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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
22/64

第20話 雨と憂鬱な日々と隠れた危機

 長引く雨天で、資料集めという名の散策はできないまま。

 

更に俺と小山の通学の足である鉄道が崩落事故の影響で運転再開のめどが立たない。

 とりあえず事故現場の手前である野部駅と宮川駅の間で暫定的に一部運転再開、という格好だが、塚森駅から終着の桜淵駅までは全面不通となっていた。


「あー」

 

 部室で小山が奇妙な声を挙げる。


「することなくなったねー」

 

 コの字型に並んだ机のひとつに突っ伏してうめく。

 退屈をもっとも嫌う性分のようだからな、この部長さんは。


「暇ってのが一番こたえるわよねぇ」

 

 篠田もか。

 まあ、退屈を好む人間はそういないだろうな・・・。

 よほどの面倒くさがりは別として。


「写真も整理したし、新聞もできるとこまで原稿作れてるし、急いでやるようなこともないし」

 

 などと言いつつ篠田は高橋とトランプに興じている。


「ふたりでやってて楽しいか?」

 

 問うと「ふたりしかできそうなのがいないんだよ」と高橋から返事がきた。

 清川は何か囲いを作って自分だけの世界に没頭しているようだ・・・何してるんだ?あれ。


「清川ー」

 

 呼んでみるが集中してるのか反応がない。


「清川ー!」 

 

 大声で呼ぶとビクッと肩を震わせて「はぁい!」と回答があった。


「何やってんの?」


「ああ、いえ、これは、」


「キヨちゃんは同人誌の原稿制作ちゅう~」

 

 小山が机に伏したままで喋る。


「そうなのか。・・・それにしても小山、ダルそうだな・・・」


「ダルいよ」


「体調でも悪いのか?」


「いや・・・慣れない生活サイクルが・・・バスになったのがちょっと」


「・・・・・」

 

 宮郷線、まだ止まったままだからなぁ。

 どこまで回復できたんだろう?土砂を取り除く作業は進んだだろうか。

 もう止まって一週間が過ぎる。


「自分のライフゲージと宮郷線が繋がってるんじゃないか?」


「あはは、うまいこと言うね。でもアレは私の一部なんだ、ずっとこんな具合じゃ調子狂うよね・・・」

 

 まあ、仮にも廃線間近といわれてるからなぁ。

 そのための運動も肝心の列車がこんな状態では。


「身体の一部とは大げさな」


「大げさじゃないよー。というか、こういう崩落事故って去年もあったんだけど、発生するたびに『見ろ、復旧に時間かかりすぎてまともに利用できやしない』『早く潰してしまえよこんな鉄道』って言われるんだよ・・・」

 

 小山が言うには、宮郷線は赤字体質から脱却が図れず、線路沿いの岩肌がくずれたりしそうな場所がある程度予想できるにもかかわらず、崩落防止の法面(のりめん)工事さえまともにするお金がないとのことだ。

 噂だ。本当にそうなのかは関係者じゃないからわからない。が、あながち間違ってないような気もする・・・。

 

 というか、山あいを走るローカル線だけに、崩落しそう、あるいはするかもしれないという場所は無数にあり、それをいちいち補修工事してたらお金がいくらあっても足りないらしい。

 長い運営期間で少しづつでも修理してたらこんなことにはならなかったかもしれない。 昔の経営陣は何やってたんだろうと首をひねる。

 ゆえに問題が起きてから対応せざるを得ないという悪循環に陥り、何もかも後手後手だ。

 

 小山はチラシ配布が公式に学校から禁止されたこともあるし、無銭乗車の件で駅員と話した際に乗客が伸び悩んでいることも聞いていたから、どうにかならないかと思っていたことだろう。そこに来て崩落事故で列車が長期に渡る営業停止だ。テンションが激落ちしてるんじゃないか。

 まあ、部活では直接こっちの運動には関われないから、遠巻きに見守りつつ、休みの日とかに何かするしかないわけだけど。



「あれ?清川どうしたんだ?」

 

 見渡すと、いない。

 大人しい人物だから、いなくなったことに気付くのに時間がかかった。


「さっき帰るって言ったけど?」

 

 素朴な俺の問いに高橋が答える。


「はい、フルハウス」


「うわー高橋っちにやられたなー!・・・あたしはワンペアだった」


「決まったね」

 

 高橋、篠田と楽しそうだな。 

 というか、よく単純なトランプのゲームで熱中できるなあ。


「清川さん、またあの店に行ってるのかな?」

 

 高橋が言うあの店とは。


「そうでしょ。キヨ、今日呼ばれてるみたいなこと言ってたよ?」

 

 と篠田。


「人気だね。清川さんのファンという女の子とうまくやれてるようで、良かったねえ」

 

 ああ、こないだの中華料理屋さんか。中華というかラーメンの店みたいだけど。


「最近、勉強まで教えてるらしいわよ?」


「そうなの?すごいね、まさかタダってことはないよね?」


「今日は晩御飯呼ばれてるんでしょうけど・・・なにかしらもらってそうよね。あそこの店主、気前いいもん」

「だよねえ」

 

 前にラーメン奢ってもらったもんな。


「そうだ、俺たちも晩飯食べて帰らないか」

 

 ふととっさに、何も考えずに言葉が出てしまった。


「こないだの店、というか清川がお世話になったりお世話してる店」


「今話してたとこじゃない」

 

 篠田がさも当然という反応。


「いや、それはかまわないけど」


「何か不都合があるか?」


「蔵田、またタダでごはん食べて帰ろうとか考えてたでしょう」

 

