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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
26/64

第24話 ストーカー

 ビラ配りの終わった翌日、午後から追川がスピーチのようなことをするというので皆で見に行ったが、酷い内容だった。


 ある程度は予測してたがこれほどとは。

 

 追川は街頭に立って、鉄道会社の怠慢、過去に起きた死亡事故などを挙げて巧みに語る。

 

 宮郷線はようやく長い不通が終わり通常運転に復旧したが、これまでの対策、対応のまずさは奴にとって格好の的だった。

 資金難を理由にがけ崩れの発生しそうな箇所を意図的にスルーしてきた挙句、今回の崩落事故が起こるべくして起きたこと。

 客車も耐用年数が過ぎていそうなほどボロなのに、外装も内装も、修理や塗装換えなども長年行われた形跡がないこと。

 それらから(かんが)みるに、本来しなければならないメンテナンスさえしていない可能性の示唆。データの提出を要求するも門前払いを食らった経緯。

 

 一般の交通に比べても鉄道ははるかに安全である、ということを存続の理由のひとつに挙げている者たちもいるが、けして安全ではない、むしろ幾多の危険を内包しているとの指摘。

 利用者もたいしていないのに自治体からいくらか補助金を得ているらしいこと。

 自治体や住民まかせの運営会社の投げやりな姿勢、などなど枚挙に(いとま)がないほどの問題点が挙げられていた。


 確かにしかし、これらは深刻な問題でもある。

 俺たちからすれば通学の足だし、まあバスを使えるということもあるがやはり定期を使えば安く済むし。お年寄りは・・・鉄道など使わずにこれから充実すると言われているコミュニティバスを使うようにすれば、・・・あれ?

 

 いかんいかん、奴の術中だ。

 いや、しかし。

 言うことも一理・・・いや、ううん・・・なあ、小山。

 俺たちのしていることって、ダメなのか?

 むしろ、邪魔なんだろうか・・・。

 

 存続派の言い分のひとつに、どの交通機関よりもはるかに安全な鉄道!交通事故率ほぼゼロ、とかいうのがあるが、崩落事故はたびたび起きているようだから、運営会社に真摯(しんし)な改善姿勢がない以上いずれ大事故につながるとかいうのがあのおっさんの主張だ。

 主張だ・・・。


 何もやり返せない。

 運営会社もどうすることもできないところまで来ている。

 メンテナンスの必要を訴えたら、運営会社はどうせ自助努力ではなく自治体や住民に負担を強いるだろう、それでいいのか、潰せるなら今だぞ、ということだ。

 

 くやしいが、言い返せない・・・。

 それで皆、沈痛な面持ちで帰宅することになった。

 小山だけでなく皆のテンション激落ちだ。

 ヤツは俺たちが来ているのに気付いたのか、こちらを見てあの不敵な笑みを送ってきた。

 オレは睨み返してやるのが精一杯だった。


 今一度、俺たちも。

 存続の意義を自身に、周囲に改めて問う時期なのではないか。



「ねえナナちゃん」

 

 帰りはしかし清川は割と冷静だった。


「なに?」


「アンケートとか取ったらどうかな」


「アンケート?」

 

 いぶかる小山に清川は自分の意見を提案する。


「うん。この辺とか、いや、駅周辺のほうがいいかな。鉄道利用者もいることだし。存続に反対か否か。存続してほしい人はその理由。なくなってほしい人はその理由。どっちでもいい人とかその他に意見あるかどうかとか・・・」

 

 なるほど、という顔を小山はした。


「ダイレクトに意見がわかってよさそうじゃない?」

 

 と篠田。


「そうね・・・ちょうど追川が問題点を付近住民に洗いざらい言ってくれたからね。良くも悪くも。その上で改めて地域住民に信を問うのはいい考えだわ」

 

 先生も会話に便乗。

 そうだな。そうかもしれない。


「よし、アンケートをつくろう!」

 

 小山部長の一声で決定した。

 とりあえず、簡潔に、どういう意見を募るか決めないとだが・・・まあこれは聞くことなんて解ってるか。


「じゃあ私、つくってもいい?」

 

 清川が軽く挙手した。


「大丈夫?キヨちゃん」


「そうだよキヨ、もうじきなんか漫画の会みたいなん、あるんでしょう?忙しいんじゃ」

 

 小山と篠田の連続した意見に、清川は笑って首を横に振る。


「ううん、問題ない。無事、原稿入稿したから。あとはその日を待つだけ」


「印刷所に出したの?すごいね!」と小山。


「お金、結構かかるんじゃない?」

 

 高橋の言うとおりだ。印刷所って、個人で出せるのか?


「いや、そうでもないよ。50部くらいで1万くらいかな」


「そんな安いのか」俺も良く知らなかったが驚きだ。まあ、商業でやってるわけじゃないからそんなものなのかな。


「そっかぁ、じゃあ私らの部の地域研究とかを、ふんだんに清川さんのイラスト入りで、薄っぺらでもいいから本媒体で出してもよかったかなぁ・・・部費がある今なら」

 

 なにやら先生はぶつぶつ言っている。


「実際生徒会からせしめたものの、宮郷線の不通が長かったからお出かけまだ出来てないしねぇ。本のほうに少しお金回せるかもねえ」


「そうですね。まあどうあれ、清川さんは既に地元でも人気の学生イラストレーターですから、本だろうとコピー誌だろうとふんだんに描いたイラスト、掲載予定ですけどね」

 

 高橋が笑う。


「イラストレーターとか地元で人気とかぜ、ぜんぜんそんなことない!高橋君!」

 

 ややあわてて清川が手を顔の前でぶんぶんと振った。

 みな釣られて笑う。

 やや普段どおりの俺たちに戻ってきたかな。



 バス通学はそれなりに快適ではあったが、しばらく列車で通ってみてわかったことは、車窓からの風景はだんぜん列車が綺麗だということだった。

 

