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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
23/64

第21話 放課後の夕食

 「前回は(おご)っていただきありがとうございました!・・・で、今回はそういうことのないように皆、前払いとさせていただきます」

 

 こないだの中華料理屋『大飯元(だいはんげん)』に来ている。

 清川がお世話したりされたりしている例の店だ。

 俺らしからぬ丁寧な物言い。

 皆挨拶を店主にし、注文をしてから金額を個々で差し出した。


「いや、気を使ってもらわなくてもいいのに!」

 

 と店のご主人。

 その様子だとまた奢ろうとか考えてらしたのでは・・・。


「いえいえ、そういうわけには!・・・今回はあらかじめお釣りのないよう持って来ましたので」

 

 逆に小銭ばかりがたくさんあってもアレかな、と思ったが店主は「いや、小銭多いほうが助かりますよ。丁度お釣りの細かいのを用意しないとって思ってたんで」とのこと。

 まあサラリーマンとかはよく千円札だけをペラッと1枚レジに出す人が割と多いもんな。


「へいおまち」

 

 また店主が直々に持ってこられた。


「清川さん?気になります?やっぱ」そう言ってあごひげの店主、にこりと笑う。「彼女、凄い腕前ですねぇ。なんてぇのかな、絵の大会?・・・いや、本の大会だっけか。ああ、違う、即売会っていうのかな。それが間もなくあるみたいでしてね。ええ、宮川市内の・・・どこだったかな、ああ、そう確か市民会館の1階ホールを借りてやるんだそうですよ。借りるのはまあ別に主催が居るようだけど。・・・彼女から聞いてます?」


「いやあ、聞いてないですねぇ」と俺。「聞いてる?誰か」と問うと、皆ふるふると首を横に振った。

 

 声の返事はないのか・・・と思ったらみなさんもう麺を啜ってらっしゃる最中。


「ああ、ごめんなさい、伸びますから蔵田さんもお早くどうぞ」

 

 と言いつつこの店主動きそうに無い。

 話がいろいろしたい人なんだろうな、と思う。

 まだ夕方6時ごろだから、店内にお客はあまり居ないせいか。

 7時頃になれば増えるんだと思うけど。


 心なしかチャーシューの枚数が皆、1枚多くないか?

 あと、俺と高橋は男子というせいか麺のボリュームがあるような。

 女子は野菜が俺と高橋よりやや多めのような。

 皆同じメニューを頼んだのに、この店主さん・・・いや、ありがたくここは黙っていただいておこう。


「清川さんが娘に夢を与えてくれてほんと、感謝してますよ。今日はもう先ほど帰られたんで、丁度入れ違いだったと思うんだけど、絵だけじゃなくて勉強まで見てくれて。嫌な顔せずに教えてくれてるお陰で、娘はいまや前以上の大ファンです。彼女にはそのうち何らかの謝礼をと考えているんですがね、まだいいもんが見つかんなくてね、考えてるところでして・・・」

 

 店長は饒舌(じょうぜつ)だ。

 それも随分親しみやすい喋り方だ。

 長く客商売してるから、というのもあるんだろうなあ。


「いやー、それはこちらとしても嬉しい限りですよ~。同じ仲間として!ねえ、シノちゃん!」


「そうだねぇナナ。ウチらにはなーんもたいした特技ってないけど、キヨは凄いもんもってるからねぇ・・・相変わらず本とか見せてくれないけどさ!」


「あれ?そうなんですかい?」


「そうなんですよー。見せてくれって言ってもなかなか・・・ああ、高橋、ちょっとそっちの食べさせて」


「ああ、いいよ」

 

 俺がスープを吸ったり麺を口に運んでる間に話が進んでいく。

 あれ?みんな同じの注文しなかったか?篠田。

 ああ、高橋が細めんで篠田のが平めんか。

 というか、仲いいな。


「微笑ましい光景だなぁ、高校生らしいというか。いや、あなたたちの会話とかやり取りとか。自分にもそんな時代があったなあって」

 

 笑った店主のまなざしがどこか遠い感じがした・・・が、目は俺たちのほうに落ちているのだった。


「まだまだお若いじゃないですかー!」

 

 よくわからないツッコミを入れる小山。

 確かにまだ若そうには見えるな。三十代後半くらいか・・・?いや、意外と40代かも。この人。


「いやいや、ありがとう小山さん」

 

 すっかり覚えられてしまったな。

 というかまだ来て二回目なのに・・・商売の人は客の顔と名前を覚えるのが早いっていうけど本当かもしれない。


「そういえば今度の祝日?えっと、7月の海の日でしたっけ。あの日に清川さん出店するって言ってましたよ」


 店主の言葉に小山が「(知ってる人いる?)」と言わんばかりの視線を全員に送る。が、反応は無い。

 もう食事が終わって皆落ち着いて話をしているような状況だ。


「いや、知らないです・・・」

 

