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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
18/64

第16話 職員室に来なさい

 試験が終わってほっとしたのもつかの間、俺たちを待ち受けていたのは職員室への呼び出しだった。


 出頭命令は地域文化部の全員。 

 (すなわ)ち、俺たち5名。

 

 呼び出し人は部の副顧問である女性教諭、水谷彩香(みずたにさやか)(27)。


何なんだよ。いったい、何なんだ。

 

 5人全員揃ったところで、一緒に向かうことになったが、小山部長は廊下を歩いている間も終始そわそわしっぱなしだった。

 用があるならとりあえず一人呼んで周知して、その一人が部員に伝える、でいいんじゃないかと思うが、そういう手法を取らず、敢えて部員全員に召集かけるなんてよっぽどだな。


「いらっしゃい」

 

 水谷教諭は黒のタイトスカートに紺のブラウス、白のジャケットといういでたちでいままさに先日の試験の答案用紙の答え合わせの真っ最中だったが、我々が来るのを確認するや、組んでいた足をほどくこともなく、回転椅子をくるりとひねってこちらを向いた。

 

 雰囲気は穏やかそうだが、顔つきはやや険しい気がする。

 割と神経質な先生が多いと言われる我が校だが、水谷先生は結構おおらかで人当たりは良いと生徒からも好評価だと聞いているが。


「どうして私がここへあなたたちを呼んだか、その理由がわかっている人?」


「・・・・・」


 沈黙で答えるほかなかった。

 なんとなく予想はつくが、もし外れていたら墓穴を掘りそうなのでやめておく。

 が、先生の口から出たのは、全く俺の予想通りだった。


「テスト期間中、まっすぐに帰りなさいとあれほど言ってたはずですが?・・・もしくは担任の沖永先生はそう仰らなかった・・・?」


 ふるふる。

 力なくみな首を振る。


「口が付いてるのなら、口で喋りなさい。仰らなかったのですか?」

 

 ちょっと怖い顔付きになった。


「いいえ」

 

 皆、同じ言葉が口をついて出た。


 ああ。ラーメン屋の帰りね。やっぱり。


「通報が学校宛にありました。匿名ですが、おそらく保護者の方か、地域の学生を持つ親御さんでしょう。試験期間中に勉強もしないで学業以外の活動をしているとはいかがなものか、と」


 ついにこのときが来たか、という感じだな。

 遅かれ早かれ、どっかから横槍が来そうな予感はあった。

 じゃあ対策しないと、ということだけど、特に何も策は講じてこなかったんだよな・・・。もし言われたらそのときになって考える、という程度で。


「とまあ、それは校長先生からのご意見であって、私は別方面からの通報ではないかと踏んでいるんだけど・・・まあそれはいいとして」


 ふう、と言いつつ教諭はこめかみに人差し指をあてがった。


「クラブ活動は一切禁止よ。試験終了までは。解ってるでしょう?もう2年生だものね。それとも」

 

 端正な顔立ちが小山の瞳をとらえる。


「クラブ活動ではなかった、と言いたいかしら?・・・だめよ?どのみち寄り道厳禁って言ってあるんだから」

 小山が言い出そうとしていた言い訳だったのだろう、部長は喋りかけてあわてて口をつぐんだ。


「今回は初回ということで大目に見ます。以後、絶対に例のチラシやパンフ等の配布を行わないで。試験中だけじゃないわよ。放課後も。オフのときも配布しないほうが望ましいわね」


 清川は神妙な面持ちで固まっていたし、篠田は何か言いたげなのを我慢して肩を震わせている。高橋は眉間に皺を寄せて水谷教諭の発言に耳を傾け、小山は呆然とした様子で床に視線を落としていた。


「誓える人」


 まあ、どうせ誓えないと帰らせてはもらえないんだろうな。やれやれ。


 一人づつ右手が上がり始め5本が出揃う。


「はい、結構です」


 そこまで喋ると、水谷教諭は、「はあ」と溜息をついた。

 これまでと少し様子が変化しているような・・・?


「教師としての忠告と、校長からの命令はいまので終了。あのね、実は個人的な感想を言わせて貰えると、いつかこういうことになりはしないかとドキドキしてたのよ」



「ローカル線の復興運動に参加してるのは知ってた。小山さんが部長になったときから、部のみんなを連れ出して何かやらかそうとしてるんじゃないか、ということも。部活じゃないですっていうことで、境界を曖昧にしておけば対応できると考えたんでしょ。まあ、でも世間から見れば『学業をおろそかにしてけしからん』って考える人もいるのよねぇ・・・」


 大仰な素振りで両手を広げる水谷先生。

 たぶんこっちの顔が本来の顔なんだろう。


「まあ、そうなんでしょうね・・・」と高橋。「実際テストの成績が下がったとか影響があってもなくても、そういう考えがあるかもということは承知してました」


「テストの点付けはほぼ終わったけど、他の先生方から聞くに別に下がってはいないみたいよ。まあ、チラシ配った程度ではねぇ。でもなんでこういう意見が外部から来るかわかる?高橋君?」


「宮郷線復興を快く思わない人たちが、アクションを起こそうとしているらしいとか・・・まあ、現に起きてるのかもしれませんが。それが学校まで及んだ、ということでしょうか」