 いつだったか、小山と初めて宮郷線で談笑しながら通学したとき、高地からの絶景や赤い鉄橋、田園の上を飛ぶ小鳥のさえずりなど、まあ、若い高校生たる俺が言うのも変だが、「心洗われる景観」とでも言おうか、おそらく年配の方ならそういう表現を使うであろう風光明媚なところを縫って走っていることに驚きもしたものだ。

 

 今まで乗っててもあまり気にも留めなかったのは、俺に情緒がなかったり他のことに気を取られていたりしたせいもあるだろうけど、小山が田舎の素晴らしさを改めて教えてくれたんじゃないかと今では思っている。

 たぶんこれからも、俺たちはこの周辺地域を歩くことによって、辺境の地にある辺境であるが故のよさとそこを走る鉄道のよさを理解していくことになるんだろう。


 そうして、今日また宮川駅から小山と帰宅の途につく。

 部ではアンケートの作成が一応終わって、また今度はこれをどこかで配布・回収しようというところまできていた。

 事後報告になってアレかなと思ったが、配布許可を会の方に得ようと連絡したら速攻でOKが来た。

 

 もう七月に入り、日没までが長くなった。

 というか、一年で一番日が短いのは夏至の日の6月22日前後だから、もう折り返していてこれからはちょっとずつ短くなっていくのかもしれないが、夏の太陽はなかなか西へは没しない。

 それを理由にしているわけではないが、今日は結構皆居残りであれこれ配布計画や今後の予定など考えてたから遅くなってしまった。

 

 夜の七時半を回ったごろ、俺は小山を送るために七ヶ瀬駅で降車した。

 まだ残照が山肌に張り付いている。

 が、周囲はだいぶ暗くなりつつあり、人の顔が判別しにくいレベルに達している。


 そのとき。

 電柱の端に人影。

 

 人気を感じて振り返るとそこに何者かがこちらを向いている。


「どうしたの?」と小山。


「いや・・・気のせいか?」

 

 人影は消えている。


「歩こう。今日はお母さんは?」


「ああ、うんたぶん早く帰ると思う。もう帰ってるんじゃないかなあ。ちょっと遅くなったし。駅から電話して呼べばよかったかも」


「小山んち、駅からそんなに離れてないからまあ、いいんじゃないか?お母さんも疲れてるだろうし」


「そうだね」

 

 しばらく歩いて振り返る。

 居た。

 やはり付いて来ている。


「ねえ、蔵田君・・・」


「何だ」


「いるの?」


「・・・」

 

 小山と会話しているうちにまた消えている。


「・・・いない」


「いないの?」


「なあ、俺思ったんだが」


「ん?」


 この辺で昔、変な死に方した人とか、たたりの伝説とかあるか・・・?」


「え・・・何それ怖い」


「いや・・・人が居る気がするんで振り返ると居ないんだ・・・」


「えええ!」

 

 やばい。めっちゃ怖がらせてしまった。


「ああ、嘘。お化けとかという可能性もあるかなとか思っただけだけど・・・小山はさ、お化けと生きてる人間が付いて来てるのとどっちが・・・」


「どっちも嫌だよ!」


「ごめん、ちょっと引き返して確かめてきていいか?」

 

 おどおどした表情で小山は俺を上目遣いに見たが、コクコクと首を縦に動かす。


「いないな。逃げたか。あるいは気のせいだったかもしれん」

 

 本当は気のせいではないという感覚はある。

 さっき居たような場所の周囲まで戻って確認するが人気はない。

 というか元々このへんは誰も歩行者がいない。

 ど田舎だしなあ。

 夜出歩いてる人のほうがめずらしい集落だ。

 

 店もほとんど無い上、スーパーやコンビニもないのだから徒歩で歩いている人間は、学校帰りの俺たちぐらいなもんだ。

 市内に出勤してる人もだいたい自家用車が多いからな。


「もう今日は帰ろうよ・・・」

 

 とっ捕まえることが出来れば早い解決になりそうなんだが、相手が変質者とかだと何かヤバいものでも持っているかもしれない。

 返り討ちに遭うとも限らないので、今回は引こう。

 そうだな・・・次は木刀でも・・・いや、学校には持っていけないよな。

 せめて大きい駅みたくコインロッカーでもあればそういう備品を置いておけるんだが。

 


「お帰りなさい、まあ蔵田君。いつもすみません、送っていただいて。なんと言ってよいか・・・ああそうだ、もう遅いから食事して帰りませんか?」

 

 小山の言ったとおりお母さんはもう仕事から戻っていた。


「いつも本当に助かってるんです、電話してくれたら今日は迎えにいけたのに・・・ナナ、蔵田君と一緒に帰りたかったんでしょう?」


「えへへ・・・」

 

 そうなのか?

 だとしても全然怒るような気配もないなあ。

 家によっては「虫め、娘から離れろぉ!!」とか言う親も居るとか・・・?ああ、それはアレだ、極度の娘コンプレックスのパパとかか。

 小山ん家は女性の二人暮らしだから心細いんだろうな・・・というか俺って割と信頼されてるのかなあ。そうなんだろうなあ。


「すいません、じゃあお言葉に甘えます」


「うんうん、そうして!人多いほうが楽しいもの。この辺は寂しいし、蔵田君なら大歓迎!」


「ありがとうございます」

 

 寂しい上物騒な場所になりつつある気がするが、今日の件はお母さんに言ったほうがいいかな・・・いや、この明るくなりつつある雰囲気を壊すのもあれだ・・・そして異様な心配を・・・そうだな、明日ミズタニンとか部員に相談してみるか。




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