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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
20/64

第18話 事件発生

 何度か小山と一緒に宮郷線の列車で行き帰りているうちに、教室などでは「あいつら、付き合ってんじゃね?」などという噂が流れ出していることに気付いた。

 

ううむ・・・

 俺たちは気の合う友人だ。マブダチとでも言おうか。

 なあ、そうだろう?小山。

 ・・・小山?


 実際のところあいつ、俺のことどう思ってるのかな・・・まあ、毎日それなりに充実してるから別にどうということはないが。


「いやいやー何を仰る!小山と俺はご近所で知り合いで、ともに志を同じくする仲間!親友さ!」とか一部で言ってみたが、なんか希薄な反応だ。

 他の面子に言わせると説得力がないらしい。

 

 彼らが言うには「小山は蔵田と居るときにすごい楽しそうな顔してる」とか「蔵田グループに居るときよく喋ってて元気」とか。

 

 そうなのかもしれない。

 いやまあ、こんなおかしな活動をしてるんだからそうなんじゃない?とも思えるけど。

 恋人同士ですよ!とかいう答えを期待しているのか?

 ・・・まあ、学園生活、多感な年頃の世代としてはそういう話題に敏感なのが普通だよな・・・。俺は今までどうも疎かったからなそういうの。


 それはともかく、今日も小山と宮郷線で帰っていたときのことである。

 とある駅で、学生が無銭乗車をしようとした。

 ウチの生徒だ。


 普段は無人駅で、電子的なカードを通す機械もない駅だから、切符を乗った駅で買って券を改札の箱に入れて帰るか、もしくは券を持ったまま出るか、あるいは定期券を出した状態で、駅員さん居ないかを確認して居なければポッケに収めて退出する・・・あたりが普通と思われるが、今日はたまたま駅員さんが居た。

 

 あまりないことだが、(まれ)に職員がこの駅に立っていることがある。

 理由はよくわからないが、おそらくひとつは犯罪防止であろう。

 

「そこの学生ー!止まりなさーい!!」


挿絵(By みてみん)

 

 停車中の車窓から、車掌が怒鳴ったのを聞いて何事だろうか、と俺と小山が同時に駅の改札方向を見つめる。

 が、改札の位置に学生の姿はない。

 視線を少し泳がせると、その先の2メートル前後の金網を、よじのぼって、改札を経由せずに出ようとしている男子生徒の姿が。

 

 間違いない、無銭乗車だ。

 普段居ないはずの駅員が改札に居たんであわてて他所から強行突破を試みている最中だった。


プラットホームに停車中の列車のドアは開いたままで、車掌はその不審人物を捕まえるために飛び出した。

 笛を吹きながら「捕まえて!誰か!」とか叫んでいる。

 とっさに足が出た。

 気付けば俺は飛び出していた。


「蔵田君!」

 

 小山の声が背中から聞こえていたが、もう俺の脚はその男を捕捉していた。


「よっしゃ、捕まえた!」

 

 金網から引き釣り降ろす。


「チクショー、離せ!離せよォ、オラァ!!」


「叫んでも無駄だ、観念しろ」

 

 などど刑事ドラマの刑事さんみたいな言葉がとっさに出たのはこういうTVを見てきた影響があるかもしれない。


「ありがとう、お手柄お手柄!」

 

 走り寄ってきたのは列車の車掌だった。

 改札から出てきた駅員さんによろしく、と告げて車掌さんは運転席に戻る。


「・・・・はぁ、はぁ、お客様にご案内いたします。只今、無銭乗車を行った者があり、その対応のため一時停車いたしました。これより発車いたします。およそ10分の遅延が発生しましたことを心よりお詫び申し上げます・・・」


 ローカル線ならではといった対応だろうか。この男もまさか車掌が飛び出てくるとは思わなかっただろうな。

 混雑する路線ならともかく、辺境に向けて走る列車の10分の遅れなど大して問題にはならないはずだ。いや、もしかすると、全く問題ない。


「お手柄も何も、我が校の生徒です・・・それも同じ学年の。恥ずかしい。ご迷惑をおかけしすみません」

 

