」


「あ、ありがとう・・・」

 

 引きつってはいるが、一応清川は笑っていた。


「超甘々なスイーツなんだよ、キヨちゃんの漫画!」


「なるほど・・・」

 

 小山の表現は的を得ている気がした。


「まあ、たまに糖分大目の方がおいしいよな・・・菓子とか」


「漫画って、お菓子みたいなもんかもしれないよね、現代人にとって」

 

 また高橋らしいフォローが入ったぞ。


「清川さんの漫画も盛況みたいじゃない。みんな甘いもの好きなんだよ、きっと」

 

 確かに、さっきから傍で見ているとお客さんが結構出入りしていて、それを小山と篠田がかわりばんこで応対している。


「というか俺ら、すごい邪魔じゃん」


「全くよ。売り場にいないなら後ろに立つか、場内歩いてくるかどっちかにして頂戴」

 

 篠田に急かされて、俺と高橋はぶらぶらと会場内を歩くことになった。


 

 巡回に出たはいいものの、退屈極まりないものとなってしまった。

 最初のうちは珍しいものがあちこちにあって歩くたびに目を奪われていたが、慣れてしまえばどうということはない。

 

 高橋はそれなりに各売り場の前で立ち止まっては物色し、買ってみようかどうしようかと悩んだ挙句に何も買わず、ということを繰り返していた。


 結局、俺は清川がやってることに興味があったのであって、知り合いでもなんでもない人たちの売り場にはあまり深入りすることもなく早々に引き上げてしまった。

 高橋は置いといて。


「戻ったー」


「早いね!」と小山。まあそうだなあ。


「あれ」


「?」

 

 よく見ると隣の売り場はこことテーブルが繋がっている。

 鉄道関係のものを売っている・・・のか?


「こんにちは!」

 

 威勢のいい声が掛かり、俺は顔を上げた。

 メガネをかけた中肉中背の中年男性と目が合った。


「こことここ、一緒にスペース取ってるんですよ」

 

 にこにことしながら、男性は自分の立ち位置のテーブルと隣のテーブル、つまり清川のテーブルを指差した。


「あ、知らなかったっけ。合体してるんだよ」

 

 奥から清川が喋ってきた。まだスケッチブックに必死に筆を運んでいる。


「がったい?」


「元々は異なるサークルだけど今回は連結で、つまりセットで応募したわけで」


「へえ・・・それだとどういうことになるんだ清川」


「色々と便利かなぁと」

 

 ふうん、と言ったがよくわからない。


「我々は今回で2度目ですが、『宮郷線を守る会』の一部メンバーで作るサークルです」

 

 なるほど、確かにあれこれそれっぽいものが並べてある。


「主に沿線の風景の写真やなんかをデータとか印刷物にして売ってます」

 

 奥から別の男性がにゅっと現れた。そうだった、大体席には複数人がいるんだよな。


「あと、グッズも鉄道会社の許可を得て。二次創作品ですが。・・・よかったらこれどうですか。CD-ROMですが、駅の風景とか車窓からの景色とか、逆に列車を撮ったものとかあります」

 

 銀色の円盤が入っているのであろうそれを、その男性は俺に手渡した。


「くれるんですか。ありがとうございます」


「500円です」

 

 ぶ。

 そりゃそうか・・・売り物だもんな。


「ああ、いやお金いいですよ、差し上げます」

 

 さっきの男性が、俺が財布を捜しているところを制した。


「え、いいの?」


「だって清川さんの知り合いの人でしょう?だったらそれくらいサービスしないと」


「・・・いいんですか。ありがとうございます」


「まあ、どうせCDはマスター一枚作れば焼くのは同じだしね。まあ手間と1枚辺りの単価が数十円かかる程度で。ああ、これはセルフというか、自宅で焼いてパッケージしたので元はそんなかかってないのでお気になさらず。印刷所通すと十数万円以上は取られるけど」

 

 そうなのか。


 いつの間にか高橋が帰ってきて、俺の隣に佇んで一緒に話を聞いている。


「ああ、その人、前に話したことなかったっけ。列車の中で。自分で沿線の風景を撮影してカレンダー作る人居るって言ってたでしょ?」

 

 小山がひょいと隣を覗き込んできた。


「ああ、そういえばそんなこと小山から聞いたなあ」


「こちらの方がそうだよ。木谷さん」

 