「なかなかね。当たり」


 俺たちは事情が良くつかめてなく、勘の鋭い、あるいは情報収集能力に優れる高橋だけが今回の経緯を推察でき、正解だったということのようだ。


「つまり、あなたたちは、『学校で勉強以外のことにうつつを抜かしている、それもクラブ活動ではなく地域の運動に熱心だ、けしからん』ということになり、それを口実に学校まわりの活動だけじゃなくオフの活動までも封殺しようとする意図がその訴えた側からは見て取れるわ」


「なんでそんな真似を!?」

 

 思わず俺の声が漏れてしまった。


「アンチ!?」

 

 篠田が叫んだあとでちょっとはしたなかったかな、と思ったのかあわてて手を口に。


「前からなんか、嫌がらせのようなことしてくる人居るって、守る会の人から聞いたことあったけど・・・」と小山。


「どうしてその人たちは復興の邪魔をしようとするのかな?」

 

 清川の疑問は素朴だがもっともな問いかけだ。


「そりゃあお終いになったほうがいいと考える連中がいるからだろ」

 

 俺もどうしてだかよくわからん。


「んー、それはちょっと答えになってないんじゃないかな・・・」

 

 小山が苦笑する。そうだなぁ・・・。


「ローカル線に終わって欲しいと考えてるのはバス会社の関連の人らなの?」

 

 思わず拳を握っちゃってる篠田が、誰に問うでもなく首を左右に振りつつ尋ねる。


「それも要素のひとつとしてあるかもだけど。実際よくわからない。表に出てこないから、単独なのか複数なのか、グループなのかも不明」

 

 うーん、と天井を見上げる水谷女史。


「確かに、本当は地域の取り組み方としてはバスと鉄道の相互利用の推進だとか、社会実験的なことをまずするのが筋のような気がするけど、仲が悪いのか、両者で具体的な協議もないまま『どうせもう鉄道終わりっしょ!』みたいな感じでシャトルバス運行とか始めてるようにも見えるし・・・まあこのバス路線も採算が取れなければ廃止になるのかもしれないけどねぇ」


「大人社会の嫌な縮図みたいな・・・」

 

 篠田がいびつな笑顔で対応している。


「まあ結局はコレ、だからねぇ・・・」

 

 水谷先生、右手の親指と人差し指で輪っかをつくった。


「競合する会社とかもあるかもだけど、赤字路線は自治体が一部運営のための資金を負担してる。つまり税金が投入されてたりするわけ。ということは、鉄道に乗らない住民からすれば、必要ないし、利用も少ないんだから無駄遣いやめてさっさと廃止にするべき、という意見も聞くわね・・・でも場所によっては定期券だと格安になるとこもあるし、学生さんやお年寄りのような交通弱者のためにもあったほうがいい気はするんだけどなー」

 

 なんか、先生、随分詳しいな。


「鉄道会社が全部負担してるわけじゃないんですね」と篠田。


「私はそういうの疎いからよくわからないんだけど、そう聞いたのよ。どっからお金が出てどこへ流れてるのかなんて一般人には到底理解できないし把握もできないけど・・・でも、今回の件はたぶん、そういう人たちじゃあ無い。放っておいてもこの復興運動は収束すると思ってるだろうし」


「じゃあ、なんなんですか先生?」清川の問いはまたも皆の意見を代弁するものだった。

「心当たりがあるわ。・・・追川(おいかわ)という人、知ってる?」

 

 ふるふる、と皆首を横に振る。


「そう。じゃあ、知っといて。真っ向から存続運動派を否定してくる問題の人。ただのなまぬるい反対じゃない。宮郷線に恨みを持つ者よ」

 

「恨み!?」

 

 思わず()き返してしまった。

 鉄道に恨みを持つって、どういうことだ!?

 

 あ・・・と小山が小さい声を挙げる。

 もしかしたら心当たりがあるのか、何かを思い出したのかも知れなかったが、そのときは俺のほうからは何も聞くことはなかった。


「・・・はは、これ、なんか怖そうじゃない?」と篠田。「実は昔、大きな事件がありました!みたいな・・・」


「この人ねぇ、もしかしたら危険なんでね。それと、あなたたち、しばらく好き勝手やってくれてたけど、さっき言ったチラシ配り以外は好きにやっていいわ」


「はぁ?」と自分でもびっくりな間の抜けた声が俺から挙がった。


「ただし、私の監督下でね。今日から新しく顧問になったから」

 

 おお、と皆から声が。


「大体、立ち回りが下手だから変なやつらに漬け込まれるのよねぇ・・・部活も面倒見るし、部外の運動も見たげるわ。勿論こっちは勤務時間外でね。・・・実は、個人的にローカル線って好きなのよ!」


 あれあれ。なんか方向がややずれてきたような。


「存亡の危機に立つ、かつて愛されし路線!しかしいまや利用する者も乏しく、風前の灯火!が、今ここに、その状況を憂いし若者達が集い、復興を夢見て立ち上がる!」

 

 先生、ノッてきた。

 皆、ぽかんとしている。

 意外と小山に似てるとこ多いんじゃないか?この人。


「まあ、明日部室に行くわ、とりあえず。つまり、先生も仲間に入れて!ってことよ!」

 

 いつの間にか皆、(ささや)く先生の机の周りで小さく肩を組んで円陣を組んでいる。

 

 なんか、面白そうなことになってきたぞ。


「で、先生」俺は一つ気になっていたことを質問する。「さっき言ってた追川って人、先生知ってるんですか」

「いずれ近いうちにぶつかることになると思うわ・・・そのときなぜ彼が恨みを持っているのか、知ることになるでしょう」



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