 俺は馬乗りになって押さえつけている男子生徒を横目に見ながら駅員さんに答える。


「どけや畜生!!痛ぇだろーがああ!!」


「吠えんな馬鹿が。お前、何したかわかってんのか!?」


「たかが150円払わなかっただけだろ!!」


「・・・そうだな。額としては小額だが、万引きと同じで立派な犯罪行為だ」

「てめー、元テニ部の”チクリ蔵田”かぁ、思い出した!」

「チクってねーって言っただろ。ええと、お前誰だっけ、ああ、越岡(こしおか)か。相変わらず悪童同然の成長の無いヤツだな」


「すいません、今鉄道警察隊に通報しました。管轄の宮川警察署にも呼び出しをしています。間もなく来ると思いますが、どうされます?残っていただくのもアレですができれば・・・」と駅員さん。

 

 こういう場合はどうすればいいんだろう?

 俺も逡巡(しゅんじゅん)したが、たぶん駅員さんもまだ若い感じで経験ないのか、対応に困っている。


「な、なんか面倒そうなんで帰ります・・・俺、捕まえただけですし」


「そ、そうですか・・・」

 

 そうは言ったものの、帰してしまっていいんだろうかと駅員さんは悩んでいる様子。


「逃げねえからいい加減離せっつってんだろーがあ!!!」

 

 ドン、と胸を突かれて思わずのけぞる。

 するりと、抜け出されてしまう。

 学生服についたほこりをトントンと両手で払いのけ、立ち上がると、俺と駅員を交互に、激しい憎悪のこもったまなざしでにらみつける。

 何なんだよ、何様のつもりだ。盗人猛々しい。


「いま警察来るから、それまで君は待っ・・・あっ!!」

 

 その男・越岡はいきなりダッシュし、出口に近い方向に居た駅員の左頬を思い切り拳で殴りつけるとその横をすり抜けて逃走した。


「うがっ!!・・・ああッ!!ま、待て!!」


「野郎!!」

 

 さすがに俺も怒りが沸点に達した。

 ヤツに負けじと走りだそうとするが、駅員さんは顔を抑えながら俺を制止した。


「結構です、ありがとう。もう追わなくていい・・・」


「何故です!?」


「確か同じ学校の生徒さんでしたね」


「ええ、宮川高校ですが」


「お名前もご存知らしいので報告すればわかります。教えていただけますか。誰かがわかればお縄になるのもすぐでしょう・・・」



「あーあ、次の列車まで2時間近くあるよ」

 

 小山がぼやいている。

 俺と彼女は並んで駅舎のベンチに腰掛けてぼーっとしていた。

 走り去ってしまった列車はもうはるか彼方だ。

 駅員さんは執務室の奥に消えたと思ったら大きな絆創膏をほっぺたにこしらえて戻ってきた。どうも出血していたみたいだ。

 無銭乗車に傷害罪、業務執行妨害・・・イエローカード累積でレッドカードだなこりゃ。

 

「まあでもお手柄だったね!かっこよかったじゃん!?」


「まあなんか足が勝手に動いてしまったというか・・・」


「私だったら逆に怖くて動けないけどなー!」


「まあ、小山は女だからな。それでいいんじゃない?」


「でも男子がみんなそういう行動取れないと思う。やっぱり蔵田君は特別だと思ったな!」


「何の特別なんだ・・・しかし、2時間か・・・ちょっと待て、最終便か!列車待ってる間に真っ暗になるな・・・」


「ほんとにご迷惑おかけします・・・」

 

 すまなそうに駅員さん、こちらにやってくる。

 暫く電話応対とか何かの書類を書いてらしたようだが、落ち着いたのだろうか。


「最近、無銭乗車の疑いのある生徒が数名居るらしいという噂で上から言われてたので、今日こちらに来ることになったときも一応警戒はしていたつもりだったんですが、いやはや、逃がしてしまって情けない」