 と言われて「ああ、どうも」と相手を見て挨拶。

 確かにそう言われてみればそうか。

 写真で撮影したものを元にした製品ばかりがテーブルに並べられている。


「来年のもカレンダーつくるつもりですよ!いま別に撮影して回ってますけど」


「普段は何かお仕事を?」

 

 小山の話ではアマチュアの人ということだったからなあ。


「ごく不通にサラリーマンを。今日は休みです。こういう休みに出歩いては沿線の風景を撮ったり、列車に乗ったりしますね。あと守る会の活動とか」


「お疲れ様です」


「今回は守る会としてもですね、色んな機会に存続のアピールをしていこうと思ってまして、このような場に参加させていただいてます。清川さんはパンフに関わってもらったし、小山さんは会のメンバーですしね。売り物は一部共通の品を置いているんですよ」


「わかったー?両方のテーブルで宮郷線関連のグッズも置いてるんだよ」

 

 小山が言うグッズというのは缶バッジとかキーホルダーみたいなやつかな。この辺にたくさん置いてある。

 自家製なのだろう。たぶん絵柄的に清川が描いたんだろうな。

 さっきから見ているが、ぼちぼち売れている。清川のスイーツと一緒に。


「公式グッズのほうは見られました?」


「え?」

 

 その、守る会の木谷さんが言うにはどうも鉄道会社も参加しているらしい。


「書店とか画材屋の出張販売のある場所のならびに、鉄道会社来てます。宮郷線関連です。協議会のメンバーの有志の方々も頑張ってます」

 

 へえ、それはすごいな。こんなとこまで来てるのか。


「一箇所に固まったほうが目立つとは思うのですが、この即売会の都合上、個人と企業は分けて場所を取らないといけないきまりみたいでして・・・」


「ああ、行きましたよ」と高橋。「挨拶して、これ買って来ました。清川さんのキャラクターだよねこれ?」

 

 清川と、小山、篠田も反応する。


「おお!ついに製品化かー!」

 

 篠田氏。


「あっそうそう、先行販売するって言われてたような」と苦笑いの清川。


「うわー、すごいね!映えるねー!」

 

 鉄道会社の制服を着てはにかんでいるように微笑む少女のイラストポスターだ。


「まだサンプル家に届いてないけど、よく色が出てる。綺麗に印刷されてる、良かった」

 

 もうすっかり公式の絵師か何かじゃないか。

 どこまで有名になるのか、清川さん。


「ホールの内側からじゃよくわからなかったけど、混雑するからって買い物客の列が外に伸びてたよ。人気あるみたいだ」


「それは凄い」と言う俺の背後で小山が「こっちも負けてられないね!」と息巻いている。



 それから、高橋は人数分買ってきて欲しいと頼まれる。

 が、木谷さんが言った何気ない一言で足を止めた。


「追川さんそういえば時間あったら来るって言ってたけど、来ないなぁ」

 

 ・・・?

 追川?まさか、あの。


「こないだガチンコしそうになったって言ってませんか、小山さん」


「え」


「まあ、来られないならそのほうが穏便に済んでよさそうなんですけどねぇ・・・前に商店街でどうとか言ってましたよね」

 

 小山がそのときの様子をおそらく守る会のこの木谷さんに報告したのだろう。あるいは代表の納戸さんにした話がメンバーに伝わっているとか。


「やっぱりあの、追川さんですか?」

 

 怪訝そうな顔を木谷さんに向ける小山。

 なんでその名前がここで出てくるのか、不思議がっている様子だ。それは勿論、我々も。


「なんで追川さんと面識がおありなんです?木谷さん」

 

 俺の問いに木谷さんは回答した。


「カメラマンつながりって言うのでしょうかね・・・ああ、そう。あの人、カメラマンしてるんですよ。私と違って、プロのフリーランスの」


「え・・・」

 

 皆、絶句。


「昔はこの近辺をよく撮影されてたとかどうとか。ああ、いや、ずっと前はカメラ持つ人じゃなくて他のことしてたって言ってたかな・・・なんだっけ、ああ、教職か。よくわからないですよねえ、なんで安定性の高そうな仕事を辞して別のことを始められたものか・・・」

 

 ミズタニンとも面識があるという理由も、これで辻褄が合う。


「謎が多い人だったけど、そういうことだったのか・・・」と高橋。


「案外、世間は狭いものよね・・・」との篠田の発言に、皆同意することになった。



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