 篠田の上目遣いが俺を射る。にやりとした表情。


「いや、別に・・・」

「いーや、おそらく図星だなぁ・・・あはは!」

「ぐ・・・」

 

 まったくこの御仁は。ああ、少し、しかしだいぶ当たってるような・・・いや、その通りさ。浅ましい俺を蔑むがいい。なんて・・・。


「え?晩御飯?かまわないけど・・・ああ、じゃあお母さんに一応連絡入れとくね」

 

 と小山。

 なにやら一人でごそごそしていたが、机から顔を上げた。


「じゃあ、もう動いちゃう?今5時半だから、ゆっくり歩いて6時過ぎごろかな。みんなあそこの『大飯元』ってラーメン屋さんだね?」


「ナナは家遠いけど、大丈夫なの?蔵田も同じ方向というか距離的にはナナと同じかその前後でしょ?」


「ああ、俺は大丈夫だ。でも小山は暗くなるとまずいんじゃないか色々」


「私はオッケーだよ。冬は今の時間にはもう真っ暗になってるからね」

 

 まあそれはそうだが。


「言い出したのは蔵田君だよ。それにみんな行くんだったら折角だから付き合うよ」


「無理すんなよ?」


「無理じゃないよー!はじめから一人で帰るほうがいやだもん」


「まあ、そうかもしれんが・・・」


「心配しないでもちゃんと蔵田が送ってくれるわよ!でしょう蔵田」


「そうだな篠田」


「ナナが襲われたりしないように、家まで送ってあげるのよ?田舎なんて襲われたら目撃者とかいないんだから、事件がみんなお蔵入りしちゃうんだから」


「ちょ・・・シノちゃん、怖がらせないでよ!それでなくても最近誰かに付けられてるような気がしてるのに・・・」

 

 !?


「え・・・それ本当なの!?小山さん!」

 

 高橋が声を挙げた。


「いや、はっきり確認したわけじゃないんだけど・・・私の思い過ごしかもしれないけど・・・宮郷線の七ヶ瀬駅に降りてしばらく後ろ歩いてくる気配が・・・」

 

 それはなんか・・・やばいぞ。


「なんで早く言わない小山!」

 

 俺も少し慌てた反応になっていたようだった。


「間違いかもしれないし」


「いや、間違いじゃないかもしれないだろ!だったらどうすんだよ・・・変質者とか稀に居るんだぞ」


「それ、つけてきてるヤツって実は蔵田じゃないの?」

 

 篠田が、急に硬直しつつあった場の雰囲気を和らげようとしたのか茶化すようなことを言う。


「俺は七ヶ瀬(なながせ)の1つ前の駅、一柳(いちやなぎ)で降りてるんだが・・・」

 

 皆、顔を見合わせる。


「やばいな・・・ストーカーじゃんこれ」


「だね・・・」

 

 俺の意見に高橋も険しい表情。


「ぜんぜん大丈夫じゃないじゃないか、小山・・・」

 

 思わず自分の右手が小山の肩に触れる。

 いつだって無理をしているように思えてしまうのは小山が小柄なだけじゃない。


「いや、こないだまではちょっとやばいかも、って思ってたけど、幸か不幸か、いや個人的には不幸なんだけど・・・宮郷線が不通になったでしょ。だからその心配は今無いというか、バスで行き来してるからとりあえず大丈夫」

 

 ふうむ、と俺の口から溜息とも安堵とも言えない音が漏れる。

 かなり小山のことは心配になっていた。


「でも、今良くても列車は間もなく復旧するでしょ?」と高橋。そうだ、その通りだ。「極めて暫定的な安心とも言えなくもないね・・・」


「いや、安心できないかもよ。ストーカーなんて、行動読めないんだから」


「篠田、自分が被害に遭ったことあるかのような物言いだな」


「蔵田は黙ってて」


「はい・・・」

 

 どうも篠田女史には頭が上がらん・・・。



 結局、あれこれあったがとりあえず清川が向かった例の店に皆で向かうことになった。


 目的は違う。

 清川は家庭教師で、俺たちは晩御飯を食べに行くだけだ。

 

 周囲を夕闇が覆い始めていた。

 いい感じの夕焼けだな。

 夕飯の材料を買いに出ているのだろうか、主婦層ではないかと思われる人たちを商店街に割と見かける。


「ちゃんとお金、払うんだからね!」

 

 先頭に立って歩く篠田が注意する。


「勿論だ・・・」

 

 俺を見ながら言うなよ・・・。

 あはは、と高橋と小山が笑う。


「あと、食べ終わったら蔵田はナナを送ること。いいわね」


「了解した」


「無理しなくていいよ、蔵田君。私としてはありがたいけど。一駅歩くようになるし」


「だーめ!危ないんだからね。それとも蔵田が危険かなぁ?」


「あはは、まさか」と小山。


「なんつーこと言うんだ篠田」


「蔵田君は信頼しておりますので!」

 

 胸を張る小山。


「あらあら、頼もしいわねー!聞いた?しっかりナナの期待に答えてあげなくちゃね!」


「おまかせあれ」


「送り狼にだけはならないように!ま、そうなっちゃ本末転倒だけど!あはは!」

 

 篠田の高笑いがアーケードに響き渡る。


「(なあ、『送り狼』ってどういう意味だ?)」

 

小声で高橋に耳打ちする。


「(ああ、それはね・・・)」


 


 ・・・あんにゃろ。篠田め、ゆるさん。



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