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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
24/64

第22話 居間にふたり

 ラーメン店・・・いや、中華料理屋『大飯元(だいはんげん)』を出たあと、俺は小山を送ったあと歩いて家路に着いた。

 

 まだお母さんが帰ってないようで、小山によると「間もなく帰ってくるはず」とのことだったが、勤めに出ておられるようだった。

 

 一人っ子なので家に他に誰もいない状態での夜というのは寂しいものだろう、きっと。

 よく把握していなかったが、これまでこういう日が結構あったのだろうかと思うと彼女がかわいそうにも思えてきた。

 働き盛りのお父さんが病気で亡くなって、母子家庭で奮闘しているお母さんも大変だろうと思う。


 小山が言ってたストーカーではないか云々のことは、この日わからなかった。

 それらしき人影は見当たらなかったのだ。

 いつもと違うパターンでの帰路だから、もし普段付けられていたとしても、この日は図らずも巻いた格好になるかもしれない。

 

 だが油断は禁物だ。

 彼女は健気に振舞ってはいるが、内心穏やかではないであろうことは想像に難くない。

 守るべき者がいなければ、やはり俺が守らなければ。


「お母さん帰ってくるまで何かして遊ぼうか!」

 

 にこにこしている小山の両手には、据え置き型ゲーム機グレイステーション3が。

 居間のテレビをつけて、配線をいじり始めた。

 というかもう遊ぶ気まんまんだし。


「良かったー!こういうときのために2プレイヤー用のコントローラー買っといて」


「うんまあ、そうだな」

 

 いつの間にかコントローラーを握らされている。

 ソファの上に並んで画面を二人、見つめる格好だ。

 よく考えたら小山ん家、来たの今日が初めてじゃないか?


「自分の部屋から持ってきたのか?これ」


「ん?ソフト?本体?」


「いや、どっちも」


「うん、どっちも自分の部屋からだけど・・・あ!だめだよ!私の部屋は散らかってるからね!男の人はまだ入れたことないしね!今日はダメだ!」

 

 じゃあ明日ならいいのか?と突っ込もうとしたが怒られそうなのでやめた。

 まあ、いきなり来たら誰でも部屋には「はいどうぞ」ってワケにはいかないもんな・・・いや、綺麗に整頓されててもアレかもしれないが。


「はいはい、居間でやりましょう」

 

 俺は適当にソフトを箱の中から選んでみる。

 なんかファンシーなやつが多いな・・・「しょくぶつの森」とか「わたしの冬やすみ」とか・・・。あとはパズルゲームとかか。


「男の子って格闘ゲームとかシューティングとかのバトルものみたいなのが好きなんだよね?と言うか、普段ゲームとかやるの?蔵田君」


「あー、うんそうだなぁ・・・たまにやる程度かな。まあ最近はケータイのゲームくらいしかやってないけど。小山は落ちモノパズルとか好きか?」


「うん割と好きかな!」


「じゃあこれやろうぜ、『ぶよぶよ』」

 

 落ちモノゲームの名作といわれてるやつだ。『テトラス』と並んで知らない人があまりないくらい有名なんで、いつもはゲームをしない人でも何回かはやったことあるんじゃないかな。


「いいね!じゃあ、対戦で!」


「勿論!」


 

 30分後・・・。


「やったー!また私の勝ちだね!」


「くそ・・・ぜんぜん勝てん・・・」

 

 対戦成績1勝10敗以上。よくわからない。面倒なので数えるのをやめたが、小山さんの実力たるや相当のものだ。


「く・・・いかんなぁ。格闘ゲームなら勝てるんだが・・・スピリットファイターズとかキングオブファイヤーズとか・・・」


「ダメダメ!勝ち目の無いことがわかってるような勝負はしません!」


「ちぇ」


「ところで・・・お母さん遅いな」

 

 時計の針は8時を回ったところだ。


「残業かも。まあ、仕方ないね。ごめんね、待たせちゃって。でもお母さんに送ってもらったほうがいいかなと思ってるから」


「いや、いいよ、お母さんも仕事で疲れてるんだろ。あんま他人が長居してもアレだし、そろそろ戻られる頃なんなら俺の子守ももう役目終わりかな」


「ちょっとー!なんで子守なのよー!というか、大丈夫だから!車でサッと送ってもらったら蔵田くん家まで5分もかからないよ。歩くと結構あるよー」


「うーん、まあ大丈夫だ、歩くのは慣れてるからな。ここいらの田舎育ちだし。それに、みんなと割と部活で歩いて鍛えてるもんなー」


「鍛えられたかなぁ?」


「たぶん」


「でも夜道は怖いよー?都会と違ってこのへんは日没後は尋常じゃない暗さだよー!まあ、わかってるとは思うけど!」


「オッケーオッケー。全然大丈夫。男はこの程度で怖がっていちゃいかんのだ」

 

