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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
29/64

第27話 アンケート

先日、清川が言ったことを受けて、商店街でアンケートを取ることになった。

 

今回はちゃんと事前に管理会社には連絡、承認済みだ。

 顧問の許可も取った。

 あまり街頭で活動するな、と内々に言われてはいるが、今回は特別だ。

 小山が「宮郷線を守る会」のメンバーの何人かに電話なりして、応援で駆けつけてくれた人たちも割といた。

 

 宮川駅でも同様のアンケートを実施し、老若男女を問わず多数の意見が寄せられた。

 宮郷線の今後のあり方を、地域住民に直接聞けるよい機会となった。




「開封していきますよ!」

 

 小山部長の声が部室に響く。

 部員らは回収用の箱を開いて、様々に折りたたまれた紙片を机の上に掻き出していく。


「結構集まったね」

 

 と高橋。


「正直ここまで回答がたくさんもらえるなんて」

 

 と清川も驚きの様子だ。


「とりあえず、存続に否定的な意見、肯定的な意見、その他で分けてみよっか」


 篠田の提案に「うんそうだね、それがいい!」と部長も納得だ。

 サクサクと内容を走り読みしながら篠田と清川が仕分けを行っていく。

 高橋は持参したノートパソコンで表のようなものを作っている。

 おそらく意見の集約をデータでやって、まとめたものをプリントアウトしてきてくれるのだろう。

 俺も仕分けに加わる。

 小山も。



「『正直乗っていないので存続とか廃止とか割とどうでもいいです』」

 

 読み上げるのは高橋。

 大体の意見をPCに打ち込んだらしい。

 早いな・・・。

 一番最初に開いた紙片は、本当にどうでもいい意見・・・いや、本当に正直な意見だった。まあ、自分が乗らないのだから、路線の行く末など興味はたいしてありません、というところか。

 大多数がこういう意見かなとも思う。


「以下、似たような内容が多かったので省略。端折(はしょ)ります」

 

 ふむふむ、と小山らも頷いている。


「『自分は乗っていませんが、高校生はじめ多くの方々が存続運動に参加しておられるのを知りました。頑張って欲しい、といいたいところですが、自分が確実に利用することの無い路線に税金を使って欲しくないです。存続させるならもっと鉄道会社にやらせるべき。地域住民を当てにしている感じがして好ましくありません』」

 

 素直な意見だ。


「『即刻廃止すべき。もう旧時代の遺物』」

 

 否定的な意見を聞くたびに小山の表情が冴えないものになってる気がするな・・・。

 

 しかしアンケートに回答してくれた方々の多くは割と好意的な意見が多かったように思う。

中には『何も地域住民だけの鉄道ではないはずです、鉄道は旅の人をいやす力を秘めたツール。ローカル線の魅力はまさにそこにあります。付近の人が利用できないなら観光用だと割り切って改善しちゃえばいいのでは?まあ改善がたいへんなんでしょうけど。がんばってください。個人的には存続賛成ですというか絶対生き残って欲しい!』というような意見があり、皆励ましを受ける。


「『宮郷線は昔から沿線住民には馴染みの路線。残して欲しいです』」


「『もはや我々の郷土の風景のひとつである宮郷がどうか生き残りますように』」

 

 願いにも近い意見もある。


「観光鉄道か・・・確かに、そうやってしのいできた路線の事例もあるみたいだね。今後生き残るためには、過疎化の進む沿線地域だけの収益では難しいだろうから、やはり狙うとなるとこのあたりになる気がするね」

 

 高橋の意見は、アンケートの内容を踏まえてのまとめのようにも感じられた。


「さて、実に有意義でありがたい意見をたくさんもらっちゃったね!あんまり部本来の活動を侵食してもアレだから、この集計結果が集まるにふさわしい場所にすぐにもって行こうかな」

 

 と小山部長。


「キヨちゃんは今日、あすこだよね?大飯元の増本さんち」


「そうそう。ナナちゃん、出るんなら一緒に行こうか?」


「どこに行くかわかった?」


「たぶん市内の納戸さんちでしょ?守る会代表の」


「よくわかったねー!」


「えへへ、なんとなくね」

 

 そんなやりとりが小山と清川の間であって、二人は以前行った納戸さんちへ向かった。

 高橋が表にしてデータ化したものが入ったUSBメモリのようなものを持っていったから、おそらく職員室の水谷先生のところに寄っていくのだろう。

 そしてこっそりミズタニンPCからプリントアウトしたものを納戸さんちに持っていくと思われる。現物のアンケート用紙とともに。

 

 俺と高橋と篠田は残って部活らしいことをやる。

 秋の文化祭用の準備だ。

 あと新聞づくり。

 その間に小山らが用事終わって帰ってきたら、一緒に帰ろう。

 市内で待ち合わせるか。



「そいえばナナから何かあった?」

 

 唐突に篠田が聞いてくる。


「ん?いや、特に何も」


「コクられたりとか」

 

 高橋が目を丸くしているがなんとなく事情を察した感じ。


「いや、何もない」


「進展しないわねぇ」


「何を期待してんだよ」


「あんたたちの行く末よ」

 

 話を続けてはいるが、皆黙々と作業していて手は動いている。


「ひとごとだろう、根掘り葉掘り聞かなくてもいいよ」


「そうはいかないわよ。ナナは大事な友達だしね」

 

 大事な友達なので首を突っ込まざるを得ないという論法はよくわからないが、心配しているのだろう。お節介を焼きたい性質なのは前からわかってはいるけど。


「付き合ってるとかいないとかそういう宣言を公にしなくても俺たちは信頼し合ってるし特に言うこともない。ただお互いに離れるのは嫌だ、ということだけは確かだ」

 

