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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
21/64

第19話 思わぬ幸運

 6月。

 梅雨の季節を迎えていたが、天候は降ったり止んだり晴れたりを交互に繰り返している恰好だ。


 先日の無銭乗車事件の犯人・宮川高校生徒2年・越岡は逮捕された。

 そして即座に停学処分を食らっていた。

 テニス部部室喫煙事件時も食らっていたからこれでダブル停学だ。

 レッドカードを切られてもう居場所がなくなったのだろう。

 学び舎と言う名のフィールドからの退場処分を学校から言い渡されてしまった。

 退学もしかし、仕方ない、自業自得だよな・・・。

 いったい学校に何しに来てたんだよ・・・。

 反省して、復帰したら真面目に生きろよな。

 


 越岡の一件でビビってしまったのか、無銭乗車自慢仲間らしい連中(なんとなく日頃の付き合いや素振りで解ってしまった)は「バレたらどうしよう」だの「あわてんなわかりっこねえ」とか囁きあっている。

 だから学校で会話するなっつーの。バレたくなかったら。


「おい、チクリ蔵田ァ!」

 

休憩時間に他所のクラスから来客があった。

 ということは、そしてこのぞんざいな物言いはテニス部の問題児の一人か。

 お前らのお陰で他の無実なテニス部員がどんだけ迷惑被ってるかわかってんのか?

 ・・・まあいい、もう退部した俺には関係ないことだ。


「お前らとは縁を切ったはずだが。それに俺はチクリじゃないと言っとろーが」


「やかましい。てめーのせいで部費半分持ってかれたぜ!!」


「はぁ?」

 

 廊下で出待ちとか勘弁な・・・素敵女子なら歓迎だが。


「俺は用で教室を出たばかりなんだ。手短に言え。どういうことだ」


 

 それにしても説明が極端にヘタというか簡潔にまとめてくれよ。俺は貴重な休憩時間の10分を使いきり、次の授業の終わりまでトイレを我慢する羽目になってしまったじゃないか。漏れたらどうしてくれる。

 

 つまり、要約するとこうだ。

 

 テニス部はあの喫煙事件以来、関係者は停学、そしてそうでない部員も謹慎処分を食らってしまう。

 そして本来ならば出場できるはずの1年生が新人戦出場を辞退せざるを得ない状況に陥り、対外試合もいくつか予定されていたものがすべて禁止となる。


 また、黙って謹慎していればいいものの、処分を不服とした何人かが学校に殴りこんできて教室の窓ガラスを叩き割って回ったりその他学内の施設を破壊したりと八つ当たり的な行動を繰り返したことから、謹慎期間はさらに延長され、完全な締め出しを食らった。

 

 年明け後あたりに起きた事件だったため不祥事に関するあれこれが年度をまたいでしまい、いったん通常通りに上げられた部費申請の予算承認は下りたが、執行部内では「罰則として次年度テニス部の予算を削減すべし」と一時言われてもいた。

 

 実際は部からの申請どおり部費はそのまま下りたものの、遠征費や備品購入のために計上していた部費も、こうした長期の謹慎や試合出場停止などによりお金を使わなくてもよいことになり、またこれらのペナルティの一環として「使わない費用があるなら必要ある他の部へ」という流れになったそうだ。

 

 丁度生徒会副会長の田島先輩が、俺たち地域文化部の新顧問である水谷教諭乗り込み事件に当たっていたことから、その話が執行部に流れ、生徒会長の一喝で「部費の一部を地域文化部へ」と決まったそうだ。

 

 で、ここに来た荒井がわざわざ腹いせに、かつて「チクリ」と呼ばわってもらっていたよしみでか、「部費万引き野郎め」と中傷しに来たようなのだ。

 この暇人め。誰が万引きだ。万引き常習犯はお前だろ・・・1年のとき盗んだ家電製品自慢しあいこしてたじゃないか。他の連中と。


「そいつはありがたい。どうせ使わない金なら、俺ら地域文化部がありがたく使わせてもらうわ。煙草を皆で買ったりせずに、高校生らしく有効にな」


「この野郎・・・ぶちかますぞゴルァ」

 

 言葉遣いの汚いヤツだな。真のごろつきを目指してるのか?