「駅員さんのせいじゃないっすよ。というか、噂はどちらで?」


「宮川駅でですね、無銭乗車記録何日達成、とか自慢しあってる生徒がいるというのを聞かれたお客様からの投書がありまして。匿名ではなく実名での投書だったので職員が詳しくお話を聞いて、本当らしいということだったのでいくつかの無人駅に職員をとりあえず置こう、となりまして。まさかあんな暴挙に出られるとは思わずかなり焦りました」


「馬鹿だねー!」小山があきれている。「そんなこと自慢しあってどうなるんだろう!」


「まったくだ」

 

 1年のとき、クラスで休憩時間に万引きした商品の自慢大会をしているやつらがいたが、今日事件を起こしたあいつも入っていたかもしれん。

 もっとも高額な商品を盗めたヤツが勝ち、とか言っていたな。

 

 最初、冗談だろうと思って気にもしなかったが、よく考えればガチだ。

 高校生にもなって生活や風紀が乱れてるヤツはどこまでも狂ってる。

 ワルに振舞えるほどにカッコイイというよくわからない価値観や自惚れに縛られているのだろう。哀れだ。まあ今日のあいつは小銭を軽い気持ちでちょろまかしたいだけだったのかもしれないが。

 

「大丈夫ですよ~、気長に待ちます。田舎育ちで慣れてますから!」

 

 小山は駅員さんを安心させたい一心でかそんなことを言っている。


「それより、気になることが」

 

 小山の気になること?


「・・・輸送密度?先月からの宮郷線の1日平均乗車率を知りたい、ですか?」

 

 ああ、それ。

 それはたぶん大事な問題だ。

 いつ小山はそれを把握するのだろうかと俺も思っていた。


「そうです、『協議会』のサイトにはその数値を掲載していますが、2ヶ月遅れなんですよね・・・ああ、小山さん、あなた『宮郷線を守る会』の人でしたっけ。道理で最新の情報、気にしてるわけですね」

 

 俺がベンチで一人で居る間、小山は改札付近で駅員さんとずっと何かしら喋っていたが、その一部始終はほぼ俺の耳に入っていた。


「3月の梅見会、4月の桜淵(さくらぶち)往復花見列車・・・5月のバザー・・・イベント絡みの日前後はいい感じで推移しているようですがイベント以外の日は相当乗車人員は減っています。それもかなりになります」


「バスの新しい路線がネックなんですか?」


「影響は大きいと思いますね。国道の新道バイパスが出来ればシャトルバス運行路線をつくるというのが前から言われてましたし、実際そうなりました。スピード、利便性、運行本数、運賃・・・正直言ってもうこれらでウチの鉄道は太刀打ちできません」

 

 小山の溜息が聞こえたような気がした。


「あとは安全面・・・車より事故率が低いとか、定期券利用者の割引を使えば相当安くなるとか、『守る会』の皆さんが力を入れてるイベントによる集客でどこまで伸ばせるか、でしょうね」

 

 ふむふむ。


「今年はかつてない大変な年です。去年もそう言われてましたが。もう転ぶ寸前まで来てしまっています。この状況をリカバリーできるのはもう、私個人の所感だと定期の利用者や周辺住民への鉄道利用呼びかけだけでは難しい、イベントによる集客なくしては存続は不可能ではないかと」

 

 やはりそういうところか。

 もういっそ、イベントをもっと充実させて外部からの集客に頼ったほうがいいということか。いや、そこに頼るほか道はないと言っているのか、この人は。

 まあ他の職員に聞いても同じ答えになるんだろうな。

 

 こりゃあ今後の戦い、厳しいな、小山!

 俺たちには何が出来るんだ?

 出来ることを少しづつやるしかない、か。

 だが、存続のためには必ずイベントを充実させる事が必須条件、というなら直接関わってる俺たちの活躍の場はいくらか残されてる気はするけど。

 




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