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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
19/64

第17話 新顧問の謀略

「部費の追加申請・・・ですか!?」

 

 きょとんとしていた男子生徒は、素っ頓狂な声を挙げて振り向いた。

 それはそうだろう。こういう問題が浮上するなど、これまでの事例からしてありえないことだからだ。

 

 前髪を切りそろえてキノコの山みたいな感じになってる頭部を持つ小柄な彼は、厄介ごとを容赦なく押し付けてくるこの教師にしかしたじろぐわけにはいかない。

 彼は生徒会執行部員。宮川高校の秩序を維持する名誉ある役職者の一人なのだ。


「・・・お断りします」

 

 彼・田島進一(3年)は、生徒会室の奥の本棚から厚めの書籍を取り出して細かい文字を追っているよ

うだったが、ぱたり、と音を立てて本を閉じた。


「過去にそういうことが承認されたことはないですね・・・」


「前例のないことだから、ということ?」


「そうです。既に年度当初に決定し、交付額が決まっているものについて、我が校ではそれを覆す事例は過去にありませんでしたし、今後も難しいと思います。今年はとりあえずその額で活動していただいて、次年度に部費の引き上げ再申請を行われたらどうでしょうか。まだ部員の方は2年生ばかりと聞いていますから、3年に上がられたときにでも」

 

 むぅ、と女教師は(うな)った。

 なかなか手ごわい。と、いうことか。

 絵に描いたようなテンプレ模範解答である。

 学校の規約というものを解っているな、この先輩は。

 

 生徒会室には、新顧問である水谷教諭、部長の小山、そしていつなったのかわからないが副部長の俺が来ていた。

 

 特に俺と小山が口を差し挟むことはない。

 部費の一件は、もう年度当初に小山が承認してしまった。

 俺も特に不服はない。

 

 ただ、このミズタニン(最近仲間内でこの呼称が流行り始めた)は、「あちこち移動するならもっとお金要るでしょう?話つけてくるわ」とかなんとか言って部室を飛び出したので、俺と小山がとりあえず後を追った格好になる。

 

 どうも生徒会に言いがかりをつけて活動資金を捻出(ねんしゅつ)しようと目論(もくろ)んでいるようなのだ。

 前例のないことらしいので、一応言うだけ言ってみる、とのことだったが商魂たくましいというかなんと言うか。

 

 色々と俺たちの活動を理解してくれて協力してくれるのは非常にありがたいのだが、この人が入ったことによって新たな問題が別途発生しそうなそんな予感。

 

「活動内容が昨年と違ってややお金が必要になったのよ」


「もう活動の報告予定については生徒会に上がってます。部員も承知してるはずです。今年度は何も問題ないはずなんですけどね・・・」


「今年で廃線になるかもしれないローカル線の特集をやりたいの。来年度じゃ遅いのよ。それには顧問1名、部員5名数回の各種運賃等が必要だし。個人で負担させてもいいけどお小遣いも限られてるでしょ。遠方から通学してる子もいるし、あまり金銭的な負担を掛けさせたくないのよね」


「お金がかかるような活動であれば、なおのこと控えたほうがよいと思いますが・・・与えられた範囲内でやりくりするとか。ウチの文化系で部費多くかかる部って、ないですよ。体育系ならともかく」


「その体育系の野球部だって、遠征費部費で出してるじゃない。結構な額よね確か」


「全額出てるわけじゃないですよ・・・」


「それでも破格の対応でしょ、甲子園に行く見込みもないのにしょっちゅう対外試合で県内グルグルして散財して」


 聞いてた田島先輩、苦笑。 

 俺たちもなんとなく苦笑。

 とんだとばっちりだな、野球部。それに甲子園目指すだけが部活じゃないと思うが。

 いやー、地域文化部のメンバーのことを考えて色々手を打ってくれる先生にはありがたいけど、これ相当のゴリ押しみたいな気が。


「散財とか言うと怒られますよ関係者に。去年の夏は県大会ベスト32入ったから甲子園今年こそとか盛り上がってるらしいですからね」


「ベスト32~?せめてベスト8ぐらいで盛り上がれよって・・・32って1回か2回勝っただけでしょうが」


「ノーシードだから2回も勝ってるんですよ。毎回1回戦敗退の我が校では考えられない大躍進です」


「2回もって・・・優勝(甲子園行き)までは6勝必要だっての」


「親御さんの期待や支援もありますし、昔から野球部にはかなりお金は必要だってわかってますからねえ」


「こちとら少人数で移動範囲も知れてるんだ、たかが数回のボロ鉄運賃ぐらい払いやがれってんだ」

 