 それを聞いてちょっとあっけに取られたような表情を見せた篠田だったが、途端、柔らかい顔になった。


「なんでこういう遠まわしな言い方しかできないかなー スレてんのかねこの御仁は!」

 

 それを聞いてははは、と高橋が笑う。


「実に蔵田らしいね」


「俺は、あまり言葉というものを信用していない」

 

 二人、きょとんとしている。


「言葉は素直な心情の伝達方法であるし、逆に人を(あざむ)くときにも用いられる。同じ言葉でも心の中は正反対かもしれない可能性が常にある。すべての人付き合いにおける言葉のやり取りは所詮その程度のものでしかない」

 

 そこまで言うと、高橋が反応する。


「つまり言葉で言う『好き』だの『愛してる』ということそのものに疑問を呈しているというわけだね。君のそういうところはきっと・・・」


「口先ではどうとでも言えるからな。まあ、そういうことばかりを指して言ってる訳じゃないけど」


「なるほど」


「ウチの両親なんてデキ婚でさ。俺が唯一の息子なんだけども、大して付き合っても居ないのに熱に浮かれたようにくっついてしまって・・・ああ、これはじいちゃんが親父叱咤してるときに電話の傍でつい聞いてしまったことなんだが・・・まあ今はもうどうでもいいや。・・・すぐ冷めて別れようと思ったときには『お前が腹ン中にデキてやがった』。ああ、今のは親父が酔っ払ってうっかり白状した本音。世間体を考えて一緒に生活してたりしたけど、一度冷めた関係は修復できなかった」

 

 二人、ぽかんとしている。

 喋るのどうかなと思ったが、篠田ががぜん乗り出しているので続けた。


「一緒に暮らすうちに元に戻れるかもと考えたんだろう・・・でもダメだった。籍は入れてるけど別居状態が続いて、俺が義務教育を終えた中学卒業のときに母親は正式に離婚届けを出した。で、別れた」


「大変じゃない、蔵田ん家・・・」

 

 と篠田。


「高卒の学生結婚だったけど、将来に対する何の見極めもないまま戯れにした恋の行方というのはまあ、悲惨な結果を生む可能性が高いというのは俺の家庭が示してるからなぁ」


「そっか・・・」

 

 溜息をついて高橋が話に入る。


「いつも(はす)に構えて穿(うが)ったモノの見方をしている君の態度とかは、家庭環境から来ていることがだいたいわかったよ・・・本来恋愛はもっと自由で闊達(かったつ)であって然るべきだとは思うけど、蔵田のことは同情する。あまりない事例だとは思うけど、自分もそういう環境だったら・・・」


「あたしはスレてたでしょうね」

 

 篠田も大きい息を吐く。


「よくまあ、グレずに育ったわよね」


「俺は爺ちゃん婆ちゃん子だからな。あの二人は本当にいい同士という感じで、将来はああいう年の取り方をしたいと思ってるよ。信頼関係が完全に構築されてるというのか・・・長ければ長いほど深まるというか。残念ながら心が成熟してないままくっついた俺の元両親は、長く居ても己の損得ばかりを考えてて相手に対する思いやりが足りなかった気がする・・・まあ子供のくせに仮にも両親に対してなに悟ったようなこと言ってんだとか怒られそうだけど」


「そっか・・・僕は前に子を愛さない親はいない、と言ったけど・・・蔵田の場合は・・・ごめん、わからない・・・いや、こんなこと言ってしまって悪い」


「いや、別にいい。大体の家庭の子は愛されてるもんだと思う」

 

 そこまで言うとなぜか俺が溜息をつく番だった。


「でもまあ、義務感に駆られてのことかもしれないけど、今まで育ててくれたことには感謝してるつもりだよ・・・」


「本当に愛し合える者同士ってのは、言葉に依存しない、と思ってるんだ。かりそめの浮ついた言葉のやりとりから始まってしまうとよくない結果を生む可能性があるとさっき言ったけど。俺の周囲も関係が破綻して悲惨な状況になってる家庭とかあるんだわこれが」


「蔵田にとって恋愛事は些事(さじ)ではなく、重い責任を伴うもの、と考えてるのよね。いいわよ、そういう考えがあっても。むしろ遊びのように考えない考え方のほうが私好きよ」


「恋愛やその先にあるかもしれない結婚とかの問題について、蔵田は信頼関係を長くはぐくんでから、またそのはぐくむ過程において構築されるべきだと、つまりそういうことだね」


「難しい言葉使わなくてもいいけど、でもまあ、そんなとこかな」


「意外にしっかりした意見持ってるわね。・・・そうね、自然と寄り添える、言葉が無くても相手の心情を察することが出来る・・・以心伝心って言うんだっけこういうの。蔵田の理想はその、いま厄介になってるお爺ちゃんお婆ちゃんなのよね。というか、その人たちがいい教師だったのだなあ、孫にとって」


「ま、こんなめんどくさいこと言うやつ、大抵は相手にされないけどな!」

 

と俺が笑うと二人も笑った。


「それがいいと思ってるみたいなナナも変わった嗜好よね!」


「怒られるよ聞かれたら!」

 

 三人で笑った。

 俺たちは色んな意味において通じ合っている気がした。

 


 そしてだべっているうちに日が暮れ始めた。

 作業をあらかた片付けて、俺たちは帰路に着く。

 小山を迎えに行こう。



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