 立ち上がりかけた俺を、すがるようなまなざしが追いかける。

 その瞳の奥には、何かしらの嘆願のような思いが篭っているのが見て取れた。


「まだ帰らないで」

 

 後ろからシャツの裾を掴まれる。

 背中にコン、と小山の頭が擦り付けられるような音がした。


「一人にしないで・・・」

 

 たぶん本心だったのだろう。


「小山は、寂しがりやさんだな」


「そうだよ。一人は嫌なんだよ・・・」

 

 そのとき、不意に電話の音が居間に鳴り響いた。

 小山は一瞬ビクリと身体を強張らせたあと、たたた、と電話機のもとへかけていく。


「お母さんじゃないか?」


「そうかも!」

 

 だが受話器の話し声を聞いているとそうではなさそうだ。


「はい、もしもし小山で・・・あ、納戸(なんど)さん!」


「おお、小山の嬢ちゃんか!」

 

 納戸さん?

 ああ、あのご老人か。思い出した。

 

 いつだったか、ゴールデンウィーク前に部員で押しかけた、『宮郷線を守る会』の現代表の方だ。

 あのときは小山と清川とでアイデアを出し合ったパンフレットを取りに伺ったんだっけ。

 というか、スピーカーホンになってるぞ。

 会話の内容が筒抜けだ。

 デフォルトでそういう設定にしているのだろうか、この家は。それとも受話音量がデカすぎるだけ・・・?


「あんたに用があって。いや、聞きたいことがあっての」


 なんだろう。


「はい、なんですか」


「変な男から電話かかってこんかったか」

 

 ??

 変な男ならいまここで会話の内容を聞いていますが・・・。いや、違うか。


「変な、男、ですか・・・?」

 

 くぐもった怪訝そうな声になる小山。


「いや、ああ、ええよ。その様子じゃまだかかってきてないということじゃな。わかったわかった」

 

 小山が首をかしげている。


「どういうことかよくわかんないので、かかってくる可能性があるなら詳しく教えてくれませんか?」


「いや、かかるかもしれんし、かからんかもしれん。実は、わしの家に昨日嫌がらせと思われる匿名の電話があった」

 

 ほうほう。


「相手はわかってるんですか?」


「いや、名を聞いたが名乗らんかった。どうもそいつは『宮郷線を守る会』メンバーを調べてかけてきてるようなんじゃ。既に何人かのメンバーからは同じような電話があったということで相談を受けておる。で、メンバーの一員たる小山の嬢ちゃんにもあったかと思うて。いや、まだ全員に確認とってないんでの。かかってきてないのもおるらしいから」


「・・・・・」


「『これで宮郷ももう終わりだな』とか『列車はまだ動かないとか、鉄道会社も怠慢だなあ』とか『そんなのとつるんでるあんたらも責任重いよ』とか『さっさと解散しろよ』とか・・・」


「・・・・・」


「いや、ないんならいいけど、気をつけての。もし掛かってきたら相手にせずに速やかに切ったらええ。ほんで、もし掛かったらわしに一応連絡ください。いま、取りまとめしてて、『こういう妨害の事例がありました』ということで協議会の方に報告上げよう思うとる。今はまだなんともいえんけど、あまり酷くなるようなら事件として警察の方にも通報して立件してもらえないかとも考えとるんよ」


「・・・・わかりました。大変ですね」


「まあ現状だと事件として見てもらえるかどうか怪しいけど、一応連絡まで・・・困ったことがあれば相談しての」


 電話が終わった。

 

 小山の顔がやや硬直しているような・・・。

 しかし警察沙汰が絡みそうな問題にどうしてか俺たちは巻き込まれるな。

 平穏無事に、楽しい学園生活を送り、普通の高校生として青春を謳歌させてはくれないのだろうか。


「お、おう、小山!ゲームの続きやろうぜ!まだ1勝しかしてないからな!せめてもう1、2回くらいは・・・!」

 

 その俺の声を聞いて安心したのか、彼女の顔に笑顔が戻った。


「よーし、返り討ちだ!」

 

 その調子、小山。

 しかし、厄介ごとが増えてしまったな。


 数分後、玄関のドアが開く音がしてお母さんが帰ってきた。

 小山が経緯を話すと、俺に向かって母親は深々と礼をした。


「蔵田さん、本当にまあ今日もお世話になってしまって・・・」

 

 小山のお母さんと小山本人同乗で、自家用車で家まで送ってもらった。

 家から出てきたウチの爺ちゃん婆ちゃんとが、ふたりと玄関先で話に華が咲いてるようだった。


 そして夜が更けていく。



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