 と小山。


「おやぁ、ご存知ない?」


「キヨは・・・清川さんは、部活のことがあるからあまり言いたくないのかも知れないですね・・・ああ見えて気を遣う子ですから・・・」

 

 篠田の言ってることはなんとなくわかる。

 清川も、時間があればそっちに時間を使いたいのだろう。

 することがなくなったので部室で隠れて原稿を描いたりしていたが、本当は絵の活動もあるからこっちにも力を入れたいはずだ。でも皆で部活を盛り上げていこう、となると個人の都合だからあまり強くは言えない。まして大人しい彼女の性格だからなあ。


「絵があって、部活があって、そして学業がおありでしょ?そして事情をよく知らずに私が娘が喜ぶからと軽い気持ちで頼んでしまって・・・」

 

 店主、頭を掻く。


「いやあ、清川さんはでも嫌なことは嫌です、ってはっきり言える人だから、大丈夫ですよ。本人に聞いたらここに来るの結構楽しいって言ってましたし」

 

 明朗な小山の声で店主、普段どおりの表情に戻る。


「そうですか、そりゃあ良かった」


「じゃんじゃん使ってあげてください」

 

 俺の言葉に篠田の突きが入る「痛ぇ!」


「キヨの保護者みたいなこと言わない!」


「すまん・・・」

 

 俺は何か一言、無駄口が多い。いや、一言どころじゃないか・・・。

 平然と突っ込みを入れてくる篠田にはしかし感謝すべきかもしれない。

 俺の行き過ぎを叱ってくれる人物はそう居ない気がするからなあ。反省。

 


「行っちゃう?」と小山部長。


「どこに?」と篠田。


「即売会かい?いいね、僕も行ったことないから行ってみたいよ!」高橋がやけに乗り気だ。


「仲間に一言もなくここのマスターと娘さんだけ知ってるのはおかしいよな!みんなで行ってびっくりさせてやろうぜ!」

 

 言った直後にまずかったか?と思ったが、反応は意外にも良かった。


「いいね蔵田君!よしやろう!是非やろう!」

  

 部長は俺の手をがっしと掴んでぶんぶんと振った。


「ナナも行くなら自分も行くよ!」

 

 篠田も立ち上がってるし。

 清川には悪いが、我々の抑えられない好奇心と衝動のため、海の日当日は驚いていただこう。

 お詫びに何か、販売だの荷物運びだの手伝うからさ。


「じゃあオレも参加させてもらおうかなあ・・・!」


 店長・・・。

 店のほうはいいんすか・・・。


 


「世の中の食文化ってやつもだんだん安くて手軽で日持ちして・・・ってな流れになってきやがってましてね」


 いつの間にか気がつけば俺たちのテーブルは、立ったまま喋り続ける店長の独壇場になってきていた。

 もう7時を越えたので客が増えて来だしたような気がするから、もう少しで終わると思うんだがもうちょっとだけ付き合ってあげなくちゃ。

 というかなかなか店長の身の上話は面白い。


「オレも昔はこう見えても和食の板前でして。でも日本食はね、鮮度第一。日持ちしないからさ、売れ残ると腐らせちゃうんだよね・・・。個人で店構えると、素材が足りなきゃ文句言われるし余れば捨てなきゃならない。まあそれを言っちゃどの店もそうでしょと言われるかもしんないけど、和は素材がそれなりに高いモンでね、こういう無駄に耐えられなくなってやめた。こう言っちゃナンだが中華の素材は使い回しが利くんですよ。ああ、古い油を捨てずに使ってるとかそういう意味じゃないですよ」

 

 なるほど、状況に応じて転身を図られたわけで。

 うまくいってるから今の店主があるのだろうなぁ。

 いや、和でうまくいかなかったからここに店を構えることになったと言うべきか?


「できればもう一度、和食でみんなに喜んでもらいたいってのがあるんだけど、機会はもう来そうにねえなあと思いますね・・・」

 

 少し寂しそうだ。


「でもあきらめの悪いオレのこと、常連さんのために店にない和食、実は用意してるんでさぁ。ほんの数人前だけどね。いわゆる裏メニューってやつ?こんどよければご提供しますよ。自分も娘もお世話になってるからね。まあ、この世は持ちつ持たれつ。折角会ったご縁だ、仲良くさせてくださいや」


 世の中にはいい人っているんだなあ。

 味云々よりも人柄でリピーターが付いてるような気がするなこの店。


「清川さんがさ、本が売れてその人が『このページ良かった』とか『絵柄が好きです』とか感想を言ってくれるファンの方とかいるらしいんですよね。それがすごく嬉しくて、自分が絵を描く励みになるんだ、自分が次のステップに進める原動力になるんだ、っていってましたけど、オレ、それすごいよくわかるなぁ・・・似たとこありますからねぇ。自分の作ったものが評価される、喜んでもらえるって生きがいになるんですよね。嬉しいじゃないですか、やっぱ」




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