「凄んでも無駄だ。・・・いい加減気付けよお前。新人戦の参加を楽しみにしててお前らの不祥事でフイにされた連中の事思うと泣けてくるわ。どんだけ迷惑かけてんだ!?部費取られたのが俺らのせい!?冗談言うな!いまだにしてもいないチクリ呼ばわりで俺も迷惑だ!ぶちかましたいのはこっちだ!!」


 負けじと大声で怒鳴り返してやったら、荒井は少し(ひる)んだのか後ずさる。

 廊下で始まった大激論に、気付けば野次馬が周囲にかなり取り付いている。


「なんなら今ここでぶちかましてやろうか!?お前は俺がおとなしくしてるからと思って調子に乗りすぎてしまったようだが・・・こう見えても空手は有段者でね。今すぐお前の脳天を手刀でカチ割るくらい造作もないんだぜ・・・」

  

 それっぽく併せた両手の指をバキボキと鳴らしてにらみつけると、「ひっ」と声を挙げて逃げ出してしまった。

 吾ながら、なかなか迫真の演技だったと思う。

 もっとも、最後の空手云々のくだりはウソだけどな。


 


 それはともかくおもわぬとこから部費ゲット!?

 テニス部の不祥事があったからこそとはいえ、思えば水谷教諭が殴りこみかけてなかったらこういう流れにはなってなかったということで、棚から牡丹餅(ぼたもち)というか、先生グッジョブ!

 

「何やってんだー!大勢集まって!授業だー!皆早く席に着けー!!」


 次の現代国語の担当教師がやってきた。


「やるじゃない、蔵田!」


 肘を突いたのは篠田だった。ててて、と彼女も席に戻る。


 とりあえず部長には緊急報告しとこう。

 俺は今回の経緯を簡単にまとめた内容の走り書きをノートに書いて1枚破り、それをクシャクシャに丸めて、国語教諭が黒板にチョークを乗せてる間に小山の席に放った。

 小山は一瞬驚いて身を引いたあと、紙のボールを開いて中身の文章を読んで二度驚いていた。そして俺に向かって片目を閉じ、親指を立ててニカッ、と笑った。



 放課後の部室では篠田と高橋が既に楽しそうに談笑しながら何かの作業をしていた。

 意外と気が合いそうだな、この二人。

 高橋が最近撮ってきた写真をまた自宅でプリントアウトしてきたらしく、それをどうやって加工しようかと相談しあっているようだ。

 

 高橋はみんなで出かけたときに撮影した写真だけでは飽き足らず、休みの日にも出かけてかなりの枚数をカメラに収めているらしい。

 で、その写真をもっと活用できたらということで、わが町周辺の町を再認識しよう、というスローガンのもと、当初活動予定に無かった『地域新聞』なる不定期の読み物配布物をつくろうということになった。

 

 既に創刊号が出来ており、カラーコピーされたそれは各文化系クラブの部室や一般教室に一部づつ配布し壁に掛けてもらっている。


 弱小地域文化部の知名度や活動内容も公にアピールでき、また自分達の住む周囲やその郊外である田舎地帯の今を理解してもらうにはいい企画のような気がする。

 これで内申もアップ・・・などと考えていたら顧問が勢いよく入ってきて「部費追加分、ゲットーーーー!!」とか叫んでいる。 

 既に皆は状況を知っているが、「おおーーー!」と改めて声を挙げた。



 雨は降ったり止んだりだったが、連日雨天続きとなり、梅雨らしい天候になってきた。

 よくこれだけの水が空から落ちてくるもんだ。

 これだけの水分がよく空中にとどまっていられるな。

 もっとも、とどまっていられなくなったから落ちてきているのか・・・。


 あちこちを歩こうにもこう雨天続きでは、放課後皆でちょっとした散策と資料集め、というわけにもいかないか。

 傘を差してたらカメラだって向けにくいし撮影するなら晴天のほうがいいに決まってる。

 勿論歩くのも晴れの日のほうがいい。ずぶぬれになってまで活動するもんじゃない。


 で、今日も放課後の部室では他愛ない会話を皆でしつつ、次回の新聞づくりなどについて協議したりなどして解散となった。


 俺と小山はすっかり定着してしまったように宮郷線に乗って帰途に着くべく、宮川駅に向かう。


「雨で遅延・・・?」

 

 駅員さんの手書きだろうか、改札の入り口付近に立て看板が。


「まあ、よくあることだよ」

 

 小山はそう言ったが、その日、ついに列車がプラットホームに入ってくることはなかった。


 宮郷線塚森駅-野部駅の区間で崖が崩落。

 雨で水分を含んだ土砂や岩石が一気に流れてきて、線路を完全に塞いでしまったらしい。

 



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