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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
3/64

第1話 新学期

 4月。


 クラス替えが行われたのはつい先日のことだ。

 一年生時にそこそこ仲の良かった連中はほぼ離散してしまい、高校二年になるや全学年の生徒がシャッフルされた状態で窓側に座っている俺がいる。

 

 蔵田靖雄(くらたやすお)。17歳。帰宅部。

 

 これといって取り得もなく平凡を絵に描いたような中肉中背の男子だ・・・というのは自身が思うところであって、他人の評価ではないのだが、おそらく周囲に俺のことを紹介して欲しいと言っても大して変わらないのではないだろうか。たぶん。

 

 クラス替えは完全な抽選のようなものではなくて、ある程度問題児や優良児を教師の間で相談して最終的な決定が行われると聞いたこともある。

 

 勿論(もちろん)教師から直接聞いたわけではないから単なる噂に過ぎず、実際どういうカタチでクラスの生徒が決められるのかについては憶測の域を出ない。


 まぁ、今の俺にはそれらはどうでもいいことだが。

 とりあえず気が合いそうな友達をつくることが明るい高校生活の基本だ。先決だ。

 いや、そうだと思ってる。

 

 最近、休憩時間になると席の近くで決まった女子らが騒いでるというか、話に華を咲かせているのが目に付くようになった。

 

 話好きな連中なのだろうか。

 

 3人くらい居る中の、小山(こやま)という女子についてはそういえば最近なにやら噂めいたものを聞く。

 気になったのでふと、近くにいた(このクラスではまだ少ない)友人の一人に声をかけてみた。

 まあ、去年同じクラスで親しくしてた人物ではあるのだが。

 

「・・・高橋。そいえばあそこの、小山って子さ」


「うん?」


「何か変な噂聞かないか?」


「噂?」

 

 高橋は聡明そうな細い顔の上部についている眉をやや動かして怪訝(けげん)そうな表情を浮かべる。

 高橋は俺より肉付きがない、というか細身であまり運動が得意そうな外見ではない。逆によくできた坊ちゃまのような印象を受ける。


 まあ、実際よくできた学業優良児なのだが。

 俺もよく授業では世話になっている。 

 ノートを写させてもらったりとか・・・。


「ああ、なんか駅でビラ配りとかしてるとかいうのは聞くね」


「そっか、高橋も知ってたか」


 その件に関しては自分も聞いた。

 が、ほかにも色々な噂を聞いている。複数の大人たちと何か声かけをしてるとか。

 

「ピザ屋のチラシ配布バイト?」


「いやいや蔵田、ピザ屋なら戸別配布するでしょ。家庭のポストに入れるんじゃないかな」


「ああ、そっか。・・・じゃあ幟旗(のぼりばた)持って立ってるとかっていうやつ?そういう噂も聞いたことあるんだけど」


「ふうむ。まさか議員先生の選挙の応援に一学生が駆り出されてるとかいうこともないだろうしねぇ」


 (あご)に手を当てて考えるふうな姿勢の高橋。

 二人して考えるが、ますます謎だ。



「着ぐるみを着て立ってたっていう噂もあるんだが・・・」


「へ?着ぐるみ?」


 妙な声を上げる高橋。


「頭だけ出てる状態で何かのキャラクターっぽい衣装で・・・」


「うーん。なんて断片的な情報なんだ・・・というか、それを目撃した人たちはなんで彼女に何してるのか聞かないんだろうね?」


 友人は苦笑する。


「いやまあ、俺がそこまで知らないだけかもだけど、考えるに、何か『この子ヤバそう』とか思われてるんじゃね?関わるとちょっとメンドそうとか思われてるとか」


「・・・ヤバい感じにはぜんぜん見えないけどなぁ・・・」


「・・・だろ?いつも(ほが)らかで健全なイメージはあるんだよなぁ。ただ、少し変わってるかもという印象はあったな」


「話したの?」


「ああ、軽い挨拶程度だけど」


「ふうん・・・」


 小山と初めてこのクラスで会ったような振りをしたのは、なぜだろう。

 気恥ずかしい感じがしたせいかもしれない。


 このとき高橋や他の人にはまだ言っていなかったが、実は小山とは旧知である。

(すぐに周囲にバレるのだが)


 子供のころ、少しだけ遊んでいたことがあるのだ。

 爺ちゃん家に一時預けられてたときだけだけど。

 祖父母の家がこっちというか、小山の家の割と近くだった。

 それから父の転勤や諸般の事情で県外に出たりして、また家庭の事情で今はまた、祖父母の家で厄介になっているというわけだ。

 

 小山とはいわゆる幼馴染という部類に入るのかもしれないが、それほどの関係じゃない。

 事実、小学校以降は一度も会っていないのだ。

 高校生ともなると、もう別人だろう。

 昔の面影は残っているが、学校ではどうだろう。

 1年のときはクラスが違ったので話すようなことは特になかったような気がする。


 しかし、変な人呼ばわりされたって小山はいいやつだ。

 昔からそうだった気がするから、基本だけは変わってないと思う。

 

 

 不意に斜め少し前の窓側の席に居た小山と目が合う。

 まさか聞こえてた・・・?