 おお、なんか舌戦続いてるうちにヒートアップしてきたぞ。

 やばいやばい。そろそろこの辺で撤退したほうがよさそうなんだけどな・・・無茶を通そうとしてるのはこっちなんだし。

 あんまり無理を通そうとすると逆に部のイメージ全体が悪くなるぞ・・・周り見えてるのかなミズタニンは・・・。

 いや、見えてない、たぶん見えてない・・・。


「あっあのー!もうわかりましたー!ありがとうございますー!」

 

 唐突に小山が叫んだので、荒ぶる女教師を二人小脇に抱えて俺たちは生徒会室を撤収した。

 引きずられるようにして部屋を後にする水谷教諭とそれを腕で抑えながら歩く二名の男女生徒に、廊下ですれ違う皆がぎょっとして目をむく、振り返る。

 恥ずかしい。



「戻ったわよ!」

 

 鼻息荒くドスドスと部室に入っていくミズタニン。


「どうでした?」


「どうもこうもないわ、高橋君!まるで話が通じない。生徒会副会長だけはあるわ、田島君」


「先生でも(らち)が明かない相手なんですねぇ」


「難しい相手だったわよ、清川さん!・・・何というか、デフォルトで高校生ってさ、もっと頼りない感じじゃない?なんであんなに動じずに振舞えるわけ?立派過ぎるわよ!」

 

 部室に戻ってもむちゃくちゃ言ってるわ、また。


「もういっそ部費を生徒会経由でもらおうとかいうのはナシで、先生のポケットマネーから出してもらうとかどう?」

 

 篠田もずうずうしいな・・・。


「シノちゃんいいね!先生それどうでしょう!」

 

 見ろ、小山が賛同してしまったじゃないか。


「冗談じゃないわよ、教師にたかろうなんて10年早いわ」


「沢山給料もらってるんじゃないんですかー?」


「あのね、篠田さん。年配のベテラン先生方と違って私は臨時雇用で来た職員なの。契約が無期限ヤッホゥな先生方とは立場が異なる。お分かり?」

 

 ふう、と溜息をつく。


「解ります。雇用期間満了になると契約更改されるかどうかは学校次第なんですよね、本職の先生方とは違って薄給で・・・」

 

 篠田の変わりに高橋が答える。


「薄給とは言ってくれるわね、その通りよ!」


「それでも私達よりずっとずーっと、お金持ってるよねぇ、キヨちゃん?」

 

 話を清川に振るなよ小山。困ってるじゃん。


「え?・・・あ、ああ、ええ」

 

 ほら。


「持っていません!」


「持ってるじゃん先生!カバンだってブランド物だしヒールもいいやつでしょ」

 

 篠田は色々見てそうだな。


「あら、わかるぅ?でもこれ、無駄使いじゃなくてオトナ女子として必須装備だからね。ある程度はナメられないような物は持っておかなくちゃいけないし」


 二十代後半にもなると”女子”でまだいいのだろうか。まあ、いいか。

 40、50代の主婦の集まりでも女子会とか言ってるもんな・・・。



「給与も少ない女子の独身生活は悲惨よね・・・」

 

 いったいどうしたんだ先生・・・。


「電気水道ガス電話!インターネットに携帯電話の通信料!そして、NHKの受信料・・・」

 

 なんかあまり聞いてはいけないような話になってきたな。

 だが勝手に本人がぼやいてらっしゃるので聞いてあげるのが筋と言うものだろう。


「食費!お値段据え置きでもおとうふの体積は微妙に少なくなってるし、納豆の粒は徐々に数が減ってるし・・・!他の顧客はだませても、私にはわかんのよ・・・」

 

 まさか数えているとか!?


 そのうちぶつぶつと念仏を唱えるかのごとくミズタニンは呟いていたが、その独り言は段々と周囲に聞こえないぐらいの音になっていき、やがてフェードアウトしていった。


「せ、先生も早くいい人とか見つかるといいですよねっ!」

 

 小山がよくわからないフォローに入る。


「はあん?」

 

 ダルそうな目を部長に向ける水谷教諭。


「結婚とかできれば、いろいろ解決できるかもしれませんよ!」


「相手がいなーい!」

 

 この台詞、ミズタニンと篠田がハモってしまった。

 つか篠田も考えて喋れよ・・・。


「うるさーい!」

 

 既にやさぐれモードの水谷先生の手刀が篠田の頭に・・・それを篠田、同じく手刀で受け止める。

 なんか、状況によっては乱暴になる人だな。普段は職員室や教室では清楚な感じなんだが・・・。まあ、篠田はどんな状況でも乱暴だが。



 新顧問はなかなか面白い人だということはわかった。

 あと、部費の問題は今のところどうにもならないようである。

 とりあえず年度当初の目標に従って、活動していこう。


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