 気付けば小山に続いて、彼女の前で喋っていた女子ふたり、篠田(しのだ)清川(きよかわ)も俺たちのほうを見ている。

 3人の中でいちばんの長身、スラリとした良スタイルでクラスの男子から評判の篠田が手をひらひらとこっちに向けて振っている。


 誘われるままに俺は席を立つ。

 高橋と一緒に女子の輪に加わる。

 小山の席を中心に不思議な5人の集団ができていた。


「ね、蔵田君はいま部活とかやってる?」

 

 最初に訊ねてきたのは篠田のほうだった。

 

「いや、何も」


 1年のときは俺はテニス部に在籍していた。

 が、部室内で他の部員たちが喫煙をしていたことがバレて、その日居合わせた全員が停学処分に。

 

喫煙していないと言い張る者もいたが同室した生徒6人はすべて処分を食らってしまった。

 たまたま用事で帰宅していてお咎めのなかった俺に”チクリ”の疑いがかけられ、身に覚えのないことで停学決定組の連中に吊るし上げられてしまう。

 

 自分の非を(かたく)なに認めようとしないばかりか通報者をでっち上げ、それがもっとも悪である、みたいなことを言われたのではたまらない。

 こういう連中は今後似たようなことが起きるたびに他人を巻き込んで迷惑をかける恐れがある。

 

 と思った俺はこんな場所早々に出なければと思い退部届を提出、受理される。

 1年生の年明けごろだったと思うのだが、以後運動系も文化系もいずれの部にも所属していない状態が続いているのだった。

 あえて言うなら帰宅部か。


 

 なんというか、あの頃の周囲は「高校に上がったからにゃ、俺たちゃもうオトナだぜー!」的な間違った悪ふざけが蔓延していたようにも思う。


 とにかく「俺はもう煙草なんて随分前から常習よ!」とか「小学生の頃から酒なんか浴びるくらい飲んでるぜ!」のようなおかしなアピールを繰り返す輩が少なからず出没し、「○○君オトナ!かっこいい!」と女子に言わせたいのか躍起になっている様は(はた)から見ていると滑稽(こっけい)だ。

 これがいわゆる”中二病”とかってやつかな・・・。


 周囲に大声でそんな発言なぞしているから、担任や生活指導の教師の目に留まっちゃうのである。自分でやっといて人に言いがかりつけてくるとか・・・何だかなあ。

 

 こないだの遠足でも水筒にお茶でなく酒を入れてきた連中が居たそうだが、やはり彼らと彼らに悪影響を受けたその他生徒だったようで、「俺はチューハイを」「なんの俺はビール入れてきたぜ」「甘いな。日本酒だ!」とかいう会話があったとかどうとか。


 いわゆるアルコール系飲料を水筒に入れてきた生徒たちが、登山で疲れた身体に酒を水代わりにゴクゴクあおるもんだから悪酔いし、登山中に嘔吐して、まとめて手当てを受けていたようだがなんとも恥ずかしい。過剰な”オトナアピール”もここまでくるともうギャグにしか聞こえない。

 というか、ギャグだよな?狙ってやってるんだよな・・・?



「じゃあー、暇だよね?」

 

 別のことを考えていたら、不意に小山が喋った。


「え?」

 

 小首を傾げるようにして、座ったままの状態から、目の前で立ってる俺を上目遣いに見た。

 顔が近い。

 ドキリとする。


「ね?」

「あ・・・ああ、暇といえば暇と言えなくもないかな・・・」

「結構忙しいのかな?塾とか?」


 頭を掻きながら目を逸らしたが小山は立ち上がって俺の顔を追いかけるように見つめてくる。何これ恥ずかしい。


「いや、それが全然、おそらくまったく忙しくない。が、どうだろう、部活とかちょっと間に合ってるような・・・」

 

「僕と一緒に帰ることもあるけどどこにも寄ったりしてないみたいだよ。塾もないし」

 

 ニコニコしながら高橋。


「余計なこと喋るなよぉ・・・」


 悪びれる様子もない。このクラス委員高橋・・・まあ、逆に考えればそれだけ俺たちは打ち解けているということかもしれないけど。


「よかったあ!」

 

 両手をぽん、と合わせて笑顔を作る小山。


「よかったねぇ!」


「うんよかった!」


 篠田と清川も続く。

 いったい何がよかったというのか。


「私達の部・・・地域文化部に入ってください」


「・・・は?」

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